先祖代々受け継がれてきた土地を相続したものの、売買契約書などの資料が残っておらず、いつ・いくらで取得した土地なのか分からない場合、相続税や将来の売却時に不利になるのではないか、相続登記を進めてよいのか、と不安を感じるものです。結論から申し上げますと、取得費が不明であっても相続登記や売却は可能です。ただし、税務上の概算取得費のルールを知っておかないと、本来払わなくてよい税金を負担してしまうリスクがあります。
第1章 先祖代々の土地で「取得費が分からない」場合に起こる問題
1-1 取得費不明でも「相続登記」や「名義変更」は進められる
代々受け継がれてきた土地の相続手続きにおいて、まず行うべきは「相続登記(名義変更)」です。「当時の購入価格が分からないと登記ができないのではないか」という質問を受けることもありますが、相続登記において当時の取得価格(買値)を法務局に届け出る必要はありません。
相続登記は、「誰がその土地を引き継いだか」を公的に記録する手続きです。戸籍謄本などの相続人を証明する書類と、遺産分割協議書などの誰が相続するかを決めた書類があれば手続きを進めることができます。
1-2 懸念されるのは売却時の「譲渡所得税」への影響
取得費が分からないことが影響するのは、相続した土地を「売却」した時です。土地を売って利益が出ると譲渡所得税がかかりますが、この税額は「売却代金 - (取得費 + 譲渡費用)」という計算式で算出されます。計算式にある譲渡費用とは、仲介手数料や印紙税など、売却するために直接かかった諸経費のことです。
先祖伝来の土地や買い入れた時期が古く取得費が分からない土地の場合、税務上の取扱いとして、売却代金の5%を取得費とみなす方法が原則として用いられます。たとえば、取得費が不明な土地を1000万円で売却した場合、取得費は50万円と換算され、取得費が分かっているケースに比べて譲渡所得税が高くなる可能性があります。
1-3 相続税の申告において取得費の把握が節税効果を生むケース
相続税の計算においては、基本的に相続時点の評価額(路線価などに基づく評価)を用いるため、過去の取得費が直接影響することは稀といえます。しかし、相続した土地を一定期間内に売却する場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる「相続税の取得費加算の特例」という制度があります。
この特例により、売却時の譲渡所得を圧縮できる可能性があります。
相続税の取得費加算の特例とは
相続税の取得費加算の特例とは、相続によって取得した不動産などを一定期間内に売却した場合に、支払った相続税の一部を、その不動産の取得費に加算できる制度です。
この特例が適用されるのは、主に次のようなケースです。
- 相続や遺贈により財産を取得していること
- 相続税の申告を行い、実際に相続税を納付していること
- 相続開始日の翌日から一定期間(原則として3年10か月以内)に、その財産を譲渡していること
加算できる金額や適用可否は、相続税額や売却時期、財産の範囲によって異なりますが、先祖代々の土地のように取得費が分からない場合でも、相続税を支払っていれば、その一部を取得費として加算できる余地がある点は重要といえます。
第2章 取得費が不明な時のルール「概算取得費」と実務上の対策
2-1 売却価格の5%とみなされる「概算取得費」の仕組み
どうしても当時の購入価格を証明する書類(売買契約書や領収書など)が見つからない場合、税務上は「概算取得費」というルールを適用します。これが1-2で述べた、売却価格の5%を取得費として計算するルールです。
一見便利なルールですが、実際には当時の購入価格はもっと高額であったケースも多く、納税者にとって不利な計算になることも少なくありません。
2-2 5%よりも高い取得費を証明するための代替資料
売買契約書がなくても、他の資料を組み合わせることで概算取得費の5%以上の取得費を認めてもらえるケースがあります。
実務上で有効となり得る資料には以下のようなものがあります。
売買契約書以外に取得費を証明するための資料の一例
- 当時の通帳の記帳記録(出金履歴)
- 不動産仲介会社への手数料の領収書
- 住宅ローンの金銭消費貸借契約書
- 当時の不動産広告やパンフレット、価格表
- 過去の遺産分割協議書に記載された評価額
これらの資料がある場合、専門家が合理的な推計を行い、税務署に対して概算取得費(5%)以上の金額が合理的であると説明できる場合があります。ただし、認められるかどうかは資料の内容や個別事情によって異なります。
第3章 取得費不明の土地を相続した際の具体的な手続きステップ
3-1 【ステップ1】自分で進めるか専門家に頼むかの「判断基準」を知る
まずは自身のケースの難易度を見極めましょう。以下の条件に当てはまる場合は、早い段階で弁護士や税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
登記の放置度
数代前から土地の名義を変えていない場合。相続人が把握できないほど枝分かれし、家系図の作成や戸籍収集など個人の手に負えない可能性が高いといえます。
税務の難易度
土地の売却予定があり、売却価格が数千万円単位になることが予想される場合。概算取得費(5%)で計算すると、本来払わなくてよい税金が数百万円単位で発生する可能性があります。
3-2 【ステップ2】法務局で登記簿謄本と閉鎖登記簿を確認する
対象の土地の「登記簿謄本(全部事項証明書)」を取得しましょう。登記簿謄本には、前所有者がいつ、どのような原因(売買、相続、贈与など)でその土地を取得したかが記載されています。また、「閉鎖登記簿」も確認します。閉鎖登記簿とは、現在のコンピュータ化される前の古い手続きの記録です。これを遡ることで、明治や大正、昭和初期といった、古い取得経緯や当時の所有者の情報が判明することがあります。
3-3 【ステップ3】遺産分割協議で将来の売却方針を共有する
土地を引き継ぐ際、複数の相続人がいる場合は遺産分割協議を行います。ここで重要なのが、誰が継ぐかを決めるだけでなく、将来の譲渡所得税のリスクを考慮しておくことです。
先述のように、取得費が不明の土地を売却した場合、多額の譲渡所得税を課せられる可能性があります。遺産分割の際、そうした将来の売却時の税金負担分を考慮し、現金の配分を多めにするなどの調整を行っておくことが、相続人間のトラブルを未然に防ぐことにつながります。
第4章 まとめ:取得費不明の土地を相続する際の注意点
先祖代々の土地で取得費が分からないという問題はめずらしいことではありません。大切なのは、分からないからと放置せず、可能な対策を講じることです。
今回のポイントを振り返ります。
- 取得費が不明でも、相続登記(名義変更)は支障なく進めることができる
- 懸念は売却時の税金だが、代替資料の収集や合理的推計で節税できる可能性はある
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・税理士・司法書士などの専門家が一体となって相続をサポートするワンストップ体制を整えています。取得費の調査や推計、複雑な相続登記、そして将来を見据えた遺産分割案の作成までおまかせください。「古い土地なので何から手を付けていいか分からない」「高額な税金がかかるか不安」といったお悩みがある場合は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
Nexill&Partners Group(弁護士法人Nexill&Partners)
福岡を中心に、全国からご相談をお受けしております。 弁護士だけでなく社労士・税理士・司法書士・行政書士と多士業が在籍。 遺産相続、企業支援(企業法務・労務・税務)に特化した総合法律事務所です。 博多駅徒歩7分。初回相談無料、お気軽にお問い合わせください。 当グループでは博多マルイ5Fの「相続LOUNGE福岡オフィス」を運営しております。こちらもぜひご活用ください。
