近年、相続税調査へのAI導入が本格化し、申告漏れに対する調査リスクがさらに高まると指摘されています。
2025年3月の報道では、2025年夏から具体的な動きがあることが予想されています。
参考:日本経済新聞「相続税もAIが調査へ 国税、申告漏れスコア化で狙い絞る」
これから相続税申告の対応が必要な方はもちろん、既に相続税申告を行った方も申告漏れがないか十分にチェックが必要です。
本記事では、相続税の税務調査に関する今後の動きについての解説と、今後ますます厳密化する調査にはどのように備えたらよいか?についてお伝えしていきます。
もくじ
最新の傾向
AIによる相続税の調査が開始に
2025年夏から、国税庁が相続税の調査にAI(人工知能)を本格的に活用するというニュースが報じられました。これまでは主にベテラン調査官の経験に基づいて行われていた調査対象の選定を、申告書・財産債務調書・海外送金記録・保険金や金地金売却時の支払調書といった多様な資料のデータ化により、AIで分析・スコア化する仕組みを導入するとのことです。相続税は発生のタイミングが限られる一方、高齢化の進展で相続件数自体が今後増える見込みがあり、効率的かつ重点的な調査を行う必要が高まっています。実際、過去には名義預金や名義株の申告漏れ、亡くなる直前に定期預金を解約して現金を分配するなどの事例が見受けられ、追徴税額が過去最高水準に達しているとの報道もありました。AIの導入により、今後はより広範囲にわたって申告漏れのリスクを把握できるようになる見込みです。
AI活用による相続税調査で何がどう変わりそうなのか?
国税庁が相続税調査に本格的にAIを導入することで、財産の全容を正確に把握しようとする動きがより徹底されると考えられます。特に注意すべきなのは、把握が難しいとされてきた海外資産や仮想通貨といったデジタル資産です。海外にある預金や証券口座は情報が見えにくいと思われがちですが、各国との情報交換制度により、隠匿は難しくなりつつあります。また、仮想通貨取引は匿名性が高いと思われがちですが、ブロックチェーン上の履歴や取引所の報告に基づいて、実態が明らかになるケースが増えています。
このような海外資産等はこれまで情報が断片化していたため、調査が及ばないケースもありましたが、AIが多様なデータソースを横断的に解析できるようになると、海外送金の履歴や取引履歴などを統合的に把握し、申告漏れの可能性を高精度で推測する仕組みが整うと予想されます。したがって、「海外だから見つからない」「仮想通貨は匿名性が高い」という従来の思い込みは通用しなくなるでしょう。納税者としては、まず被相続人が保有していた資産の範囲を正しく洗い出し、取引記録や口座情報を整理しておくことが重要です。さらに不明点があれば専門家に相談し、適切な形での相続税申告を行うことがAI活用時代におけるリスク対策の第一歩になります。
相続税の申告漏れのリスクについて
相続税は相続財産の総額が基礎控除(3,000万円+法定相続人1人当たり600万円)を超える場合に申告・納税義務が生じます。しかし、預金や不動産、株式など、被相続人の資産全体を正確に把握できなかったり、つい「現金なら見つからないだろう」と思ってしまったりすることで、申告漏れが発生してしまうケースがあります。申告を怠った結果、重加算税や延滞税といったペナルティが課される場合もあり、負担が大幅に増えるリスクがあります。また今後はAIの活用で、海外資産や仮想通貨などこれまで把握が難しかった財産に関してもチェック体制が強化されていくと考えられます。こうした流れを踏まえると、正確な申告がより一層求められているといえるでしょう。
相続税申告ができていない場合は速やかに申告しましょう
もし相続発生から期限内(通常は相続開始から10か月以内)に申告ができていない場合は、速やかに申告手続きに着手することが大切です。期限後申告となると、無申告加算税や延滞税の対象となるだけでなく、今後の調査でAIによるスコアリングで高リスクと判断されれば重点的に調査を受ける可能性が上がります。すでに申告期限を過ぎてしまっている方も、正直に申告することで、ペナルティを最小限に抑えられることがあります。その際、相続の際に出てきた証票や記録については、後からでも正しい財産状況を示すための資料になりますので、できるだけ保管をしておかれてください。
相続税調査に関連して:生前対策・節税に向けての注意点
相続税申告の調査強化が進んでいく中では、「生前贈与」や「家族信託」などの相続に対する事前対策がますます重要になってきます。相続税負担の軽減だけでなく相続トラブルの回避にも、生前対策は有効です。特に早めに始めることで贈与の非課税枠(年間110万円)や、教育資金・結婚・子育て資金の一括贈与といった制度を活用しやすく、計画的な財産承継を実現できます。また、家族信託を利用すれば、認知症リスクなどで資産管理が難しくなる前に、財産を委託し、管理・運用・処分の権限を信頼できる受託者に任せておくことで、リスクヘッジが可能です。ただし制度を正しく理解していないと、名義預金や形式上の贈与と見なされ、逆に税務リスクを招くことがあります。たとえば、非課税枠の範囲だからといって贈与契約書を作成しなかったり、実際には資金移動がないまま贈与をしたという体にしてしまったりすると、贈与を否認される可能性が高まるのです。生前対策を安全に進めるためには、資金の移動記録や契約書面の整備といった基本的なルールを守ることが不可欠です。さらに、家族間での共有や残す側・受け取る側の意向の把握をきちんと行い、財産の内訳や目的を明らかにしておくことで、相続の際に不要な争いを防ぐことができます。制度の特例や控除の適用可否は個人の事情によって異なるため、専門家と連携しながら最適な方法を選びましょう。また、家族信託や遺言書との組み合わせによって、財産承継をよりスムーズに進められる可能性もあるため、包括的な視点で検討することが大切です。
相続税申告についてはNexill&Partnersへ
相続税の申告は財産の洗い出しや名義の確認など、専門的な知識と時間が必要となります。ましてAIでの調査体制が強化される現在、曖昧な処理が後々トラブルの原因になる可能性も高まっています。当事務所では弁護士・税理士のワンストップ体制にて相続全般のサポートを行っており、遺産分割の段階から相続税申告書の作成・提出まで一貫して対応をいたします。複雑なケースや財産の評価でお悩みの場合でも、経験豊富な専門家が対応し、安心してお任せいただける体制を整えております。相続税の申告がまだの方は、できるだけ早めにご相談ください。