column

コラム

疎遠の親族から相続放棄してほしいと言われたら?関わらずに手続きを進める方法と注意点を弁護士が解説

2026.02.09

疎遠な親族から突然「相続放棄してほしい」と連絡がくると多くの方は戸惑いや不安を感じるでしょう。関わりたくない場合は無視をしていいのか、反対に、相手の言う通りに書類を送って、後から何か問題が発生しないか、迷うかもしれません。今回は、相手と極力関わらずに進める実務手順、やってはいけない行動、期限の考え方を弁護士がわかりやすく解説します。

第1章 疎遠な親族から「相続放棄してほしい」と言われる背景と法的な意味

1-1 なぜ疎遠な親族から突然連絡が来るのか:相続権の発生と戸籍調査

疎遠だった親族から突然連絡が来ると、「なぜ今さら」「何か企んでいるのでは」と警戒するかもしれません。しかし、実務の現場で多いのは「相続手続を進めるために相続人を確定したら、あなたが法定相続人に入っていた」というケースです。
人が亡くなると、その人の財産を引き継ぐ権利を持つ人が法律で決まります。これを「法定相続人」と呼びます。相続手続きを進めるには、まず、この法定相続人を確定させなければなりません。親族は、被相続人の戸籍をたどり法定相続人を洗い出す過程であなたが相続人の一人であることを知り、連絡をしてきたのです。
つまり、相続について突然連絡がくること自体は珍しいことではありません。

1-2 「相続放棄してほしい」という要望に応じる法的義務はあるか

結論からいうと、「相続放棄してほしい」と言われたからといって、それに応じる法的な義務はありません。相続放棄は、各相続人が家庭裁判所に申述して成立する手続で、他人が代わりに決めたり強制したりできるものではありません。
相続放棄をするか、あるいは遺産を受け取るかは、それぞれの相続人が自由に決めることができます。たとえ「相続放棄してほしい」と強く迫られても、それは多くの場合「お願い」に過ぎません。
あなたが判断すべきなのは、相手の都合ではなく、

  • 自分が相続人に当たるのか
  • 相続放棄をすると何が起こるのか(得るもの・失うもの)
  • 期限に間に合うか
  • 何をすると相続放棄ができなくなるか

といった点です。

1-3 背景に隠されている「プラスの財産」と「マイナスの財産」

相手が「相続放棄をしてほしい」と言ってくる場合、主に2つのパターンが考えられます。
1つは、遺産の中に不動産や預貯金といった「プラスの財産」があり、特定の親族がそれを独占したい、あるいは管理を一本化したいと考えているケースです。
もう1つは、借金などの「マイナスの財産」が多く、他の親族に迷惑をかけたくないという親切心、あるいは全員で一斉に放棄したいと考えているケースです。
連絡が途絶えていた親戚がどちらを考えているかは分かりません。相手の言葉を鵜呑みにするのではなく、まずは「どんな財産がどれだけあるのか」について、把握できる範囲で情報を整理することが重要といえます。

第2章 「相続放棄してほしい」と言われた際に行うべき確認事項

2-1 亡くなった人の財産状況:借金の有無を確認する方法

まずは、亡くなった方の財産を調査しましょう。
疎遠であれば、自力で調べるのは困難ですが、相手方に任意の一覧表として「財産目録(遺産の一覧表)」の提示を求めることはできます。借金があるかどうか不安な場合は、相続人であることを証明できる資料を提出すれば、信用情報機関(JICCやCICなど)に対して、亡くなった方の利用状況を照会できる場合があります。
もっとも相手がすべての情報を開示してくれるとは限りません。「借金がある」と言われた場合でも、その内容や金額、他の財産の有無については、慎重に見極める必要があるといえます。

2-2 相続放棄ができる期間:相続が開始したことを知ってから3か月以内

相続放棄には「3か月以内」という非常に短い期限があります。
勘違いされやすいのが、期限の起算点は原則として「被相続人が亡くなった日」ではなく、「自己のために相続が開始したことを知った日」である点です(亡くなったことだけでなく、自分が相続人に当たることを知った時期が問題になることがあります)。
ただし、この日付が後から問題になることがあり、主観的な記憶だけでは足りないことがあります。そのため、訃報を知らせるために親族から届いた手紙や書面、LINEやメールなどのメッセージ、電話の着信履歴や通話履歴など、客観的な資料になり得るものを残しておくことが重要です。

第3章 他の相続人と関わらなくても相続放棄はできる

3-1 相続放棄に他の相続人との話し合いは不要

相続放棄という言葉から、「他の相続人と話し合って決めるもの」と誤解される方も少なくありません。しかし、相続放棄は、個人の相続人が家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出する手続きです。この手続きに、他の親族の同意や連絡は原則不要です。
相続放棄を希望する個人の相続人が一人で(または弁護士を通じて)、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
裁判所で受理されると、受理されたことを示す書面(必要に応じて受理証明書)により、相続放棄をした事実を示すことができます。これがあれば、後から借金の督促が来た場合にも、原則として「相続放棄をした」ことを法的に主張することができます。

3-2 相手方への連絡を遮断する:弁護士を窓口に立てるメリット

どうしても親族からの連絡が止まらない場合や、感情的なやり取りに耐えられない場合には、連絡窓口を弁護士に切り替えるという選択肢があります。
また、相続放棄の手続きには、被相続人の戸籍謄本や、あなたの戸籍謄本などが必要です。戸籍謄本を収集するのは手間がかかりますが、弁護士であれば職務上請求という権限を用いて、必要な書類を収集することもできます。
自身で役所を回ったり、慣れない書類作成に頭を悩ませたりする必要がない点も弁護士に依頼するメリットといえます。

第4章 やってはいけない、陥りやすい失敗事例

4-1 相続放棄できないリスクが発生する、遺産分割協議書へのサイン

相続放棄と遺産分割協議は、まったく別物です。

相続放棄

家庭裁判所への申述(放棄が受理されると初めから相続人でなかった扱いになる方向)

遺産分割協議

相続人として遺産の分け方に同意する行為

万が一、相続放棄と混同して遺産分割協議書に署名押印し、印鑑証明書まで渡してしまった場合、裁判所において「相続人として手続に関与した」と評価される可能性が高まり、その結果、相続放棄の申述が認められない場合があります。
疎遠だった親族から「相続放棄に必要だから」と説明されても、内容を十分に理解できない書類に安易に署名押印することは避けるべきです。

4-2 何もしないまま時間が経つと、選択肢がなくなるリスク

「親族と関わりたくないから」と、届いた手紙を封も開けずに放置するのはリスクが高い行為といえます。
相続放棄の期限である3か月を過ぎると、法律上は「単純承認したもの」とみなされ、相続をした場合と同じ扱いになります。後日、被相続人のマイナスの財産として莫大な借金の請求書が届いたときに「知らなかった」では済まされません。
連絡を取らないことと、期限のある法的手続きを無視することは別の話です。関わらずに進めたい場合でも、相続放棄の期限は意識し、必要な手続を進めることが重要です。

第5章 【FAQ】親族から相続放棄を求められた場合のよくある疑問

Q1. 相続放棄をすると、親族と一切関わらずに済みますか?

A1. 多くの場合、相続する場合より関与は大幅に少なくなります

相続放棄は家庭裁判所で完結する手続であり、基本的には裁判所とのやり取りだけで進みます。裁判所からの照会や書類提出といった最低限の対応は必要ですが、他の相続人と話し合ったり、合意を取ったりする必要はありません。
これに対して、相続をする場合は、遺産分割協議への参加、財産内容の確認や調整、書類への署名押印など、相続人間でのやり取りが避けられません。特に意見が食い違う場合には、連絡や交渉が長引くこともあります。

Q2. 親族に財産目録を提示させる以外に、被相続人の財産を調べる方法はありますか?

A2. 相続人だけで把握できる情報には限界があります。

疎遠な関係の場合、親族から財産目録を提示してもらえないケースは少なくありません。相続人であっても、他の親族の協力なしに、被相続人の財産状況を網羅的に調査することは難しいのが実情です。先述の通り金融機関や保険会社に個別に問い合わせても、原則として詳細な開示は受けられません。もっとも「財産目録が出てこない=何も判断できない」というわけではなく、調査には構造的な限界があることを前提に、相続放棄を検討するかどうかを考えることが現実的な対応といえます。

Q3. 財産の情報が曖昧な場合、相続放棄した方がよいかどうかは誰に相談すればいいですか?

A3. 相続放棄の判断は、弁護士への相談が適しています。

相続放棄をするかどうかは、財産の有無だけでなく、期限や手続上のリスクも含めて判断する必要があります。プラスとマイナスの財産がどちらもはっきりしない場合、「どこまで分からない状態なのか」「判断を先延ばしできる余地があるのか」といった整理が重要になります。このような判断は、相続放棄の制度や実務に精通した弁護士に相談するのが適しています。弁護士は、代わりに相続放棄を決める立場ではありませんが、現時点で分かっている情報と分かっていない情報を整理し、どの選択肢が現実的かを一緒に検討する役割を担います。

Q4. 相続放棄を迷っている段階で相談するのは早すぎますか?

A4. 迷っている段階での相談が一般的です。

相続放棄は一度判断すると取り消しが難しい手続です。そのため、実務上は「放棄すべきかどうか迷っている」「親族と関わらずに進めたいが方法が分からない」といった段階で相談されるケースが多くあります。判断を固めてから相談するのではなく、判断材料を整理する目的で専門家を利用することは、決して珍しいことではありません。

Q5. 相続放棄をすることで他の親族から損害賠償や訴訟を起こされることはありますか?

A5. 通常は訴えられることはありません。

相続放棄は、法律で認められた相続人個人の権利です。家庭裁判所で正式に受理された相続放棄について、他の相続人が「迷惑を被った」「協力しなかった」といった理由で損害賠償を請求することは、通常想定されません。感情的な不満を示されることはあっても、法的責任を問われるケースは限定的といえます。

第6章 親族とのトラブルを避け、法的に安全な解決を

疎遠な親族から「相続放棄してほしい」と言われても、従う義務はありません。大切なのは、相手のペースに流されないこと、そして、法的な期限を守ることです。
相続放棄の期限は、原則「相続開始を知った時から3か月」です。情報が足りず判断できないときは、家庭裁判所への期間伸長を検討します。相続放棄の判断は相続人個人で決めることができ、家庭裁判所へ申述することで手続が進められます。
相続放棄すべきか判断に迷うとき、期限が不安、送られてきた書類がよく分からないなど、専門的なサポートが必要な場合は、私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループへお気軽にご相談ください。

 

当サイトのコラムの著作権は法人に帰属します。 記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。

 

Nexill&Partners Group(弁護士法人Nexill&Partners)

福岡を中心に、全国からご相談をお受けしております。 弁護士だけでなく社労士・税理士・司法書士・行政書士と多士業が在籍。 遺産相続、企業支援(企業法務・労務・税務)に特化した総合法律事務所です。 博多駅徒歩7分。初回相談無料、お気軽にお問い合わせください。 当グループでは博多マルイ5Fの「相続LOUNGE福岡オフィス」を運営しております。こちらもぜひご活用ください。

監修者:池本 稔洋
弁護士池本 稔洋

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士池本 稔洋

  • 2017年3月
    兵庫県立星陵高等学校 卒業
  • 2021年3月
    神戸大学法学部 法律学科 卒業
  • 2023年3月
    神戸大学法科大学院 修了
  • 2025年4月
    弁護士法人Nexill&Partners 入所

お電話050-5799-4483

無料相談

公式LINE