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コラム

相続税申告はいくらから必要?対応に注意すべき相続額と控除・特例について税理士が解説

2025.07.23

「相続税って、うちには関係あるの?」――そう思っていても、相続財産の評価や控除の使い方次第で申告が必要になるケースは意外と多くあります。しかも、税額がかからない場合でも、特例を適用するためには“0円申告”が必要なケースもあるため注意が必要です。本記事では、相続税申告が必要になる相続額の基準、手続の流れ、活用できる控除・特例、そして申告に失敗しないためのポイントを、相続に強い税理士がわかりやすく解説します。

もくじ

1. 相続税申告はいくらから必要?基礎控除の基本を理解しよう

1-1. 相続税が発生するかどうかの判断は「基礎控除」がポイント

相続税が必ず課税されると思っている方も多いかもしれませんが、実際にはすべての相続に相続税がかかるわけではありません。
その判断基準となるのが「基礎控除」です。これは、遺産の総額が一定額以下であれば、相続税申告が不要になるという制度です。

1-2. 基礎控除の計算式と具体的な金額例

相続税の基礎控除額は、以下の計算式で算出されます。

【相続税の基礎控除額】= 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
たとえば、法定相続人が配偶者と子2人(合計3人)の場合は、
3,000万円 +(600万円 × 3人)= 4,800万円

この場合、遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税の申告も納税も不要ということになります。

1-3. 基礎控除以下でも申告が必要になるケースとは?

基礎控除以下の財産でも、次のような場合には相続税の申告が必要になります。

  • 小規模宅地等の特例を使って評価額を下げた結果、基礎控除内に収まった
  • 配偶者の税額軽減を適用して非課税になった

これらの特例は、「申告すること」が前提となっており、申告をしなければ特例が使えないため注意が必要です。

2. 相続税申告が必要になる人・不要な人の違い

2-1. 相続財産の対象となるものとは?(現金・不動産・保険など)

相続税の計算に含まれる財産は、以下のように多岐にわたります。

  • 預貯金・現金
  • 不動産(自宅・土地・賃貸物件など)
  • 株式・投資信託・ゴルフ会員権
  • 車や貴金属、美術品などの動産
  • 死亡保険金(※非課税枠を超える部分)
  • みなし相続財産(死亡退職金など)
  • 相続開始前3年以内の贈与財産(生前贈与加算)

意外と見落とされやすいのが、「生前贈与」と「死亡保険金」です。 特に生命保険は、受取人固有の財産と考えがちですが、非課税枠を超えた部分は課税対象になります。

2-2. 税額がかからない場合でも、申告が必要となるケースがある

「うちは基礎控除内だから申告は不要だろう」と判断される方も多いですが、相続税額が最終的に0円であっても、相続税申告を行わなければならないケースが存在します。
その代表的なものが、以下のような「特例を適用する場合」です。

申告が必要となる主な特例
配偶者の税額軽減

 → 配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円まで or 法定相続分までは非課税。ただし、この軽減を受けるためには相続税申告書の提出が必要です。

小規模宅地等の特例

 → 自宅や事業用の土地の評価額を最大80%減額できる制度。こちらも、申告書を提出しなければ適用されません。

障がい者控除・未成年者控除・債務控除・葬式費用控除 など

 → 税額算出後に0円になる場合でも、申告によって初めて控除適用が確定するものが多く含まれます。

申告しないとどうなるか?
  • 特例の適用が受けられず、税額がゼロのはずだったのに課税対象となってしまう
  • 税務署側で特例非適用と判断され、相続税が過大に課されるおそれがある
  • 数年後に税務調査の対象となり、結果的に修正申告やペナルティが発生するリスク
実務上は「0円申告」も広く行われている

申告の結果として納税が不要でも、特例を使う前提で多くのご家庭が「相続税0円申告」を行っています。
これは申告義務というより、制度をきちんと活用するための「申告前提型の控除・特例」が多いことが理由です。

特例等を使えば税額がかからないからといって申告を省略するのは危険です。
相続税の申告義務の有無は、「申告しないと特例が適用されないかどうか」で判断する必要があります。
判断に迷う場合は、相続税に詳しい税理士に相談することが、将来のリスクを避ける最良の方法です。

2-3. 遺産がいくらあれば“申告が視野に入るライン”なのか

一般的に、基礎控除額の9割を超えるような遺産総額がある場合には、申告の準備を始めておくことをおすすめします。
相続財産の評価は、帳簿上の金額ではなく、相続税評価額(路線価・倍率評価)で行うため、見た目以上に評価額が高くなることもあります。
特に不動産を複数所有している場合や、金融資産が多い場合は、基礎控除内に収まると思っていたが申告が必要だったというケースが非常に多く見られます。
基礎控除額を大幅に下回っている場合以外は、念のため専門家に相続税申告の要否を相談しておくほうが望ましいでしょう。

3. 相続税申告の流れと必要書類

3-1. ステップ①:財産の把握と評価

最初に行うのは、すべての相続財産を洗い出し、相続税評価額を算出することです。
評価方法は財産の種類によって異なりますので、それぞれの評価基準で金額を計算します。

代表的な財産の種類ごとの評価方法の詳細
土地 → 【路線価方式 or 倍率方式】

• 路線価方式(市街地など)
国税庁が公表する「路線価図」に記載された1㎡あたりの価格に、その土地の面積を掛けて評価します。
さらに、間口・奥行・形状・接道状況によって補正がかかる場合もあります。
• 倍率方式(地方や市街化調整区域など)
路線価が設定されていない土地については、固定資産税評価額に一定の倍率(国税庁が指定)を掛けて算出します。

建物 → 【固定資産税評価額】

建物の評価は、原則として市町村が課税のために用いる固定資産税評価額(毎年春に通知が届く)をそのまま使用します。
築年数が古くても、リフォームしていても、この評価額に基づくため、市場価格とは一致しない点に注意が必要です。

預貯金 → 【残高証明書】

銀行預金は、相続開始日(=被相続人が亡くなった日)の残高で評価します。
金融機関から「残高証明書」を取得し、それをもとに評価額を決定します。
※利息が含まれる場合は別途調整が必要なこともあります。

株式 → 【上場株/非上場株で評価が異なる】

• 上場株式
被相続日を含む月の、以下4つの価格のうち最も低い価格で評価します(平均値を取ることで過度な課税を防ぐ措置)。

1. 被相続日の終値
2. 被相続日を含む月の月初~月末の終値平均
3. 被相続日の前月の月間平均
4. 前々月の月間平均

• 非上場株式(自社株など)
 財務内容・利益・資産・従業員数などをもとに、「類似業種比準価額方式」や「純資産価額方式」で複雑に評価されます。
 ※これは専門的かつ争いになりやすい分野のため、税理士の関与が実質的に必須です。

3-2. ステップ②:相続人の確定と遺産分割協議

相続税は、相続人ごとに税額が計算されるため、誰がどの財産を取得するのかを明確に決めたうえで、遺産分割協議書を作成する必要があります。
「誰が、どの財産を取得したか」によって特例・控除の適用や税率が変わるため、遺産分割が確定していない状態では、正確な相続税申告書を作成できません。
たとえば以下のような制度は、分割が済んでいないと適用できない点に注意が必要です。

  • 小規模宅地等の特例
  • 配偶者の税額軽減(遺産を実際に取得していることが前提)

そのため、遺産分割が成立していることが、相続税の正確な申告・特例適用の大前提となるのです。

補足:協議がまとまらない場合の影響

もし相続人間で協議が整わない場合には、申告期限(原則10か月)までに未分割のまま申告を行うことになりますが、この場合、本来使えるはずの特例が使えないという不利益があります。
未分割のままでも「申告書の提出」は必要で、その後に分割が成立したら更正の請求や修正申告で対応するという流れになります。

3-3. ステップ③:税額の試算と申告書の作成・申告

分割内容が決まったら、各相続人の取得分に応じて税額を計算し、相続税申告書を作成します。
申告書は相続開始(死亡)から10か月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出しなければなりません。

3-4. ステップ④:納税(原則10か月以内)

申告期限までに、現金で一括納付が原則とされています。
ただし、やむを得ない事情がある場合には、延納や物納などの制度も利用可能です(要件・審査あり)。
この期限を過ぎると、加算税や延滞税といったペナルティが課されるため必ず期限内に納税を行いましょう。

4. 相続税申告で活用できる主な控除と特例

4-1. 配偶者の税額軽減:どれだけ相続しても非課税?

配偶者が相続する財産には、非常に大きな非課税枠が認められています。
具体的には、次のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。

  • 1億6,000万円まで
  • 法定相続分(通常は遺産の1/2)

たとえば、総遺産が2億円で、配偶者が1億6,000万円を取得した場合、相続税は一切かかりません。
ただし、この特例を使うためには、相続税の申告が必須であることに注意が必要です(0円申告も必要)。

4-2. 小規模宅地等の特例:土地評価が80%減額になることも

被相続人の自宅や事業用地などの土地について、次のような要件を満たすと評価額が大幅に減額されます。

  • 自宅土地(特定居住用宅地):最大330㎡まで評価額の80%減
  • 事業用地(特定事業用宅地):最大400㎡まで評価額の80%減
  • 貸付事業用地:最大200㎡まで評価額の50%減

たとえば、5,000万円の評価額の自宅土地が、小規模宅地の特例によって1,000万円まで圧縮されることもあります。
こちらも、適用には必ず申告が必要です。

4-3. 相続人の債務控除や葬儀費用の取り扱い

被相続人が亡くなった時点で負っていた債務(借金・医療費未払など)は、相続財産から差し引くことができます。
また、葬儀費用も控除対象となります。具体的には、

  • 通夜・告別式の費用
  • お布施・読経料
  • 火葬・埋葬・納骨に関する費用

が含まれます。
ただし、香典返し・法要費・墓石購入費は対象外ですので、区別が必要です。

4-4. 生前贈与加算制度:過去3年分の贈与も要注意

被相続人が亡くなる前に行った生前贈与のうち、一定期間内の贈与は「相続財産とみなして加算」されます。
この制度は、2024年(令和6年)以降の相続から段階的に見直され、従来の「3年以内」から最長「7年以内」まで延長されることになっています。
これを生前贈与加算といい、以下のようなケースが該当します。

  • 死亡直前に多額の現金や不動産を贈与した
  • 毎年110万円の非課税枠を使ったが、直近7年以内のものがある

贈与税の申告をしていても、加算対象になります。
「贈与しておいたから安心」と思っていても、実際には相続税の計算に組み込まれることがあるため、事前の把握が不可欠です。

5. 控除や特例を使うための要件と注意点

5-1. 特例の適用には「申告しておくこと」が前提になる

前述の配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、申告書を提出して初めて適用される制度です。
「どうせ税金がかからないなら申告しなくていい」と考えて放置してしまうと、特例が使えなくなり、本来0円だったはずの税額が発生してしまうこともあります。

5-2. 書類不備・提出漏れによる適用除外リスク

控除や特例には、それぞれ提出が必要な添付書類や明記項目があります。
たとえば小規模宅地等の特例では、

  • 対象土地がどの特例区分に該当するか
  • 要件(居住・事業継続など)を証明する書類

が必要となります。形式不備や記載漏れがあると、適用を認めてもらえないことがあります。

5-3. 分割が決まっていないと使えない特例もある

特例の中には、「誰がどの財産を取得したか」が確定していないと適用できないものもあります。
たとえば配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、遺産分割が完了していなければ適用されません。
申告期限(相続開始から10か月以内)に間に合わないと、特例が使えなくなるほか、一時的に高額な税金を納めることになるため、可能な限り早期に遺産分割協議を完了させることが望ましいでしょう。

6. 相続税申告の実務でよくあるつまずきポイント

6-1. 財産の評価が難しい(不動産・非上場株式)

相続財産の中でも、土地や非上場株式は評価が複雑でトラブルが起こりやすい財産です。

  • 路線価をどこで見るのか分からない
  • 土地の形状・広さによって補正が必要
  • 自社株の価値が分からず計算できない

こうした財産は税理士などの専門家による精密な評価が不可欠です。

6-2. 遺産分割がまとまらず、期限に間に合わない

相続人間での意見の相違や感情的対立により、遺産分割協議が進まず申告期限に間に合わないことがあります。
この場合、いったん「未分割」のまま申告し、後から修正申告することになりますが、前述したように特例が適用できなかったり、相続財産が手元に入る前に高額の納税が先に発生したりするデメリットがあります。
延納が認められるケースもありますので、税理士に相談のうえで納税方法については早期の調整が求められます。

6-3. 申告しないまま放置してしまった場合のペナルティ

申告期限を過ぎても申告しなかった場合、無申告加算税(原則15%)や延滞税(年7.3%上限)などのペナルティが課されます。
「遺産分割がまだ終わってなかったから」「税額が出ないと思っていた」という理由では通らないため、「申告義務があるかないか」の判断を事前に専門家に相談しておくことが最善です。

7. 相続税申告は税理士に依頼すべき?外注するメリット

7-1. 自分でやる場合と専門家に頼む場合の違い

相続税申告は、制度上「相続人自身」で申告することも可能です。しかし、実務上は次のような違いがあります。

項目 自分でやる場合 税理士に依頼する場合
評価の正確性 自己判断で誤る可能性あり 土地・株式なども専門評価
書類の準備 複雑で時間がかかる 税理士側で一括で作成
控除・特例の活用 漏れや誤解が多い 適用条件を把握し網羅的に対応
リスク管理 税務署から指摘が入ることも 税務調査対応・修正申告まで任せられる

たとえば、不動産の評価や贈与加算の判断を誤ると、過少申告やペナルティリスクにつながる可能性もあります。
「税額がかかるかどうか分からない」という段階から相談しておくことで、安心して進めることができます。

7-2. 税理士に依頼するメリットと費用の相場

税理士に依頼する主なメリットは、以下の通りです。

  • 財産評価から申告書作成、提出まで一括で対応してもらえる
  • 特例・控除を最大限活用し、税額を抑える戦略を設計してもらえる
  • 税務署からの照会や調査が入った場合も、代理人として対応してくれる

費用については、財産の規模や複雑さによって異なりますが、大体相続財産の0.5%~1%程度が相場としての目安となります。
初回相談は無料という事務所もありますので、相談をされる際に実際の報酬金額は確認をされてみてください。

7-3. 相続に強い税理士を選ぶためのチェックポイント

相続税申告には、所得税や法人税とは異なる専門的な知識と経験が必要です。
税理士を選ぶ際には、以下のような点を確認することをおすすめします。

  • 相続税申告の年間実績があるか
  • 不動産・非上場株式などの評価経験が豊富か
  • 遺産分割協議の法的なアドバイスができる連携体制があるか
  • 税務調査対応の方針を明確に説明できるか
  • 弁護士・司法書士との連携が取れているか

8. 相続税申告に関するよくあるご質問(FAQ)

Q. 相続税には非課税枠があると聞きましたが、どんなものがありますか?

A. はい、代表的な非課税枠には「死亡保険金の非課税枠」と「死亡退職金の非課税枠」があります。
どちらも「500万円 × 法定相続人の数」までは非課税となり、相続財産には含めずに計算できます。ただし、受取人が相続人であることが条件です。

Q. 申告したあとに分割内容が変わった場合はどうなりますか?

A. 相続税申告後に遺産分割内容が変更された場合には、「修正申告」または「更正の請求」によって申告内容を訂正できます。
たとえば、分割が成立したことで新たに特例の適用要件を満たした場合には、税額の還付を受けられる可能性もあります。

Q. 相続人の1人が申告不要な場合でも、分割協議や申告には関与すべきですか?

A. はい。相続税の課税がない相続人であっても、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるため必ず関与が必要です。
また、申告書の提出には「分割協議書」や「印鑑証明」が必要になる場面が多く、申告不要=手続き不要ではない点に注意してください。

Q. 亡くなった方の財産がどこにあるか分かりません。調べる方法はありますか?

A. 金融機関や法務局での調査、名寄帳の取得、市区町村での固定資産の確認、郵便物からの手がかりなど、複数の方法で調査を進めていくのが一般的です。
当事務所では、相続財産調査から相続人の確定までワンストップで対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

9. 当事務所の相続税申告サポート体制

当事務所の最大の強みは、遺産分割協議と相続税申告をワンストップで一貫対応できる体制にあります。
遺産分割は相続税の申告内容に直結するため、「誰が何を取得するか」が曖昧なままでは正確な申告ができません。しかも、分割内容によっては適用できる特例が変わることもあり、申告だけでなく分割の設計段階から税務的な視点が必要不可欠です。

当事務所では、弁護士が法的に有効かつ公平な分割内容を設計し、税理士がその分割案をもとに最適な税務申告を実施するという、他にはない連携体制を整えています。
相続登記・戸籍調査・財産評価・申告書作成までを一つの窓口で完結できるため、ご相談者様のご負担も最小限に抑えられます。
「申告だけ」「登記だけ」ではなく、全体を見通した提案と手続が可能なことが、当事務所が選ばれる理由です。

相続税申告の要否は、財産の金額だけでなく、誰がどれだけ相続するのか・特例を使うかどうかによって大きく変わります。
一見申告不要に見えるケースでも、申告しておかなければ特例が使えない→結果的に損をするというケースも珍しくありません。
相続税申告を含めて、相続に関するご相談は初回相談無料ですので、「申告が必要かわからない」「将来の備えとして生前にできることを聞いておきたい」といった段階でも、どうぞお気軽にご相談ください。

 

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