特定遺贈・特定財産承継遺言
改正民法において新たに定義されたものの1つに、「特定財産承継遺言」という用語があります。
これは、「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」のことをいい、これまでは一般的に「相続させる旨の遺言」と言われていました。
本改正では、遺贈及び「特定財産承継遺言」がなされた場合の遺言執行者の権限についても明確にされました。
(1)遺贈の場合
遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
これまで、特定遺贈がなされた場合、受遺者に対して遺贈の義務を負う者(遺贈義務者)は相続人であると定められていましたが、遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者と遺贈義務者の関係性が法律上明確ではなく、判例上、特定遺贈において遺言執行者がいる場合には、遺言執行者のみが遺贈義務者となるとされていました(最判昭和43.5.31民集22巻5号1137頁)。
そこで、本改正では、この判例法理を明文化し、特定遺贈と包括遺贈とを問わず、受遺者は遺言執行者がいる場合には遺言執行者に、遺言執行者がいない場合には相続人に対して遺贈の履行請求をすることが明記され、受遺者に対して遺贈の義務を負う者が明確になりました。
(2)特定財産承継遺言の場合
改正民法 1014条2項(特定財産に関する遺言の執行)
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八九九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
これまで、「相続させる旨の遺言」は原則として遺贈ではなく、あくまで遺産分割方法の指定であり、被相続人の死亡時にその特定の遺産が特定の相続人に相続を原因として承継されるものとして取り扱われてきました。
つまり、遺言の対象財産が不動産のような特定財産である場合には、当該財産はすでに遺言執行の対象ではなく、相続人が単独で相続登記申請を行うことができるため、遺言執行者が遺言に従って登記申請を行うことはできず、遺言執行者の権限の有無が問題になることがあったのです。
そこで、本改正においては、「相続させる旨の遺言」を「特定財産承継遺言」と定義付けた上で、特定財産に関する遺言の執行について遺言執行者の権限を明確にするために、「特定財産承継遺言があったときは、遺言執行者は対抗要件を備えるための必要な行為をすることができる」こととなりました。
これまで、登記を経ていなくても「相続させる旨の遺言」の効果を第三者に対抗することが判例上可能とされていましたが、本改正により、登記がない場合には法定相続分を超える部分について第三者に対抗することができなくなりました(改正民法第899条の2)ので、遺言執行者は、特定財産承継遺言においても登記申請をすることができることとなります。