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遺産分割コラム

遺産分割で土地や建物を分けるには?|相続税申告時の注意点も含めて専門家が解説

2025.01.30

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土地や建物を含む遺産分割は、相続において特に難しいテーマの一つです。
その理由は、物理的な制約や法律・税務上の複雑な問題が絡み、相続人間での意見の相違が生じやすいためです。
本記事では、土地や建物の遺産分割における具体的な方法や注意点をわかりやすく解説します。
また、弁護士や税理士といった専門家に適切に相談をすることで相続手続きをスムーズに進めるためのポイントもご紹介します。
相続に不安を抱えている方や、土地や建物を含む遺産分割で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

1. 遺産分割で土地や建物を扱う際の基礎知識

1-1.遺産分割とは?その手続きの基本

遺産分割とは、被相続人が残した財産を、相続人の間で適切に分けるために行う手続きです。
最終的に遺産をどう分けるかを決める協議のことを遺産分割協議と呼び、相続人全員の同意を得ることで遺産分割協議が成立します。
遺産分割協議の成立した後は、全員で話し合って決めた分割内容を書面に残しておくために「遺産分割協議書」を作成し、この遺産分割協議書を基に、相続手続や不動産の名義変更、相続税の申告など、必要な手続きを進めていきます。

1-2.土地・不動産の遺産分割が特に難しい理由

現金や預貯金とは違い、土地や建物はその性質上、遺産分割を進めるうえでの課題や問題となる点が複数存在するため取り扱いが難しい遺産です。

以下、どのような点が問題となり得るのかの例をご紹介します。

1.物理的制約

まず、土地や建物には物理的な制約があります。
不動産は現金のように簡単に分割できる財産ではなく、形状や利用状況に応じて分割が不可能な場合も少なくありません。
例えば、不規則な形状の土地や狭小地は、物理的に分割すると価値が大幅に低下することがあります。
また、農地や建物付きの宅地では、用途の制約があるため、現物分割が事実上困難になるケースも多いです。

2. 法律的な問題

さらに、土地や建物に特有の法律的な問題も、遺産分割を難しくしています。
例えば、農地については農地法の規制により、分割や売却を行うには農業委員会の許可が必要です。
また、相続人が農業を継続しない場合、非農地化を申請するなど、追加の手続きを要する場合があります。
同様に、借地や借家が絡む不動産では、借地借家法に基づき賃借人の権利が強く保護されるため、相続人が自由に処分できないことがあります。
これに加え、相続登記を行わずに放置された土地や建物がある場合は、未登記のままでは売却等含めた相続手続に影響が出てしまいます。

3. 税務上の問題(不動産評価額の問題)

土地や建物を相続する場合、建物の相続税申告における評価額は固定資産税評価額をそのまま用いますが、土地については路線価という計算方法が用いられます。
この路線価を算定するためには、その土地のピンポイントでの所在地だけでなく、大きさや形を把握する必要があり、これらの要素によって様々な補正をかけなくてはなりません。
そのため、適切に情報を収集して細かな計算を行わなくては、正確な土地評価額の算定ができないところです。正確な評価が行われないと以下のような問題が発生する場合があります。

  1. •過剰な相続税負担:評価額が高く算出された場合、実際の評価額以上に税金を支払うことになる可能性があります。
  2. •相続税申告時の特例の適用漏れ:使用できる特例を使わなかった場合、相続税負担が大幅に増える可能性があります。
4. 相続人間の心理的要因

1~3の課題に加えて、土地や建物には相続人間の感情的な要因が絡むことが多い点も特筆すべきです。
不動産には、被相続人が長年住んでいた住宅や思い出の詰まった土地が含まれることが多く、処分に対して心理的な抵抗を感じる相続人もいます。
さらに、不動産の評価額に対する相続人間の認識の違いや、公平性への不満が原因で、協議が長期化することも珍しくありません。

5. その他の課題

•評価方法の多様性:遺産分割における土地の評価額は、基本的には「時価」なのですが、時価は明確な基準の存在しない金額になります。
そのため、当事者間で合意が形成できれば算出方法に制限はありません。
そんな中、土地の評価額というのは、固定資産税評価額・路線価・公示地価・実勢価格などの複数の金額が存在しており、相続税申告においては路線価を用いることが決まっていますが、遺産分割協議においては相続人たちが納得できる金額が基準となります。

•維持管理費の負担:相続人全員で土地を共有した場合、固定資産税や修繕費などの管理費用を誰が負担するかで意見が分かれることがあります。

このように、不動産を相続する際には気を付けるべき点が多数存在します。

2. 土地・不動産を分割する4つの方法

土地や建物の遺産分割には、いくつかの方法があります。
それぞれにメリットやデメリット、注意点があり、状況に応じた最適な選択が求められます。
ここでは、主要な4つの方法について具体的に解説します。

2-1. 現物分割

現物分割は、遺産となる土地や建物をそのまま分割する方法です。
たとえば、広い土地を物理的に区分けして各相続人が所有する形にするのが代表的な例です。

メリット:
•各相続人が具体的な物理的財産を所有できる。
•売却せずに済むため、思い出のある土地や家をそのまま保有できる。
デメリット:
•土地の形状や用途によっては物理的に分割が困難。
•分割後の土地の価値が均等にならず、不公平感が生じる可能性がある。
2-2. 換価分割

換価分割は、土地や建物を売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法です。

換価分割の注意点:
•売却時に発生する費用(仲介手数料、譲渡所得税など)を考慮する必要がある。
•売却のタイミングや市場の動向が相続財産の総額に影響する。
事例: 相続人が複数おり、分割対象の不動産が一つしかない場合、換価分割は公平性を保つための選択肢として有効です。
2-3. 代償分割

代償分割は、相続人の一人が不動産全体を取得し、その代わりに他の相続人へ現金や他の財産を支払う方法です。
特に、以下のような場合で活用されます。

代償分割が有効なシーン:
•不動産を手放したくない相続人がいる場合。
•他の相続人が現金での分割を希望している場合。
事例: 長男が家業を継ぐために親の土地を取得する一方で、他の兄弟には代償金を支払うケース。
2-4. 共有分割

共有分割は、複数の相続人が一つの不動産を共有名義で所有する方法です。
ただ、弁護士の実務上の観点からは不動産を共有名義で分割するのは以下の理由からあまりお勧めしていません。

•管理費用や税金の負担割合を巡る意見の相違が発生しやすい。(相続人の間でトラブルになりやすい。)
•将来的に売却する際も所有者全員の合意が必要となるので、売却がスムーズに進まない可能性があるほか、二次相続が発生した際も再度この不動産をどう分けるか?という協議が発生するので相続トラブルの種になりかねない。

できるだけ他の分割方法を優先的に検討していただくのがベストではありますが、どうしても共有名義の形を取りたい場合は不動産の管理費用や税金負担についても相続人の間できちんと合意を取っておくことが大事です。

不動産の遺産分割の方法はケースバイケースで異なりますので、どれか1つの方法で進める場合もあれば、現物分割や換価分割、代償分割を組み合わせた形で解決することも多いです。
たとえば、土地を一部現物分割し、残りを売却して現金化するなど、柔軟な対応が求められます。

3. 土地や建物の評価の重要性

遺産分割を進めるうえでの土地の評価額は、公示地価、路線価、固定資産税評価額などの基準を基に算出されます。
どの基準で評価するかで、遺産分割協議に影響が出ますので、ここの評価額は非常に重要な要素となります。

(参考:用語説明)
•公示地価: 国土交通省が公表する基準値。土地の標準的な価格で、地域の地価動向を把握する基準となります。
•路線価: 国税庁が毎年発表する評価基準。相続税や贈与税の算出に使用される基準となり、大体公示地価の約80%が目安となります。
実勢価格: 実際に不動産が取引される価格で、公示地価や路線価と異なる場合があります。

相続税申告における土地の評価額は「路線価」と決まっていますが、遺産分割における土地の評価額は当事者の合意によって決まるため、相続税申告と遺産分割協議において、土地の評価額に乖離が生まれることもあります。
小規模宅地等の特例をはじめとする土地の利用形態による減額特例が適用できるケースもありますので、ここは相続税申告に詳しい税理士に相談をしながら進めることをお勧めします。

4. 遺産分割後の相続税の申告での注意点

4-1. 相続税額の求め方

土地や建物を相続した場合の相続税は、その評価額に基づいて課税されます。
なお、相続した土地や建物を含めて、相続財産の総額が基礎控除額を下回る場合は相続税は非課税となります。

相続税は以下の計算式で求められる課税遺産総額を元に、法定税率を適用して計算します。

(相続税の計算式)
課税遺産総額 = 遺産総額 – 基礎控除額
(基礎控除額 = 3,000万円 + 法定相続人1人当たり600万円)

4-2. 土地の相続税軽減に役立つ特例とは?

土地や建物に関する相続税を軽減するための特例として、よく適用されるものとして「小規模宅地等の特例」と「貸家建付地の特例」があります。

4-2-1. 小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例を適用すると、居住用や事業用の土地について、相続税を計算する際の評価額が最大80%減額されます。
対象と適用範囲、注意点は以下のとおりで、ここに当てはまる場合は特例を使って相続税申告を行えます。

・対象
居住用宅地:被相続人が住んでいた宅地で、一定の条件下で相続人が居住を継続する場合。
事業用宅地:被相続人が事業に使用していた宅地で、相続人が事業を引き継ぐ場合。
・適用範囲
居住用宅地:330㎡までの部分について、評価額を80%減額。
事業用宅地:400㎡までの部分について、評価額を80%減額。
・注意点
居住要件:
居住用宅地の場合、相続人が被相続人と同居しており、かつ相続後に居住を継続する必要があります(相続税申告期限まで)。
事業要件:
事業用宅地の場合、相続人が被相続人の事業を引き継ぎ、継続してその宅地を使用することが条件です。
所有制限:
相続開始後、土地を他人に貸したり売却した場合、特例が適用されなくなる可能性があります。

4-2-2. 貸家建付地の特例

被相続人が土地や家を貸していた場合は、貸家建付地の特例を使用することで一定の評価減が適用されます。
こちらも、対象と適用範囲、注意点は以下のとおりで、ここに当てはまる場合は特例を使って相続税申告を行えます。

・対象
被相続人が貸家(賃貸住宅)を建設し、第三者に貸している宅地。
賃借人が住むために使用されている土地。
・適用範囲
土地全体の評価額に「借家権割合」を適用し、評価額を減額。
借家権割合は全国一律で30%。
さらに、相続税評価額に賃貸割合を掛け合わせて計算します。
計算式:
土地の評価額 × (1 – 借家権割合 × 賃貸割合)
例:評価額1億円、借家権割合30%、賃貸割合50%の場合:
1億円 × (1 – 0.3 × 0.5) = 8,500万円(評価額)
・注意点
賃貸契約の有無:
特例適用には賃貸借契約が実際に存在していることが必要です。
居住者の使用状況:
賃貸物件として使用されている期間が条件となるため、相続直前に空室が続く場合は適用が難しい場合があります。
貸主の継続性:
相続人がその土地を引き続き賃貸物件として維持する必要があります。

4-2-3.その他の特例

「小規模宅地等の特例」と「貸家建付地の特例」以外にも、土地や建物の相続税軽減に役立つ代表的な特例がいくつかあります。
以下に補足として3つの特例をご紹介します。

1. 特定同族会社事業用宅地等の特例

被相続人が所有していた土地が、特定の同族会社の事業用に供されていた場合、この特例が適用されます。

対象:同族会社が事業に使用していた土地で、相続人がその会社の経営を引き継ぐ場合。
適用範囲:400㎡までの部分について80%評価減。
注意点:相続人が会社経営に関与し続ける必要があります。

2. 広大地評価の特例

土地が広大である場合、通常の路線価方式よりも低い評価額が適用される特例です。
特に都市部の大規模土地が対象となります。

対象:分割が可能な広大な土地(住宅分譲用地として利用される可能性がある土地など)。
評価方法:路線価を基に算定される評価額からさらに一定の減額が適用されます。
注意点:土地が分譲用地として利用可能であることが条件となります。

3. 借地権評価減の特例

被相続人が所有する土地に第三者が借地権を設定している場合、この特例が適用されます。
借地権が設定されていることで、土地の利用価値が制限されているため、評価額が減額されます。

対象:借地権が付いている土地。
評価方法:土地全体の評価額から借地権分を差し引いた金額を計上。
注意点:借地権の範囲や契約内容が評価額に影響を与えます。

なお、これらの特例を活用するには、適切な申告書の作成や証明書類の準備が必要です。
また、特例適用を希望する場合、相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)を厳守する必要があります。
不動産の状態やご自身のケースによって特例適用の可否が異なりますので、相続税申告に詳しい税理士に相談のうえで相続税申告手続きを進めるようにしてください。

5.よくある質問

Q. 土地を分割せずに現金化したい場合、どのような方法がありますか?

A.土地を売却する以外にも、不動産を担保にして金融機関から融資を受け、現金化する方法があります。
この場合、相続人間で協議し、担保提供に同意する必要があります。
また、土地の利用価値や市場性に基づいた専門的な評価が求められるため、不動産鑑定士や税理士の協力が重要です。

Q.土地の評価額が相続税の計算に影響する具体例を教えてください。

A.例えば、都市部の住宅地で「路線価」と「実勢価格」の乖離が大きい場合があります。
この際、路線価を基準に評価額を計算すると、相続税が過大になるケースがあります。
一方、広大地評価が適用される土地では、評価額を大幅に下げられる可能性があります。
評価額が税額に直結するため、正確な測定が必要です。

Q.農地を相続した場合、分割や売却にはどのような制限がありますか?

A.農地法により、農地を分割するには自治体や農業委員会の許可が必要です。
また、売却する場合も農地としての利用継続が条件となるため、非農地化には追加手続きが必要です。
これらの手続きを誤ると、違法状態となるリスクがあるため、弁護士や行政書士によるサポートが不可欠です。

Q.土地を相続してすぐに売却する場合、相続税や譲渡所得税への影響は?

A.相続直後に土地を売却した場合、譲渡所得税の計算で取得費が問題になります。
相続で取得した不動産は、被相続人が購入した際の取得費を引き継ぐため、経過年数が長いほど税負担が重くなる傾向があります。
また、相続税が納付済みの場合、その一部を譲渡所得の取得費に加算できる「取得費加算の特例」を利用することで、節税が可能です。

Q.都市部と地方の土地では、遺産分割時にどのような違いがありますか?

A.都市部の土地は、評価額が高い反面、分割や売却の需要が多いため、換価分割が進みやすい傾向にあります。
一方、地方の土地は市場性が低く、現物分割や共有名義を選択せざるを得ない場合があります。
それぞれの特性を理解した上で分割方法を決定する必要があります。

Q.遺産分割協議中に不動産の固定資産税を誰が支払うべきですか?

A.協議が未了の間も固定資産税は課税されます。
原則として、不動産を最終的に取得する相続人が負担するべきですが、協議が成立するまでは相続人全員で分担するケースも多いです。

Q.相続税の申告後に土地の評価額が誤りだった場合、修正は可能ですか?

A.相続税申告後に評価額の誤りが判明した場合、更正の請求を行うことで修正が可能です。
誤った評価額で相続税を多く支払っていた場合、差額の還付請求ができますが、申告期限から5年以内である必要があります。

Q.未登記の土地を相続した場合、どうすればよいですか?

A.未登記の土地を相続する場合、まず被相続人名義の所有権を確認する必要があります。
その後、相続人名義への登記手続きを進めます。
相続登記が義務化されたことに加え、登記が未完了だと売却や分割が困難になるため、速やかに対応することをお勧めします。

6.当事務所が提供する遺産分割サポート

6-1. 専門家がワンストップで提供する安心感

当事務所では、弁護士、税理士、司法書士が在籍し、遺産分割に関する全ての手続きをワンストップでサポートしています。
これにより、複数の専門家を個別に依頼する手間が省けるだけでなく、各分野の専門知識を結集させた包括的なサービスを提供します。

6-2. 土地や建物の評価から遺産分割協議、税務まで対応

土地や建物の評価はもちろん、遺産分割協議や相続税申告、さらには不動産登記手続きまで、一貫してサポートします。
特に相続税の節税対策や評価額の適正化に関しては、当事務所併設の税理士法人が適切なアドバイスを行います。

6-3. トラブル時の調停・裁判のサポート

遺産分割に関するトラブルが発生した場合でも、当事務所の弁護士が調停や裁判での代理人を務めます。
相続人間の意見対立が深刻化した場合でも、適切な法的対応を通じて迅速な解決を目指します。

7. 無料相談のご案内

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