相続税申告

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相続時精算課税制度ってなに?ご相談事例からみる活用時のポイント・注意点を弁護士が解説

2021.04.14

相続時精算課税制度とは、子又は孫等に対する贈与税の特例で2,500万円までの特別控除があり、贈与者の相続開始時にこの贈与財産が加算されて相続税額が計算されるものです。

税金の支払いを贈与者の相続開始時に先延ばしにする仕組みになっており、必ずしも節税に結びつかない場合もありますが、上手に利用すれば効果的に生前に財産を贈与することができます。

今回は、相続時精算課税制度のあらましと手続き方法、ポイントについてご紹介します。

1.当事務所に寄せられた相談事例

1-1.ご相談内容

ご相談に来られたのは、Aさんご夫妻です。

Aさんは、長年金融機関で働いてきましたが、数年前に定年退職し、今はゆっくりとした生活を送っておられるとのことでした。

Aさんのご自宅は、閑静な住宅地にある築37年の一軒家で、住宅ローンは既に返済済みとのことです。
Aさんご夫妻は持病等もありませんが、ご自宅が坂の上にあり、2階建てであるため、最近は自宅に帰る際に坂道を上ることや、自宅の階段の上り下りもきつくなってきたそうです。

そこで、Aさんご夫妻は、市街地にありエレベーターも完備している市営住宅への引越しをご検討されていました。

しかし、持ち家がある場合は、市営住宅に引越しをすることができません。
そこで、Aさんご夫妻は、長年の想い出や愛着もあるご自宅を、お子様(1人娘)に譲りたいと考えられていました。
ただ、お子様に譲るとなると、税金や契約について不安があり、今回ご相談に来られたとのことでした。

相続時精算課税とは?

1-2.Aさんの悩み

公営住宅は、賃料が割安に設定されていることが多いため、希望者が多く、通常は抽選により募集がされます。
また、入居要件があり、収入要件や資産要件等の制限が設けられていることが多く見られます。

Aさんの場合も、資産要件として、持ち家があると入居できないという制限があったため、お子様に不動産をお譲りになられたいと考えていました。
もっとも、Aさんのような場合に限らず、不動産やその他の資産をお子様に譲りたいというご相談は多く見られます。
そのような場合、税金(贈与税等)はどうなるのか、というご質問をしばしばお受けします。

1-2-3.(補足ポイント)贈与税の仕組み

詳細に入るまえに補足として贈与税についてご説明いたします。
親子間であっても、不動産を贈与する場合には贈与税が発生するのが原則です。

税額は資産の内容によって変わりますが、一般に贈与税は相続税よりも高額になります。
そのため、お子様への贈与を検討したものの、多額の贈与税がネックとなって、贈与しないという結論をとられる方も多いようです。

今回のAさんも、ご自宅の不動産をお子様に贈与するとなると、お子様に贈与税が掛かってしまうため贈与を躊躇されていました。

1-3.Aさんの資産構成

ここで、Aさんの資産を見てみましょう。

・自宅不動産(土地、建物) 約900万円
・預貯金 約1,500万円
・生命保険 約600万円
・合計 約3,000万円

Aさんの資産は、上記の通り合計約3,000万円でした。
Aさんは、自宅を手放して市営住宅に入居し、預貯金と年金で余生を過ごすという計画を立てていました。
Aさんが自宅不動産をお子様に譲るにあたり、良い方法はないのでしょうか。

相続時精算課税とは?

このようなケースの場合、「相続時精算課税制度」の活用が検討できます。ここからは、「相続時精算課税制度」に関するあらましと手続き方法を解説いたします。 

2.相続時精算課税制度のあらまし

現金や不動産等の財産の贈与を受ける場合、贈与を受けた人(以下「受遺者」といいます。)は、暦年課税に係る贈与税の申告を行うか、相続時精算課税制度の適用を受けて贈与税の申告を行うかのいずれかを選択します。

相続時精算課税制度を選択した場合、贈与財産が累計2,500万円までは非課税とされ、贈与を受ける時点では贈与税を支払う必要がありません(贈与財産の価額が2,500万円を超えた場合には、その超えた部分の金額に対して20%の税率が適用されます)。

しかし、その後贈与した者(以下「贈与者」といいます。)が亡くなった際に、相続時精算課税を選択した受遺者(以下「相続時精算課税適用者」といいます。)は、相続又は遺贈によって取得した財産と、それまでに贈与を受けた贈与財産とを合計した価額をもとに相続税額を計算し、相続税を納付する必要があります。

つまり、相続時精算課税制度は、通常であれば贈与税がかかる贈与を受ける場合に税金の納付を先延ばしにして、贈与者の相続開始時に精算することができるという制度であり、この制度を選択すれば必ずしも税金の負担が軽減されるというわけではないため利用する場合には十分な検討が必要です。

なお、相続時精算課税適用者が、贈与者の死亡時に相続又は遺贈によって財産を取得しない場合であっても、贈与者から取得した相続時精算課税適用財産の価額は相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税がかかります。

その際、計算した相続税額から、既に収めた相続時精算課税に係る贈与税相当額については、二重課税とならないように控除して算出します。もし相続税額から控除しきれない贈与税相当額があれば、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。つまり、相続時精算課税とは、その名前の通り、相続発生時に贈与税と相続税との間の精算を行う仕組みとなっているのです。

3.相続税時精算課税制度の手続きについて

相続時精算課税制度は、満60歳以上である父母及び祖父母から、満20歳以上の推定相続人である子(代襲相続人又は養子も含まれる)及び孫に対する贈与に限り適用されます。

なお、一度相続時精算課税制度を選択すると、その贈与者からの贈与については、その選択をした年以降全てこの制度が適用され、「暦年課税」に変更することはできません。

相続時精算課税には贈与の回数や財産の種類 、1回の贈与金額、贈与の期間などに制限はありませんので、贈与額が2,500万円に達するまでは何度でも無税で贈与することができます。ただし、暦年課税に係る贈与による毎年の110万円の基礎控除はありませんので注意が必要です。

相続時精算課税制度の適用を受けようとする人は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税制度を選択する旨の届出書を、贈与税の申告書とともに税務署に提出する必要があります。

4.相続時精算課税制度のポイント

相続時精算課税制度を選択した場合、贈与者の死亡時に、それまでに贈与を受けた贈与財産と相続又は遺贈により取得した財産とを合計した価額をもとに、相続税額を計算します。

この時、相続又は遺贈により取得した財産は相続発生時の評価額で計算しますが、贈与を受けた財産の価額は贈与された日時点の課税価格で加算します。つまり、評価額が上下する財産であれば、贈与時点と比較して相続発生時に値上がりしていれば相続税の負担は軽くなり、値下がりしていれば相続税の負担は重くなるのです。

贈与者の立場から見ると、相続税が発生することが明らかな場合、相続発生時の相続税負担を軽減する対策としては原則として暦年贈与を選択する方が有利です。ただし、将来評価額が値上がりする可能性の高い財産や着実に収入を生む財産を、生前に一括して贈与する場合は、相続時精算課税制度を選択するのもよいでしょう。

5.ご相談事例の場合の最適な対応方法は?

相続税には基礎控除というものがあります。
これは、相続財産が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以内の金額であれば、相続税が課税されないというものです。
基礎控除は相続時精算課税を利用した場合でも同じですので、現時点の財産が基礎控除の範囲内で、相続発生時点でも相続税が課されなさそうな見通しであれば、相続時精算課税の大きなメリットを得られることになります。

Aさんの場合も、Aさんが亡くなられた時点で奥様とお子様がご存命なら4,200万円(3,000万円+600万円×2)、お子様だけがご存命の場合でも3,600万円(3,000万円+600万円×1)が、相続税の基礎控除額となります。

つまり、今後の年金収入等を見据えて、Aさんの資産が現在の3,000万円から大幅に増えることが無ければ、そもそも相続税が課されないという状況でした。

そのため、Aさんが相続時精算課税制度を利用してお子様に自宅を贈与した上で、きちんと手続を行えば、贈与税も相続税も課されることはありません。
Aさんは、相続時精算課税制度を利用してお子様に自宅不動産を贈与され、その後市営住宅に入居することができました。

相続税

6.令和5年税制改正による基礎控除について

令和6年1月1日以後に受けた相続時精算課税制度には基礎控除が設けられます。
それにより、基礎控除額の毎年110万円を引いた額の合計が、2,500万円を超えなければ贈与税は課税されなくなります。 

例えば、毎年600万円を5年間贈与した場合
(600万円-110万円)×5年=2,450万円
となりますので贈与税は課税されません。
相続税の申告においても、相続財産に加算される額は、基礎控除額を引いた2,450万円となります。 

つまり、毎年110万円までであれば相続財産に加算しなくてよいことになります。 

7.まとめ

相続時精算課税制度は、贈与時に2,500万円まで贈与税の特別控除を受けることができるため非常に節税効果が高い印象を受けられる方が多いですが、実際は税金の支払いを相続発生時まで先延ばしにするだけで、税金の負担が必ずしも軽減するわけではありませんので、利用する場合には十分な検討が必要です。 

活用方法によっては、生前の贈与を容易にして早期に親世代や祖父母世代等の保有する財産を子や孫世代に移していくために有効な手段といえるので、最新の税制改正等の情報をキャッチアップしていただくうえでも、利用を検討される場合は弁護士や税理士等の専門家に相談しましょう。
弁護士Nexill&Partnersでは弁護士・税理士が在籍しておりますので、相続税も踏まえたアドバイスが可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

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