配偶者が亡くなった後、相続手続きを進める中で「確定申告はどうなるのだろう」「事業や副業の収入があった場合、何か手続きが必要なのでは」と不安になる方がいます。亡くなった方に一定の収入があった場合、相続人が代わりに行う「準確定申告」が必要になるケースがあります。準確定申告は、申告期限が通常の確定申告よりも短く、相続税との関係も整理して考える必要があります。
第1章 亡くなった夫・妻の確定申告は誰が行うのか
1-1 死亡後に行う「準確定申告」とは
通常、所得税の確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間の所得を、翌年の2月中旬から3月中旬までの所定の期間に本人が申告します。本人が亡くなった場合は、故人に代わって相続人が所得の申告と納税の手続きを行わなければなりません。
この手続きを「準確定申告」といいます。亡くなった方の1月1日から死亡した日までの所得を計算し、相続人が責任を持って申告を引き継ぐのが法律に定められたルールです。
1-2 通常の確定申告との違いと注意点
通常の確定申告と準確定申告の大きな違いは、その申告期間と申告主体です。
通常の確定申告は前年分を翌年3月までに申告しますが、準確定申告は死亡した日を基準に考えるため、申告時期が人によって異なります。
また、亡くなった方の「医療費控除」についても注意が必要です。死亡日までに支払った医療費のみが対象となり、死亡後に親族が支払った分は、支払った親族自身の確定申告で控除することになります。
1-3 申告義務を負うのは原則として相続人全員
準確定申告を行う義務があるのは、包括受遺者(遺言によって割合で財産を譲り受ける人)を含む相続人全員です。
そのため原則として、相続人全員が連署して申告書を提出する形がとられますが、実務上は、相続人の一部が代表して申告したり、各相続人が個別に申告したりすることも認められています。
もっとも、申告内容や税額の配分について相続人間で認識のずれが生じると、後日、税金の負担割合や精算方法を巡ってトラブルになるおそれがあるため、申告前に相続人間で十分に内容を確認しておくことが重要です。
第2章 準確定申告が必要になるケースと不要なケース
2-1 会社員でも申告が必要になる代表的なケース
一般的に、会社員として働いている方の所得税は、勤務先が年末調整を行うことで完結するため、ご自身で確定申告をする必要はありません。しかし、常に申告が不要なわけではなく、亡くなった方の収入状況によっては、相続人が準確定申告を行わなければならないケースが存在します。
例えば、給与収入が2,000万円を超えていた場合や、会社以外の副業(給与所得・退職所得以外の所得)が20万円を超えていた場合には、会社での精算とは別に準確定申告が必要です。また、2ヶ所以上の会社から給与を受けていた場合も対象となります。
一方で、医療費控除やふるさと納税などの寄付金控除を適用することで、天引きされていた税金が戻ってくる(還付される)可能性もあります。その場合は、義務ではありませんが「還付申告」として手続きを行うことで、遺族が還付金を受け取れるメリットがあります。
2-2 自営業やフリーランスで事業所得があった場合
亡くなった配偶者が個人事業主として自営業やフリーランスを営んでいた場合、原則として相続人による準確定申告が必要になります。事業を営んでいる方の所得税は、日々の売上から経費を差し引いた事業所得を基に計算されるため、会社員のような年末調整が存在しないからです。
この際、特に注意したいのが「どこまでを経費として認めるか」という判断です。死亡した日までに発生した必要経費は、故人の所得から差し引くことができますが、その判断には正確な帳簿整理が欠かせません。また、事業を家族が引き継ぐのか、あるいは廃業するのかによって、税務署へ提出すべき届出書(廃業届や青色申告承認申請書など)も変わってきます。
2-3 アパート経営などの不動産所得があった場合
配偶者がアパートやマンションを貸し出したり、駐車場を経営したりして不動産所得を得ていた場合も、基本的には準確定申告が必要となります。ここでの実務上のポイントは、亡くなった日を境に誰の所得になるかを明確に区別することです。
亡くなった当日までに発生した賃料収入は、故人の所得として準確定申告に含めますが、翌日以降に発生する賃料は、その不動産を相続した人の所得として計算しなければなりません。遺産分割協議が長引いて不動産の所有者が決まっていない期間の賃料は、一般的には、法定相続人がそれぞれの相続分に応じて所得を申告する形がとられますが、実際の賃料管理状況などにより取り扱いが変わることもあります。
2-4 公的年金等の受給者に申告が必要なボーダーライン
亡くなった方が年金生活を送られていた場合、まず確認すべきは確定申告不要制度の対象かどうかです。具体的には、「公的年金等の収入金額が400万円以下」で、かつ「年金以外の所得が20万円以下」であれば、所得税の申告義務はありません。
しかし、この条件に当てはまっていても、申告をすることで、払いすぎていた税金が戻ってくるケースがあります。例えば、年金からあらかじめ所得税が源泉徴収されている場合、故人の医療費控除などを適用して準確定申告を行えば、還付金を受け取れる可能性があります。
第3章 準確定申告の期限と手続きの具体的な流れ
3-1 「死亡を知った日の翌日から4ヶ月以内」という期限
準確定申告の最も注意すべき点は期限です。通常の確定申告のような一律の期限ではなく、「相続の開始があったことを知った日(通常は死亡日)の翌日から4ヶ月以内」に申告・納税を済ませなければなりません。葬儀や法要、遺産調査、相続人調査などで慌ただしい中、4ヶ月という期間は短いです。準確定申告に必要な領収書や源泉徴収票などの資料を収集し、迅速に準備に取り掛かる必要があります。
3-2 申告書に付随する準確定申告付表の作成と署名捺印
準確定申告では、通常の確定申告書(第一表・第二表)に加えて、「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(準確定申告付表)」という書類を添付します。
これには、相続人全員の氏名、住所、マイナンバー、相続分、納付税額(または還付税額)の割り振りなどを記載します。相続人全員の署名が必要になるため、遠方に相続人がいる場合は書類のやり取りに時間がかかることを想定しておかなければなりません。
3-3 提出先はどこ?故人の納税地を管轄する税務署への提出
申告書の提出先は、相続人の住所地ではなく、亡くなった方の死亡時の住所地を管轄する税務署です。例えば、亡くなった夫が福岡市内に住んでおり、相続人である妻が東京都内に住んでいる場合でも、福岡の税務署へ提出することになります。遠方の場合は、郵送やe-Taxによる電子申告を活用することになります。
第4章 準確定申告と相続税申告の意外と知られていない関係性
4-1 還付金は「相続財産」として加算対象になる
準確定申告の結果、税金が戻ってくる還付金が発生することがあります。この還付金を受け取る権利は、亡くなった方が生前に持っていた債権とみなされます。
つまり、戻ってきた還付金は故人の財産として相続税の課税対象資産に含まれ、相続税申告を行う際に必ず計上しなければなりません。
4-2 納付した所得税は「債務控除」として相続税を減らせる
一方で、準確定申告によって所得税を納付することになった場合、その納付税額は相続税の計算において債務として扱うことができます。亡くなった方の負債を相続人が代わりに支払ったことになるため、遺産総額から差し引くことができるのです。これを「債務控除」と呼び、相続税を節税する重要なポイントとなります。
準確定申告と相続税申告は、このように密接な関係にあるため、両者をセットで適切に処理することが重要といえます。
第5章 手続きを放置した場合のデメリットと注意点
5-1 期限を過ぎると発生する「無申告加算税」と「延滞税」
準確定申告の4ヶ月の期限に申告が間に合わなかった場合、本来納めるべき税額に加えて「無申告加算税」が課される可能性があります。また、期限から納付日までの日数に応じて「延滞税」という利息のような税金も発生します。
悲しみの中、慣れない手続きを後回しにしたくなる気持ちは分かりますが、金銭的なペナルティは無視できない負担となります。特に事業を営んでいたケースでは税額が大きくなる傾向があるため、早めの対応が必要です。
5-2 遺産分割協議が整っていない場合の申告方法
申告期限である4ヶ月以内に、遺産分割協議(誰がどの財産をもらうかの話し合い)がまとまらないことも珍しくありません。その場合でも準確定申告の期限は延長されません。
暫定的に各相続人が法定相続分に応じて納税・還付の手続きを行うことになります。さらに後日、遺産分割協議が整った後に、実際の取得割合に応じて修正が必要になる場合もあります。
第6章 不安な相続手続きはワンストップの専門家へご相談を
配偶者の死亡に伴う確定申告(準確定申告)は、単なる税金の精算ではなく、その後の相続税申告や遺産分割、不動産登記など、あらゆる相続手続きの起点となる重要な工程です。この重要な手続きを4ヶ月という極めて短い期限内に行わなければなりません。葬儀や法要、役所への届け出などで心身ともに疲弊している状況において、複雑な手続きをミスなく完遂することは想像以上に大きな負担となります。だからこそ、こうした事務手続きは専門家に任せる選択肢を検討してみてください。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・税理士・司法書士がひとつの窓口で連携するワンストップ体制を整えています。準確定申告はもちろん、相続税や不動産の名義変更、法的に円満な遺産分割のアドバイスまで相続に関するすべての課題を一括でサポートいたします。何から手をつければいいのかわからない場合はもちろん、複雑な事務手続きから解放されたいという方も、ぜひ私たちへご相談ください。
Nexill&Partners Group(弁護士法人Nexill&Partners)
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