「田舎の実家を相続したけれど、誰も住む予定がない」「建物が老朽化して売れる見込みがない」といった空き家の処分に関するお悩みは、現代の相続において増加傾向にあります。放置すれば固定資産税や維持管理費がかさむだけでなく、特定空家として勧告を受けるリスクもあります。また、空き家は「取り壊し費用を誰が負担するのか」「更地にした後にどう現金化するのか」など親族間で合意をとることもハードルといえます。本記事では、空き家を「負の遺産」にしないための処分方法や費用の捻出方法について、弁護士がわかりやすく解説します。
第1章 地方の空き家相続で直面する3つの問題
1-1 老朽化による「売れない・貸せない」問題
郊外の空き家相続で最初に直面することが多いのが、物件そのものの市場価値です。
親が長年住み続けてきた家は、相続時には築40年や50年を超えていることも珍しくありません。日本の住宅市場では、木造住宅の耐用年数が重視されやすい傾向があり、一定の築年数を超えると、建物価値が低く査定されてしまうことがよくあります。
また、人口減少が進んでいる地域では需要も低くなります。リフォームして賃貸に出そうにも、改修費用を回収できるほどの家賃設定ができず、売ろうにも買い手がつかないという「売れない・貸せない」の二重苦に陥りやすいのです。
1-2 高額な「取り壊し・維持管理費用」の負担
次に多いのが、金銭的なコストの問題です。誰も住んでいないからといって、維持費がゼロになるわけではありません。最低限、以下のような維持費が考えられます。
空き家の維持で発生する費用の例
- 固定資産税・都市計画税
- 火災保険料・地震保険料
- 庭木の剪定や草刈りの代行費用
- 建物の老朽化に伴う修繕費
さらに、建物を解体して更地にする場合は、一般的な木造住宅でも目安として100万円~200万円が費用の相場であり、場合によってはそれ以上の高額な解体費用が必要になることもあります。この費用を相続人の誰が支払うのかという点は、遺産分割協議において揉めやすいポイントです。
1-3 共同相続人間での「遺産分割協議」の難航
さらに、「空き家を売りたい兄」と「思い出があるから残したい妹」、「自分は遠方に住んでいるから一切関わりたくない弟」といったように、兄弟姉妹(共同相続人)の間で意見が食い違うこともよくあります。そもそも不動産は、現金のように1円単位で分けることが難しいため、遺産分割協議が長期化しやすい傾向にあります。
中でも、処分に費用がかかる物件の場合、相続人の間で「誰が責任を持って処分を進めるのか」の押し付け合いになり、結果として誰も手をつけないまま年月だけが過ぎてしまうケースが多いのです。
第2章 相続した空き家の放置リスクとは?
2-1 住宅用地特例の解除による固定資産税の増額
通常、人が住むための家が建っている土地(住宅用地)は、固定資産税が最大6分の1に減額される特例が適用されています。
しかし、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、倒壊の危険や衛生上有害な状態にあると判断された「特定空家」に指定された場合、この優遇措置が受けられなくなります。
また、特定空家には現状なっていないものの放置すればそのおそれがあると判断された場合は、「管理不全空家」として指導・勧告の対象となり、この勧告を受けた場合も優遇措置が解除されることがあります。
2-2 近隣トラブルや損害賠償責任の発生
管理されていない空き家は、損害賠償のリスクや近隣住民とのトラブルの原因にもなりかねます。
管理状態に不備があった場合のリスク
屋根瓦が飛んで隣家に当たった、塀が崩れて通行人がケガをしたといった場合、空き家の管理状況によっては、民法上の工作物責任が問題となります。
工作物責任において注意すべきは、所有者の責任は「無過失責任」であるという点です。たとえ所有者に過失(不注意)がなかったとしても、建物の設置や保存に欠陥があれば、損害賠償義務を免れることは難しいといえます。
火災のリスク
漏電や可燃物への引火等によって空き家で火災が発生する危険があることを容易に認識し得たのに、空き家を長期間放置し適切な管理と防火措置を怠っていたような場合には、空き家の所有者・管理者等には重大な過失があるとして、多額の損害賠償責任を負うおそれもあります。
そのほかのリスク
上記のほか、空き家が不法投棄の温床になってしまう、ネズミなどの害獣が住み着いてしまって糞害などが出てしまうなど、近隣への影響が出ることでのトラブルやクレームが発生し、精神的に追い詰められてしまうケースもよく聞かれます。
2-3 相続登記懈怠による過料のおそれ
2024年4月から「相続登記の申請義務化」が施行されました。それまで、相続しても名義を変えずに不動産を放置する人が多く、所有者不明の土地が増え続けていたためです。
これを受け、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請することが義務となり、正当な理由なく怠った場合には10万円以下の過料(行政上の義務違反に対する金銭的なペナルティ)が科される可能性があります。郊外の空き家であっても、放置したままでは通らなくなっているのです。
第3章 空き家の処分方法:売却・譲渡・活用の選択肢
3-1 仲介売却:建物付きで売るか、更地にして売るか
空き家の処分方法の一つは、不動産会社を通じて買い手を探す「仲介売却」です。
古くても住める状態であれば、昨今のDIYブームや古民家需要で建物付きのまま売れる可能性があります。
一方で、建物の損傷が激しい場合は更地(さらち)にした方が買い手の活用イメージが湧きやすく、早期売却につながりやすい傾向があります。ただし、先述の通り解体費用は安くなく、しかも売却より先に必要になるため、費用をかけても利益が出せるのか需要を慎重に見極める必要があるといえます。
3-2 不動産業者の買取:金額より早期処分を優先し、業者に売却する
「早く手放したい」「いつ売れるかわからない」という場合は、不動産業者が直接買い取る「買取」という選択肢があります。一般的には市場価格の7割〜8割程度が目安とされ、先の仲介売却に比べると下がることが多いですが、物件の条件や地域によって大きく異なります。また、契約内容によっては契約不適合責任(売った後の不具合に対する責任)を免除してもらえるケースもあり、相続人にとって心理的な負担が軽減される点がメリットといえます。比較的早く処分ができるため、遺産分割協議をスムーズに進めたい場合にも活用されやすい選択肢といえます。
3-3 相続土地国庫帰属制度:国に引き取ってもらう
空き家を解体することが前提にはなりますが、2023年に制度が開始された相続土地国庫帰属制度を利用することで、解体後の土地を国に引き渡すことができます。ただし、制度の利用には一定の厳格な要件が設けられており、すべての土地が対象となるわけではありません。
相続土地国庫帰属制度の申請要件
申請ができるのは「建物が建っていない更地」に限られます。建物がある土地は原則として対象外となるため、事前に自費で解体が必要となるケースが一般的です。その他にも、以下のような却下事由や不許可事由に該当しないことが条件となります。
- 担保権(抵当権など)や使用収益を目的とする権利が設定されていないこと
- 通路やその他の利用によって他人に使用されていないこと
- 土壌汚染対策法に規定する特定有害物質により汚染されていないこと
- 境界が明らかであり、所有権の帰属や範囲について争いがないこと
- 崖(勾配が30度以上かつ高さが2m以上)がある土地で、管理に過大な費用がかからないこと
また、費用面でも注意が必要です。
審査手数料として土地1筆につき1万4,000円が必要なほか、承認された場合には「10年分の土地管理費用相当額」を負担金として納める義務があります。負担金の額は土地の地目によって異なりますが、一般的な宅地であれば20万円〜程度、市街地の宅地や農地などでは面積に応じて加算される仕組みです。
「更地にする費用」と「負担金」の両方を支払ってでも手放す価値があるのか、慎重な検討が必要といえます。
3-4 無償譲渡(寄付):自治体や隣地所有者への打診
どうしても売れない場合、自治体や隣地の所有者に「タダでもいいから引き取ってほしい」と相談する方法もあります。
しかし、自治体は公共利用の目的がない限り寄付を受けないことが一般的です。一方で、隣地の所有者にとっては「自分の土地を広げられる」というメリットがあるため、前向きに検討してもらえる可能性もあります。
第4章 空き家の処分費用・取り壊し費用をどう捻出するか
4-1 他の預貯金から優先的に充当する分割案
親が不動産以外に預貯金を残していた場合、その預貯金を空き家の解体費用・管理費用として確保した上で、残りを相続人で分ける方法はよく用いられます。実務では、遺産分割協議の中で、「実家を相続する人が解体費用として〇〇万円多めに受け取る」といった合意を形成する方法が一般的です。
4-2 空き家解体費用の補助金・助成金の活用
空き家の増加を防ぐために「解体費用の補助金制度」を設けている自治体もあります。
対象となる建物の条件(耐震基準を満たさないもの等)や上限額は自治体ごとに異なりますが、目安として50万円から100万円程度の補助を設けている自治体もあります。補助金は原則として工事着手前の申請が必要ですので、早めに役所の担当窓口へ確認することをおすすめします。
4-3 「換価分割」による売却代金からの精算
換価分割(かんかぶんかつ)とは、遺産分割方法の一つで、不動産などを売却して現金化し、その現金を相続人間で分け合う方法です。この方法のメリットは、相続人の誰が費用を出すかという不公平さを解消できる点にあります。
たとえば、代表者一人が不動産を相続する代償分割の場合、その代表者がまず自腹で解体費用や仲介手数料を支払い、さらに他の親族に支払う代償金も準備しなければなりません。
一方、換価分割の場合、遺産分割協議書に「売却代金から諸経費を差し引いた残金を分配する」と明確に定めておけば、売却にかかる仲介手数料や税金、解体費用などを経費として売却代金(共通の財産)から差し引くため、精算がクリアになり、相続人の間で利益を平等に分けやすくなります。
第5章 空き家の遺産分割協議における注意点
5-1 誰が「空き家の名義」を持つべきか?(二次相続を見据えて)
土地の名義について、とりあえず「母(父)」にしておくという選択は、数年後に母(父)が亡くなった際の二次相続で再び同じ問題に直面することになります。また、親が高齢であれば、将来的に空き家や土地を売却したくなったときに、親の判断能力が認知症などによって低下していると、成年後見人の選任が必要になるなど、手続きが複雑になるリスクもはらんでいます。将来の売却・処分を見越して、今のうちに判断のできる相続人が名義を継承することの重要性を理解しておく必要があります。
5-2 遠方の空き家を管理・処分する負担の公平性
たとえば、「実家に近い長男」と「遠方に住む次男」がいる場合、物理的な管理や売却活動の手間は長男に集中します。これを「近くにいるのだから当然のこと」とせず、遺産分割協議の場で「管理する人の負担」を見える化しておくことが大切です。
管理にかかった交通費や手間を考慮した分配にする、あるいは、一切の手続きを専門家に委託し、その費用を遺産から出すように提案するなど、相続人の間で負担が平等になる方法を検討しましょう。
5-3 空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の特例を活用する
相続した空き家を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、通常は所得税・住民税がかかりますが、一定の要件を満たせば3,000万円まで控除できる特例(被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)があります。
この特例を受けるための主な要件は以下の通りです。
3,000万円まで控除できる特例の要件の例
建物の要件
昭和56年5月31日以前に建築された区分所有建物(マンション等)以外の家屋であること。
居住の要件
相続開始の直前において、被相続人が一人で住んでいたこと(老人ホーム等に入所していた場合も、一定の条件を満たせば対象となります)。
売却の要件
譲渡対価(売却価格)が1億円以下であること。
さらに、2024年(令和6年)1月1日以降の譲渡からは、重要な法改正が行われました。
これまでは「売却する時まで」に耐震改修を行うか、更地にする必要がありましたが、改正後は「売却した翌年2月15日まで」にこれらを完了させれば特例が適用できることになりました。これにより、更地にするための先行投資(解体費用)を売却代金で後から賄うことが可能になり、活用の幅が大きく広がったといえます。ただし、相続人が3人以上の場合、一人あたりの控除限度額が2,000万円に制限されるといった細かなルールもあります。この特例が使えるかどうかで、手元に残る現金が数百万円単位で変わることもあるため、売却を具体的に進める場合は税理士を交えたシミュレーションをおすすめします。
第6章 田舎の空き家問題は早めの対策を
郊外の空き家問題は、時間が経過するほど建物の劣化が進み、処分の選択肢が狭まってしまいます。さらに、2024年からの相続登記義務化により、放置し続けることのリスクも以前に比べて高まっているのが現状です。
本記事で解説した通り、空き家の処分には「物理的な片付け」「金銭的なコスト」「親族間の感情と権利の調整」という3つの側面があります。まずは、ご自身たちが相続した物件にどのようなリスクがあり、どのような処分の選択肢があるのかを整理することから始めることをおすすめします。
今すぐできるチェックポイント
2. 土地・建物の名義人が誰になっているか、登記事項証明書を取得して確認する
3. 自治体に空き家解体の補助金制度があるかホームページ等で確認する
4. 他の相続人と「将来的に誰が管理・処分に関わるか」を一度話し合ってみる
空き家の処分や遺産分割協議において、法律・税務・登記の課題を個別に解決しようとすると、多大な労力と時間がかかります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士・税理士・司法書士が一体となり、必要に合わせて、相続人調査から遺産分割協議、相続登記、そして税務申告までをワンストップでサポートできる体制を整えています。相続に関するご相談は初回相談無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。
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