「相続税の負担が心配」「節税のために不動産を活用したい」――そう考える方は少なくありません。
実際、不動産は評価のコントロールが可能な資産であり、相続税対策として活用されることが多い分野です。
しかし、不動産を使った節税には法的・税務的な落とし穴も多く、「相続税対策をやったつもりが逆効果だった」「相続発生後のトラブルにつながった」という事例もあります。
この記事では、相続と税務の両面に精通した専門家の立場から、不動産を活用した相続税対策の基本・具体的手法・事例・注意点をわかりやすくご紹介します。
「対策を始めたい」「今の対策が十分か不安」と感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。
1. 相続税対策として不動産を活用するのはなぜ有効か?
1-1. 不動産には評価額の圧縮効果がある
相続税は、「財産の評価額」に基づいて計算されます。現金や預金のような金融資産は、評価額=実際の金額になるため節税余地がありません。 しかし、不動産については路線価等を使用して相続税の評価を行うため、実際の市場価格よりも評価額が大幅に低くなることが多いのです。 このような性質を利用し、現金で持っている資産のうち一部を不動産で保有することで課税対象となる金額を圧縮し、結果的に相続税を減らす効果が期待できます。
1-2. 金融資産との違い|評価ルールと現実の価格
金融資産(現金・預貯金など)は原則として「そのままの額面」で評価されるのに対し、不動産は最大で市場価格の6〜8割程度まで圧縮できることもあります。たとえば、時価1億円の土地が路線価評価で7,000万円になる場合、評価圧縮効果として3,000万円の差が出ます。これが複数の不動産に適用されると、数千万円単位で課税財産の圧縮が可能となり、大きな節税効果につながります。
1-3. 「評価額を下げる」ことが節税につながる理由
相続税の課税は、「課税価格」から「基礎控除額」を差し引いた金額に税率をかけて計算されます。
この「課税価格」とは、相続した財産の評価額をすべて合計し、そこから借入金などの負債を差し引いた金額を指します。したがって、評価額を下げれば、そのまま課税価格が小さくなり、納税額も少なくなるという仕組みです。たとえば、課税価格が5,000万円から4,000万円に減るだけでも、税率が下がったり、相続人の負担を数百万円単位で減らせたりするケースもあります。
2. 不動産を活用した相続税対策の代表的手法
2-1. 賃貸用不動産の活用(貸家建付地・貸家評価減)
賃貸アパートやマンションを所有している場合、その建物と土地は「貸家建付地」や「貸家」として評価されます。 この場合、以下のような評価減が適用されます。
建物
借家権割合(30%程度)に応じて評価減
土地
自用地としての評価から、借地権や借家権の影響を反映して評価減
つまり、他人に貸しているというだけで、同じ不動産でも評価が20〜30%下がることがあるのです。
また、賃貸用不動産には「収益性」があるため、節税と資産運用を両立できる手法としても注目されています。
2-2. タワーマンションによる評価圧縮の仕組み
かつて相続税対策として多く使われていたのが、タワーマンションの高層階住戸を購入するという方法です。 これは、「固定資産税評価額」が実勢価格と大きく乖離しているという不動産評価の構造を活かしたものです。 たとえば、1億円で購入したマンションが、相続税評価では3,000万円になるようなケースでは、その差額が評価圧縮となり、節税効果を生むという理屈です。 ただし、2024年の評価見直し(区分所有補正率の導入等)により、実勢価格との乖離が大きい区分マンションは評価が引き上げられるため、従来のような大幅な評価圧縮は難しくなっており、慎重な検討が必要です。
2-3. 不動産の生前贈与(相続時精算課税制度の活用など)
不動産を相続時ではなく、生前に贈与する方法も有効です。とくに、相続時精算課税制度を活用すれば、贈与時の評価で相続税計算に組み込めるため、高騰が見込まれる不動産などは早めの贈与が有利になるケースもあります。 ただし、贈与を行う際は贈与税が発生するため、贈与税・不動産取得税などのコストを踏まえたトータル設計が必要です。
2-4. 小規模宅地等の特例を見越した土地の保持・整備
相続税を計算するにあたっては、一定の要件を満たす土地については、330㎡まで評価額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」が適用されます。 たとえば、自宅の敷地(特定居住用宅地等)を相続人が継続居住する場合などが該当し、非常に大きな節税効果があります。 この特例を有効に使うには、相続人が居住し続けられる状態であるかどうか、名義の整理は済んでいるかなどの事前準備が不可欠です。
※事業用地・貸付用地の場合は、要件や減額割合が異なります。
2-5. 不動産管理会社の設立による自社株評価対策
相続対象の財産に不動産がある場合、不動産管理会社を設立し、そこに不動産を移しておくことで、自社株評価の圧縮や相続時の資産分散が期待できます。 この手法は高度な設計を伴いますが、法人成りによって不動産から得られる収益を法人税で管理しつつ、相続人ごとの持ち分調整も行えるため、節税と承継の両立を目指す方にとって有効です。
3. 不動産の相続税対策を講じる前に確認しておくべきポイント
3-1. 不動産の評価方法と税務リスクを正しく理解する
不動産を活用して相続税対策を行うには、まず相続税評価額と時価の違いを正しく理解することが重要です。 相続税評価が下がることで節税につながるのは事実ですが、過度な評価圧縮や不自然な活用方法は、税務署から「租税回避」とみなされて否認されるリスクもあります。また、借地権がついているなど、不動産の状態によっては相続税評価方法が異なりますので、税理士など専門家のアドバイスを得たうえで対策を進めることが望ましいでしょう。
3-2. 相続人の状況・意向を把握しておく
相続税の節税ばかりを優先してしまい、相続人の意向や状況を無視した節税設計になると、相続発生時にトラブルの原因になる場合があります。
特に、以下のような点は事前に確認しておくことが大切です。
- 誰がその不動産に住む予定か
- 不動産取得を希望する相続人がいるのか
- 相続税を納付するためのキャッシュが手元あるか
こうした情報をもとに、税務面だけでなく“相続人が不動産を受け取って納得できるか”、”預貯金と不動産のバランスは適切か”を意識した調整が必要です。
3-3. 将来の分割トラブルの可能性を想定しておく
預貯金と比べて、不動産は「分けにくい資産」であることが大きな特徴です。そのため、相続財産がほぼ不動産だけだったというような場合であれば、相続が発生した際に将来的な売却・利用・修繕などをめぐって争いになるケースが多く見られるため、事前に対策をしておくほうがよいでしょう。
遺産分割の際のトラブルを防ぐための対策例
- 現預金などの分けやすい資産も一定額は残しておく
- 不動産を一人の相続人に相続させる場合は、他の相続人に代償金を支払えるよう現金を手当てしておく
- 財産の配分に偏りが出る場合には、遺留分や感情面への配慮を含めた設計を行う
このように、いざ相続が発生したときの分割を考えながら不動産の活用を行うことが望ましいでしょう。
4. 不動産の相続税対策を行ううえでの注意点:相続人側から見たリスク
4-1. 「売れない不動産」を残されて納税に困る
相続人の立場から見ると、いくら「節税できた」と言われても、不動産ばかりが相続財産に偏っていて換金できないという状況は非常に困ります。相続税の納付期限は原則延ばすことはできないため、最悪相続人がローンを組んで納税などの選択を迫られることになり、家計に大きな負担を与えかねません。 特に地方にある収益性の低い物件や、借地権付きの土地などは売却にも時間がかかるリスクがあります。
4-2. 共有状態の不動産で管理・処分がストップ
財産のほとんどが不動産だったので公平に分けるために複数の相続人が共有名義で相続をしてしまうようなケースもありますが、のちのち修繕や売却のたびに全員の同意が必要になるなど、意思決定が極めて煩雑になります。実際には誰か1人が事実上の管理をしていても、名義が全員のままだと、意見が割れた瞬間に何もできなくなるという事例が少なくありません。
また、修繕費や固定資産税などのコスト負担を巡っても、「誰がどれだけ負担するのか」が曖昧になり、相続人間で感情的な対立に発展することもあります。
4-3. 遺留分の侵害で争いに発展
被相続人が遺言書で不動産を特定の相続人に集中させて相続させてしまった結果、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるケースもあります。
不動産は、相続税評価額(=課税対象となる価額)では低く見積もられることが多い一方で、市場での時価は高額であることが珍しくありません。そのため、たとえば被相続人が「長男に不動産を相続させ、次男には現金を渡す」という配分を行った場合、税務上は公平に見えても、実際の財産価値に差があるというケースが多く見受けられます。
このような配分では、次男から「遺留分を侵害されている」として遺留分侵害額請求を受ける可能性が高まります。
特に、タワーマンションや収益不動産など、評価と実勢価値の乖離が大きい資産を一部の相続人に集中させた場合には要注意です。
4-4. 相続した不動産の管理や運営ができない
「相続税が心配だから」という理由で、高齢の親がタワーマンションや収益物件を購入していたものの、子どもが管理できず放置されるというケースもあります。 賃貸物件は空室リスクや修繕・更新など、相続後も“管理が必要な資産”であるということを忘れてはいけません。 節税目的の不動産は、その後の運用と承継まで視野に入れた設計が不可欠です。
5. 不動産対策の選択肢は「所有する」だけじゃない──新しい考え方と活用法
5-1. 家族信託を不動産に活用した相続税対策
従来の不動産対策は、「購入して評価額を圧縮する」「収益不動産として保有する」といった“所有前提”の発想が中心でした。 しかし、近年は「所有は維持しつつ、管理や承継の仕組みを事前に整えておく」方法として、家族信託(民事信託)の活用が注目されています。
たとえば親が自身の不動産を信託し、子を受託者とすることで、親が判断能力を失った後も後見制度を使わずに、子が不動産を売却・運用できる柔軟な体制が構築できます。
相続発生前に売却して納税資金を確保したり、相続発生後に市場を見てタイミングを見計らって処分したりと、資産の流動化と承継の円滑化に寄与するのが大きな利点です。
ただし、信託契約により受託者である子に売却権限を付与した場合は、親の判断能力が残っている状態でも、法的には受託者単独で売却できることになります。
そのため、信託契約書の設計時に「委託者の同意が必要」「一定の条件下でのみ売却可」などの制限条項を設けることが望ましいケースもあります。
このように家族信託は、相続税対策としての節税効果だけでなく、生前・死後の意思を尊重しながら柔軟に不動産を運用・承継できる“実務対応型”の制度として有効です。
5-2. 不動産を“所有させる”か“換金させる”か──遺言で明確にする発想
不動産を相続させる場合、「残す=そのまま所有させる」という前提に立つ方が多いですが、相続人がその物件に住むとは限りません。 場合によっては、相続人の生活環境や価値観から見て「売却して現金化したい」「そもそも維持管理が負担」と感じるケースもあります。
このようなリスクを避けるためには、遺言書の中で不動産をどう扱ってほしいのか、意図を明確に記載しておくことが効果的です。たとえば、「長男に相続させるが、売却せずに居住用として使用することを望む」といった形で、残す側の想いを伝えることは、相続人間の誤解や摩擦を防ぐうえで非常に有効です。
ただし、ここで注意すべきは、遺言で不動産の「使い方」まで指定したとしても、それには法的拘束力がないという点です。
相続によって所有権を得た人は、その不動産を自由に使う・貸す・売るといった権利を持つため、「売却禁止」「住み続けること」などの希望は道義的なメッセージにはなっても、強制力のある義務にはなりません。ご自身の希望する処分方法を確実に実行してもらいたい場合には、「この家を住居として使うこと」を条件または負担とした遺贈にする(負担付遺贈)の形をとる、家族信託などの制度を活用し、不動産の管理や処分のルールを契約で明記するというような補完的対策が必要となってきますので弁護士に相談をされてみられてください。
5-3. あえて「不動産を持たない」という判断も選択肢に
相続税対策=不動産活用、というのがこれまで一般的でしたが、最近では「そもそも不動産を残さない」という考え方も、実務的に合理的な選択肢として増えています。
たとえば、子ども世代がすでにマイホームを所有していたり、実家に居住する予定がなかったりする場合、親が不動産を遺すことが「維持・管理・処分」という負担にしかならないこともあります。
また、不動産の評価額は圧縮できても、実勢価格との乖離が大きすぎると遺留分トラブルや換金困難による納税遅延のリスクが高まります。
そのため、相続発生前に物件を売却しておき、現金や有価証券で残すことで「分けやすさ」や「納税のしやすさ」を優先する設計も増えてきています。
節税よりも「争わないこと」「家族に負担をかけないこと」を重視する価値観が、今後ますます重要になるかもしれません。
ご自身やご家族の意向や状況に応じて、柔軟な財産形成を行うことが望ましいでしょう。
6. よくある質問(FAQ)
Q. 相続した不動産が遠方の場合、どんな点に注意すべきですか?
A. 遠方の不動産は、管理や利活用が困難になりやすく、空き家化や固定資産税負担、治安や近隣トラブルなど、所有リスクが高くなる傾向があります。特に収益物件であっても現地確認や修繕判断がすぐにできないため、運営効率が落ちるという問題もあります。
また、相続人が複数いる場合、「誰が現地管理するのか」「売却に合意できるのか」という協議が必要になり、話し合いが難航することも。対策としては、不動産会社への管理委託や早期の換価方針の検討などが挙げられます。
Q. 築古の賃貸アパートでも節税に使えますか?
A. はい、築年数が古くても入居者がいれば「貸家建付地」「貸家」としての評価減が適用され、不動産評価額を圧縮する効果が見込めます。 特に土地については、借地権割合・借家権割合を用いて評価が下がるため、金融資産で保有するより相続税の節税効果が大きくなるケースも多いです。
ただし注意すべきは、築古アパートが収益性を維持できているかどうかです。空室率が高く修繕費もかさむ場合は、節税効果以上に管理コストや維持負担がのしかかるリスクもあります。
また、いざ相続後に売却を検討しても、耐震基準や老朽化の影響で思った価格で売れない、解体費用が必要になるといったケースも少なくありません。
評価減と現実的な資産価値・使い勝手のバランスを見極める必要があります。
Q. 借地権や底地も相続税対策に活用できますか?
A. 借地権(借りている土地の権利)や底地(貸している土地の所有権)も、相続税評価上は制限を受けた権利と見なされるため、評価額が通常の宅地よりも低くなる傾向があります。 たとえば、借地権は利用権であるため、自用地としての評価より圧縮され、底地は借地人の権利が強いため、実際に自由に使えない制約がある分、評価が下がります。
この仕組みを活かして、「一見高額に見える土地を評価額上は安く持つ」ことができるため、節税対策として検討されることもあります。
ただし、相続後の分割や処分は容易ではなく、借地権者との交渉、名義変更、売却調整などに時間と労力がかかる点はデメリットです。
節税だけでなく、実行可能性や換金性の見通しも含めて慎重に判断すべき対象です。
Q. 相続した土地に未登記の古家が残っています。どう扱えばいいですか?
A. 未登記建物であっても、現に存在している限りは、相続税の評価対象となる可能性があります。登記簿がなくても、固定資産税課税台帳に登録されていれば、建物として把握され、申告の際に固定資産税評価額をベースとした評価が必要になる場合があります。
特に、使用されていない老朽建物の場合、相続後の維持・管理コストや倒壊リスク、近隣への悪影響なども含め、早期の対応が求められます。
通常、建物の滅失(解体)を法務局に登記するには、建物に登記簿があることが前提となります。しかし、未登記建物は登記簿がそもそも存在しないため、滅失登記という形で法務局に抹消申請を行うことはできません。
そのため、未登記建物を処分・解体した際は、市区町村の資産税課へ「家屋滅失届(建物取壊届)」を提出することで、固定資産税課税からの除外申請を行う必要があります。
このようなケースでは、不動産の評価・申告と行政手続が並行して必要になるため、専門家の関与のもとで早めに方針を決めたうえで対応することが望ましいでしょう。
7. 弁護士・税理士が連携して対応する当事務所のサポート体制
7-1. 節税面だけにならない法的視点を含んだ設計
不動産を活用した相続税対策において、単に相続税評価額を下げて税額を減らすだけでは将来的なリスクが残るため、相続人全体の構成、遺留分とのバランス、将来の紛争可能性などを見通した実効性のある対策を行うことが必要です。
当事務所では相続に強い税理士・弁護士を中心に、税務と法務の両面からの相続税対策をご提案しております。
不動産の相続税評価は、土地の形状・地域・利用状況によって大きく異なるため、事前に精査をして最もメリットの高い分割方法はどの形か、納税資金はどれほど必要かといった相続税シミュレーションを行うほか、最新の税務動向を踏まえたスキーム構築を行っております。
7-2. 登記・契約・法人設立までをグループ内で一括対応
当グループには、弁護士・税理士のほか、司法書士・行政書士も在籍しており、相続税対策にかかる贈与契約の作成、相続登記、不動産法人化、信託契約などの実務も一括で対応しています。 相続対策は、税務・法務・登記・契約が密接に関係するため、複数士業による横断的なサポートができるという点は当事務所の強みです。
8. まとめ:不動産による相続税対策は“節税”だけに目を向けないように
不動産を活用した相続税対策は、評価額の圧縮や特例の適用によって大きな節税効果が見込める一方で、節税にばかり目を向けると、将来のトラブルや思わぬ損失を招くリスクもあります。
特に、不動産は預貯金と比べると分けにくく、管理や処分も手間がかかる資産であるため、「誰に・どのように引き継ぐか」まで含めた設計が不可欠です。
もちろん節税という点は優先的に考えてよいのですが、それとともに、相続人の希望や生活の状況、引き継いだ後の管理体制なども視野に入れておくことが、結果的に“争わない相続”への近道になります。
当事務所では、弁護士・税理士・司法書士が連携し、相続税対策を始めとして、遺言書作成や家族信託などの生前の相続対策全般をトータルでサポートしております。
「どこから手をつければよいか分からない」という段階でも構いません。ご家族にとって最適な選択肢を一緒に考えてまいりますので、まずはお気軽にご相談ください。
Nexill&Partners Group(弁護士法人Nexill&Partners)
福岡を中心に、全国からご相談をお受けしております。 弁護士だけでなく社労士・税理士・司法書士・行政書士と多士業が在籍。 遺産相続、企業支援(企業法務・労務・税務)に特化した総合法律事務所です。 博多駅徒歩7分。初回相談無料、お気軽にお問い合わせください。 当グループでは博多マルイ5Fの「相続LOUNGE福岡オフィス」を運営しております。こちらもぜひご活用ください。