家族や親族を受託者と定めて契約する信託契約のことを「家族信託」といいます。
「委託者」、「受託者」、「受益者」の3人が信託契約のメインキャストです。
「委託者」、「受託者」、「受益者」と言われても、各々の役割がどのようなものか想像できないと思います。
今回は、「受益者」について説明させて頂きます。
信託財産から経済的利益を受け取る権利(これを「受益権」といいます。)を有する者を「受益者」といいます。
信託契約や遺言の中で「受益者」と指定された者は、原則として当然に受益権を取得することになります。つまり、受益者となるために受諾をすることなく、受益権を取得することができます。
もっとも、信託行為により、受益者が受益権の取得の意思表示をすることを条件にしたり、条件の成就や時期を決めて受益させるなどの特段の定めをしたりする場合は、当然に受益権を取得できるわけではありません。
受諾の意思表示をすることなく「受益者」になるという点で、「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾すること」が必要な「贈与」(民法549条)とは異なります。贈与と異なり、家族信託契約では、財産をもらう側が幼児や知的障がい者、認知症高齢者のような判断能力がないとみなされる者であっても、一方的に「受益者」に指定することで、財産を渡すことができます。
対して、信託財産を管理する受託者は、受益者として指定された者が受益権を取得したことを知らないときは、その者に対して遅滞なく受益者となったことを通知することが原則として定められています(信託法88条2項)。なお、信託契約書や遺言で、通知する義務を免除することができるので、受益者に内緒で受益者のために財産を管理することも理論的には可能です。
但し、注意しなければならないのは、委託者兼受益者以外の場合、受益者となったタイミングや原因によって「みなし相続」や「みなし贈与」として相続税や贈与税の課税対象となるため、受益者に税務申告義務・納税義務が発生することです。
また、受益者は特定の人であればいいので、委託者自身や委託者以外の個人、法人でもなることができます。
さらに、「受益者」は、胎児だけでなく、将来生まれるであろう現在存在していない子孫でも、また複数でも構いません。
複数の受益者に受益権を与える場合は、同時にだけでなく、異時的・連続的に取得させること(これを「受益者連続型」といいます。)もできます。
確かに民法でも胎児は相続人になれます(民法886条。ただし、胎児は出生しなければ、相続能力はありません。)。しかし、将来生まれるであろう現在は存在していない子孫にまで異時的・連続的に受益権を取得させることができるという点で、民法と「家族信託」は大きく異なるのです。