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コラム

遺産分割に期限はある?—「遺産分割の期限」の基本と、手続き別の期限の全体像

2025.09.04

相続が発生したとき、多くのご相談者様から必ずといってよいほど出てくる質問があります。
それは「遺産分割には期限があるのでしょうか?」というものです。
結論からいえば、遺産分割協議そのものには法律で一律の期限はありません。しかし、相続税や相続登記、そして特別受益や寄与分を主張できる期間など、周辺の相続手続の中には明確な期限が設けられているものもあります。このため、遺産分割を「のんびり進めても大丈夫」と考えてしまうと、思わぬ不利益を被ることになりかねません。本記事では、遺産分割の期限の考え方から、手続き別の期限と注意点までを弁護士が解説します。

もくじ

1. 遺産分割協議の期限の捉え方

1-1. 遺産分割協議に一律の期限はない/ただし周辺手続に「実質的な期限」

法律上、遺産分割そのものに「〇年以内に終わらせなければならない」という期限は存在しません。したがって、相続人全員が合意できないまま時間が経過しても、ただちに分割協議そのものが無効になるわけではありません。
しかし一方で、相続税の申告や不動産の名義変更、遺留分侵害額請求など、周辺の手続には明確な期限が存在します。結果として、期限を意識せずに遺産分割を放置していると取り返しがつかない不利益につながることになりかねません。

1-2. 押さえるべき周辺手続の期限とは

相続に関して期限を考えるうえで、最低限覚えておきたいのは以下の3つです。

相続開始を知った日の翌日から10か月

相続税の申告・納付期限

相続開始を知った日の翌日から3年

相続登記の申請義務(正当な理由なく怠れば過料)

相続発生から10年

遺産分割で特別受益・寄与分を主張できる期限
この「10か月・3年・10年」を軸にして全体像を理解すると、遺産分割のスケジュール感が把握しやすくなります。

1-3. その他手続きを含めた周辺手続の期限の全体像

上記の3つに加えて、その他にも期限がある手続がいくつかありますので、どの時期にどんな手続きがあるのかを以下整理しています。

相続開始を知った日の翌日から〜3か月:相続放棄・限定承認の判断

 借金が多い可能性がある場合や財産内容が不透明な場合、この期間内に放棄や限定承認を検討する必要があります。

相続開始を知った日の翌日から4か月:準確定申告

 被相続人が事業収入や給与所得を得ていた場合、相続人が代わりに確定申告を行います。

相続開始を知った日の翌日から10か月:相続税の申告・納付

 財産規模によっては相続税の申告が必要です。10か月が申告と納付の期限となります。

不動産の相続をしたことを知った日から3年以内:相続登記の申請

 2024年4月から義務化された手続きで、相続から3年以内に不動産の名義変更を行わなければなりません。

相続開始から10年:遺産分割の制約(特別受益・寄与分の主張期限)

 相続開始から10年が経過すると、生前贈与や介護貢献を分割に反映させることができなくなります。

さらに、遺産分割を長期間放置すると、相続人の中で新たな死亡が発生する「二次相続」が生じる可能性が高まります。二次相続含めた数次相続となってしまうと、相続人の数が倍増し、遺産分割協議がますます複雑になりますので、期限はないかもしれないですができるだけ長期化させずに遺産分割を進めることが望ましいでしょう。

2. 手続き別の期限と実務ポイント

相続の手続きには、それぞれ法律上の期限が明確に定められているものがあります。ここでは、手続ごとに実務的な注意点や法的背景を含めて解説します。

2-1. 相続放棄・限定承認:相続開始を知った日の翌日から3か月

相続放棄・限定承認は、民法915条に基づき、相続開始を知ったときから3か月以内(熟慮期間)に家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。この期間内に手続をしなければ「単純承認」とされ、被相続人の借金も含めてすべてを相続することになります。
負債の有無が分からない場合には、裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることが可能です。実務上は「財産調査に時間がかかる」「金融機関からの残高証明取得に遅延がある」といった事情を添えて申請します。特に近年は、保証人となっていた借金やクレジット債務が死後に判明する例も増えており、この3ヶ月の熟慮期間を特に何もしないまま過ごすのはリスクが大きいといえます。この期間である程度の財産の有無を必ず確認し、少しでも相続放棄の可能性がある場合は早急に弁護士に相談しましょう。

2-2. 準確定申告:相続開始を知った日の翌日から4か月

被相続人が死亡した年の1月1日から死亡日までの所得については、所得税法124条に基づき、相続人が代わって相続開始から4か月以内に準確定申告を行う義務があります。対象となるのは給与所得や事業所得だけでなく、不動産所得や株式譲渡益なども含まれます。
申告時には、未払給与や医療費控除、社会保険料控除といった控除項目も考慮できます。特に医療費控除は亡くなる直前の入院費用が大きくなることが多く、税額を抑える上で重要です。実務では、被相続人が利用していた医療機関・金融機関からの明細を早めに収集しておくことが期限内申告をスムーズに実施するうえで大事となります。

なお、給与所得を得ていた場合でも、年収2000万円以下であり、かつ副業などの給与以外の所得が年間20万円以下の場合、準確定申告は不要です。

2-3. 相続税の申告・納付:相続開始を知った日の翌日から10か月

相続税は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告・納付しなければなりません。この期限を過ぎると延滞税や加算税が課されるだけでなく、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった特例の適用については期限内申告が条件となりますので、申告が遅れると大幅な節税制度を適用できなくなるリスクがあります。
そのため、遺産分割がまとまらない場合でも、期限内に未分割申告を行い、あわせて申告期限後3年以内の分割見込書を提出することが必要です。これを提出していれば、後日分割が成立した際に特例を遡って適用し、更正の請求によって税金の還付を受けることが可能になります。
財産のおおよその金額を把握の上で、相続税が発生する場合は申告手続きと納税資金の準備を早めに始めることが望ましいため、一定程度の相続財産が見込まれる場合はなるべく早く専門家に相談されてください。

2-4. 相続登記の申請義務:不動産を相続したことを知った日から3年以内

民法改正により、2024年4月以降に相続が発生した場合、不動産を相続したことを知った日から3年以内の不動産登記が義務化されました。正当な理由なくこれを怠ると10万円以下の過料に処されることがありますので、必ず期限内に相続登記が必要です。期限内に未分割のときは、便宜的に法定相続分で持分登記を行い(相続人の共有名義で登記をする)、後日分割協議がまとまった際に再度登記をし直す方法が認められています。ただし、共有状態のまま放置すると、売却や担保設定など不動産の活用が難しくなるため、早期の正式分割が推奨されます。

2-5. 遺留分侵害額請求:遺留分侵害を知った日から1年/相続開始から10年

遺留分を侵害された相続人は、民法1048条に基づき、遺留分の侵害を知った日から1年以内、または相続開始から10年以内に遺留分侵害額請求権を行使しなければなりません。これを過ぎると、遺留分の権利を失い、たとえ侵害が明らかでも請求できなくなりますので、期限内に遺留分請求の意思表示を行わなければなりません。
実務では、まず内容証明郵便で請求の意思表示を行い、その後協議がまとまらなければ調停・訴訟へ進む流れとなります。遺留分請求は金銭債権として扱われるため、裁判例では請求後5年で時効にかかると解釈されています。こちらも、請求期限内に対応ができなければ取り返しがつかないため、弁護士に相談の上で早めの行動が不可欠です。

2-6. その他の実務的期限

年金受給停止の手続きや生命保険金の請求なども、期限が設けられている場合があります。さらに、金融機関による預貯金の払戻しや名義変更、株式の相続手続きも、それぞれ放置すれば不利益につながりかねないため、期限のあるなしにかかわらず早めの対応が望まれます。相続全般の期限を把握しておくことが、手続を漏れなく対応するためには重要となります。

3. 相続手続の期限に影響する代表的な例と対応のポイント

3-1. 遺産分割の話し合いが進まず、期限が迫ってしまう

遺産分割の現場では、期限そのものよりも「話し合いが進まない」というトラブルが多発します。例えば、相続人の一人が連絡に応じず印鑑を押してくれないケースや、相続人が海外・遠方に住んでいて書類のやり取りに数か月単位の時間を要するケースは珍しくありません。こうした状況では分割協議が遅れ、相続税や相続登記の期限に直接影響してきます。
また、遺産の内容によっても時間がかかることがあります。特に不動産や株式の評価は、専門家の鑑定や市場価格の調査等が必要で、結果が出るまで数か月を要することがあります。その間に遺産分割協議が進まなければ、あっという間に10か月の相続税申告期限を迎えてしまい、やむを得ず「未分割申告」を選択せざるを得なくなることもあります。

ここで注意しておきたいのは、このような事情や理由があったとしても、手続期限を止めることはできないという認識を持つことです。話し合いが難航しても、申告や登記などの手続は期限内に最低限済ませる必要があります。遺産分割協議書の完成を待たずとも、期限を意識した暫定的な対応を行うことで後から修正や補正が可能になります。遺産分割が進まないと感じた際は、専門家のアドバイスを受けながら今何をすべきか?という点を整理し、必要な手続きを行うことが必要です。

3-2. 相続人の人数・相続人の判断能力状況により遺産分割が長期化する

遺産分割にかかる時間は、相続人の数や関係性によって大きく変わります。相続人が配偶者と子ども数名といったシンプルなケースでは数か月以内に協議がまとまることもありますが、相続人が兄弟姉妹、甥姪にまで及ぶと、一気に調整が難しくなります。
さらに、相続人の中に認知症など判断能力に不安がある方がいる場合は、本人が遺産分割協議に参加することができないため成年後見制度を利用しなければ協議が進められず、その申立てと審理に数か月〜半年程度を要します。こうした遅れが出てくると、結果的に相続税申告や相続登記が期限内に対応できなくなるリスクが増大します。

また、遺産分割が調停や審判に持ち込まれると、平均して1年〜2年はかかるのが実務の現実です。調停では複数回の期日が設定され、裁判所の判断を仰ぐまでに長期化するのが一般的です。特に相続税申告については期限が10ヶ月と比較的短いため、裁判所での手続きを行っている最中であっても期限内に何らかの対応を行う必要が出てきます。

いずれにしても、「相続人が多い」「判断能力がない相続人がいる」「揉めていて調停を申し立てられた」というような場合は、早めに弁護士に相談し、その後の裁判手続も視野に入れたスケジュール設定を行うことが、期限を守るための現実的な解決策といえるでしょう。

4. 遺産分割の期限に関連するよくある質問(FAQ)

Q:相続人の中に未成年者がいる場合、遺産分割に時間がかかるのでしょうか?

A:未成年者が相続人となる場合、その子ども自身には法的な判断能力がないため、遺産分割協議に直接参加することはできません。そのため、通常は親が代理人として協議に加わりますが、もしその親自身も相続人である場合、「親と子で利害が対立する」ことになり、親が子の代理人を務めることはできません。
このようなケースでは、未成年に代わって遺産分割協議に参加する特別代理人が必要です。特別代理人の選任には家庭裁判所への申立てが必要で、申立から審理・決定までに数か月の時間を要する場合もあります。

未成年者が相続人となる場合は、特別代理人選任に時間がかかることを前提に、早期に家庭裁判所への申立てを行うと同時に、相続税申告の期限対応も並行して準備する必要があります。できるだけ早めに弁護士に相談のうえで対応を進めることが望ましいでしょう。

Q:相続人の一人が行方不明の場合、遺産分割はどうなりますか?

A:遺産分割協議は相続人全員の合意が必要なため、相続人が1人でも所在不明の場合、遺産分割協議は進められません。
所在不明の相続人がいる場合、まずは所在調査を行って、本当に行方不明の状態かを確認することとなります。(戸籍附票や住民票で転出先を調べる、最後の住所地に郵便物を送って不達記録を残す、親族や知人に照会するなど)
調査を行った結果、それでも所在不明の場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選任してもらったうえで、遺産分割協議を進めていきます。
不在者財産管理人の選任手続も数か月単位での時間がかかるため、早めに弁護士に相談の上で対応を進められてください。

Q:生命保険金の請求にも期限はありますか?

A:はい。生命保険金には請求期限があり、多くの保険会社では「3年」とされています。期限を過ぎると時効により請求できなくなる恐れがあるため、葬儀後なるべく早めに請求手続きを行うことが大切です。
また、よくご質問される点として「遺産分割協議がまとまらないと保険金を受け取れないのか?」というものがあります。結論からいえば、受取人が指定されている生命保険金は遺産に含まれず、受取人固有の財産と扱われます。したがって、遺産分割協議が成立していなくても、受取人は単独で保険会社に請求し、受け取ることができます。
ただし、次のような注意点もあります。

保険金の受取人が指定されていない場合

この場合、保険金は「被相続人の遺産」として扱われ、遺産分割協議で誰が取得するかを決める必要があります。

相続税の課税関係

受取人固有の財産とはいえ、相続税の計算では「みなし相続財産」とされ、他の遺産と合算して課税されます。相続人1人あたり「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があるため、申告時には適切に計算する必要があります。

手続が不安な場合は、払い出しの手続を行う前に一度弁護士にご相談ください。

Q:相続税を期限内に申告できなかったらどうなりますか?支払いの期限が過ぎたらどうなるのでしょうか?

A:相続税は「申告」と「納付」が相続開始から10か月以内に求められています。この期限に遅れると、以下のような不利益が生じます。

延滞税や加算税の負担

 期限を過ぎると延滞税が発生し、場合によっては無申告加算税・重加算税が課されます。延滞が長引くほど税額は膨らみ、数十万円〜数百万円単位で負担が増えることもあります。

特例が使えなくなる

 「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」といった大幅な節税制度は、原則として期限内に申告することが条件です。期限を逃すと、税額が本来よりも大きくなってしまう可能性があります。

納付ができない場合の救済制度

 期限までに一括で支払うことが難しい場合には、申請により「延納(分割払い)」や「物納(不動産や株式で納付)」といった制度を利用できる場合があります。ただし、これらは厳格な要件があり、延納には利子税がかかります。

申告をしなかった場合

 申告をしないまま放置しても、税務署の調査によって財産が把握され、追徴課税を受けるリスクがあります。むしろペナルティが重くなるため、たとえ期限を過ぎても早急に申告・納付を行うことが重要です。

申告・納付が期限に間に合わないと気づいたら、延滞税を最小限に抑えるために期限内にできる最低限の申告・納付をすることと、もし期限を過ぎてしまったらできるだけ早く期限後申告を行うことが最善策です。
なお、相続税の納付は現金納付が原則ですので、納付までの資金準備も考慮が必要です。資金準備が難しい場合は延納や物納が使えるかどうかも含めて、相続に明るい税理士にできるだけ早めに相談されてください。

5. まとめ:期限は“待ってくれない”からこそ早めの行動を

相続において、遺産分割そのものに一律の期限はないとはいえ、相続税や登記など周辺の相続手続には厳格な期限が設けられているものがあます。
期限内の手続ができなかった場合、節税の機会を失ったり、法的権利を行使できなくなったりと、大きな不利益を招くリスクもあります。
遺産分割がうまく進まずに期限が迫ってきていて不安がある、自分たちだけで進めるのが難しいと感じたら、迷わず専門家に相談してください。

当事務所は弁護士・税理士・司法書士が在籍し、遺産分割だけでなく相続税・相続登記までをワンストップで対応できる体制を整えております。相続手続を期限内に安心して進めるために、ぜひお早めにご相談ください。

 

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監修者:松﨑 洋二
弁護士松﨑 洋二

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士松﨑 洋二

  • 2015年3月
    私立九州学院高等学校 卒業
  • 2015年4月
    福岡大学法学部 法律学科 入学
  • 2018年3月
    福岡大学法学部 法律学科 早期卒業
  • 2018年4月
    福岡大学法科大学院 入学
  • 2021年3月
    福岡大学法科大学院 修了
  • 2025年4月
    弁護士法人Nexill&Partners 入所

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