「親の相続対策をさせたいと思っているけどすでに親が認知症になってしまっている」、「父が亡くなったものの相続人の一人である母がすでに認知症になってしまっている」、このようなケースは現代では多いものです。厚生労働省発表のデータによりますと、現在でも65歳以上の高齢者5人に1人が認知症であり、2040年には4人に1人、2060年には3人に1人が認知症患者になると予測が出ています。このような認知症が相続に及ぼす影響について見て行きましょう。
1. 法定後見制度について
成年後見人とは、精神障害や知的障害、認知症により事理を弁識する能力、すなわち自己が行った法律行為の結果を判断する能力を欠く常況にある者の代理人のことをいいます。要するに、自身が行っている行動が法的にどのような意味や効果を持つのか判断できるだけの能力のないケースですね。
これに対して、事理弁識能力が著しく不十分である者の代理人を補佐人、事理弁識能力が不十分である者の代理人を補助人といいます。本人の事理弁識能力の程度によって本人が行うことのできる法律行為の範囲が異なり、被補助人、被保佐人、成年被後見人の順に制限が大きくなります。
2. 認知症の相続人による遺産分割協議への参加
遺産分割協議は相続人全員が参加しなければならないため、認知症の相続人を欠いて行うことはできません。しかし、認知症で事理弁識能力がない状況の人は、相続においても遺産分割協議の内容を理解して適切な意思決定を行うことができる能力を欠いていますので、遺産分割協議書に署名押印してもその協議は無効です。そのため、認知症の相続人の代理人として成年後見人が参加する必要があります。
もっとも、認知症の進行度によっては本人が遺産分割協議に参加できる場合があります。
事理弁識能力を欠く常況にある場合(認知症が重度の場合)には、本人が遺産分割協議に参加することはできず、成年後見人が代理人として参加する必要があります。この成年後見人は、本人と遺産分割を巡って利益相反関係にある他の相続人が就任ことはできないため、その場合は今回限りの特別代理人を選任する必要があります。一方、事理弁識能力が著しく不十分な場合(中程度の場合)には、保佐人の同意を得れば本人が協議に参加することができます。また、事理弁識能力が不十分な場合(軽度の場合)には、原則として本人は協議に参加することができ、家庭裁判所による補助人に同意権を付与する審判がなされた場合には、例外的に補助人の同意を得れば本人は協議に参加することができます。
なお、保佐人と補助人については、家庭裁判所による遺産分割における代理権を付与する審判がなされた場合に限って、代理人として協議に参加することができます。
3. 認知症の被相続人による遺言
被相続人が遺言をするには、遺言能力が必要ですが、これは満15歳以上かつ意思能力があれば認められ、行為能力までは要しないとされています。意思能力とは、自己が行った法律行為の結果を弁識する能力をいい、行為能力とは、法律行為を単独で有効に行うことのできる能力をいいます。意思能力と事理弁識能力は、精神上の障害を原因とするか否か、法律行為の結果を判断するか弁識するにとどまるかという点で異なります。
判例によると、遺言能力の有無は、遺言当時の年齢や症状の進行度、直前の遺言を変更した場合にはその合理的理由、遺言の内容等を総合的に判断するとされています。
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4. まとめ
相続人や被相続人が認知症の場合には、認知症の程度やその他の要因によって相続にかかる法律行為の効力が左右され、その判断には専門的な知識を要します。誤った判断のまま進めると相続人間で大きなトラブルにもなりかねないため、お早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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