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後見(成年後見・任意後見)

成年後見人の使い込みが判明したら?知っておくべき注意点を弁護士が解説

2025.06.30

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成年後見人には本人の財産管理という重大な責任がありますが、後見人が預貯金の使い込みなどの不正行為を行った場合はどうしたらよいでしょうか?本記事では、使い込み事案の具体例と実際に使い込みが疑わしい場合にまずやるべきことについて弁護士が解説します。後見人による使い込みが疑われる方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.成年後見制度と使い込みリスクの概要

成年後見制度は、判断能力が不十分な方(認知症、高次脳機能障害等)を法律・生活面で保護する仕組みです。成年後見人は家庭裁判所の選任を受け、被後見人(本人)の財産管理および身上監護を担います。具体的には、預貯金の管理、不動産契約の締結、福祉サービス利用の手配、日常的な生活費の支払など、その権限は広範です。

しかしこの大きな裁量ゆえ、「預貯金の無断引き出し」「不動産売却で利益を横取り」「架空の支出による資産流用」などの使い込みトラブルが発生することがあります。

後見人による被後見人の財産の使い込みは「善管注意義務」の重大な違反ですので、

使い込みが判明した際には、第一に被後見人の生活費を確保し、財産管理を適切に立て直すことで本人の生活や権利を守らなければなりません。

また、被後見人死亡後に後見人の使い込みが発覚した場合、相続人が不当利得返還請求を行い、使い込まれた財産を相続財産に復帰させなければ、正しい相続手続が進められないことにも留意が必要です。

2.後見人による使い込みの具体的な例

2-1.預貯金の不正引き出し

最も典型的なのが、銀行口座からの無断引き出しです。

  • 通帳記帳やWeb明細で引出履歴に心当たりのない出金がある
  • 窓口で大口引き出しが繰り返されている
  • 後見人名義の口座への直接振り込みが頻繁に行われている

被後見人名義口座にある預金の管理は後見人の本来業務ですが、引出先や金額に合理性がなければ不正流用が疑われます。

2-2.不動産売却・譲渡トラブル

後見人は被後見人が保有している不動産の管理権限を持ちますが、不動産の売却や賃貸に出す場合は家庭裁判所の許可が必要です。

  • 登記簿に見覚えのない所有権移転登記がある
  • 売却代金が被後見人の口座ではなく、後見人の個人口座に振り込まれていた
  • 裁判所の許可書の提示がないまま契約が進められている

裁判所の許可なく不動産が処分された場合は、登記抹消請求や不当利得返還請求の対象になります。

2-3.架空支出・過大支払請求

本人のためではなく、後見人自身や第三者に便宜を図る架空支払を行っているケースもあります。

  • 領収書の金額が相場とかけ離れている
  • サービス提供者の氏名・住所が不明瞭である
  • 同じ支出が複数回計上されている

こういった架空支払が行われていた場合も、不当利得返還請求の対象になります。

2-4.家族や第三者への無償贈与

後見人権限を利用し、被後見人財産を自分や親族に無償譲渡するケースです。

  • 不動産や高価品が譲渡されている
  • 譲受人が後見人の親族または関係者である

無償譲渡は明らかな代理権逸脱です。登記抹消請求や損害賠償請求の対象になります。

3.後見人による使い込みが疑われる場合にまずやるべきことは?

3-1. 早急に後見監督人選任の申し立てを行う

成年後見人には、家庭裁判所への後見業務の報告義務はあるものの、親族に対して定期的に領収書や支出報告を義務づける法律上の規定はありません。

そのため、使い込みが疑わしい場合に親族側で後見人の支出を確認したい場合は、

1.後見監督人選任の申立てを家庭裁判所で行い、監督人を通じた調査を要請する

2.後見人に対し、任意で領収書や会計明細の開示請求をする

といった手段をとるのが実務的です。

ただ、後見人が使い込みを行っている場合は任意での領収書等の開示に応じてくれない可能性が高いので、親族が「後見人の行為に疑問がある」と判断した場合は、早急に家庭裁判所へ後見監督人選任の申立てを行い、選任された監督人を通じて財産状況の調査を行ってもらいましょう。

なお、被後見人が亡くなった後に後見人の使い込みが疑われる場合については、相続人であれば金融機関などの取引履歴の取得が可能ですので、財産状況の調査も親族側で進めることができます。

3-2. 並行して後見人の職務執行停止の仮処分を求めてもよい

後見人による使い込み疑いが悪質な場合、家庭裁判所に対して後見人の権限行使(特に財産処分行為)の一時停止命令を出してもらう手続き、すなわち「職務執行停止の仮処分」を申し立てることができます。

3-2-1.仮処分が認められるとどうなるのか?
  • 仮処分の内容: 後見人が被後見人名義の口座から預貯金を引き出したり、不動産を処分したりする行為を一時的に禁止します。
  • 効 果: 仮処分決定が出ると、後見人は当該行為ができなくなりますが、後見人としての地位自体は残ります。
3-2-2.被後見人の生活を保障するための対策

仮処分決定が出て、後見人による財産管理が一時的に禁止されると、被後見人の日々の必要経費(介護費、医療費、公共料金、生活費など)を払えなくなる恐れがあります。そこで、仮処分を申立てる時に、以下のような条件を付けてもらうことを裁判所に併せて求めることが一般的です。(条件付仮処分)

1. 生活費用の留保命令
被後見人の最低限の生活費分だけは後見人が引き出し・支払いができるよう、それを許可する条項を仮処分命令に盛り込む

2. 別途支払命令
被後見人の最低限の生活費分を親族や後見監督人が立替えて支払い、後日、被後見人の預貯金口座から精算する方式を認めてもらう

3.後見監督人への仮権限付与
監督人選任と同時に、監督人が日常支出を執行できる旨の仮命令を取得する

なお、仮処分によって後見人の財産処分権限が停止されたままだと長期的には支障が大きいため、並行して共同後見人の申し立てや後見人交代の申し立てを行い、最終的に新たな後見体制(監督人または新たな後見人が主体的に財産管理・支出を行う)に移行させていきましょう。

4.本コラムのまとめ

成年後見人の使い込みは、被後見人の権利を侵害する行為であり、被後見人の生活保障にも関わる重大な事案です。

対応が遅れると、使い込みの被害額が膨らむリスクもあります。

不当に使い込まれた財産の返還請求に加えて、後見人自身への損害賠償請求や刑事責任の追及も視野に入れての対応が必要になるケースもありますので、後見人による使い込みが疑わしい場合は早急に弁護士へご相談ください。

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