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コラム

遺言書がある場合の相続税申告はどう変わる?遺産分割の流れから特例適用への影響まで専門家が解説

2026.02.10

「遺言書」があることで、相続税申告はスムーズになる部分もあれば、逆に注意すべき点が増える場面もあります。遺言書の内容によっては、本来受けられたはずの税務上の特例が制限されたり、逆に遺言書の内容と異なる分割をすることで税負担が増してしまったりするケースがあるからです。本記事では、遺言書の存在が相続税申告にどのような影響を与えるのかを、実務の流れに沿って整理します。

第1章 遺言書がある相続で、まず確認すべきポイント

遺言書が見つかった場合、それが相続税申告における遺産分割の基準となります。まずは、遺言書が税務申告の前提にどのような影響を与えるのか、正しく理解することが重要です。

1-1 遺言書が「相続税申告の前提」をどう変えるのか

相続税の計算は、本来「誰がどの財産をどれだけ受け取るか」が確定しなければ行えません。遺言書がない通常の相続(法定相続)では、相続人全員で遺産分割協議を行い、合意した内容に基づいて相続税の申告を行います。
一方で遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って各相続人が財産を取得することになります。つまり、遺言書がある相続では、遺産分割協議を待たずに「財産の取得者」と「取得分」が指定されるため、これが申告の直接的な基礎となる点が特徴です。

1-2 「遺言がある=遺産分割は不要」という誤解

よくある誤解の一つに、「遺言書があれば遺産分割協議書を作る必要がなく、手続きはすべて終わる」というものがあります。しかし、これは必ずしも正しくありません。
例えば、遺言書に記載されていない財産(後から見つかった預貯金など)がある場合、その財産については別途、相続人全員による遺産分割協議が必要になります。また、遺言書の内容に相続人全員が反対し、異なる分け方を希望する場合も、実務上は遺産分割協議を行うことになります。
遺言書は万能ではなく、その内容がすべての遺産を明確な割合や手法で網羅しているかどうかが、協議不要かどうかの分かれ目となります。

1-3 相続税申告までの全体像

遺言書がある場合の相続税申告までの大まかな流れは以下の通りです。

1. 遺言書の検認(自筆証書遺言の場合、原則として検認が必要ですが法務局の自筆証書遺言保管制度を利用している場合は不要です。公正証書の場合はそもそも検認は不要です)
2. 遺言内容の確認と相続人・遺産の調査
3. 遺言執行者の有無の確認(遺言執行者とは:遺言の内容を実現するために相続財産の管理や名義変更等を行う権限を持つ者)
4. 遺言書に基づいた名義変更(相続登記・預金解約など)
5. 相続税の計算および申告・納税(相続発生日の翌日から10か月以内)

実務上は、名義変更と並行して申告を進めることが一般的です。遺言書の内容が不明確な場合や、遺留分(相続人の最低限の取り分)を侵害しているような場合は、遺産分割に時間がかかることが想定され、申告期限までのスケジュールがタイトになるため注意が必要です。

第2章 遺言書の種類によって相続税実務はどう変わるか

遺言書には主に「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」がありますが、それぞれ税務実務への影響が異なります。

2-1 公正証書遺言がある場合の相続税申告の進め方

公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成します。そのため、形式的な不備によって無効になるリスクが低いのが特徴です。

検認不要でも注意が必要な点

公正証書遺言は、家庭裁判所での「検認」手続きが不要なため、すぐに名義変更や税務申告の準備に取り掛かれるというメリットがあります。しかし、税務上では「遺言作成時から死亡時までの財産変動」に注意が必要です。公正証書遺言を作成してから数年〜十数年経過している場合、既に売却済みの不動産が記載されていたり、逆に記載のない多額の預金が増えていたりすることがあります。遺言書に記載のない財産は、前述の通り、遺産分割協議の対象となるため、遺言書がある場合も財産調査は行うことが重要です。

税務上の評価・分割との関係

公正証書遺言では、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」という表現が使われることが一般的です。これにより、不動産の取得者が早期に確定するため、相続税法上の「小規模宅地等の特例」などの適用判定がスムーズに行える傾向があります。また、公証人が関与しているため、その内容の信頼性が高く、税務署に対しても「遺言書にある通りに分割が行われた」という証拠資料となり得ます。

2-2 自筆証書遺言がある場合に生じやすい相続税リスク

自筆証書遺言は、本人が紙に手書きして作成した遺言書です。手軽に作成できる反面、税務申告においてはリスクを伴う場面が多い傾向があります。

記載不備・解釈違いが税額に与える影響

自筆証書遺言で起こりがちなのが、形式不備による無効や、記載内容の解釈を巡る争いです。例えば、財産の特定が曖昧(例:「自宅を長男に、それ以外を次男に」とあり、投資信託がどちらに含まれるか不明など)な場合、相続人同士で解釈が分かれ、紛争に発展しやすいのです。紛争によって申告期限までに「誰がどの財産を取得するか」が決まらない場合、相続税の申告は「未分割」として法定相続分で仮申告を行わなければならず、後述する節税特例(配偶者控除など)がその時点では適用できなくなるという税務上の不利益を被ります。

申告スケジュールに影響する「検認」

自筆証書遺言の場合、まずは家庭裁判所での「検認」が必要です。実務上、多くの金融機関や登記手続では、検認済証明書等の提出を求められることが一般的であり、そもそも検認をせずに開封して内容を確認すると無効になるおそれがあるため、検認をしなければ内容の確認もできない=相続手続もできないと思ってもらってよいでしょう。裁判所のスケジュールにもよりますが、検認には、数週間から1か月程度かかる場合もあり、相続税の申告期限を考えるとなるべく速やかに実施しなければその後の動きの遅れにつながります。

第3章 遺言書があると遺産分割協議は不要なのか

「遺言書がある=遺産分割協議を行う必要がない」と思われがちですが、実務上は協議が必要になる場面が一定数あります。

3-1 遺産分割協議が「不要」となるケース

遺産分割協議が完全に不要となるのは、以下のすべての条件を満たす場合です。

法的に有効な遺言書であること

自筆証書遺言は、原則として本文・日付・氏名が自書され、押印があることなど、民法が定める方式に適合している必要があります。公正証書遺言の場合も、公証人の関与のもとで民法所定の方式により作成されていることが必要です。また、どちらの場合も、遺言者に作成当時の遺言能力(意思能力)が備わっていたことが前提となります。

遺言書の中に、すべての相続財産の帰属先が明記されていること

不動産、全金融機関の預貯金、有価証券、家財道具、さらには「その他一切の財産」といった包括的な表現を含め、漏れなく承継先が指定されている必要があります。

相続人全員が遺言内容に同意し、遺言通りに執行すること

相続人の中に遺言の無効を訴える人がおらず、全員が内容を受け入れている状態です。この場合、遺言書と検認済証明書(自筆の場合)があれば、各機関での名義変更手続きおよび相続税申告が可能です。

3-2 遺産分割協議が「必要」になるケース

一方で、以下のようなケースでは遺産分割協議が必要になります。

記載漏れ財産の存在

遺言書に書かれていない財産が見つかった場合

予備的遺言の欠如

財産を譲るはずだった人が先に亡くなっており、その後の行き先が指定されていない場合

包括遺贈の指定

「財産の2分の1をAに譲る」といった割合指定(包括遺贈)の場合、具体的にどの不動産を、どの口座の金をAが受け取るかを決める協議が必要です

相続人全員の合意による変更

全員が「遺言とは違う分け方をしたい」と望む場合、新たに遺産分割協議書を作成して分割を行います

第4章 遺言書が特例適用に与える影響

相続税には、税負担を軽減できる特例がいくつかありますが、これらは「遺言書の内容」によって適用可否が変わります。

4-1 配偶者の税額軽減は必ず使えるのか

「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」は、被相続人の配偶者が取得した遺産のうち、1億6,000万円または法定相続分までの金額に相続税がかからないという制度です。
ただし、この特例は、申告期限までに、配偶者がどの財産を取得するのかが明確になっていることを前提として設計されている制度です。遺留分の問題や遺産分割協議が長引くことで分割方法が確定しないまま申告期限を迎えると、この特例が適用できず、本来不要であったはずの相続税を一旦、納める事態にもなりかねません。実務上は、後から調整できる余地も残されていますが、その手続きなどを誤ると、特例が適用できないまま確定してしまうおそれがある点には注意が必要です。

4-2 小規模宅地等の特例が使えなくなる典型パターン

「小規模宅地等の特例」とは、被相続人の自宅敷地などの評価額を最大80%減額できる制度です。
この特例の適用には「誰がその土地を相続するか」という点について、居住関係や所有状況などの要件が厳格に定められています。例えば、遺言書で、別居しており、かつ自己所有家屋に居住している親族にその土地を相続させると指定されている場合、要件を満たさず特例の適用が認められないことがあります。
こういった特例を利用する予定がある場合は、税務上の適用要件を十分に考慮したうえでの遺言書作成が必要になる点については留意しておかれてください。

第5章 遺留分と相続税申告の関係

遺言書によって特定の相続人に財産が偏った場合、よく起こるのが「遺留分」の問題です。

5-1 遺留分侵害がある場合の税務上の扱い

遺留分とは、一定の相続人に保証された最低限の相続割合です。遺言書の内容がこの遺留分を侵害している場合、侵害された相続人は、多く受け取った相続人に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます。税務上、この請求が行われただけでは申告内容は変わりませんが、実際に金銭のやり取りが発生した時点で、それぞれの相続税額を再計算する必要があります。

5-2 申告後に調整が必要になるケース

当初、遺言書通りに申告(1回目の申告)を行ったものの、その後、遺留分の支払いが確定した場合、以下のような調整を行います。

遺留分を支払った側(財産を渡した側)

取得財産が減るため、先に納めた相続税の一部が戻ってくる可能性があります。これには「更正の請求」という手続きが必要になります。これは修正申告とは異なり義務ではありませんが、手続きを行わない限り、多く払ってしまった税金が自動的に戻ってくることはありません。

遺留分を受け取った側(財産をもらった側)

財産が増えるため、追加の納税を行う「修正申告」が必要です。こちらは税額が増えるケースであるため、速やかに手続きを行う義務があります。

第6章 相続税申告で注意すべき実務上のポイント

最後に、遺言書がある相続において税務署からチェックされる点や、実務的な注意点をまとめます。

6-1 申告期限との関係

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。遺言書があるからといって、この期限が延長されることはありません。自筆証書遺言の検認待ち、相続人同士の紛争、遺留分の協議などが長引いても、10か月以内に申告・納税を行わないと、延滞税や無申告加算税といったペナルティが課せられます。

6-2 遺言内容が未確定なまま申告する際の注意点

もし、遺産分割協議がまとまらないなどの事情で、相続税の申告期限に間に合いそうにない場合は「未分割」で申告することになります。未分割申告とは、申告期限までに、一度、法定相続分で相続したことにして相続税を申告・納税する申告方法です。
この際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を併せて提出しておくことが重要です。これを提出しなかった場合、後から遺産分割が確定した時に配偶者控除や小規模宅地等の特例を遡って適用することができなくなります。

6-3 税務署から問題視されやすい点

税務署は、遺言書の内容と、実際に名義変更された財産、そして申告された内容が一致しているかを厳密に照合します。ここで特に注意が必要なのは、相続税の申告前に財産を動かしてしまう行為です。
例えば、遺産分割が確定する前に一部の相続人が預貯金を引き出して消費したり、不動産を勝手に処分したりする行為は、申告すべき相続税の対象となる財産額を不透明にし、その金額を歪める行為として厳しく調査されます。また、遺言書に記載のない財産が見つかった際に、特定の相続人に有利になるよう他の相続人に相談せず恣意的に分割を決めてしまうことも、不適切な申告とみなされる要因となります。
遺言書という公的な指針があるからこそ、そこから外れた不自然な財産の動きは、税務調査において説明を求められやすいといえます。

第7章 遺言書がある相続こそ専門家に相談すべき理由

遺言書は相続手続きを進めるうえでの指針となりますが、その内容を正しく解釈し、税負担を抑えながら、円滑に手続きを完了させるためには専門的な知識が不可欠といえます。遺言書がある相続における税務申告は数字の計算だけに留まらず、以下のような判断ポイントが想定されるからです。

  • 遺言書の種類に応じた法的な有効性の判断
  • 遺言書が税額軽減の特例要件を満たしているかのチェック
  • 遺言内容と異なる分割を希望する場合の贈与税リスクの回避
  • 二次相続や将来の納税資金まで見据えたアドバイス

例えば、遺言書の内容が節税特例の要件を満たしていない場合でも、申告期限前に相続人全員の合意による円満な再分割(遺産分割協議)を行うことで、その合意した分割内容を基礎とし、相続税を抑える最適な方法を検討することができます。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・税理士・司法書士が一つにまとまったワンストップ体制を整えています。遺言書が見つかり、「どう動けばいいのか分からない」「このまま申告して損をしないか不安だ」と感じられたら、まずは一度お気軽にご相談ください。

 

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監修者:菰田 泰隆
代表弁護士・税理士・社会保険労務士・行政書士菰田 泰隆

弁護士法人Nexill&Partners

代表弁護士・税理士・社会保険労務士・行政書士菰田 泰隆

  • 2002年
    修猷館高等学校 卒業
  • 2007年
    九州大学法学部 卒業
  • 2010年
    早稲田大学大学院法務研究科 修了
  • 2012年
    弁護士登録
  • 2013年
    菰田法律事務所(現:弁護士法人Nexill&Partners) 開業
  • 2016年
    社労士登録・開業(現:社会保険労務士法人Nexill&Partners)
  • 2016年
    税理士登録・開業(現:税理士法人Nexill&Partners)

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