遺産分割

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相続における不動産の評価額とは?遺産分割時の適正な算定方法と注意点を弁護士が解説

2025.02.28

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相続において、不動産の評価額は遺産分割を進めるうえで重要な要素です。
しかし、「評価額の決め方が分からない」「相続人の間で評価額の認識が違う」といった問題が生じることも多く、スムーズな遺産分割の妨げになるケースも少なくありません。
本記事では、相続における不動産の評価額の基本知識から、具体的な算定方法、評価額で揉めた際の解決策まで詳しく解説します。
また、不動産の評価を適切に行うためのポイントや、弁護士・税理士・司法書士が提供できるサポートについてもご紹介します。
相続した不動産の評価額について不安をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。

1.遺産分割における不動産の評価額の重要性と影響

不動産は相続財産の中でも評価額の算定方法によって価値が大きく変動する特徴があります。
現金のように明確な金額が決まっているわけではなく、評価基準によって数百万円単位で差が生じることも珍しくありません。
そのため、遺産分割を行う際に、不動産の適正な評価額を把握することは不可欠です。

特に、不動産の評価額は分割方法の判断基準となり、相続人が共有するか、単独取得するか、売却して現金を分配するかといった選択に影響を与えます。
また、評価額をめぐる認識の違いから「市場価格と異なる」「もっと高く売れるはず」といった意見の対立が発生しやすいため、協議の長期化やトラブルの要因になることも少なくありません。

さらに、売却せずに誰かが単独取得する場合は、公平性を確保するために適正な評価額をもとに代償金を算定することが重要です。
こうした問題を防ぐためにも、遺産分割協議は相続人だけでなく、不動産の専門家や弁護士の助言を受けながら進めることが望ましいでしょう。

2.不動産の評価額の種類と求め方

不動産の評価額にはいくつかの種類があり、どの場面で使用するかによって適切な評価基準が異なります
例えば、遺産分割の際の評価額と、相続税申告における評価額は必ずしも一致しないため、正しい基準を理解しておくことが重要です。

2-1.不動産の評価額の種類とはどんなものがある?

不動産の評価額には、主に以下の4つの基準があります。

評価基準 概要
固定資産税評価額 固定資産税を計算するための評価額
相続税評価額(路線価・倍率方式) 国税庁が定める相続税申告をする際の評価額
公示価格 国土交通省が発表している過去の取引実績データ
実勢価格(市場価格) 実際の売買価格

⑴ 固定資産税評価額 市町村が固定資産税を算出するために用いる評価額で、毎年1月1日時点の価格が決定されます。一般的に市場価格の約7割程度の評価額とされています。

⑵ 相続税評価額(路線価・倍率方式) 相続税申告時に使用する評価額で、土地については路線価または倍率方式によって算定されます。建物については固定資産税評価額と同じ金額が適用されます。

⑶ 公示価格 国土交通省が発表する過去の取引実績データであり、実際に取引された土地の価格情報を基にしています。

⑷ 実勢価格(時価) 市場において実際に取引される価格であり、売却した際に成立する金額のことを指します。

2-2.具体的な評価額の使い分け

不動産の評価額には複数の種類があり、相続税申告・相続登記・遺産分割のいずれの場面で使うかによって適用される評価基準が異なります。
特に、遺産分割における不動産の評価額は時価(市場価格)が用いられるため、相続税評価額や固定資産税評価額とは異なる考え方が必要になります。

①相続税申告の場合

相続税申告では、「相続税評価額(路線価方式・倍率方式)」を基準に不動産の価値を算出します。
路線価が設定されている地域については路線価を使用し、路線価が設定されていない地域は倍率方式で評価額を算定します。

②相続登記の場合

相続登記(不動産の名義変更)を行う際には、「固定資産税評価額」を基準にします。
固定資産税評価額は市場価格より低いことが一般的です。

③遺産分割の場合

遺産分割における不動産の評価額は、「時価(市場価格)」を基準にするのが一般的です。
ただし、時価には明確な基準がなく、相続人間の合意によって決定されるため、評価方法に幅が生じることが特徴です。
実務上では、以下のような方法を使って時価を算出することが多いです。

不動産会社の査定額を基準にする(1社だけでなく、複数社の査定を平均することも)

実際に売却した場合の取引価格を参考にする

不動産鑑定士による鑑定評価を活用する(より公正な価格を求める場合)

遺産分割では、相続人全員の合意があれば、不動産の評価額を相続税評価額や固定資産税評価額に合わせることも可能です。

3.遺産分割以外では不動産の評価額には幅はないことに注意

不動産の評価額について1つ誤解をされやすい点として、相続税申告の場合にも不動産の評価額に幅があるような理解をされやすいのですが、ここは間違いです。
相続税は相続財産の額で税金の額が決まるので、不動産の評価額を安く見積もれば当然に相続税も安くなりますが、前述したように相続税評価額は路線価で一律に決まっていますので、相続税申告においては不動産の評価額を高く評価したり、安く評価したりすることはできませんから、ここは誤解がないようにしておかれてください。

4.遺産分割における不動産評価額に影響を与える要素

不動産の評価額は、単純に面積や立地だけで決まるわけではなく、さまざまな要因によって変動します。
ここでは、特に影響の大きい要素を解説します。

4-1.不動産の立地・周辺環境が評価額に与える影響

不動産の時価評価額において、最も大きな影響を与えるのが「立地」です。

影響を与える要因

・都市部vs.郊外→都市部ほど市場価格が高くなる傾向
・商業地域vs.住宅地域→商業地域は高評価になりやすい
・交通アクセスの良さ→駅近・高速道路のアクセスが良いと評価額が上がる
・周辺の再開発→大型商業施設の建設などで価格が上昇することがある

固定資産税評価額や路線価も、こうした要素を考慮して決定されるため、最新の市場動向を把握することが重要です。

4-2.築年数・建物の状態による評価額の変動

建物の価値は、築年数やメンテナンスの状況によって大きく変わります。

・築年数が古いほど評価額が下がる(特に木造住宅は法定耐用年数が短い)
・リフォームや耐震補強がされている場合、評価額が上がることがある
・マンションの場合、管理状況や共用部分の設備も評価額に影響を与える

土地の評価は築年数に影響されないため、建物の評価額が下がっても、土地の価値が高い場合は総合的な評価額が維持されるケースもあることを理解しておくとよいでしょう。

 

5.不動産の評価額を適正に把握する方法

5-1.相続税評価額を確認する方法

相続税評価額は、国税庁が定めた「路線価方式」または「倍率方式」によって算出されます。(市場価格の80%程度となることが一般的です。)

・路線価方式(市街地など)
国税庁の「路線価図」に掲載されている1㎡あたりの価格を基準に評価。
土地の形状や接道状況に応じた補正が適用されます。

・倍率方式(路線価がない地域)
国税庁の「倍率表」を参照し、固定資産税評価額×指定倍率で計算。

・調べ方:国税庁のホームページで地域ごとのデータを検索し確認できます。

5-2.固定資産評価額の確認方法

固定資産税評価額は、各自治体が算定し、毎年送付される「固定資産税納税通知書」に記載されています。

・調べ方:相続不動産の納税通知書を確認する、または市町村役場で固定資産税課税台帳を閲覧する。

5-3.売却価格(市場価格)の確認方法

不動産の売却価格(市場価格)は、実際の取引相場を基に決定されます。
相続税評価額とは異なり、市場の需要や地域の不動産動向に左右されるため、時期によって変動するのが特徴です。
相続不動産を売却する場合や、遺産分割協議で市場価格を基準にする際には、適正な売却価格を把握しておくことが重要です。
市場価格を確認する方法として、以下のような方法があります。

確認方法 特徴 適したケース
自分で調べる 手軽に相場を把握できるが、正確性は低い おおよその市場価格を知りたい場合
不動産会社の査定 取引事例を基に現実的な価格を提示 売却を検討している場合、または実勢価格を参考にしたい場合
不動産鑑定士の評価 専門家による客観的評価が得られる 遺産分割協議・調停・審判で正式な評価額が必要な場合

 
①自分で調べる
相場感を知りたい場合、インターネットで過去の取引事例や周辺地域の売買価格を調査するのが有効です。

調べ方
・国土交通省「土地総合情報システム」(不動産の過去の売買事例を確認できる)
・不動産ポータルサイト(SUUMO・HOME’Sなど)(現在販売中の類似物件の価格をチェック)
・不動産会社の公式サイトの売却実績情報

メリット・デメリット

手軽に調査でき、費用がかからない
複数の情報を比較しながら、相場感をつかめる
物件ごとの具体的な条件が反映されていないため、実際の売却価格とは差が出る可能性がある
 
②不動産会社に査定を依頼する
より正確な市場価格を知るためには、不動産会社に査定を依頼する方法があります。
不動産会社は、類似物件の成約価格や市場の動向を考慮した査定価格を提示してくれます。

査定の種類

・机上査定(簡易査定):物件情報や周辺の取引事例を基に、おおよその価格を算出。
・訪問査定(詳細査定):担当者が実際に物件を確認し、設備の状態や立地条件を考慮して査定額を決定。

依頼時のポイント

複数の不動産会社に依頼し、査定額を比較する(1社だけの査定では偏る可能性がある)
売却目的ではなく、相続のための価格調査であることを伝える

メリット・デメリット

実際の取引事例をもとに、現実的な市場価格を把握できる
無料で査定を受けられることが多い
売却を前提とした査定になるため、相続人間の協議には不向きな場合もある
 
③不動産鑑定士による評価を受ける
相続人間で市場価格の認識が異なる場合や、公的な基準に基づいた評価を求める場合、不動産鑑定士による鑑定評価を活用するのが有効です。

鑑定評価の特徴

・不動産評価の専門家による正確な評価であるため、裁判所でも証拠価値が高い
・市場価格だけでなく、地形・法的規制・権利関係などを詳細に分析し、公平な評価額を算出する

鑑定が必要なケース

・遺産分割協議で評価額の認識が大きく異なり、合意が難しい場合
・調停や審判で裁判所に提出する評価書が必要な場合

メリット・デメリット

公正な基準に基づく評価のため、相続人全員が納得しやすい
裁判所や税務署に提出できる正式な評価書が取得できる
費用がかかる(数十万円程度)ため、簡単な相場確認には向かない

このような方法を使って市場価格の把握が可能となりますが、どの評価方法を選択するのが最適かよくわからない場合は、弁護士などの専門家と相談しながら判断することが望ましいでしょう

 

6.不動産の評価額を巡るトラブルが解決しない場合の対応策

不動産の評価額の決定や分割方法について相続人同士の協議がまとまらず、遺産分割が困難な場合は、以下の方法で解決を図ることを検討しましょう。

①第三者機関による財産評価の実施

評価基準の客観性がトラブルの原因になっている場合は、不動産鑑定士による正式な評価額を提示することが解決に向けての有効な手順の一つです
・公正な基準による評価額を出すことで、金額に納得しやすくなり、協議がまとまるケースもあります。

②弁護士を入れての遺産分割協議

・相続人同士での話し合いでは埒が明かない場合、あるいは当事者間での協議ができないぐらい関係性が悪化している場合は、弁護士を代理人として就けて遺産分割協議を進める段階となります。
第三者として弁護士が関与することで、感情的な水掛け論ではなく法律論にて交渉を行えますので、調停まで移行せずにこの段階で遺産分割協議をまとめられると理想です。

③遺産分割調停・審判

協議での解決が不可能な場合は、裁判所を使っての解決に移らざるを得ません。
この場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停委員を介して遺産分割を行います。
ただ、調停はあくまで「裁判所を通じた話し合い」ですので、ここでも遺産分割協議がまとまらないというケースも多々あります

・調停が成立しない場合は、裁判官に遺産分割内容を指定してもらう手続である「審判」に進むことになります。
審判まで行くと、裁判所が不動産の評価額を決定しますので、その金額を元に遺産分割を実施するしかありません。

・調停・審判となると解決までに時間と費用がかかるため、できる限り協議で解決するのが望ましいですが、話し合いではどうにもならない場合は裁判手続を利用するしかなくなるので、早めに相続に強い弁護士にご相談をされることをお勧めします。
 

7.Q&A|相続不動産の評価額に関するよくある質問

Q.未登記の建物がある不動産の場合、遺産分割時の評価額に影響がありますか?
A.未登記の建物がある不動産は、時価(市場価格)に影響を与える可能性があります
未登記の建物が存在すると、権利関係の不明確さや法的リスクが生じるため、一般的に市場での評価額が下がる傾向があります。
未登記のままでは売却や名義変更が困難になりますので、速やかに適切な登記を行うことが望ましいです。
なお、未登記の建物も相続財産として評価されるため相続税の課税対象になります

 

Q.遺産分割後に不動産の評価額が変動した場合、再分割は可能ですか?
A.原則として、遺産分割が完了した後に評価額が変動しても、再分割は認められません
遺産分割協議が成立すると、相続人全員がその内容を守る義務を負うため、評価額の変動を理由に分割内容を変更することはできません
ただし、「重大な錯誤(評価額の大幅な誤認)」や「詐欺・強迫による合意」など、特別な事情がある場合は、分割協議の無効を主張することが可能です。
また、相続人全員が合意すれば、新たな遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成し直すことで分割内容を変更することも可能です。ただし、相続登記がすでに完了している場合は、変更後の内容に基づいて再度登記手続きを行う必要があります

8.弁護士・税理士・司法書士による総合的なサポート|ワンストップで相続不動産の課題を解決

相続における不動産の評価額を適正に確定し、遺産分割を円滑に進めるためには、法務・税務・登記の各分野の専門家が連携することが不可欠です。
例えば、遺産分割協議の内容をもとに相続税の負担を計算し、それを踏まえて最適な分割方法を決定し、最後に司法書士が登記手続きを行うといった形で、弁護士・税理士・司法書士が一貫してサポートすることで、相続人の負担を大幅に軽減することが可能です。
特に、不動産は現金のように簡単に分割できる資産ではないため、評価額を巡る相続トラブルを未然に防ぐためにも、専門家の意見を交えながら進めることが極めて重要です。

当事務所では、弁護士・税理士・司法書士が一体となり、相続不動産に関するすべての手続きをワンストップでサポートします。
相続不動産に関するお悩みがある方は、ぜひ一度ご相談ください。

 

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