相続財産の中に非上場株式(自社株など)が含まれている場合、その価値をいくらと見積もるかによって相続税額や遺産分割に大きく影響します。非上場株は価値算定が複雑で、類似業種比準方式や純資産価額方式など、企業によって評価方法が異なります。本記事では、相続実務において非上場株式の価値がどのように決まるのか、代表的な評価方式の仕組みから、算定時に見落としがちな注意点まで、専門的な視点で分かりやすく解説します。
第1章 会社規模によって決まる「原則的評価方式」の仕組み
非上場株式の価値算定において、中心となるのが「原則的評価方式」です。これは、会社の規模(大・中・小)に応じて、後述する「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」を使い分け、あるいは組み合わせて評価するルールの総称です。
1-1 「大・中・小」の会社区分はどう決まるのか
会社区分は、主に「従業員数」「総資産価額」「直近1年間の取引金額(売上規模の目安)」といった指標によって判定されます。直前期末以前1年間において従業員数が70人以上の会社は、原則として「大会社」に分類されますが、それ未満の場合は業種(卸売業・小売サービス業・製造業等)ごとに定められた基準に各指標を当てはめて判定します。
この判定でどの区分に該当するかによって、次項で解説する「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」のどちらを優先して使うかが決まります。
1-2 類似業種比準方式:同業種の上場会社と比較して算出する方法
主に「大会社」や「中会社」に適用される方式です。評価対象の会社と事業内容が似ている上場会社の株価をモデルとし、「配当金」「利益金額」「純資産価額(帳簿価額)」の3つの要素を比較して株価を算出します。
上場会社の株価を基準にするため、自社の資産を直接評価するよりも評価額が低く抑えられる傾向にあります。ただし、業績が急激に向上した年などは、この方式によって想定外に評価額が跳ね上がるケースもあるため、直近の利益水準には注意が必要です。
1-3 純資産価額方式:会社の「解散価値」に着目して算出する方法
主に「小会社」に適用される方式です。「現時点で会社を解散させ、すべての資産を時価で売却して負債を返済した後に、株主にいくら残るか」という、いわば会社の解散価値を計算します。
会社が長年積み上げてきた利益(内部留保)や、含み益のある不動産を保有している場合、この方式を適用すると株価が高額になる傾向があります。
1-4 併用方式:会社の規模に応じて2つの方式をミックスして算出する方法
「中会社」に分類される場合に用いられます。会社の規模(従業員数、取引金額、総資産価額)に応じて、L値と呼ばれる比率を用い、類似業種比準方式と純資産価額方式を一定の割合で組み合わせて評価します。この規模判定を見誤ると、適用される計算式が変わり、最終的な評価額が大幅に変動することもあります。方式の適用割合は税務調査で確認されやすい項目のため、客観的かつ正確な判定が求められます。
第2章 株主の立場によって変わる評価方法:支配株主か少数株主か
非上場株式の評価において、会社規模と並んで重要なのが「誰がその株を引き継ぐか」という株主の属性です。同じ会社の株式であっても、引き継ぐ人の立場によって、適用される評価方式が異なります。
2-1 経営権を持つ株主が適用する「原則的評価方式」
亡くなったオーナー社長の配偶者や後継者など、会社を支配できる立場にある「同族株主」が株式を相続する場合、第1章で解説した「原則的評価方式」が適用されます。
これは、その株式が経営権という強い権限を伴うため、会社の資産価値をダイレクトに反映させるべきだという考えに基づいています。結果として、後述する特例的な方式に比べて評価額は高くなり、相続税の負担も重くなる傾向があります。
2-2 配当を受け取る権利に着目する「特例的評価方式(配当還元方式)」
一方で、経営に関与しない「少数株主(配当だけを目的とする株主)」が株式を相続する場合には、例外的に「配当還元方式」という特例的な評価が認められます。
これは「その株を持っていることで、年間いくらの配当がもらえるか」という収益性のみに着目して価値を決める方法です。原則的評価方式に比べると、評価額が抑えられる傾向があります。親族以外の従業員や、経営に関わっていない遠縁の親戚などが少数の株を持っている場合、これらに該当する可能性があります。
2-3 親族間での株式譲渡や相続で注意すべき「同族株主」の判定
実務上、判断が分かれやすく、かつ慎重な判断が求められるのが「誰が同族株主に該当するか」という判定です。
本人の持ち株比率が低くても、その親族や同族グループ全体の持ち株比率が50%を超えている場合には、経営権があるとみなされ、原則的評価方式をとられる場合があります。「評価額が抑えられるから」と安易に特例的評価方式(配当還元方式)で申告してしまうと、後に税務署から過少申告として指摘を受け、追徴課税が発生するリスクがあります。
相続人ごとの正確な立ち位置を、家系図と株主名簿を照らし合わせて精査することが不可欠といえます。
第3章 実務で直面しやすい非上場株式の価値算定における注意点
非上場株式の評価額を算出するためには、単に決算書の数字を計算式に当てはめるだけでは不十分です。なぜなら、計算の土台となる会社資産の評価をどう捉えるかによって、最終的な株式の評価が変動するからです。
ここでは、実務の現場で特に間違いやすく、株価に大きな影響を与えるポイントを解説します。
3-1 会社の保有資産が自社株の評価を左右する
第1章で解説した、主に小会社に適用される「純資産価額方式」で株式の価値を算出する場合、実務上は、不動産など会社が保有する資産を一つひとつ今の価値(相続税評価額)に評価し直すことが必要になります。
例えば、数十年前に1,000万円で取得した土地が、現在は5,000万円の価値がある場合、その差額(含み益)の分だけ会社の資産価値が増えたことになり、結果として自社株1株あたりの評価額も押し上げられます。
つまり、非上場株式の算定を正確に行うには、単に株式だけを見るのではなく、その他すべての保有資産を正しく評価することが重要になります。
3-2 会社規模に関わらず評価方法が変更される「例外的なケース」
非上場株式の評価には、第1章で解説した通常のルール(会社規模による判定)が適用されない「例外的なケース」が存在します。
これを「特定の評価会社」と呼び、例えば以下のような状況にある会社が該当します。
土地保有特定会社
総資産のうち、土地が占める割合が非常に高い会社
株式等保有特定会社
他社の株式を多く保有している会社
これらの会社に該当するかどうかは、「相続が発生した時点」の資産バランスで判定されます。つまり、その時点で土地や他社株の割合が基準を超えていた場合、類似業種比準方式の適用が制限され、評価額が高くなりやすい純資産価額方式が中心となる場合があります。
3-3 税務署による否認リスクを避けるための客観的な証拠の重要性
非上場株式の価値算定は、税務調査において最も指摘を受けやすい項目の一つです。特に争点となりやすいのが、第1章で解説した「類似業種比準方式」における業種の選択です。この方式では、自分の会社を「卸売業」「製造業」などの区分に当てはめて計算しますが、実務上はさらに細かな「中分類・小分類」まで正しく判定する必要があります。もし、相続税を安くするために本来の事業実態よりも株価が低く設定されている業種を恣意的に選んでいると判断されれば、税務署から厳しく指摘されることになります。
妥当性を欠く低い評価額で申告したと判断された場合には、重加算税が問題となる可能性もあり得るほか、親族間での遺産分割協議そのものが「不適切な評価に基づいたもの」として紛争に発展するリスクも否めません。
こうした側面からも、非上場株式の算定は専門家の知見に基づいて判断することが推奨されます。
第4章 適正な価値算定を円滑に進めるための実務ステップ
非上場株式の評価を正確に行い、かつ相続人同士の納得感を得るためには、事前の資料準備と手続きの進め方がポイントになります。
4-1 直近3期分の決算書と申告書から現状を把握する
適正な株価算定のために、まずは資料を収集します。
類似業種比準方式では「配当・利益・純資産」の3要素を用いますが、これらは直近1年間の数字だけでなく、過去2年間の平均値を採用できる場合もあります。3期分の法人税申告書と決算書を揃えることで、その年特有の一時的な要因(特別損失や突発的な利益など)を考慮した、より実態に近い評価、あるいは有利な評価方法を選択できる可能性があります。
まずは、不足している年度の資料がないか、早めに顧問税理士等へ確認しておくことが推奨されます。
4-2 遺産分割協議をスムーズに進めるための合意形成の工夫
株価の算定結果が出た後、次のハードルとなるのが相続人全員の合意を得ることです。
税務上の評価額はあくまで相続税を計算するための指標であり、他の相続人が「その金額で買い取れるほど価値があるのか」「もっと高く売れるはずだ」と不満を持つことも少なくありません。
特に後継者が株式を相続し、他の親族が預貯金等を相続する場合、算出された価値に疑念を持たれないためには客観的な証拠が必要といえます。なぜその評価方式になったのか、なぜその業種を選んだのかといった算定の根拠を、税理士などの専門家から客観的に説明してもらうことが感情的な対立を防ぐ有効策になり得ます。
第5章 非上場株式の算定を円満な相続の第一歩に
非上場株式の価値算定は、相続税の負担を左右するだけでなく、残された家族が円満に財産を分け合うことにつながります。会社の規模、株主の構成、保有資産などを踏まえ、税務署にも親族にも納得してもらえる適正な評価額を導き出さなければなりません。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士・税理士・司法書士が連携し、複雑な株価算定から円満な遺産分割までをトータルでサポートできる体制を整えています。会社を守り、家族を守るための専門的な対応が必要な場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
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