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後見(成年後見・任意後見)

任意後見契約書を公正証書で作る際のポイント—実務と注意点を弁護士が解説

2025.06.27

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高齢化が進む現代社会では、「判断能力が低下したときに備えて、自分の財産管理や身上監護を誰かに任せたい」というニーズがますます高まっています。そんな将来の不安を解消する制度として注目されているのが任意後見制度で、制度を利用するためには任意後見契約書の締結が必要です。本記事では、任意後見契約書の作成方法、実際の公証役場での手続きフロー、そして契約書の内容を検討するときに押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。認知症リスクや資産管理への不安を少しでも減らしたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

もくじ

1.任意後見契約を公正証書で作成する意義とは

任意後見制度は、自分の判断能力が十分にあるうちに「判断能力が低下した後の財産管理や身上監護を誰に任せるか」を契約で決めておく仕組みです。その契約を「任意後見契約」と呼び、将来、家庭裁判所の審判によって正式に後見が開始すると、契約で定めた内容に基づき後見人(受任者)が本人の生活や財産を管理していきます。
そして、この任意後見契約書は公正証書として作成することが原則とされています。

関連.公正証書とは?

公正証書とは、公証人が作成する公文書であり、私文書よりも高い証明力と安全性を持つのが特徴です。

任意後見契約書以外でも、遺言書や離婚協議時の合意書など様々な用途で使用されます。

公正証書には、以下のようなメリットがあります。

1.形式面の担保

  • 公証人が当事者(本人)の意思能力をチェックし、契約内容が適法かどうかを確認するため、形式不備のリスクや後日の無効主張が起こりにくい。

2.証拠力の高さ

  • 公正証書は公文書として扱われるため、将来「書いてある内容は偽造だ」「本人はそんな契約をしていない」といった争いが生じた際でも、対抗しやすくなる。

3.原本が公証役場に保管される

  • 紛失や破棄のリスクを減らせる。仮に手元で保管していた謄本がなくなってしまった場合でも、公証役場で再度を取得が可能となる。

2.任意後見契約書に盛り込む主要事項

2-1.代理権の範囲:財産管理と身上監護のバランス

任意後見契約では、「後見人にどのような代理権限を与えるか」が重要なポイントです。財産管理だけを限定的に委任するのか、身上監護(施設入所手続きや医療契約など)にも関与してほしいのか、具体的に範囲を定める必要があります。

  • 財産管理だけの場合: 預貯金の管理や支払い代行などに限定。日常生活の介護・医療の判断は家族が行う想定。
  • 身上監護も含む場合: 本人の生活全般を見守り、必要に応じて施設との契約や病院の手続きを代行する。

2-2.後見人(受任者)の権限・報酬・費用負担

契約書には「誰が後見人となるか」だけでなく、「報酬を支払うかどうか」「後見業務にかかる費用をどの口座から支払うか」といった具体的な定めを記載します。

  • 報酬の規定の仕方: 月額一定の報酬を支払う、特定の業務のみ報酬を設定するなど状況に応じて様々です。
  • 各種費用負担の定め: 公証役場の手数料や登記費用、あるいは将来的な後見監督人の費用も考慮する場合は、ここも契約書内に含めます。

2-3.終了事由・解除条件—契約の変更や撤回

任意後見契約は「将来的に判断能力が低下したら開始」という長期的な契約です。よって、途中で契約を変更・撤回したい場合や、後見が開始した後に契約を解除する場合のルールを明確にしておく必要があります。具体的には、本人の意思能力がまだ残存している段階での撤回条件などを条項に盛り込む例が多いです。

2-4.将来の認知症リスクに備えた具体的条項

認知症が進行すると、金銭管理や医療の手続き、介護サービスの利用など多岐にわたる業務が必要になります。任意後見契約書には、想定できる介護費用や医療手続きを網羅し、「受任者がどの範囲で代行できるのか」をなるべく詳細に記載しておくのがおすすめです。

  • 例: 「介護保険サービスの利用契約」「高齢者施設との入所契約」「福祉用具のレンタル」など。
  • 3.公証役場での手続き:実務フローと必要書類

    3-1.事前準備:公証人との打ち合わせと必要書類

    公正証書を作成するには、公証役場に事前連絡し、相談の上で内容を作成します。その際の一般的な必要書類としては、以下のようなものが該当します。

    • 本人(契約者)の実印・印鑑証明書
    • 後見人予定者の印鑑証明書
    • 本人・後見人予定者の戸籍や住民票
    • 契約書案(弁護士など専門家が作成補助することを推奨します)

    • 上記の契約書案をもとに公証人と打ち合わせをしつつ、代理権や契約内容を確認し、問題がなければ正式に作成日の予約を行います。

    3-2.意思能力の確認と公証人面談

    任意後見契約は本人が判断能力を有しているうちに締結することが前提です。そのため、公証人は実際に本人と面談して意思能力を確認します。認知症の初期段階であっても、必要な説明を理解し契約内容を把握できる程度の能力があれば契約が可能な場合もありますが、後々のトラブルを防ぐためにも、判断能力に問題のない、なるべく早い段階で任意後見契約を検討することが望ましいです。

    3-3.公正証書作成当日の流れ

    1.公証役場での最終確認: 本人・後見人予定者・公証人が契約書案を確認

    2.署名押印: 公証人の面前で署名、実印を押し、公証人も職務上の押印を行う

    3.公証役場の手数料支払い: 契約書のページ数や財産額などによって変動する

    4.正本・謄本の受領: 契約書は原本を公証役場が保管し、本人や後見人予定者は正本および謄本を受け取る

    3-4.法務局への登記

    公正証書が完成したら、公証人の嘱託により任意後見契約の締結があった旨が法務局に登記されます。この登記があることで、将来的に家庭裁判所が任意後見監督人を選任する際や、第三者が契約の存在を確認する際に役立ちます。

    なお、登記が完了すると、後見登記事項証明書(後見人の氏名や代理権の範囲が記載された公的な書面)の交付を受けられますので、この書面を見せることで任意後見人は自己の代理権を証明することが可能となります。

    4.任意後見契約書作成時に押さえておきたい実務ポイント

    4-1.想定外のトラブルを防ぐための条項設計

    契約書には、たとえば「後見人が財産をどこまで自由に処分できるか」「定期的な報告義務はあるか」「万一後見人に不正が疑われる場合、どのように解任・変更するか」といった条項を定めておくと、将来のトラブルに対処しやすくなります。弁護士等の専門家の助言を受けながら条項を整備するのが安全です。

    4-2.家族・親族への共有

    任意後見契約は、本人と後見人になる予定の受任者だけで完結しがちですが、将来的には他の親族が「なぜ財産を管理できるのか」と疑問を抱く場面もあり得ます。事前に家族や親族へ説明し、トラブル回避につながるよう内容の共有・合意を得ておくとスムーズです。

    4-3.作成費用と公証役場手数料の目安

    公証役場の手数料は、契約の種類や条項の内容によって変わります。任意後見契約の場合、おおむね1契約あたり1〜2万円程度が目安とされますが、契約の内容や登記手数料を合わせるともう少し上積みされるケースもあります。

    • 弁護士に依頼する場合: 公証役場手数料とは別に、後見契約書作成費用がかかりますが、契約内容の不備回避・後々の修正リスクを下げるという目的では専門家に相談の上で作成されることを推奨しています。

    4-4.契約内容の変更・撤回時の注意点

    任意後見契約は将来にわたるものなので、契約締結後に状況が変わる場合が考えられます。たとえば、後見人に指定した親族が急に病気になり引き受けられなくなったなど、契約書作成時から事情が変わった場合は契約自体の撤回や変更が認められますが、本人の意思能力が残っていること、再度公正証書の作成が必要になりますので注意が必要です。

    5.契約書の内容を検討するうえでの具体例—こんな場合はどうする?

    5-1.財産管理に限定したシンプルな契約例

    例:

    • 目的: 預貯金や日常生活の支払いに特化した管理
    • 条項: 後見人は銀行口座を管理し、光熱費や施設利用料などを支払う/高額財産の処分には家庭裁判所や親族の同意を要する
    • メリット: あまり手間や費用がかからない、家族に心理的負担をかけにくい

    5-2.身上監護(介護・医療手続き)も含める場合

    例:

    • 目的: 本人が認知症などで介護が必要になったとき、後見人が医療・介護サービス契約を代行
    • 条項: 入所施設や病院との契約を結ぶ代理権、介護保険・福祉サービスの利用手続き全般を任せる権限
    • 注意点: 事前に本人の希望(在宅介護か施設入所か)や費用の上限なども盛り込んでおく

    5-3.後見受任者を法人(弁護士法人等)にするケース

    個人ではなく法人(たとえば弁護士法人や司法書士法人)を任意後見人として契約書を作成することもできます。

    • メリット: 一人の後見人が病気や死亡などで業務不能になっても、法人全体でサポートを継続できる
    • デメリット: 報酬体系が個人より高めになる場合もある

    6.当事務所のサポート範囲:弁護士・税理士・司法書士によるワンストップサポート

    6-1.任意後見契約書作成・弁護士による後見人就任

    当事務所では、任意後見契約書の草案作成から公証役場との調整までをトータルにサポート可能です。後見対象者の財産が大きい場合、後見人として弁護士等の専門家を就けなければいけないケースもありますので、財産規模の確認、後見人の権限や報酬規定など細部まで精査の上で、ご本人のご希望を踏まえた形での後見契約書の整備および必要であれば弁護士を任意後見人とすることをご提案いたします。

    6-2.認知症リスクや後々の相続対策まで見据えたサポート

    当事務所の強みは、弁護士・税理士・司法書士が一体となって「後見契約→後見開始→相続準備→相続手続(名義変更・税務申告)」までを一括サポートできることです。任意後見契約を締結してそこで終わりではなく、その後の実際の後見実務からその後の相続に備えた準備まで、スムーズに財産管理や相続準備を進められるようサポートいたします。

    7.本コラムのまとめ—早めの後見契約書の準備で将来のリスクを最小限に

    任意後見制度は、判断能力がしっかりある段階で契約を結ぶ必要があります。「まだ大丈夫だろう」と思って先延ばしにするほど、いざというとき手続きが間に合わなくなるおそれが高まります。認知症リスクや高齢化による体調変化を考慮して、できるだけ早いうちから準備を始めるのが賢明です。

    公正証書で任意後見契約を作成するときには、誰を後見人にするのがよいのか、契約書に何を盛り込むかなど、専門家の視点があるだけで迷いが軽減されます。当事務所では、弁護士・税理士・司法書士による総合的なサポートにより、お客様の状況に合わせた最適な任意後見契約書づくりをお手伝いします。

    初回無料相談も承っておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
     

    Nexill&Partners Group(弁護士法人Nexill&Partners)

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