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コラム

相続税申告を兄弟・姉妹別々でできる?相続人が複数いる場合の手続と注意点を税理士が解説

2025.07.10

相続税は相続人ごとに課税されるため、兄弟姉妹など複数の相続人が、それぞれ別々に申告することも制度上は可能です。
ただし、実際に別々で申告を行うには、分割協議の成立や財産評価の整合性、控除の重複防止など注意すべき点が多く、誤ると申告内容が食い違ってトラブルや税務調査の対象になるおそれもあります。
この記事では、複数の相続人がいるケースで、別々に申告する方法・条件・注意点をわかりやすく解説します。

もくじ

1. 相続税申告はそもそも個別に行うもの?共同で行うもの?

1-1. 相続税は「個人単位」で課税される仕組み

相続税は、相続人一人ひとりがそれぞれの取得財産に対して課税される制度です。
したがって、相続人が複数いる場合でも、原則として申告書は各相続人がそれぞれ作成・提出することになります。これを「個人単位の申告」といいます。

1-2. 共同申告が必要と誤解されやすい理由

実務では、複数の相続人が1人の税理士にまとめて依頼して共同で申告を進めることが多いため、「共同申告が必要」という印象を持たれがちです。
しかし実際には、それぞれの申告書に自分の分だけを記載し、同じ財産評価と分割内容に基づいて整合性の取れた申告を個別に行うというのが制度上の基本です。

1-3. 相続人ごとに提出する申告書が別々になるのが原則

提出書類も税額も、相続人ごとに独立して扱われます。
同じ税務署に同じ期限(相続開始から10か月以内)で申告しますが、用紙や添付書類はそれぞれ準備する必要があります。
なお、相続税申告書の中には「他の相続人の氏名・取得財産の概要」も書く欄があるため、情報を共有した上で個別に提出する必要があるというのが実務上の注意点です。

2. 兄弟・姉妹が別々で申告する場合の前提条件とは

2-1. 遺産分割協議が成立していることが大前提

兄弟姉妹が別々で相続税申告を行うには、まず遺産をどう分けるか(遺産分割)について相続人全員の合意が取れていることが前提になります。
遺産分割がまとまっていないと、どの相続人がどの財産を取得するかが確定せず、各人の申告内容が不明確になるため、税務上問題となります。

2-2. 分割内容の書類(遺産分割協議書)が必要

各人が申告する際には、「この財産をこの人が取得した」という内容が明記された遺産分割協議書を添付することが実務上必須です。
この文書により、控除や特例(例:小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減など)の適用対象が明確になり、相続人間の申告内容に整合性が生まれます。

2-3. 共有財産や未分割財産がある場合の注意点

遺産の一部を「共有」として兄弟で持ち合う場合や、分割協議が終わっていない状態で申告期限を迎える場合には、未分割のまま申告する「仮申告」扱いとなります。
この場合、次のような制約が生じます:

  • 小規模宅地等の特例が適用できない(後日、分割後に更正の請求が必要)
  • 配偶者の税額軽減も未適用になる
  • 納税額が本来より高くなる可能性がある

分割協議中でも申告期限は延びないため、別々に申告したい場合でも「事前に分け方を確定させる」ことが非常に重要です。

3. 別々で申告する場合の具体的な流れと実務の工夫

3-1. 相続人それぞれが評価明細を添付して申告

兄弟姉妹が別々に相続税申告を行う場合、各相続人が自ら取得した財産について、税法上の評価額を計算し、その明細を添付して申告書を提出する必要があります。
たとえば不動産を取得した人は、路線価や倍率方式を用いて評価を行い、その根拠を記載した明細書(評価明細書)を作成します。
現金や預貯金の場合も、相続開始日現在の残高を示す証明書を添付しなければなりません。
この作業は、相続人ごとに行いますが、財産の評価方法(評価単位や計算式)は全相続人で統一しておくことが実務上推奨されます。
評価方法に食い違いがあると、税務署から「申告内容に整合性がない」と見なされるリスクがあるため、評価実務だけでも税理士の支援を受けるのが安心です。

3-2. 控除や特例の適用状況の整合性を保つ方法

相続税には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、申告内容に他の相続人の情報や合意が関係してくる特例制度が多数あります。
これらの特例は、相続人単独の判断だけでは適用できず、相続人全体の分割状況・申告方針と整合性がとれていることが前提です。
たとえば、

  • 小規模宅地の適用対象者が重複していないか?
  • 配偶者がどれだけの財産を取得し、軽減枠を使っているか?
  • 葬儀費用を誰が負担したか?相続人全体で把握されているか?

といった項目を事前に共有・調整しないまま申告すると、制度の誤適用や過少申告につながるおそれがあります。
そのため、兄弟姉妹が別々で申告する場合であっても、控除・特例の適用については税理士を中心とした「横断的な管理と事前設計」が必要不可欠です。

4. 一括申告と別々申告の比較|どちらがよいかを判断する視点

4-1. 一括でまとめるメリット(実務効率・整合性)

相続人全員が同じ税理士に依頼して一括で申告を進める場合、次のような利点があります。

  • 評価方法・申告内容に一貫性が生まれる
  • 控除や特例の重複ミスを防ぎやすい
  • 税理士が各人の申告を横断的に確認・調整できる

そのため、円滑な申告とリスク回避を優先したい場合には、一括申告が基本的におすすめです。

4-2. 別々に申告したい場合の代表的な事情

一方で、次のような事情がある場合には、兄弟姉妹が別々に申告を行うことも選択肢に入ります。

  • 相続人間の関係が悪く、連携が取りづらい
  • 各自で顧問税理士を抱えており、独自に申告したい意向がある

ただし、前章で述べたように、別々申告をする場合でも、評価・特例・控除に関する連携や事前の情報共有は必須です。

4-3. 判断に迷うときの専門家の活用法

「一括と別々、どちらで進めるのがよいか分からない」という場合には、まずは相続に詳しい税理士へご相談いただくことをおすすめします。
専門家は、以下の観点から適切な方法を提案できます。

  • 分割協議の進み具合と整合性のとりやすさ
  • 各相続人の関係性や意向のバランス
  • 評価や特例適用における実務的な複雑さ

中立の立場から、相続人全体の申告がスムーズに進む形を調整できるため、結果として全員にとって最も負担が少ない方法が見えてくることも少なくありません。

5. 相続税申告についてのよくあるご質問(FAQ)

Q. 相続人間で申告の温度差があります。自分だけ先に進めても大丈夫ですか?

A. 相続税申告は相続人ごとに個別で行うため、遺産分割協議がすでに完了し、各相続人の分配内容が確定している場合は、自分だけ先に申告を済ませること自体は可能です。
ただし、遺産分割がまだ成立していない場合は「未分割申告」として、法定相続分などに基づいて仮に申告する形になります。
この状態では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、分割が前提となる特例は一時的に使えません。
その後、分割がまとまり次第、「更正の請求(税額還付)」や「修正申告(税額追加)」により特例の適用を受けることが可能です。
ただし、こうした手続きは期限や要件も複雑であるため、分割成立前に必ず専門家にご相談のうえ、申告内容と今後の流れを計画的に進めることが重要です。

Q. 兄弟で1つの土地を共有したまま申告する場合、どう扱われますか?

A. 制度上は、相続税申告は相続人ごとに行うため、共有の土地についても各人の持分に応じて申告を別々に行うことは可能です。たとえば兄が2分の1、妹が2分の1を取得した場合、それぞれが自身の持分に相当する評価額を基に申告書を作成します。
ただし、実務上は以下の3点に特に注意が必要です:
• 評価方法の統一が不可欠
 土地の評価は、路線価や補正率の使い方によって結果が変わります。兄妹で異なる評価方法を使うと、税務署から「整合性に問題あり」と指摘される可能性があります。
• 小規模宅地等の特例は調整が必要
 共有名義の土地で特例を適用できるのは、原則として要件を満たす1人のみです。兄妹それぞれが同じ土地について特例を申請してしまうと、どちらの申告も否認されるおそれがあります。
• 添付資料や評価明細書の連携が重要
 各人が申告する場合でも、土地全体の評価資料を1つに統一し、各人の申告書に反映させることが望ましいです。実務では、税理士が全体評価を行い、それを共有して各相続人が活用するのが一般的です。
共有財産がある場合は、別々に申告できるとはいえ、評価や特例の取り扱いには慎重な調整が必要です。
不安な場合は、申告書作成を別々に進めつつも、評価や特例の設計だけでも1人の税理士に一括で依頼することをおすすめします。

Q. 兄弟のうち一部は相続放棄しました。その場合も全員で協議しなければなりませんか?

A. 相続放棄をした人は「初めから相続人ではなかったもの」として扱われます。そのため、相続放棄が正式に受理されていれば、その人を含めた遺産分割協議は不要です。
ただし、放棄によって法定相続人の構成が変わるため、分割内容や税額、控除の使い方が変動する可能性がある点には注意が必要です。放棄がある場合は、税理士・弁護士の関与のもとで正しく再設計するのが安心です。

6.弁護士と税理士に相談するメリット

6-1. 分割協議書の整合性を保つには弁護士の関与が有効

兄弟姉妹が別々で相続税申告を行う場合でも、前提となる「遺産分割協議書」は全員の合意と署名押印が必要になります。
弁護士が遺産分割協議の段階から関与することで、

  • 相続税申告や二次相続まで見据えた分割内容の設計
  • 第三者の立場からの公平な協議進行
  • 紛争化を避けるための事前調整

など、申告の前提となる法的土台をきちんと整えることができます。

6-2. 複数の相続人の整合性を調整しながらの申告は税理士の関与が有効

相続税は各人が個別に申告するとはいえ、遺産全体の評価、特例の適用、提出書類の一貫性など、全体最適の視点で設計しなければ成り立たない制度です。
税理士が関与することで、

  • 各人の取得財産の評価方法を統一
  • 控除の割当てや特例の使い方を調整
  • 税務署への提出書類の記載内容を連携

といった相続人全体を見渡した調整・管理が可能になります。
特に、兄弟姉妹の関係性が希薄で情報共有が難しいケースでは、中立の専門家による情報整理と連絡調整が不可欠です。

ご自身のみで進めるのに不安がある場合は、できるだけ早い段階で弁護士・税理士へご相談されるのが望ましいでしょう。
特に相続税申告には10ヶ月以内という期限があるため、遺産分割協議を含めてその期間内に完了できるよう早めに動き始めることをお勧めします。
当事務所では、弁護士・税理士が社内で連携の上で遺産分割協議から相続税申告までを一貫してご対応しておりますので、まずは一度ご相談ください。
 

Nexill&Partners Group(弁護士法人Nexill&Partners)

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