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コラム

相続税の支払いにローンや融資は使える?延納との違いや後悔しない判断基準を税理士が解説

2026.01.28

相続税は「10ヶ月以内に現金一括で納付する」が原則です。しかし、相続財産の大部分が不動産や自社株の場合、手元に十分な現金がなく、納税資金の確保に悩む方も少なくありません。相続税の支払いのために銀行ローンや融資を利用することは可能ですが、金利負担や返済計画の判断を誤ると、将来の生活や二次相続に影響を及ぼすおそれもあります。また、国が認めている「延納」や「物納」という制度にも、それぞれ要件や注意点があるため慎重に進める必要があります。

第1章 相続税は「期限内・現金一括」が原則|資金不足が起きやすい理由

1-1 納付期限と延滞税の基本

相続税の申告と納付には、法律で定められた期限があります。具体的には「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。この期間内に、税務署に対して申告書を提出し、かつ税額を全額納付しなければなりません。
ここで重要なのは、納付の方法です。
日本の税制では、相続税は現金による一括納付が原則となっています。期限までに納付しなかった場合は「延滞税」というペナルティが発生します。延滞税の税率は期間などによって異なり、年率数%程度からそれ以上の高い水準となる場合もあります(年度により変動)。放置するほど負担が重くなる点に注意が必要です。
また、期限後に申告を行った場合や税務調査により不足分を指摘された場合には、延滞税に加えて、無申告加算税や過少申告加算税などの「加算税」が科せられる可能性もあります。資金が手元にないからといって、何もせずに放置することは、経済的な損失を招くリスクがあるため注意が必要です。

1-2 不動産相続で現金が足りなくなるケース

相続税の支払いに窮するケースの多くは、相続財産の内容に起因します。特に以下のような場合において、納税資金の不足が起こりやすい傾向があります。

遺産の大部分が自宅不動産や土地である場合

先祖代々の土地や自宅を相続したものの、預貯金などの金融資産が少ないケースです。評価額が高い土地を相続した場合、税額も高額になりますが、土地そのもので税金を支払うことは原則できないため、相応の現金を用意しなければなりません。

非上場企業の自社株を相続した場合

会社の経営者が亡くなり、後継者が自社株を引き継ぐケースです。会社の業績が良いほど株価も高くなり、多額の相続税が発生します。しかし、自社株はすぐに売却して現金化することが難しいため、納税資金が不足しがちです。

遺産分割協議が難航し、預貯金が凍結されている場合

銀行預金の口座は名義人が亡くなると凍結されます。そのため、遺産分割協議がまとまらないうちは、原則として預金を引き出すことができません。協議に時間がかかっている間に納税期限が迫り、手元の自己資金だけでは足りなくなる事態に陥ります。

このように、資産価値としては十分なものを持っていても、それが現金ではないために、期限までの納税が困難になる状況は誰にでも起こり得るのです。

第2章 相続税の支払いにローン・融資は使える?結論と全体像

2-1 結論:相続税支払い目的でのローン契約は利用可能

金融機関によって名称は異なりますが、銀行などの民間金融機関が提供する「相続関連税ローン」や「納税資金ローン」といった借入を利用して相続税を支払うことは可能です。
多くのメガバンクや地方銀行、信用金庫では、相続というライフイベントに伴う高額な資金需要に応えるための専用ローンを用意しています。一般的な使途自由なフリーローンに比べて金利が低めに設定されていることが多く、納税という正当な理由があるため、金融機関側も比較的前向きに検討してくれることがあります。ただし、当然ながら、審査は申込人の信用力・収入状況・担保の有無等により結果が異なります。
こうしたローンを適切に活用することで、期限内の納税が可能となり、結果として延滞税の発生を抑えることができます。

2-2 融資実行までの流れと最低限の注意点

相続税の納税資金目的での借入の際は、一般的な住宅ローンとは異なる手続きが必要となり、スケジュール感も異なります。金融機関ごとに詳細は異なりますが、一般的には以下のような流れです。

1. 事前相談と仮審査:相続税の概算額が判明した段階で銀行に相談します。
2. 本申込み:相続税の申告書の控えや、相続する財産の詳細、収入証明書などを提出します。
3. 審査・契約:銀行による審査が行われ、承認されれば金銭消費貸借契約を結びます。
4. 融資実行:納税期限に合わせて、銀行から直接、あるいは本人名義の口座を経由して納税を行います。

注意したいのがスピード感です。銀行の審査には通常、数週間から場合によっては1ヶ月以上の時間を要し、納税期限の直前に駆け込んでも、期限までに審査が終わらず融資が間に合わない可能性があります。銀行ローンを利用する場合は、相続が発生してからなるべく早い段階で動き出す必要があるといえます。

2-3 ローンを使う人が多いケース・使わない方がいいケース

相続税のローンは便利ですが、すべての人に最適というわけでもありません。

ローンを利用するメリットを得やすいケース
不動産を売却したくない場合

自宅や思い入れのある土地を売らずに、借入金で納税を済ませ、その後の収入や資産運用で返済していくことができます。

早期に納税を完了させたい場合

国の制度である「延納」は手続きが非常に煩雑で、担保の提供などの要件もあります。銀行ローンの方が、比較的手続きがシンプルで早く済む傾向があるといえます。

ローンを使わない方がいいと考えられるケース
返済の目処が立たない場合

一時的な借入であっても金利は発生します。返済原資(給与収入や家賃収入、将来の資産売却など)が不明確なまま借りてしまうと、将来的に生活を圧迫するおそれがあります。

高齢で収入が限られている相続人

返済期間を長く設定できないため、毎月の返済額が高額になりやすく、現実的な選択肢になりにくい場合があります。

第3章 銀行ローンと国の「延納」はどちらを選ぶべきか?

3-1 延納の要件と現実的なハードル

「延納(えんのう)」とは、相続税を一括で支払うことが困難な場合に、一定の要件のもとで、分割(年賦)で納付できる国の制度です。一見すると便利な制度ですが、利用するためには、原則として以下のような要件をすべて満たさなければなりません。

1. 納付すべき税額が10万円を超えていること
2. 現金で納付することが困難な理由があること
3. 延納税額および利子税の額に見合う「担保」を提供すること
4. 納付期限までに延納申請書を提出すること

特にハードルとなりやすいのが、原則として担保の提供が求められる点です(延納税額が100万円以下、かつ延納期間が3年以下の場合は不要)。担保の種類はケースによって異なりますが、不動産を担保とする場合は、抵当権設定等が必要になることがあり、測量図や定評価など専門家への依頼費用や手間が発生する可能性があります。

3-2 延納の利子税と銀行金利の考え方

延納を利用する場合、分割払いの利息として「利子税」を支払う必要があります。
利子税の割合は、適用年度の利率(公表される割合)や延納の区分等により変動しますが、現在の低金利環境下では、銀行のローンの金利の方が低く、延納の利子税の方が高くなるような事態も起こり得ます。
延納の利子税は特例により引き下げられる仕組みがありますが、それでも銀行の優遇金利が適用されたローンの方が、総支払額を低く抑えられるケースが増えています。コスト的にどちらの方がよいかは、その時の市場金利と、ご自身の相続財産の構成を照らし合わせてシミュレーションする必要があります。

3-3 【比較表】ローン vs 延納(スピード・コスト・確実性)

比較項目 銀行ローン(納税融資) 国の制度(延納)
手続きのスピード 比較的早い(数週間〜1ヶ月) 遅い(審査に数ヶ月かかることも)
コスト(利息) 市場金利に基づく(優遇あり) 利子税(財産構成により変動)
担保の有無 必要な場合が多い(不動産等) 原則必要(条件によっては不要)
柔軟性 繰上返済などが比較的自由 変更手続きが煩雑
審査の主体 金融機関(収益性・信用重視) 税務署(資産価値・必要性重視)

実務上は、手続きのスピードや金利水準を踏まえてローンと延納を比較し、どちらが適切か判断するケースが多いです。

第4章 物納はどのような場合に認められるのか|制度の位置づけと実務上の注意点

4-1 物納とは?原則とされる要件と最終手段と位置づけられる理由

「物納(ぶつのう)」とは、現金でも延納でも納税が不可能な場合に、相続した財産そのものを国に納める方法です。一見、資金の準備や借入などをせずに財産でそのまま納税ができる便利な制度に思えますが、相続税は現金での納税を原則としているため、実務上、物納が認められる場面は限定的です。
物納を認めてもらうには、銀行ローンや延納、不動産の売却など、他の方法によって金銭で納税することが困難であることを、客観的な資料に基づいて証明する必要があります。そのため、相続人に十分な収入がなく借入ができない場合や、相続財産の大半が換金性の低い資産で、納税期限までに売却が見込めない場合などに、はじめて物納の検討が現実的になります。
また、相続人間の対立によって遺産分割協議が長期化し、資産の処分や担保設定が進められないケースでも、結果として物納を検討せざるを得ない状況にいたることがあります。ただし、その場合であっても、税務署は「本当に金銭納付が不可能か」を厳格に確認するため、安易に認められるわけではありません。
このように、物納は「積極的に選ぶ納税方法」というよりも、他の選択肢を検討し尽くした結果として残される、例外的・補充的な手段であることを理解しておく必要があります。

4-2 物納に充てられる財産の制限と優先順位に注意

さらに、物納に充てることができる財産には優先順位があり、原則としてその順位に従って物納を行うことが求められます。

物納に充てられる財産の優先順位
第1順位

①不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除く)
②不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

第2順位

③非上場株式等
④非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

第3順位

⑤動産

原則として、①~⑤の順位で物納に充てることとなり、取得した財産の中に第1順位のものが存在しない場合に初めて第2順位以降での物納が認められます。
なお、被相続人が生前から所有していた特定登録美術品については、上位の順位によることなく物納に充てることができる財産となります。

また、物納の対象となる財産であっても、国が引き取った後の管理や処分が困難と判断される「管理処分不適格財産」に該当する財産は物納に不適格として受け付けてもらえません。

管理処分不適格財産の例
  • 境界が不明確な土地
  • 抵当権が設定されている物件
  • 法的な紛争がある不動産
  • 譲渡制限のある株式、質権その他の担保権の目的となっている株式
  • 反社会的勢力に関係のある法人の株式

第5章 後悔しないための判断フロー|相続税ローンを検討する前に

5-1 まず確認すべき資金源(預金・保険)

相続税のローンを検討する前に、まずは納税資金として用意できる現金ないか再確認しましょう。

  • 生命保険金の活用:受取人が指定されている生命保険金は、遺産分割協議を待たずに請求・受領が可能です。
  • 預貯金の仮払い制度:2019年の法改正により、遺産分割前でも一定額を払い戻せる制度があります(金融機関ごとに、残高等に基づく計算式の範囲で上限150万円)。少額の不足であればこれで補える場合もあります。

5-2 売却・延納・ローンの優先順位

納税資金が足りない場合、一般的には以下のような順位で検討されます。

1. 自己資金・生命保険金で対応

無利息・リスクなし

2. 換金性の高い資産

株など)の売却(早期現金化

3. 銀行ローンの検討

不動産を守りたい場合・延納より低金利な場合

4. 国の延納制度

ローンが組めない場合・利子税の方が低い特例がある場合

5. 不動産の売却

長期的な返済が困難な場合

6. 物納

延納でも金銭納付が困難で、物納適格財産がある場合

5-3 二次相続・債務控除の注意点

相続税の支払いのために借りたローンは、その相続人自身の負債であり、これを「債務控除」として今回の相続税から差し引くことはできません。(債務控除の対象となるのは、被相続人が亡くなった時点で残していた被相続人の借金の場合です。)
また、今回の相続税の納税をローンで乗り切ったとしても、次の相続(二次相続)が発生した際に、まだ借入が残っていると、次の世代に債務負担が連鎖します。場当たり的な借入ではなく、将来の家族全体の資産状況を見据えた計画が重要といえます。

第6章 相続税ローンや納税資金に関するよくある質問(FAQ)

Q. 相続税のローンを利用する場合、相続人全員の同意が必要ですか?

A. 原則として、ローンを借りる本人(相続人個人)の判断で申し込みが可能です。

相続税のローンは、相続人それぞれが自分に課せられた税金を支払うために借りる「個人の負債」という扱いになります。そのため、他の相続人の同意が法的に必須となるわけではありません。ただし、相続した不動産を共有名義にする場合や、その不動産を担保に入れて融資を受ける場合には、他の共有持分権者の同意や連帯保証が必要になるケースが多いといえます。また、親族間での不公平感を避けるためにも、資金調達の方法については遺産分割協議の場で共有しておくことが円満な相続のコツといえます。

Q. ローンで支払った後、すぐに不動産が売れたら一括返済できますか?

A. 可能です。ただし、繰上返済手数料が発生する場合があります。

不動産を売りたいが、納税期限までに売却が間に合いそうにない場合、一時的なつなぎ融資としてローンを利用する方もいます。不動産が売却できたタイミングで借入金を一括返済することは可能ですが、多くの銀行では繰上返済手数料を設定しています。数万円程度の定額制もあれば、返済額の数%という設定もあり、高額な融資の場合は手数料も無視できない金額になることがあります。契約前に繰上返済の条件も確認しておきましょう。

Q. 相続税のローンにかかる利息は、経費として認められますか?

A. 相続税のローンの利息は経費にすることはできません。

相続税は「個人が財産を受け取ったこと」に対してかかる税金であり、それを支払うための借入利息は事業上の経費とはみなされません。たとえば、アパートを相続して家賃収入を得ている場合でも、そのアパートにかかる相続税を払うためのローン利息は、不動産所得の経費には算入できません。

第7章 相続税に悩んだら専門家へ相談を

相続税は現金一括納付が原則ですが、もしローンを組んで支払を検討する場合は、金利負担や将来の返済計画、二次相続への影響までをみて、総合的に判断することが大切です。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士、税理士、司法書士など相続に関する専門家が社内連携の上でワンストップのご対応を行っております。
実際の相続税申告を行う前の遺産分割方法を工夫することで、前提となる相続税の金額を減らせる場合もあります。
初回のご相談は無料でお受けしておりますので、まずは一度ご相談ください。

 

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監修者:菰田 泰隆
代表弁護士・税理士・社会保険労務士・行政書士菰田 泰隆

弁護士法人Nexill&Partners

代表弁護士・税理士・社会保険労務士・行政書士菰田 泰隆

  • 2002年
    修猷館高等学校 卒業
  • 2007年
    九州大学法学部 卒業
  • 2010年
    早稲田大学大学院法務研究科 修了
  • 2012年
    弁護士登録
  • 2013年
    菰田法律事務所(現:弁護士法人Nexill&Partners) 開業
  • 2016年
    社労士登録・開業(現:社会保険労務士法人Nexill&Partners)
  • 2016年
    税理士登録・開業(現:税理士法人Nexill&Partners)

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