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遺産分割コラム

生前に預貯金が使い込まれているときはどうすればよい?相続時の対応方法について弁護士が解説

2023.10.02

今回は、当事務所でもご相談が多い、被相続人の預貯金の使い込みについて、事例も交えて詳しくご説明します。

1.生前の預貯金の使い込みとは?

亡くなられた方(被相続人)の預貯金を、生前、相続人が出金し、自己のために費消することをいいます。
誰が引き出したのか、何のために使ったかなどが争点となります。

生前の預貯金の使い込みの事例
母が死亡したため、遺産分割協議に備えて、預金の残高証明書を取得したところ、予想よりもはるかに預金残高が低かった。
そこで、取引履歴を取り寄せたところ、母が亡くなる数日前から、多額の預金が出金されていた。
母の預金通帳を管理していた兄を問いただしても、取り合ってくれなかった。
そのため、遺産分割協議は進まなかった。

 

通帳

2.出金が被相続人の意思に基づかない場合はどうする?

(1)不当利得返還請求

この場合、実際、引き出し行為を行った相続人に対し、不当利得返還請求を行っていくことになります。

不当利得返還請求が認められるためには、被相続人の意思に基づかない引き出し・使い込みであることを主張・立証する必要があります。
そのため、証拠・資料を収集する必要があります。

(2)取引履歴の照会

まず、金融機関に取引履歴を照会するためにあたって必要なものは以下になります。
・被相続人が死亡したことがわかる戸籍謄本   ・被相続人の相続人であることがわかる戸籍
これらを金融機関に提出の上、照会をかけることで、約10年分の取引履歴が開示されます。

※なお、他の相続人の同意がないことを理由に、被相続人の口座の取引履歴を開示しない金融機関もまれにありますが、これは裁判例により否定されております。
そのため、金融機関は、基本的に相続人の、被相続人の口座の取引履歴の照会の申出を拒否できません。

取引履歴を取得したら、不自然な引き出しや資金移動がないか確認します。
限度額いっぱいの引き出しや、相続人への送金がある場合、その使途、目的は何であったかを確認していきましょう。

(3)被相続人の意思を推認する証拠

被相続人は亡くなっているため、当然、その意思を確認することはできません。
一方で、どのような意思であったかは被相続人の日記、メモなどによって推認することとなります。

(4)入院履歴・カルテの入手

認知症などにより事理弁識能力があったかどうかを確認し、事理弁識能力がなかった場合、いつからなかったかを確認します。
取り寄せた取引履歴と入院費、治療費を比較し、過度な引き出しでないかも確認しましょう。

入院履歴・カルテは、入通院履歴のある施設・病院に開示請求を行うことで入手できます。
カルテより看護記録の方が情報が豊富です。
また、病院より施設の方が面会記録などを残しているので、より手掛かりが探しやすいでしょう。

また自宅療養の場合、ヘルパー、地域支援包括センター、民生委員等に記録がないかを問い合わせ、資料を取り寄せる方法もあります。
前回は、生前の預貯金の使い込みについて基本的な部分について学びました。
今回は最新の裁判例(2023年10月時点)を用いて、裁判所が具体的にどこに着眼しているか、見ていきましょう。
前回の記事はこちら:生前に預貯金が使い込まれているときはどうすればよい?相続時の対応方法について弁護士が解説

3.最新の裁判例

事例1(令和4年6月30日東京地判)
被相続人Pの母YがPに無断で預貯金の使い込みを行ったとして、Pの配偶者であり相続人であるXが、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事例
・被相続人…P
・母…Y
・Pの配偶者、相続人…X

 

争点

YがPの生前預貯金の払戻しについて、Pの了承があったか

裁判のポイント

・払戻し時の被相続人の病状
⇒本件では、Pは要介護4、一人で金融機関に出向いて出金することはできない状態であった。
一方で、Pが、り患していた多系統萎縮症は原則として認知機能及び判断能力の低下はなかった。
・金銭管理
⇒Pは一人で銀行に行くことはできず、Yが付き添っていた。
・多額の払戻しの必要性
⇒多額の払戻しにつき、Pが車いすのまま自宅で生活できるよう、バリアフリーにリフォーム工事する必要があった。

以上をまとめますと、Yの付き添いでPの金融機関に赴いており、認知能力・判断能力の低下がみられず、したがって、払戻し状況や意味をPは理解していたと考えられること、自宅をバリアフリーに改築するため、多額の払戻しが必要であったことからすると、Yの払戻しについて、Pの了承があったと裁判所は判断しました。

裁判所は、被相続人Pの認知能力・判断能力に焦点を当てていることがわかります。
また、被相続人の払戻しを手伝った理由についても注意深く事実認定を行っている事例です。

通帳

事例2(令和4年4月7日東京地判)
被相続人Pの長女Yが生前に預貯金を払い戻したとして、次女Xが不法行為に基づく損害賠償請求かつ不当利得返還請求を行った事例。
・被相続人…P
・長女…Y
・次女…X

 

争点

認知・判断能力の程度

裁判のポイント

・被相続人Pの病状
⇒Pは預貯金の払戻しが始まる2年ほど前にアルツハイマー型認知症と診断されていた。
これにくわえ、統合失調症をも併発していた。

上記裁判では、介護担当者の調査票が証拠として提出され、裁判所は、その調査票から、Pの認知能力・判断能力が低下していることを認定しました。

また主治医の意見書も証拠として提出され、これが重要な証拠として取り扱われています。
主治医意見書の内容としては、日常生活自立支援度のランクが表記されており、「日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さがみられ、介護を必要とする」と記載されておりました。
また金銭の管理については「全介助、(管理できない。家族が書類を管理し、支払している。)」と記載されておりました。

以上のことを踏まえ、裁判所は、「アルツハイマー型認知症のため、基本的には被告に金員を引き出すことに必要な意思決定を行うことはできない状態にあったと認められる。」と判断し、Pに無断で、Yが預貯金を払い戻したことを認めました。

※事例1にのみならず、事例2においても、Yの払戻しの権限があったかが争われました。
払戻し権限があるかないかは、払戻しを行ったYにおいて、払戻しの理由等を説明させ、これに対し、原告であるXが反論し、Yの説明が合理的であるかによって払戻し権限があるかを判断します。

2.使い込みが疑われる場合、どのように対処する?

(1)まずは、弁護士が間に入り、預貯金を使い込んだ相続人のみならず、他の相続人も含めて意向確認、交渉を行っていきます。
交渉の段階で相手に使途不明金を何に使ったのか明らかにしていくことになりますが、この段階で、使い込みを認めることはほとんどないでしょう。

(2)そこで次のステップとして、遺産分割調停での解決を図ることになります。
遺産分割調停において、使い込みではなく、生前贈与を受けた主張して争ってくる場合もありますので、この場合は、特別受益であるとして反論していくこととなります。

調停でも解決しない場合、訴訟を行うことになります。
使い込みを行った相続人に対し、不当利得返還請求訴訟を行うこととなります。

関連記事:預金の使い込み

4.まとめ

相続人が被相続人の生前の預貯金の使い込みを認める可能性はかなり低いですが、早めに弁護士に相談することで、使い込みの防止・証拠収集のアドバイスを受けることができます。
また弊所では、生前の預貯金の使い込みのご相談も多数ございますので、お気軽にご相談ください。

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