親が住まなくなった実家について、自分では使う予定がなく、売却も進まないまま管理だけ続けているケースがあります。特に地方の不動産は、売却が難しく、相続した後に負担だけが残ってしまうこともあるでしょう。こうした問題は、相続前の段階で対応できるかどうかによって、その後の選択肢が大きく変わります。本記事では、相続前と相続後で何ができるのかを整理し、後悔しないための対策を弁護士が分かりやすく解説します。
第1章 処分できない実家を放置すると何が起こるのか
1-1 空き家放置に対する行政の監視と固定資産税の優遇解除
たとえ自分たちが所有する家であっても、それが誰も住んでいない空き家になっている場合、管理せず放置し続けることは問題となる場合があります。近年は空き家の管理不全が社会問題として認識されており、自治体による監視や指導が強化されている点も無視できません。
特に注意が必要なのが、管理不全空家等や特定空家等として自治体から勧告を受けるリスクです。建物の老朽化や管理不足により、倒壊のおそれや衛生上の問題があると判断された場合には、自治体から指導・勧告・命令といった段階的な措置が取られます。
このうち、改善勧告を受けたにもかかわらず適切な対応を行わず放置した場合には、土地に適用されていた固定資産税の優遇措置(住宅用地特例)が外され、結果として固定資産税の負担が増える可能性もあります。
1-2 放置しても発生する管理費用と所有者責任
地方の実家が問題となるのは、売れないだけでなく、保有している限り負担が発生し続ける点にもあります。
代表的な負担としては、次のようなものが挙げられます。
- 固定資産税や都市計画税
- 草刈りや建物の維持管理にかかる費用
- 近隣からの苦情対応や事故発生時の対応
これらは、利用していない不動産であっても原則として所有者の負担となります。空き家の場合は管理を怠ると建物の劣化が進みやすく、結果として修繕費用や対応コストが増加する可能性もあります。さらに、建物の倒壊や屋根材の落下などによって第三者に損害が生じた場合には、所有者が損害賠償責任を負うリスクも想定されます。
このように、市場価値が低く売却が難しい不動産ほど、収益は生まれない一方で、費用とリスクだけが残る状態になりやすいといえます。そのため、「持ち続けること自体が合理的かどうか」という視点で、早い段階から方針を検討しておくことが重要です。
第2章 【相続発生前】親が健在なうちに進める「持たない」ための対応
2-1 家族間で売却・譲渡の方針を具体的に決めておく
空き家は放置することでコストやリスクが増加しやすい不動産です。そのため、実家を引き継ぎたくない場合には、「相続してから考える」のではなく、相続発生前の段階で方針を整理しておくことが重要です。
親が健在であれば、不動産の処分について本人の意思で判断することができ、売却や譲渡といった選択肢を比較的柔軟に検討できます。これに対し、相続後は相続人全員の関与が必要となる場面が多く、意思決定のハードルが上がります。
実務上は、次のような点をあらかじめ家族間で共有しておくことが有効です。
家族で決めておくべき方針の例
- 売却を目指すのか、それとも処分(引き取りや譲渡)を前提とするのか
- 処分に費用がかかる場合、誰が負担するのか
- 手続は誰が主導するか
こうした整理がないままいざ相続が発生してしまう、誰も積極的に動かないまま放置される状態になりやすくなってしまいます。
2-2 認知症発症前に処分の方針を決めておく
生前に対応を進めるうえで見落とされがちなのが、親の判断能力の問題です。
不動産の売却や贈与といった法律行為は、所有者に判断能力があることが前提となります。そのため、仮に親(所有者)が認知症を発症し、意思能力が不十分と評価される状態になると、本人単独ではこれらの行為を行うことができなくなります。
このような状態になった場合には成年後見制度の利用が必要となりますが、後見制度のもとでは柔軟な対応が難しくなる傾向があり、たとえば実家(本人の居住用不動産)の処分については家庭裁判所の許可が必要になります。
そのため、実家を手放したい場合は、認知症を発症する前、本人の判断能力が十分にある段階で処分方針を決めておくことが重要です。
2-3 自治体に不動産を寄付できるケースは限られる
誰も住んでいない実家を手放す方法として、自治体に寄付するという選択肢もあります。これは所有者の生前から選択できる対応です。ただし、自治体への寄付は受け入れの条件が制限されている点に注意が必要です。
自治体は、管理コストや将来的な利用可能性を踏まえて判断するため、例えば次のような不動産は受け入れが難しい傾向があります。
- 境界が不明確で紛争リスクがある土地
- 接道条件を満たさず利用が制限される土地
- 維持管理の負担が大きく活用見込みが乏しい土地
自治体への寄付を検討する場合はこうした条件を踏まえ、早い段階で土地の境界確定や測量、権利関係の整理を進めておく必要があります。
第3章 【相続発生後】実家を引き継ぎたくない場合の対応策
3-1 預貯金は受け取り、不動産だけ捨てることは可能か
結論からいうと、相続では特定の財産だけを選んで取得したり、不要な財産だけを放棄したりすることは原則としてできません。したがって、預貯金は受け取り、不要な実家は引き継がないといった選択は認められません。
この点に関連して誤解されやすいのが「相続放棄」の選択です。不動産を相続したくないから相続放棄をしようと考えられる方もいらっしゃいますが、相続放棄は、不要な財産を拒否するための制度ではなく、相続人としての地位そのものを放棄する手続ですので、仮に相続放棄を選んだ場合は不動産だけでなく預貯金などのプラスの財産も含めて、一切の相続財産を受け取ることができなくなります。
このように、相続後の段階では「いらない不動産だけを外す」という柔軟な対応は難しく、相続財産全体を踏まえたうえで、すべてを取得するか放棄するかを判断することになります。
3-2 相続土地国庫帰属制度を利用するためのハードルと費用負担
近年注目されている制度として、相続土地国庫帰属制度があります。これは一定の要件を満たす土地について、国に引き取ってもらう制度です。
もっとも、この制度は「不要な土地を無条件で引き取ってもらえる仕組み」ではありません。同制度を利用するには複数の要件を満たす必要があり、土地の状態や権利関係によっては利用のハードルが高くなる場合があります。
例えば、次のような場合には申請が認められない可能性があります。
- 建物が残っている土地
- 担保権や利用権(賃借権など)が設定されている土地
- 境界が不明確で紛争のおそれがある土地
- 管理や処分に過度な費用がかかる土地
また、申請時には審査手数料が必要となるほか、承認された場合には土地の管理費相当額として一定の負担金を国に納付しなければなりません。
このように、制度としては存在するものの、すべてのケースで利用できるわけではなく、事前に要件を満たしているかを慎重に確認する必要があります。
そのほか、相続した空き家の処分については以下の記事からも確認いただけます。
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3-3 遺産分割協議で空き家を押し付け合わないための整理方法
相続後、処分に困る実家がまず問題となるのが、遺産分割の場面です。
実家に市場価値がない、あるいは売却が難しい場合、相続人の誰が取得するのかが決まらず、協議が停滞することがあります。その結果、共有状態のまま放置され、さらに処分が困難になる事態も起こりがちです。
こうした事態を避けるためには、遺産分割の段階で次のような整理を行うことが有効です。
- 実家の評価を実態に即して低く見積もる、あるいは実質的に負担として扱う
- 預貯金など他の財産とのバランスで取得者を調整する
- 将来的な処分を前提とした分割方法を検討する
感情的な対立が生じると協議が長期化しやすいため、形式的な公平性だけでなく、居住地や関与のしやすさを踏まえ、誰が現実的に管理や処分を担えるかという観点で検討することが望ましいといえます。
第4章 売れない物件を手放すための現実的な対策
4-1 費用を負担してでも手放す、有償引き取りサービスの検討
実家の売却が難しい場合、売ることにこだわるのではなく、「費用をかけて手放す」という選択肢も現実的な解決策となります。近年は利用価値の低い不動産を有償で引き取るサービスを提供する事業者も存在しており、一定の条件を満たせば第三者に引き渡すことが可能なケースもあります。
もっとも、これらのサービスは無料ではなく、物件の状態や立地によってはまとまった費用が発生することが一般的です。費用を出してまで手放す必要があるのかと迷うこともあるかもしれません。しかし、固定資産税や維持管理費、将来的な修繕費用などの負担が継続することも踏まえると、こうした費用を支払って手放すという選択肢にも一定の合理性があります。
今後想定される負担とのバランスを考慮したうえで、それでもメリットがありそうであれば活用されてみてもよいでしょう。
4-2 更地化は費用や税負担とのバランスで判断する
売却が難しい物件でも、建物を解体して更地にすれば売れやすくなるのではないか、という考え方もあります。実際、立地や需要によっては、更地にすることで買い手が見つかる場合もあります。
しかし、更地化が常に有効とも限りません。解体には数十万円から数百万円程度の費用がかかることがあり、売却につながらなければ費用だけが先行して回収できない結果となることもあります。また、建物があることで適用されている固定資産税の軽減措置(住宅用地特例)が、解体によって適用されなくなる点も見落とせません。
そのため、解体を検討する際には、解体費用と売却可能性のバランスに加え、税負担の変化や現状のままでの活用・処分の可能性も含めて総合的に判断することが重要です。
4-3 隣地所有者への譲渡を目指す
市場での売却が難しい場合でも、隣地所有者への譲渡であれば成立する可能性があります。隣接地を取得することで敷地の拡張や利用価値の向上につながるような場合、条件次第では関心を持たれることがあるからです。
有償・無償問わず、譲渡を行う際は、実務上は調整すべき事項が多く存在します。登記名義や権利関係、土地の境界等は事前に正確に確認をし、譲渡手続きを進めるうえでのハードルは解消したうえで交渉を行えるようにしておきましょう。
第5章 実家の処分を先送りにしないために
地方の実家について「使う予定がない」「できれば引き継ぎたくない」と感じること自体は、決して特別なことではありません。ただし問題となるのは、その判断をどの段階で行い、どのように対応するかです。
相続前の段階であれば、所有者本人の意思を前提に、売却や譲渡の方針を整理することができ、処分の選択肢も比較的広く残されています。一方で、相続が発生した後は、相続人間の調整や制度上の制約により、対応の自由度は大きく制限されます。不要な不動産だけを切り離して放棄することはできず、国庫帰属制度といった手段にも一定の要件があるため、思うように手放せないケースは少なくありません。
このように、実家の処分は「相続前にどこまで整理できるか」と「相続後にどの選択肢を現実的に取れるか」の両面から検討する必要があります。有償での引き取りや隣地への譲渡、解体の可否なども含め、個別の事情に応じた判断が求められるため、判断に迷う場面も多いといえます。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士・税理士・司法書士などが連携し、相続前の対策から相続後の手続、不動産の処分に至るまで一体的に対応しています。実家の取扱いにお悩みの際は、状況に応じた具体的な進め方について、お気軽にご相談ください。
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