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コラム

兄弟のうち一人だけに相続をさせたい場合に遺言書はどう作る?遺留分・トラブル回避のポイントを弁護士が解説

2025.12.11

「複数いる子どものうち、面倒をよく見てくれた長男にだけ財産を残したい」「兄弟姉妹の中で、昔から一番信頼している妹に財産を相続させたい」
こういった希望を実現するにはどのような手段を取ればよいのか、他の相続人の遺留分への配慮や、遺言作成時の注意点など、押さえておくべきポイントを弁護士が解説します。

1. 「兄弟のうち一人だけに相続させたい」というのは可能なのか?

「兄弟のうち一人だけに相続させたい」という言葉は、主に2つの文脈で登場します。

  • 子どもが複数いる場合に、特定の一人に相続させたい(子ども間の兄弟姉妹)
  • 自分の兄弟姉妹の中から一人に相続させたい

この2つでは、法的な対応や注意点がまったく異なります。
とくに「遺留分があるかどうか」が大きな分岐点となるため、それぞれのパターンごとに適切な対応が必要です。

2. パターン① 子どもが複数いる場合に、特定の1人にすべて相続させたいケース(子ども間の兄弟姉妹)

被相続人(親)に複数の子どもがいる場合でも、遺言書を作成すれば、特定の1人に全財産を相続させることは可能です。
遺言書に「長男○○に全財産を相続させる」と記載しておけば、その意思が法的に有効である限り、長男以外の他の兄弟姉妹には相続分は発生しません。

ただし、注意すべきは遺留分(法的に保障された最低限の取り分)の存在です。
子どものうち一人に財産を集中させたい場合でも、遺留分を侵害する内容の遺言を残すと、後から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
ここについては、子どもは民法上で遺留分が保障されている相続人である以上、完全に排除することはできません。
そのため、遺言書を作成する際には、以下のような実務的工夫によってトラブルや遺留分請求リスクの軽減を図ることが重要です。

遺留分を侵害しないようにするための工夫

① 遺留分をあらかじめ計算し、請求リスクを見込んだ設計にする

遺言書の作成前に、法定相続人の人数・法定相続分・遺留分割合を整理した上で、
「この内容だと誰が、どれだけ遺留分を請求できる可能性があるか」を事前にシミュレーションすることが非常に重要です。

例えば
  • 子が2人いる場合 → 各子の遺留分は法定相続分(1/2)の1/2=1/4
  • 全財産を長男に相続させると、次男から1/4分の侵害額請求があり得る

このように事前に金額ベースで影響を把握しておけば、遺言の内容を調整することができます。

② 現金・預金などの流動性資産を確保しておく

遺留分侵害額請求を受けた場合、相続を多く受けた人が請求に応じるための資金(支払原資)を用意しておくことが現実的に重要です。
そのため、遺言者の側で以下のような準備をしておくと、相続後のトラブル対応がスムーズになります。

  • 一部の財産を預金・現金など流動性の高い形で残しておく
  • 固定資産(不動産・事業用資産)のみにならないよう構成を分散させておく
  • 生命保険を活用し、相続人に保険金を給付する仕組みを整えておく

3. パターン② 配偶者・子・親がいない場合に、自分の兄弟姉妹のうち1人だけに相続させたいケース

自分の兄弟姉妹に相続をさせたいという場合においては、ご自身に配偶者も子どももおらず、両親もすでに他界している場合、兄弟姉妹が法定相続人(第3順位)になりますので、相続権が兄弟姉妹に発生します。

そして、このケースの大きな特徴は、兄弟姉妹には遺留分がないという点です。
例えば、3人兄弟の真ん中が被相続人の場合、被相続人が遺言書で「妹に全財産を相続させる」と記載すれば、兄が不服を申し立てても法的には覆せません。
兄弟姉妹間で不公平だと感じることがあっても、法律上は被相続人の意思が完全に優先されます。
したがって、法定相続人がご自身の兄弟姉妹しかいない場合で、兄弟のうち一人だけに財産を残したいと考える場合は、遺言書を作成することで確実に実現できるということです。

4. パターン③:法定相続人ではない兄弟姉妹のうち一人だけに遺産を渡したい場合

先ほどのパターン②とは異なり、「自分の兄弟姉妹に遺産を渡したい」という希望がある場合でも、ご自身に配偶者や子どもがいる場合、あるいは両親が生きているのであれば、兄弟姉妹は法定相続人になりません。
この場合、相続人でない人に財産を残す方法として、遺言書による遺贈にて法定相続人でない兄弟姉妹に遺産を渡すことができます。

ただし、パターン①のときと同様に、被相続人に子や配偶者、親といった法定相続人が存在する以上、兄弟姉妹のうち一人だけに遺贈を行う場合は、必ず遺留分侵害額請求のリスクが伴います。
したがって、兄弟姉妹のうち一人にだけ遺贈をする形での遺言を作成する場合には、他の相続人の遺留分割合(通常は法定相続分の2分の1)を考慮し、遺留分侵害額請求が生じないような財産配分や金銭的備えを同時に設計することが不可欠です。

5. 兄弟姉妹に遺産を集中させる場合の遺言書作成の実務ポイント

5-1. 可能な限り公正証書遺言を選ぶ

子どもが複数いる場合に、特定の1人にすべて相続させたいケース(子ども間の兄弟姉妹)、自分の兄弟姉妹のうち1人だけに相続させたいケースともに、兄弟姉妹のうち一人だけに財産を集中させた場合、遺言書の内容に不満を持つ他の兄弟姉妹が現れるリスクが高く、遺言の真正性や有効性が争われる可能性もあります。
このため、弁護士としては公正証書遺言での遺言書作成を推奨しています。
公正証書遺言であれば、公証役場で作成をする際に本人の意思能力の有無・遺言内容の有効性を確認したうえで遺言書作成を進めるため、遺言の有効性についてはまず間違いなく認められるほか、改ざんのリスクもありません。

もし、自筆証書遺言での作成を行う場合は、遺言書作成時の意思能力が問題なかったことを証明する客観的な資料を揃えておくなど、ご自身の死後に遺言の有効性を担保できるような対策を取っておくことが望ましいでしょう。

5-2. 遺言執行者を指定してトラブルを防ぐ

また、遺言書の有効性を確保することとあわせて重要になるのが、遺言内容を実際に執行する体制をどう整えるかという視点です。
特に、子どもが複数いる中で一人だけに相続させる場合や、兄弟姉妹間で特定の一人に遺産を集中させる場合は、他の相続人が遺言の内容に納得しておらず、協力的でない状況になることが少なくありません。
このようなケースでは、相続手続きが円滑に進まず、名義変更・各種手続き・申告などが滞る原因にもなります。
そこで有効なのが、遺言執行者をあらかじめ遺言書の中で指定しておくことです。
とくに、弁護士などの中立的な第三者を遺言執行者(遺言書の内容通りに相続手続を行う者)として指名することで、感情的な摩擦も回避しやすく、遺言執行者の権限で相続手続を適切に進めることができます。

せっかく遺言書を残す以上、確実にその内容を実現するという観点からも、遺言執行者の指定は遺言書作成とセットで検討すべき重要なポイントといえるでしょう。

6. 相続を受ける側(兄弟姉妹・子)として知っておきたい注意点

6-1. 遺言書に書かれている遺産の範囲が曖昧な場合は注意が必要

遺言書に「長男にすべてを相続させる」と記載されていたとしても、その「すべて」の範囲が不明確であったり、遺言書でカバーされていない財産が存在したりする場合には、相続人全員による遺産分割協議が必要になるケースがあります。
また、不動産の共有状態や、預金・動産の所在がはっきりしない場合には、相続財産の確定と処分に協議や合意が必要となることもあります。
したがって、遺言書があるからといってすべてのケースで相続手続が簡略化されるとは限らないため、不安な場合は弁護士に相談の上で相続手続を進められてください。

6-2. 遺贈による税金負担(2割加算)に注意

パターン③のように、法定相続人でない兄弟姉妹が遺贈で相続を受ける場合、相続税の2割加算が適用されるため、法定相続人が相続するときよりも税額が高くなります。
なお、遺贈で財産を受け取る場合であっても、相続税の計算においては相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)は適用されます。
受け取る側としては、相続税が発生するかどうか、発生する場合は納付期日までに相続税の納税資金をどう確保するかを含めて、税理士に相談の上で段取りをつけておきましょう。

6-3. 債務超過の可能性がある場合は安易に相続を進めない(相続放棄)

遺言書で全て自分に相続させるとなっていても、絶対に相続をしなければならないわけではありません。
債務(借金・保証債務)が財産を上回っているかもしれない、他の相続人との関係性もあり自分は相続したくないというように、何らかの不安や事情において「本当に相続するべきか?」「放棄した方がよいか?」という判断を迫られることもあります。
特に、兄弟姉妹が相続人となるパターンでは、被相続人の財産・債務の内容をそこまで細かく把握できていないような場合も多いため、少しでも不安がある場合は弁護士に相談の上で財産調査等を行ってから相続をするかどうかを決めるようにしてください。

7. 当事務所のサポート体制:弁護士・税理士・司法書士が連携

兄弟姉妹や子どもが複数いる中で、特定の一人にだけ財産を相続させたいという希望を法的に実現するためには、遺言書の作成をはじめとして生前からの準備と実務対応が不可欠です。
当事務所(Nexill&Partnersグループ)では、そうした複雑な相続ニーズに対して、弁護士・税理士・司法書士によるワンストップでの相続支援を提供しています。
まずは一度ご相談ください。

 

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監修者:國丸 知宏
弁護士國丸 知宏

弁護士法人Nexill&Partners

弁護士國丸 知宏

  • 2009年
    福岡高等学校 卒業
  • 2014年
    九州大学法学部 卒業
  • 2016年
    九州大学法科大学院 修了
  • 2017年
    弁護士法人菰田法律事務所(現:弁護士法人Nexill&Partners)入所

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