資産の問題
後見制度支援信託の利用が難しいケースとして2つの理由が考えられます。
1つ目の理由は、一定の財産が無ければ信託銀行等の利用が難しい点です。信託銀行等は、利用基準として1000万円以上というラインを設けていることが多いため、成年被後見人が有する金銭が1000万円未満の場合には後見制度支援信託の利用が難しくなります。
また、財産の総額が1000万円以上の場合であっても、信託財産が金銭に限定されていることから、不動産、株式などの財産が多く、預貯金が1000万円に満たない場合においても、基本的には利用が難しくなります。
なお、この様な場合に、不動産、株式等を換価して、後見制度支援信託を利用できるだけの金銭を準備するということは、後見業務において推奨されておりません。
成年被後見人の意思の問題
2つ目の理由は、遺言書等で事前に成年被後見人の意思が明確に示されている場合です。
後見開始時点で遺言書が存在する場合、成年被後見人は現在の財産を基として相続を望んでいることが推定されることから、信託へ財産を移転させて財産状況を変動するリスクを高めることは、成年被後見人の意思に反すると考えられています。
そのため、後見制度支援信託の利用は難しいと考えられているのです。
また、後見制度支援信託の利用は後見に限られており、保佐、補助では利用が出来ません。
後見に限られている理由は、後見は被後見人の財産の管理について包括的な代理権を有していますが、保佐、補助では特定の範囲でしか代理権を有していないためです。
よって、後見制度支援信託の使用を検討している方は、本人が後見に該当する状態であるか医師の診断を受けたうえで、弁護士、司法書士等の専門家の意見も確認し、手続きを進めることが望ましいです。
加えて、親族間に紛争がある場合、成年被後見人を賃貸人とする賃貸不動産が多数ある場合など、財産管理に専門的な知識、経験を要するケース、後見人に第三者性が求められている場合にも、後見制度支援信託の利用は行わずに専門家が後見人となることが推奨されています。
これらのケースで専門家が推奨される理由は、後見制度支援信託は財産保全に役立つものの、専門性が求められる財産管理の機能は期待されておらず、親族後見人に専門的な知識、経験、第三者性を求めることが難しいためです。
以上の事情に該当する場合は、後見制度支援信託の利用が難しいことを覚えておきましょう。