前回は、生前の預貯金の使い込みについて基本的な部分について学びました。
今回は最新の裁判例(2023年10月時点)を用いて、裁判所が具体的にどこに着眼しているか、見ていきましょう。
前回の記事はこちら:生前に預貯金が使い込まれているときはどうすればよい?相続時の対応方法について弁護士が解説
1.最新の裁判例
事例1(令和4年6月30日東京地判)
・被相続人…P
・母…Y
・Pの配偶者、相続人…X
争点
YがPの生前預貯金の払戻しについて、Pの了承があったか
裁判のポイント
・払戻し時の被相続人の病状
⇒本件では、Pは要介護4、一人で金融機関に出向いて出金することはできない状態であった。
一方で、Pが、り患していた多系統萎縮症は原則として認知機能及び判断能力の低下はなかった。
・金銭管理
⇒Pは一人で銀行に行くことはできず、Yが付き添っていた。
・多額の払戻しの必要性
⇒多額の払戻しにつき、Pが車いすのまま自宅で生活できるよう、バリアフリーにリフォーム工事する必要があった。
以上をまとめますと、Yの付き添いでPの金融機関に赴いており、認知能力・判断能力の低下がみられず、したがって、払戻し状況や意味をPは理解していたと考えられること、自宅をバリアフリーに改築するため、多額の払戻しが必要であったことからすると、Yの払戻しについて、Pの了承があったと裁判所は判断しました。
裁判所は、被相続人Pの認知能力・判断能力に焦点を当てていることがわかります。
また、被相続人の払戻しを手伝った理由についても注意深く事実認定を行っている事例です。
事例2(令和4年4月7日東京地判)
・被相続人…P
・長女…Y
・次女…X
争点
認知・判断能力の程度
裁判のポイント
・被相続人Pの病状
⇒Pは預貯金の払戻しが始まる2年ほど前にアルツハイマー型認知症と診断されていた。
これにくわえ、統合失調症をも併発していた。
上記裁判では、介護担当者の調査票が証拠として提出され、裁判所は、その調査票から、Pの認知能力・判断能力が低下していることを認定しました。
また主治医の意見書も証拠として提出され、これが重要な証拠として取り扱われています。
主治医意見書の内容としては、日常生活自立支援度のランクが表記されており、「日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さがみられ、介護を必要とする」と記載されておりました。
また金銭の管理については「全介助、(管理できない。家族が書類を管理し、支払している。)」と記載されておりました。
以上のことを踏まえ、裁判所は、「アルツハイマー型認知症のため、基本的には被告に金員を引き出すことに必要な意思決定を行うことはできない状態にあったと認められる。」と判断し、Pに無断で、Yが預貯金を払い戻したことを認めました。
※事例1にのみならず、事例2においても、Yの払戻しの権限があったかが争われました。
払戻し権限があるかないかは、払戻しを行ったYにおいて、払戻しの理由等を説明させ、これに対し、原告であるXが反論し、Yの説明が合理的であるかによって払戻し権限があるかを判断します。
2.使い込みが疑われる場合、どのように対処する?
(1)まずは、弁護士が間に入り、預貯金を使い込んだ相続人のみならず、他の相続人も含めて意向確認、交渉を行っていきます。
交渉の段階で相手に使途不明金を何に使ったのか明らかにしていくことになりますが、この段階で、使い込みを認めることはほとんどないでしょう。
(2)そこで次のステップとして、遺産分割調停での解決を図ることになります。
遺産分割調停において、使い込みではなく、生前贈与を受けた主張して争ってくる場合もありますので、この場合は、特別受益であるとして反論していくこととなります。
調停でも解決しない場合、訴訟を行うことになります。
使い込みを行った相続人に対し、不当利得返還請求訴訟を行うこととなります。
3.まとめ
相続人が被相続人の生前の預貯金の使い込みを認める可能性はかなり低いですが、早めに弁護士に相談することで、使い込みの防止・証拠収集のアドバイスを受けることができます。
また弊所では、生前の預貯金の使い込みのご相談も多数ございますので、お気軽にご相談ください。
記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。
KOMODA LAW OFFICE(菰田総合法律事務所)
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