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コラム

遺産が不動産のみの場合遺産分割協議書はどう作る?相続登記にも流用できるのか?弁護士が解説

2025.12.24

相続財産が不動産だけの場合、「どう遺産分割協議書を作ればよいか」「その協議書を相続登記にも使えるのか」と悩む方は少なくありません。また、協議書を作成した後に預貯金などの新たな財産が判明した場合、協議書の扱いや修正方法にも注意が必要です。
この記事では、遺産が不動産のみの場合に遺産分割協議書を作成する手順・記載方法、相続登記への流用の可否、追加財産発覚時の対応まで、実務の視点から弁護士が分かりやすく解説します。

1. 不動産のみの相続の場合の遺産分割協議書のポイント

相続財産が不動産のみである場合、遺産分割協議書で特に注意すべき点があります。
それは、不動産の取得方法や評価、登記の要件に即した記載です。

たとえば

  • 「誰が」「どの不動産を」「どのように取得するのか」を明確にする
  • 地番・地目・地積・所在など登記事項を登記簿に準拠した表現で正確に記載する
  • 「相続人のうち〇〇が単独で取得する」「××と△△が2分の1ずつ取得する」など、具体的かつ一義的な表現を用いる

不動産は、協議書の記載に不備があると登記手続が通らないため、登記を見据えて協議書を作成することが不可欠です。

なお、遺産分割協議書の作成においては、相続人全員の同意・署名・押印が必要です。
たとえ不動産を一人の相続人が単独で相続することに合意している場合でも、他の相続人の同意書や署名がなければ、協議書としての効力を持ちませんので注意しましょう。

2. 遺産が不動産のみの場合の協議書作成手順

2-1. 不動産の調査・評価

協議書を作成する前に、まずは相続対象となる不動産の内容を正確に把握しておく必要があります。
主な確認資料は以下の通りです。

登記事項証明書(登記簿謄本)

→所有者名義、地番、地目、地積、持分などを確認

固定資産評価証明書(役所で取得)

→登記申請時の登録免許税計算、相続税評価の基礎資料

公図・地積測量図・建物図面等(必要に応じて)

これらの資料をもとに、協議書に記載すべき不動産の内容(地番・家屋番号等)を明確化します。

2-2. 相続人の確定

相続人を正確に確定することも協議書作成の前提条件です。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得し、相続関係説明図を作成します。
以下の資料が一般的に必要となります。

  • 被相続人の戸籍謄本(出生〜死亡まで)
  • 被相続人の除票または住民票の除票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票(登記用)

特に兄弟姉妹が相続人となる場合など、戸籍の取得範囲が広くなることが多いため、取得漏れがないように注意が必要です。

2-3. 分割方法の決定

不動産のみの相続では、遺産の分け方をどのように決めるかによって、協議書の書き方や登記の必要性が大きく変わってきます。
分割の方法は、法的には以下のような3つに分類されます。

① 現物分割

被相続人の不動産を、そのままの形で相続人の誰かに帰属させる方法です。
現物分割には、さらに以下のような形態があります。

単独取得

相続人のうち1名が不動産すべてを取得する

共有取得

複数の相続人が持分割合を定めて共有取得する
この方法では、相続登記が必要となります。
遺産分割協議書にも登記簿に準じた不動産の記載と、取得者の氏名・続柄・取得内容を正確に記載しておきましょう。

② 換価分割

不動産を相続人が直接取得するのではなく、不動産を第三者に売却し、その代金を相続人間で分け合う方法を換価分割といいます。
相続人全員が「売却による分配」に合意している場合に有効な分割方法で、現金化することで分配がしやすくなるため、遺産の分割が円滑に進むケースも多く見られます。
実務では、遺産分割協議書に「不動産を売却し、売却代金を各相続人に均等に分配する」等と記載されます。

この場合は、まずは相続登記を入れたあとで買主へ所有権移転を行うこととなりますが、一定の要件を満たす場合は相続登記を経由せず直接買主への所有権移転登記が認められることもあります。
ただし、上記は登記官の判断により取扱いが異なるため、事前に法務局へ確認しておくことが重要です。
買主への直接の登記が通らなかった場合には、改めて相続登記を経てからの所有権移転が必要となります。

③ 代償分割

不動産自体は1人の相続人が取得し、代わりに他の相続人へ現金(代償金)を支払う方法です。
たとえば、長男が実家の土地建物を相続し、次男と三男にはそれぞれ500万円ずつ支払うといったケースが典型です。
遺産分割協議書には、取得者の氏名と代償金額を明記し、支払方法・期限についても記載することが一般的です。
この方法も相続登記が必要ですが、他の相続人に現物財産の持分が移るわけではないため、登記は不動産を取得した相続人が単独で行うことが可能となります。

2-4. 協議書への正しい記載方法と注意点

1. 不動産の表示は登記簿どおりに記載する

まず、分割対象となる不動産は、登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されているとおりに正確に記載する必要があります。
住居表示ではなく地番表記にて、地目・地積(または家屋番号・種類・構造・床面積)まで全て過不足なく記載しましょう。
不動産が複数ある場合は、1物件ごとに分けて明記してください。

2. 分割方法に応じた記載例と注意点
現物分割(単独取得/共有取得)の場合の記載例
  • 「被相続人所有の下記不動産を、相続人〇〇(住所・氏名・続柄)が単独で相続する」
  • 「被相続人所有の下記不動産を、相続人△△および□□が2分の1ずつの割合で相続する」
注意点
  • 持分割合(共有の場合)は分数または小数で明示する
換価分割の場合の記載例
  • 「本件不動産は相続人全員の合意により第三者に売却し、売却代金は相続人それぞれに均等に(指定割合がある場合は明示する)分配する」
注意点
  • 「換価目的の売却」である旨を明記すること
代償分割の場合の記載例
  • 「本件不動産は相続人〇〇が取得し、その代償として相続人△△に対して現金500万円を支払う」
  • 「代償金の支払期限は令和〇年〇月末日とし、支払が遅延した場合には年5%の遅延損害金を付す」
注意点
  • 代償金の金額・支払方法・支払期限は明確に記載(口約束のままでは後日紛争化のリスクがあります)
  • 税務上の取り扱いに影響するため、贈与と誤解されないよう法的構成を明確にして記載する

3. 作成した遺産分割協議書は登記申請にもそのまま使用できるのか?

3-1. 登記に使用できる協議書の要件とは?

相続登記に使用する遺産分割協議書は、法務局が求める記載形式や添付書類の要件を満たしていることが前提となります。

具体的には
  • 不動産の表示が登記事項証明書どおりに正確に記載されていること
  • 相続人全員の署名・実印による押印があること
  • 各人の印鑑証明書が添付されていること
  • 取得者の住所・氏名・続柄が明確に記載されていること

これらの要件を満たしていれば、基本的には登記申請時にそのまま協議書を添付して問題ありません。

3-2. 実務で「登記用の遺産分割協議書」を別途作成する主な理由

原本提出と“原本還付”の問題

不動産登記の申請に際しては、遺産分割協議書の“原本”の提出が原則です。
しかし、遺産分割協議書を税務署など他の相続手続でも使用したい場合、登記の際に原本を取られてしまうと他で使えないという問題が生じます。
原本還付の手続を行うことで登記手続後に遺産分割協議書の原本を返してもらうことはできますが、原本還付が完了するまでは遺産分割協議書が手元に無い状態となるので他の相続手続を進めることができなくなる場合があります。
そのため、実務上では登記用に協議内容を同じにした別の遺産分割協議書を1通新たに作成し、それを使用して登記申請を行うことがあります。

登記実務に沿った記載が不足している

法務局が登記を進めるにあたり、登記に必要な形式要件というものがあるため、作成した遺産分割協議書がその形式要件を満たしていなかった場合は、登記の観点から遺産分割協議書の再作成が必要になることがあります。
登記実務では、登記に必要な情報が整理されていることが重視されるため、登記に直接的に関係のない情報を省いた登記用協議書を作る方がスムーズな場合もあります。

相続人の一部が登記に関与しない場合の調整

これは不動産以外の相続財産があるケースが主にはなりますが、遺産分割協議書に不動産以外のすべての財産が記載されているため、登記手続には不要な記載部分も多く含まれます。
そのため、

  • 登記に関係する相続人だけの署名で済ませたい
  • 他の相続人の押印を再取得するのが困難
  • 登記内容に不要な財産情報(預金・動産等)を省略したい

といった目的から、登記に関係する記載だけを抜き出した簡易版の遺産分割協議書を作成し、不動産に関係する相続人の署名だけで登記手続きを進めることがあります。

このように、登記申請用に別の協議書を作成するのは、登記所の実務的要求(原本提出・書式要件)や、他の手続(税務・金融機関など)との併用ニーズに応じて、合理的・実務的に調整された対応です。法的には同一の協議書内容でも、法務局の要件に応じて形式を分けて再作成するのが現実的ということになります。

4. 遺産分割協議書作成後に新たな財産が見つかった場合の対応とは?

遺産分割協議書を一度作成したあとで、不動産以外の財産が見つかった場合、すでに作成・署名済の遺産分割協議書をどう扱えばよいか、そして再作成や追加協議が必要かどうかがポイントになります。

4-1. 新たな財産が少額であり、既存の協議書で対応可能なケース

協議書作成後に見つかった財産が少額であり、かつ取得する相続人について特段の異論がない場合には、既に作成済みの遺産分割協議書で対応できる可能性があります。
ただし、これはその協議書の中に「包括条項(将来見つかる財産の帰属先を定めた条項)」が記載されていることが前提です。

包括条項の記載例

「本協議書に記載のない財産が後日判明した場合には、相続人〇〇が取得することに相続人全員が合意する。」
このような条項があれば、相続人全員の改めての協議を省略できるケースがあります。
ただし、上記は必ずすべてのケースで適応されるわけではなく、場合によっては包括条項のみでは対応不可とされることもあるのが実務の現実です。
特に以下のような場面では、別途協議書や同意書の作成を求められる可能性がありますので、留意が必要です。

  • 金融機関が「財産ごとの明確な合意」を要求する場合
  • 登記の対象となる不動産が新たに判明した場合
  • 相続人の一部が、後から異議を唱える余地がある場合

実際に手続を進める前に、法務局や金融機関などに確認をとり、必要に応じて追加の補足協議書を作成する準備をしておくことが望ましいでしょう。

4-2. 追加での遺産分割協議・遺産分割協議書の作成が必要なケース

ご自身の状況が次のいずれかに該当する場合は、既存の遺産分割協議書だけで対応することはできません。

  • 協議書に包括条項がそもそも記載されていない
  • 包括条項はあるが、取得者に異議を唱える相続人がいる
  • 後から見つかった財産が高額であり、取得方法や配分を相続人全員で改めて検討すべき性質である
  • 不動産など、登記・税務等の手続で個別の記載が求められる財産が含まれている

このような場合には、相続人全員で改めて話し合いを行い、新しく見つかった財産に対して追加の遺産分割協議書を新たに作成する必要があります。

新たな遺産分割協議書を作成する際の注意点
  • 相続人全員の署名・実印押印+印鑑証明書添付が再度必要になります
  • 既存の協議書との整合性を保つ必要があるため、分割内容や取得者に矛盾が生じないように注意が必要です
  • 相続税の申告後であれば、更正の請求または修正申告の対応も検討しなければなりません
  • 登記や金融機関での名義変更手続に使用する場合は、個別の手続要件(不動産表示、通帳記載情報等)を満たす内容である必要があります

なお、再度の遺産分割協議を行うことになった場合において、とくに以下のような状況では、弁護士の法的確認・助言のもとで再協議・協議書作成を進めるのが望ましいです。早めに弁護士にご相談ください。

  • 一部の相続人が協議書の再作成に消極的/拒否的である
  • 初回の協議書に曖昧な文言が含まれており、どこまでが対象か不明瞭である
  • 財産の性質上(不動産/営業資産/未上場株式等)、法的整理が必要である
  • 相続税・贈与税等の税務リスクが懸念される

4-3. 既に作成済みの遺産分割協議書を一からやり直すことはできるのか?

原則として、相続人全員の合意があれば、既に作成した遺産分割協議書を「撤回」して、新たな協議書を作り直すことは理論上は可能ですが、次のような制約やリスクがあります。

  • 登記がすでに完了している場合、一度抹消登記を入れてから再登記が必要になる
  • 税務申告が済んでいる場合、更正の請求・修正申告が必要になる可能性あり
  • 合意が得られていた内容を覆す場合、他の相続人との感情的対立が発生しやすい

やはり、相続手続が完了してしまった段階で、既存の遺産分割協議書を撤回して再度やり直すことは実務的な負担が大きくなるため、初回の協議書作成時点での財産調査と遺産分割内容の設計は慎重に行うことが重要だと言えます。

5. 不動産のみの遺産分割協議書作成に関連するよくある質問

Q1. 不動産が空き家でも遺産分割協議書に記載すべきですか?

はい、空き家であっても、それが被相続人名義であれば相続財産に含まれるため、遺産分割協議書に必ず記載すべき対象となります。「使っていないから」「評価額が低いから」といって記載を省略すると、登記や売却ができなくなったり、後に共有者が増えて手続が困難になったりすることがあります。漏れなく記載を行ってください。

Q2. 被相続人名義の不動産が未登記だった場合、協議書にはどう記載すればよいですか?

未登記の不動産であっても、被相続人が所有していたことが確認できるのであれば、遺産分割協議書には通常の不動産と同様に記載する必要があります。
たとえば、建物について登記簿が存在しない場合であれば、以下のような情報をもとに「不動産の表示」を協議書に記載します。

  • 固定資産税の課税明細書・固定資産評価証明書
  • 市町村役場の家屋台帳記載事項証明書
  • 建築確認申請書・図面など

協議書に記載する際は、これらの資料に基づき、
「東京都〇〇区〇〇町〇番地 木造瓦葺2階建 延床面積〇〇㎡ 昭和〇年築(家屋番号なし・未登記建物)」のように、登記簿がないことを明示したうえで、所在・構造・床面積などを特定できるように記載します。
その後、相続人への名義変更を行うためには、相続人の一人が法務局に対して所有権保存登記および相続登記を申請することになります。

Q3. 自分は相続放棄したのですが、遺産分割協議書への署名を求められています。応じる必要はありますか?

いいえ、相続放棄を家庭裁判所に正式に申述して受理された人は、法的には「最初から相続人ではなかったもの」と扱われます。そのため、相続放棄が確定している方が遺産分割協議書に署名・押印する必要はありません。 ただし、登記手続きの際に法務局が放棄の事実を確認するために「相続放棄申述受理通知書」の提出を求めることがあるため、相続放棄をした場合は協議書への署名ではなく、放棄を証明する書類の提出が実務上必要な対応となります。

6. 当事務所のサポート内容(弁護士×司法書士×税理士)

当事務所では、弁護士法人・司法書士法人・税理士法人が社内連携し、相続に関する一連の実務をワンストップで対応可能な体制を整えています。
特に遺産分割協議書を作成する際においては、弁護士に事前相談しておくことで、以下のようなトラブルを回避することができます。

  • 財産漏れがないよう、戸籍・財産調査の段階からサポート
  • 包括条項の入れ方や、追加協議のリスクを事前に説明

また、遺産分割協議が完了した後の登記申請・必要に応じて相続税申告についても全てご対応が可能です。
不動産の遺産分割についてご不安な点がございましたら、まずは一度ご相談ください。

 

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監修者:後藤 祐太郎
弁護士後藤 祐太郎

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士後藤 祐太郎

  • 2010年
    日本大学法学部 卒業
  • 2012年
    慶應義塾大学大学院法務研究科 修了
  • 2014年
    竹口・堀法律事務所 入所
  • 2016年
    現:弁護士法人Nexill&Partners 入所 那珂川オフィス支店長 就任

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