相続が発生したとき、避けて通れない手続きのひとつが「相続税申告」です。
特に、相続財産の総額が一定額を超える方や、不動産や自社株など評価が難しい資産をお持ちの方にとっては、申告書の作成・提出や適用できる特例の判断などが非常に複雑になってきます。
この記事では、相続税対応の実績が豊富な税理士の立場から、税理士に相続税申告を依頼するときの対応範囲から依頼のタイミング、費用の考え方までわかりやすく解説します。
1. 相続税申告が必要になるケースとは?
相続税はすべての人に課税されるわけではありません。
まずは、相続税が「かかるケース」と「かからないケース」の違いを理解しておくことが大切です。
1-1. 相続税がかかる基準(基礎控除の仕組み)
相続税には「基礎控除」があり、財産の総額がこの基準以下であれば、相続税はかかりません。
その計算式は以下の通りです。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば、法定相続人が配偶者と子2人(合計3人)であれば、
→ 3,000万円 + 600万円×3 = 4,800万円が基礎控除額となります。
この金額を超える相続財産がある場合、相続税の申告が必要です。
1-2. 相続税の対象となる財産と、控除できるもの
相続税の課税対象となる財産には、以下のようなものが含まれます。
課税対象となる主な財産
- 現金・預貯金
- 不動産(土地・建物)
- 株式・投資信託・仮想通貨
- 生命保険金・死亡退職金(※相続税法上の「みなし相続財産」。一定額まで非課税)
- 美術品・宝石・車両などの動産
これらの財産については、相続時点での価値を正しく評価し、相続税の課税対象として合算します。
中には評価が難しいものも多く、「どの時点で・どの方法で評価するか」によって税額が大きく変動するため、注意が必要です。
また、相続税の計算においては、次のような費用や債務を差し引くことが認められています。これを「債務控除」といいます。
相続税計算の際に控除できる主なもの(債務控除)
- 被相続人の借金(住宅ローン・カードローン・未払い医療費など)
- 葬儀費用(通夜・告別式・火葬等に直接関係する実費)
- 税金の未納分や未払費用(相続開始時点で確定しているもの)
これらの債務や費用は、課税対象財産から差し引いて相続税の課税価格を算出します。
ただし、債務控除を適用するには、支払義務や金額が明確であることを証明する資料(契約書・請求書・支払証明書など)が必要です。
1-3. 相続税の申告・納付期限(10か月以内)
相続税の申告・納付期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内です。
たとえば、2025年1月10日に相続が発生した場合、申告期限は2025年11月10日です。
この期限までに、
- 財産の洗い出し
- 評価・分割の方針決定
- 相続税額の計算
- 申告書の提出と納税(延納・物納を含む)
を終える必要があります。
1-4. 思わぬ課税や相続税の特例を使うときには注意が必要
預貯金は少ないから大丈夫と思っていても、実は思わぬところで課税対象になり、相続税申告が必要になるケースも少なくありません。
たとえば、
- 死亡保険金の合計が多い
- 土地の相続があり、対象の土地価格の高騰で評価額が大きくなった
- 家族が受け取っていた名義預金が実質的に被相続人のものと判断される
といった場合、基礎控除を超えてしまうことがあります。
また、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用するには、原則として期限内申告が必要です。この場合は、金額的には相続税がかからなくても申告を行わなければなりません。
おそらく相続税申告は不要だという状態であっても、本当にその理解で問題がないか、専門家の判断を仰ぐことが望ましいでしょう。
2. 税理士に依頼できることとは?
相続税申告を税理士に依頼すると、「申告書の作成・提出だけ」ではなく、その前段階の財産調査や評価、特例の適用判断、分割案の相談支援など、幅広い対応が可能です。
ここでは、実際に税理士にお願いできる業務内容を、具体的に紹介します。
2-1. 相続税申告書の作成・提出
税理士の最も基本的な業務は、税務署に提出する「相続税申告書」の作成と提出です。
形式的な記載だけでなく、評価根拠や特例適用の正当性を示すための添付資料の整備も含まれます。
2-2. 相続財産の調査・評価
申告の前提として、すべての相続財産の洗い出しと評価を行う必要があります。
特に次のような財産は評価が難しいとされ、専門的な知識が求められます。
- 自宅や収益物件などの不動産
- 非上場株式(中小企業の自社株)
- 骨董品、美術品、仮想通貨
評価方法を誤ると過大申告・過少申告のどちらでも税務調査の対象になるリスクがあるため、適正評価が不可欠です。
2-3. 各種特例の適用判断と手続き
相続税を大幅に減額できる「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」は、適用要件の判断が複雑です。
これらを適用するには、
- 正確な評価と遺産分割案の作成
- 申告期限内の申告
が必須であり、誤ると特例が使えなくなる可能性があります。
税理士は、要件に該当するかを法令と照らして判断し、必要な書類と申請書類を作成・提出します。
2-4. 分割案に応じた相続税額のシミュレーション
遺産分割の方法によって、相続税の金額が大きく変動することがあります。
たとえば、
- 自宅を誰が取得するか
- 不動産と金融資産をどう組み合わせて分けるか
といった分割の仕方により、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの適用可否が変わるためです。
一般的に、遺産分割案を検討するのは弁護士が行いますので、税理士はその遺産分割パターンに対して相続税のシミュレーションを行い、税額の違いや特例の適用状況を可視化したうえで最終的な税額の確定・実際の申告手続を進めます。
3. 税理士に依頼するメリットと、依頼しない場合のリスク
相続税申告は、理論上はご自身で行うことも可能です。
しかし、実際には「専門家に任せて本当に助かった」という声が多く聞かれるのが実情です。ここでは、税理士に依頼する主なメリットをご紹介します。
3-1. 複雑な申告内容の正確性が格段に高まる
相続税申告では、財産の評価方法が法律や通達に従って細かく定められており、素人判断では間違いやすいポイントが多く存在します。
とりわけ、不動産や非上場株式、名義預金といった評価が難しい資産を含む場合は、税理士の知見によって評価の適正性と税額の妥当性が確保されます。
3-2. 特例適用の漏れを防げる
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、形式要件・実質要件の両面で複雑な条件があり、要件を満たしていても提出書類の不備で適用されないといったケースも少なくありません。
税理士であれば、これらの制度の適用可否を適切に判断し、書類の整備から提出までを一貫して対応できます。
3-3. 税務調査リスクの軽減につながる
税理士が関与して作成した相続税申告書は、「書面添付制度」により、税務調査の対象から外れるか、調査があっても簡易な質問確認で済む可能性があります。
また、仮に調査が入った場合でも、評価の根拠や取引内容について専門的に説明・対応できるという点で、精神的・時間的負担も軽くなります。
上記以外でも、申告期限まで時間がない場合はご自身のみで対応するのは困難なケースが多いため税理士に依頼をする方が望ましいでしょう。
4. 税理士への相談タイミングと依頼の流れ
税理士への相談は、できるだけ早くが原則のため、相続開始から2〜3か月以内には税理士に相談を始めるのが理想的です。
早ければ早いほど、分割案の比較検討や、資料収集の余裕が持てます。
相談前に、次のような資料を準備しておくと、初回面談がスムーズになります。
- 被相続人の戸籍・除籍謄本一式
- 相続人の住民票・戸籍謄本
- 不動産の固定資産税評価証明書・登記簿謄本
- 預貯金通帳(過去数年分)・保険証券
- 遺言書の有無、分割協議の進捗状況
その他、税理士が必要な書類や調査の範囲を案内してくれることが一般的です。
初回面談〜申告書提出までの大まかなスケジュールは以下の通りで、期間の目安は約2〜4か月程度です。
こちらも財産の複雑さや遺産分割の進行状況によって変動しますので、早めの着手が重要となります。
5. 税理士に依頼した場合の費用の考え方
税理士に相続税申告を依頼する場合、財産の種類・規模・相続人の人数・手続の複雑さなどによって変動します。
一般的な費用の設計としては「基本報酬」+「財産の種類・相続人の人数等による加算報酬」で報酬が決まります。
基本報酬は遺産総額で決められていることが多いです。
加算報酬の例としては
- 相続人の人数
- 財産の中に土地が含まれる場合
- 財産の中に非上場株式が含まれる場合
- 準確定申告や贈与税申告が必要な場合
等があげられます。
上記以外でも、税務調査対応が発生した場合や、延納・物納を行う場合にも別途報酬がかかることが一般的です。
また、相続税の申告期限まで期間が短い場合も、加算報酬が発生することが多いです。
最終的な報酬がどれぐらいになるのかは、依頼をする際に個別に確認をされてください。
なお、税理士にはそれぞれ得意分野があり、すべての税理士が相続税に精通しているわけではありませんので、できるだけ年間で一定件数以上の相続申告を手がけている税理士に相談する方がよいでしょう。
特に、
- 相続財産が1億円を超える
- 不動産が複数ある
- 自社株や非上場株式がある
といったケースでは、評価や特例適用の判断が難しいため、相続税に特化した税理士の方が安心です。
6. よくある質問(FAQ)
Q1:相続税がかからない場合でも、税理士に相談する意味はありますか?
A:はい、あります。相続税がかからない場合でも、特例適用や将来の二次相続対策など、専門家に相談することで得られるメリットは多くあります。また、「相続税がかからない」と思っていても、財産評価の方法次第で申告義務が発生するケースもあるため、一度専門家に確認しておくことが安心です。
Q2:相続人のうち一部の人しか税理士に依頼しない場合、問題はありますか?
A:相続税の申告は、相続人ごとに別々に提出することも可能です。ただし、遺産分割の内容や特例の適用状況によっては、複数人の申告内容が整合していないと特例が使えなくなるケースや税務調査の対象になりやすくなることがあります。そのため、できれば相続人全員で1人の税理士に依頼するか、税理士間での連携がしっかりとれる体制にすることが望ましいです。
Q3:税務署から相続税に関するお尋ね文書が届きました。どうすればよいですか?
A:「お尋ね」は、税務署が「申告漏れがないか」や「申告すべきかどうか」を確認するために送るものです。申告義務がある可能性が高いケースや、名義預金・保険などの存在が疑われる場合によく届きます。
この段階で専門家に相談すれば、申告の必要性を判定し、必要に応じて早期に対応することで追徴課税などのリスクを軽減できます。無視や放置は絶対に避け、速やかに税理士に相談しましょう。
7. 当事務所グループの強みとサポート内容
当事務所グループでは、弁護士法人・税理士法人・司法書士法人が連携し、相続税申告を含む相続全体をワンストップで支援しています。
税理士による相続税申告書作成だけでなく、財産調査・評価・節税設計まで幅広く依頼できるほか、遺産分割協議や実際の相続手続・相続登記まで全てご対応可能です。
相続税申告は、ただ申告書を提出すれば終わりという手続きではありません。
評価の仕方や特例の使い方、分割の仕方によって、税額が数百万円単位で変わることも珍しくないため、相続税の申告に少しでも不安がある方は、相続専門の税理士と弁護士が連携している当事務所まで、お気軽にご相談ください。
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