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コラム

遺言執行者が死亡した場合その後の相続手続はどうなる?新しく遺言執行者を就けることはできるのか?弁護士が解説

2025.12.26

遺言書に「遺言執行者」が指定されている場合、相続手続はスムーズに進むことが多いですが、その遺言執行者自身が死亡してしまった場合、手続はどうなるのでしょうか。この記事では、遺言執行者の死亡が相続手続に与える影響と、新たな遺言執行者の選任方法について、弁護士がわかりやすく解説します。

1. 遺言執行者とは?その役割と重要性

1-1. 遺言執行者が担う業務とは

遺言執行者とは、被相続人が遺言書に記載した内容を実現するために手続を行う者のことです。具体的には、以下のような業務を行います。

  • 相続人や受遺者への遺産分配
  • 銀行預金や株式などの名義変更
  • 不動産の相続登記
  • 遺贈の手続
  • 相続税納付に向けた財産の整理

これらの業務は、法的にも非常に重要で、専門知識を要する場面が多く存在します。

1-2. 遺言執行者が指定されていることのメリット

遺言執行者がいれば、相続人全員の同意を必要とせずに手続を進められるため、相続人間のトラブル予防にもなります。とくに不動産の登記や金融機関とのやり取りにおいて、遺言執行者が単独で手続できることは大きな利点です。

2. 遺言執行者が死亡していたらどうなる?(相続発生前に死亡)

遺言書で特定の人物を遺言執行者に指定していたものの、その人物が遺言者の死亡時点ですでに死亡していた場合、どうなるのでしょうか。これは高齢の親族や長年の友人などを指定していたケースで現実に起こり得る事態です。ここでは、法的根拠・家庭裁判所の対応・実務上の注意点を整理します。

2-1. 遺言書に指定された人物がすでに死亡していたときの法的な位置づけと効力の消滅

民法では「遺言執行者は遺言者が指定する」と定めていますが、遺言者の死亡時点で執行者候補がすでに亡くなっている場合、その指定は効力を生じません。なぜなら、遺言執行者の地位は遺言者の死亡によって初めて発生するからです。
そのため、被相続人の死亡時にすでに遺言執行者が存在しない場合、その遺言書は「執行者不在」の状態となります。これは、遺言自体が無効になるわけではありませんが、誰が遺言を実現するかが未確定な状態を意味します。

2-2. 家庭裁判所への遺言執行者選任申立はできるのか?

遺言執行者が不在の場合、民法に基づき、家庭裁判所へ遺言執行者の選任申立を行うことが可能です。相続人や利害関係人が申し立てることで、第三者が遺言執行者として新たに選任され、手続を進めることができます。

2-3. 実務上の留意点と予防策

実務では、遺言書で複数の遺言執行者が指定されるケースが多々あります。この場合、執行者の一人が死亡しても、残存する執行者が当然に手続きを続行できるのが原則です。
ただし、「全員が共同してのみ権限を行使できる」とされているのか、あるいは「各自に特定の職務が個別に割り当てられている(役割分担がある)」のかによって、残った執行者が行える範囲が異なります。
そのため、遺言書の文言を精査し、残存する執行者に必要な権限が及んでいるかを確認する必要があります。

また、遺言書の作成段階で「予備的指定(補充的指定)」がされている場合も再選任をせずに相続手続が進められることがあります。たとえば、「第一順位をA、Aが死亡している場合はBを遺言執行者とする」と明記されていたようなケースでは、家庭裁判所での再選任手続をせずにBを遺言執行者として相続手続を進めることが可能です。

3. 遺言執行中に遺言執行者が死亡したら?(就任後に死亡)

3-1. 遺言執行者が死亡したらそれを法的に引き継ぐ人はいない?

遺言執行者の地位は「個人に帰属する職務」であり、遺言執行者本人が死亡した場合に他人に引き継がれることはありません。このため、改めて家庭裁判所で遺言執行者の選任を申立てる必要があります。
そのため、実際に遺言内容の実現に向けて動いていた最中に、遺言執行者自身が死亡してしまった場合には、手続の途中で執行者が不在として手続が中断されてしまうため、相続全体の進行に重大な影響を及ぼします。

3-2. 遺言執行者が死亡した場合は再選任が必要になる

遺言執行者が就任後に死亡した場合、遺言執行手続きが中断されてしまうため、速やかに家庭裁判所による新たな遺言執行者の選任申立が必要になります。
この申立ができるのは、以下のような関係者です。

相続人

遺産を引き継ぐ法定相続人

受遺者

遺言によって財産を受け取る者

遺言の内容の実現に利害関係を有する第三者

債権者など

申立にあたっては、前任の遺言執行者がどの範囲まで手続を行っていたかを確認し、未了業務の洗い出しと引き継ぎ計画の整理が実務上重要です。
家庭裁判所が新たな遺言執行者を選任する際には、法的知識・実行能力・中立性などを考慮した人選が行われるため、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることが多くなります。

4. 新たな遺言執行者の選任をするには?家庭裁判所での手続とは

4-1. 家庭裁判所による選任申立の流れ

遺言執行者を新たに選任する際は、以下の流れで遺言執行者選任の申立を行います。

1. 管轄の家庭裁判所に申立書を提出
2. 裁判所による選任候補者の適格性審査
3. 家庭裁判所が遺言執行者を選任し、就任通知を送付

4-2. 選任候補者の選定における裁判所の判断基準

家庭裁判所が遺言執行者を選任する際、民法上の明確な要件が定められているわけではありませんが、以下のような観点から適格性が判断されるのが実務です。

  • 被相続人との関係性や利害関係の有無
  • 遺産内容の複雑性(不動産、株式、非上場会社の持分等)
  • 相続人間の紛争リスクの有無
  • 候補者の法律知識・職業的専門性(例:弁護士・司法書士等)
  • 年齢や健康状態、実務遂行能力

裁判所としては、中立かつ適切に職務を果たせる人物を慎重に選定するため、相続人が身内などを推薦しても、紛争の可能性が高い場合には専門職に変更されることもあります。

5. 新しく選任された遺言執行者はどのように遺言執行手続に着手していくのか?

【パターン①】遺言執行者が「就任前に死亡していた」場合

このケースでは、遺言執行業務が全く開始されていない状態からのスタートとなるため、選任された遺言執行者は「最初からすべての業務を自ら行う」ことになります。

着手の流れ
1. 選任審判書の受領・確定

家庭裁判所から選任の審判を受けたのち、審判が確定(2週間)します。

2. 遺言内容・財産の確認

遺言書の内容を精査し、遺贈や負担付遺贈の有無、分割方法などを確認します。その上で、被相続人の財産(不動産・預貯金・有価証券など)を調査・把握します。

3. 必要書類の収集と名義変更準備

相続手続に必要な戸籍謄本・登記簿謄本・金融機関の残高証明・相続関係説明図等を取得します。

4. 遺言内容の実行

遺言書の内容に基づき、銀行口座の解約、遺贈の履行等を実行します。

5. 報告・終了通知

遺言執行が全て完了したら、相続人・受遺者に対して実行内容を報告します。

【パターン②】遺言執行者が「執行中に死亡した」場合

このケースでは、一部の手続が完了しており、途中からの引継ぎとなるため、以下の点に配慮して進める必要があります。

着手の流れ
1. 前任者の執行状況の確認

どの手続まで完了しているか(例:財産調査済み、預貯金解約済みなど)を把握します。また、関係書類や進行状況の記録(専門家が前任なら保管されていることが多い)も参照します。

2. 未了業務の洗い出しと整理

手続上未完了の業務(名義変更、遺贈の未履行、税務対応など)を特定します。

3. 執行継続の通知(必要に応じて)

相続人に対しては就職通知を出す法的義務がありますが、スムーズに遺言執行手続きを進めるためには、受遺者・関係機関に対しても、新たな遺言執行者としての就任通知を出すことが望ましいです。
銀行や証券会社、法務局などに対しても、前任の死亡による遺言執行者の変更を明確化させておきます。

4. 未了業務の実行と完了処理

必要な手続(名義変更・口座解約・遺贈履行等)を完了させ、全体の執行業務を終結させます。

特にパターン②では、前任の遺言執行者が弁護士・司法書士など専門職であった場合は、業務記録が体系的に残っているため、後任者も比較的スムーズに執行を引き継げます。
逆に、個人(親族など)が遺言執行者だった場合は、何をどこまで実施していたかが本人しか把握していないようなこともあり、再度の調査・対応が必要になるケースがあります。
遺言執行を円滑に進めるためにも、新たに選任する遺言執行者は弁護士などの専門職に任せていただくことをお勧めします。

6. 弁護士に遺言執行を依頼するメリットとは

当事務所では、弁護士だけでなく税理士・司法書士が在籍しております。
遺言執行を行う上で発生する相続税・不動産登記も含めたすべての手続を一か所で総合的に対応が可能です。
遺言執行者に指定されていた人が既に亡くなっていた、相続手続の途中で遺言執行者が死亡してしまったというような場合は、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。

 

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監修者:池本 稔洋
弁護士池本 稔洋

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士池本 稔洋

  • 2017年3月
    兵庫県立星陵高等学校 卒業
  • 2021年3月
    神戸大学法学部 法律学科 卒業
  • 2023年3月
    神戸大学法科大学院 修了
  • 2025年4月
    弁護士法人Nexill&Partners 入所

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