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コラム

相続税申告の期間延長はできる?期限を過ぎるリスクと今からできる具体的対処法を徹底解説

2025.10.23

相続税申告には、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内という期限が法令上定められており、この期限は「基本的に延長できない」のが原則です。
しかし、実際には「遺産分割協議がまとまらない」「評価が難しい財産がある」「家族間でもめている」など、10か月で終わらせるのが難しいケースも少なくありません。
そこで本記事では、相続税の申告期限に間に合わない可能性がある方に向けて、申告の延長はできるのか、できない場合はどう対応すべきかについて、税理士・弁護士・司法書士が連携するワンストップ相続対応の現場視点から、わかりやすく整理して解説していきます。

1. 相続税申告の期限とは?基本的なルールを再確認

相続税申告の最大のポイントは、「申告と納付の期限が法律で明確に定められていること」です。相続に関するさまざまな手続きの中でも、相続税申告は特に期限管理が厳しい業務のひとつです。

1-1. 相続税の申告・納付期限は「10か月以内」

相続税の申告と納付の期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内とされています。
たとえば、2025年1月15日に亡くなられた場合、申告・納付期限は2025年11月15日となります。

1-2. 10か月以内に何を終わらせる必要があるか?

この10か月の間に行うべき手続きは非常に多岐にわたります。

  • 戸籍・財産資料の収集
  • 相続人の確定と遺産分割協議
  • 財産の評価(不動産・株式・保険など)
  • 相続税額の計算
  • 申告書の作成と署名捺印
  • 税務署への提出と納付(現金一括が原則)

準備を後回しにしていると、期限が迫ってから一気に対応することになり、評価や分割協議が間に合わず申告に支障が出ることも珍しくありません。

1-3. 遅れたらどうなる?ペナルティの内容(延滞税・加算税)

期限までに相続税の申告や納付を行わなかった場合、延滞税や無申告加算税などのペナルティが発生します。

延滞税

納期限を過ぎてから実際に納付するまでの期間に応じて課されます。
年ごとに財務省が定める「基準割合」に基づいて利率が決まり、毎年変動します。

無申告加算税

原則として税額の15%(悪質な場合は20%)が加算されます。なお、追加納付した額が50万円を超える場合も、税額20%がかかります。
また、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減など、期限内申告を前提とする制度の適用が受けられなくなるおそれもあり、期限内に対応ができなかった場合の経済的ダメージは非常に大きくなります。

金銭的なペナルティに加えて、期限内に申告ができなかった場合は税務調査のリスクが高まるという点も注意が必要です。
相続税申告が遅れると、何らかの理由で故意に遅らせたのではないか、何か隠しているのではないかという疑念を抱かれやすくなるため、調査回避のためにも必ず期限内に申告を済ませるようにしましょう。

2. 相続税の申告期限は延長できるのか?

とはいえ、相続人やご家族から「10か月では足りない。申告の期限の延長はできませんか?」と聞かれることがあります。
結論からいうと、相続税の申告期限そのものを「延長申請によって先送りする」制度は存在しません。
ただし、実務上「延長的に扱える手続き」や「期限を過ぎた場合の対処法」はいくつか存在します。

2-1. 原則は「延長不可」だが実務的に猶予される制度もある

相続税申告の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内と法律で定められています。
つまり、相続税の申告・納付期限そのものを、申請や理由に基づいて「延ばす」ことは基本的にできないというのが大原則です。
しかし、実際にはさまざまな事情により期限内の申告が難しいというようなケースもあります。

相続税申告が遅れてしまう例
  • 遺産分割が期限までにまとまらない
  • 評価が難しい財産があり申告額が定まらない
  • 相続人の関係が複雑でそもそも協議ができていない

こうした現実に対応するため、税法上は「申告期限を延ばすのではなく、期限内に最低限の申告をしておき、後から正式な申告内容に修正する」という救済措置が用意されています。
以下、期限内に申告ができそうにない場合に取れる措置を簡単に説明します。

① 未分割申告の活用(法定相続分での暫定申告)

相続人間で遺産分割がまとまっていない場合でも、

  • 相続財産の評価と税額計算を法定相続分で仮に割り振ったうえで
  • 各相続人がそれぞれの税額を一時的に申告・納付し
  • 後日、分割協議がまとまったタイミングで更正の請求や修正申告を行う

という手続をとることで、申告期限を過ぎても実質的に正しい内容に整えることができます。

② 「申告期限後3年以内の分割見込書」の添付

小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった主要な節税制度は、原則として「申告期限までに分割が成立している」ことが適用要件とされています。
しかし、どうしても分割が間に合わない場合には、

  • 申告時に「未分割である理由」と「分割が見込まれる旨」を記載した「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することで
  • 特例の適用をいったん留保しつつ、後日分割が整った段階で遡って特例を適用するという制度が利用できます。
    その後、3年以内に正式な遺産分割が成立すれば、特例の適用を盛り込んだ内容で更正の請求を行い、税額の軽減や還付を受けることが可能です。

    これらの制度はいずれも、形式的には「期限内申告」を満たしたうえで、実質的な補正を後から認めることで、申告期限に間に合わせつつ、正確な内容に整える柔軟な運用を可能にする仕組みです。
    ただし、

    • 分割が3年以内に整わなかった場合は特例が失効する
    • 申告自体を出さずに放置すれば延滞税や加算税がかかる
    • 更正の請求には時効(5年)がある

    といった実務的な注意点も多いため、これらを活用する際には、相続税申告に精通した税理士の関与が不可欠です。

    2-2. 「申告期限後3年以内の分割見込書」を活用する際の注意点

    先ほどもお話したように、相続税の節税に直結する小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減は、遺産分割が完了していることが適用要件となっているため、期限内に遺産分割がまとまらない場合は申告期限後3年以内の分割見込書を提出することで後からさかのぼって特例等の適用を受けられるようにしておくことが有効です。
    ただし、この見込書は、あくまで「将来的に分割される見込みがある」ことを示すものであり、次のような注意点があります。

    分割見込書を提出する際の注意点
    • 提出後、実際に3年以内に分割が成立しなければ、特例適用の権利を失う
    • 提出内容が不正確だったり、形式に不備があったりすると認められないことがある

    そのため、たとえ見込書を出す場合でも、「本当に3年以内に分割を成立させられるか?」を見越したうえでの準備と協議進行が欠かせません。
    税理士が見込書の作成を代行してくれることは一般的ですが、その前提となる分割協議の見通し・相続人間の合意形成については、相続人同士での協議の方向性や意見の隔たりなどを把握し、法的調整ができる弁護士と連携しておくことが望ましいです。
    特に、特別受益・寄与分の主張がある場合や一部の相続人が協議に非協力的な場合には、税務申告だけでなく、法律的な視点からのサポートが不可欠になります。

    2-3. 災害・病気・事故など「やむを得ない事情」がある場合の対応

    相続税申告の延長が制度上認められないとはいえ、「やむを得ない事情」がある場合には、例外的に救済される可能性があります。
    たとえば、

    • 大規模災害や地震・台風によって財産調査や移動が困難になった場合
    • 相続人やその家族が病気・事故で判断能力や行動能力を一時的に失っていた場合
    • 公的機関が一時的に業務停止していたことにより書類取得が不可能だった場合

    などは、医師の診断書、災害証明書や罹災証明書、その他客観的な事情を証明する書類などを整えて提出することで、税務署長の裁量により「申告期限の延長・納付猶予」が認められることもあります。

    ただし、こうした書類を提出すれば必ず延長や猶予が認められるとは限らず、税務署が提出内容の合理性・妥当性を個別に判断するため、対応の可否はケースバイケースです。
    特に、「協議が長引いている」「評価が終わらない」といった一般的な事情だけではほぼ認められにくく、明確な外部要因や不可抗力の存在が求められることが多い点に注意が必要です。

    3. 相続税申告の際に併せて知っておきたい制度と手続き:更正・修正・延納と物納

    無事に相続税申告を行ったあとで、申告内容が誤っていた場合や、未分割で申告をした後に分割内容が確定したような場合は、申告内容を修正する必要があります。
    また、相続税申告の準備を進める中で、納税資金が足りないことが想定されるような場合は、相続税の分割払いや不動産などの現物での納税を検討すべく、税務署に申請をしなければなりません。
    以下でそれぞれを詳しくご説明します。

    3-1. 更正の請求で申告内容を修正する

    更正の請求とは、一度提出した相続税申告書の内容を見直し、税額が本来より多かった場合に、税務署に対して還付を求める手続きです。
    この制度は、主に次のようなケースで用いられます。

    ケース①

    未分割申告の後に分割協議が整い、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の適用が可能になった場合

    ケース②

    正式な申告後に評価誤りや控除漏れが判明し、税額を過大に申告していたことに気づいた場合
    いずれも、法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求を行うことが可能です。

    更正の請求のポイント
    • 請求期限は原則5年以内(法定申告期限から起算)
    • 請求にあたっては、変更の理由を明示し、裏付けとなる資料(分割協議書、評価証明など)を添付
    • 分割内容の変化による特例適用・不適用の影響は慎重に精査する必要がある
    • 更正が認められれば、納税済みの税額の一部または全部が還付される

    ここで重要なのは、更正の請求は「期限内に相続税申告を行っていること」が大前提だという点です。
    このため、たとえ遺産分割が間に合わなかったとしても、まずは未分割のままであっても必ず期限内に申告を済ませておく必要があります。

    3-2. 修正申告で申告内容を修正する

    修正申告とは、相続税の申告後に「本来よりも少ない税額で申告してしまった」場合に、納税者が自ら誤りを訂正して追加で税額を納める手続きです。
    この制度は、未分割申告であったか否かに関わらず、すでに期限内に申告を行ったあとに新たな事実や誤りが判明した場合に利用されます。
    つまり、未分割申告の後で分割協議が成立したから修正申告するということも可能ですし、正式に分割済みで申告したあとに漏れが判明した場合にも使うことができます。

    修正申告を行う主なケース
    • 正式な申告後に、申告から漏れていた財産(名義預金、不動産、保険金など)の存在が発覚した場合
    • 財産の評価額が過少だったことが判明した場合(例えば、路線価の適用誤りや不動産の地積誤記など)
    • 未分割申告後に分割協議が成立し、実際の分割内容と申告内容が一致しないため訂正が必要になった場合(※このケースでは更正の請求と併用可能な場合もあり)

    修正申告は、納税者が申告内容の誤りに気づき、自主的に訂正するための手続ですので、税務調査や税務署からの指摘を受ける前に修正申告を行えば、加算税の軽減や延滞税の最小化が期待できるケースもあります。
    なお、未分割申告を行っていた場合でも、その後の遺産分割内容によって本来の税額が高くなることが判明した場合は、修正申告で増額対応する必要があります(たとえば、財産の分け方によって特例の適用が受けられなくなったなど)。

    3-3. 延納・物納による納税方法の選択肢

    相続税は原則として現金一括納付ですが、「納税資金の準備が間に合わない」「不動産など換金しにくい財産しかない」という方のために、分割払いや代替納付の制度も用意されています。

    延納(分割払い)の概要
    • 相続税額のうち一部または全部を、年1回ずつ・最大20年の範囲で分割して納付する制度
    • 延納期間に応じて延納利子税が設定される(延納の利率は毎年度国税庁が告示しており、経済情勢によって変動します。)
    • 担保の提供が必要となる場合がある
    • 延納の対象は、納税額が10万円を超える場合に申請可能
    • 延納の申請は、申告書と同時提出が原則(遅れると不可)
    物納(現物納付)の概要
    • 相続税を、金銭ではなく相続した財産(不動産・株式等)で納める制度
    • 延納による納税・相続財産の換金が著しく困難な場合に限り利用可能で、その事実を証明する必要がある
    • 物納が認められる財産の順位や条件は厳格(第1順位:土地等)
    • 物納申請には、不動産評価・登記・担保権確認など煩雑な準備が必要
    • 提出期限:申告期限と同日(10か月以内)であり、事前準備が必須

    延納・物納ともに、税務署の許可制であり、申請しても不備や合理性の欠如により却下されることがある点は留意が必要です。
    なお、延納・物納の申請は相続税申告書との同時提出が原則となり、遅れると申請はできません。
    また、これらの制度はあくまで、「期限内に正しく申告を行っている」ことが前提ですので、未分割申告であったとしても必ず期限内の相続税申告が必須となります。
    納税資金に不安がある場合は、早期の段階で税理士に相談の上で延納・物納の選択肢が取り得るのかを含めて相続税申告を進めることが望ましいでしょう。

    4. よくある質問(FAQ)

    Q1:相続税の申告期限が土日や祝日と重なった場合、どうなりますか?

    A:申告期限が土日・祝日・年末年始(12月29日〜1月3日)に当たる場合は、翌開庁日が正式な申告期限になります。たとえば、期限日が日曜日の場合、翌月曜日までに申告・納付すれば遅延扱いにはなりません。

    Q2:相続人の1人が海外在住の場合でも期限内に申告する必要がありますか?

    A:はい。相続人の居住地に関係なく、相続税の申告・納付は日本国内の法律に基づいて行う必要があります。 海外在住者がいる場合は、連絡・書類取得・委任手続に時間がかかるため、特に早期の対応が不可欠です。 相続税の納税義務がある海外在住の方が本人で申告を行うのが原則ですが、委任によって国内の親族や税理士が代行することも可能です。

    Q3:延納の許可が出たあとに資金調達ができた場合、一括で支払ってもいいですか?

    A:はい、可能です。延納が許可された場合でも、その後に納税資金を準備できた場合には、途中で残額を一括納付することができます。この場合、未納分の利子税も併せて精算する必要があります。計画的に資金繰りが整った際には、早めに残額を納付したほうが利子税の軽減につながる場合もあります。

    Q4:相続人が認知症で意思表示できない場合、申告や分割はどう進めるのですか?

    A:相続人が認知症などで判断能力を欠いている場合、家庭裁判所で成年後見人を選任する必要があります。成年後見人が就任することで、その相続人の代理として遺産分割協議や申告手続を進めることができます。申告期限までに後見人選任が間に合わない場合は、いったん未分割申告+分割見込書を提出しておくことで、後から特例を適用できる可能性が残せます。

    Q5:更正の請求と修正申告はどう違うのですか?使い分けはありますか?

    A:はい、目的によって明確に使い分けます。

    • 更正の請求は、「税金を減らしてほしい」とき(=還付を受けたいとき)に行うもので、主に特例の適用忘れや評価ミスによって税額が本来より多かったケースで使います。
    • 修正申告は、「税金が足りなかった」とき(=不足分を追加で納めるとき)に行う制度で、申告漏れや過少評価が発覚した場合に使われます。

    いずれも、税理士と相談して正確な判断・書類整備を行うことが重要です。

    5. まとめ:期限内の相続税申告のために早めの行動を

    相続税の申告は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内に行う必要があると、法律で明確に定められています。
    何らかの理由で期間内の相続税申告が間に合わなさそうというケースは少なくありませんが、この場合でも期限内に最低限の申告だけでも済ませることが必要です。
    当事務所では、税理士だけでなく弁護士・司法書士によるワンストップでの相続支援を行っており、実際の相続税申告手続きだけでなく、そこに付随する遺産分割協議や不動産登記などを含めた周辺手続まで一括でご対応が可能です。
    期限内の申告に不安がある方、納税資金の準備面で不安がある方など、相続税について何か気になる点がございましたら、できるだけ早くご相談ください。
     

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監修者:國丸 知宏
弁護士國丸 知宏

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士國丸 知宏

  • 2009年
    福岡高等学校 卒業
  • 2014年
    九州大学法学部 卒業
  • 2016年
    九州大学法科大学院 修了
  • 2017年
    弁護士法人菰田法律事務所(現:弁護士法人Nexill&Partners)入所

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