昨今、認知症は大きな社会問題として扱われています。
もし自分自身が将来認知症になったときに成年後見人へ財産管理をお願いするとなったら、個人的に信頼できる人にお願いしたいと思うのが自然かもしれません。
実際に家庭裁判所で選任するときには、どういった事情が考慮されるのでしょうか?
成年後見人選任時に考慮される事項
成年後見人は、家庭裁判所の審判によって選任され、その判断にあたり考慮される事項は民法で規定されています。
【民法843条】
第4項 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
よって、成年後見人が指定した人を「成年後見人候補者」として申し立てることはできますが、上記のような条件を考慮した上で裁判所によってより適切な個人もしくは法人が選任されるため、すべてが自分の希望通りに決定されるわけではありません。
利害関係
上記1であげた民法843条第4項では、成年後見人選任時に「成年被後見人との利害関係の有無」について考慮する必要があると規定されています。
ここでいう「利害関係」とはどういった状況が想定されるのでしょうか。
(1)成年被後見人自身が申立人である場合
成年被後見人となる本人が、裁判所へ申し立てる際の書類作成について弁護士へ依頼した場合について考えてみます。
弁護士がこういった業務を受けると、委任者(申立人)と弁護士の間で、業務に関する報酬の約定を含めた委任契約を締結していることが一般的です。
そして、弁護士が成年後見の申し立てについて相談を受けるときには、申立書類作成と併せて成年後見人候補者となることを依頼されることがままあり、報酬の発生する委任契約を本人と候補者が締結していることは利害関係が存在しているように考えられるかもしれません。
しかしながら、この契約については、双方の権利(弁護士側から見ると、権利=報酬の受領、義務=申立書の作成)が完全に履行された時には利害関係を脱したと考えることができるため、実際に裁判所が後見人選任について審判を行う際には問題とならないと言えます。
ただし、例えばその弁護士が本人の遺言執行者に指定されている等の特別な事情があった場合には利害関係が存在すると判断されることもあるので、注意が必要です。
(2)本人以外が申立人である場合
親族が申立人となった場合には、上記(1)のように弁護士へ依頼したとしても、委任契約は親族と弁護士の間で締結されるため、本人との間で利害関係の問題は生じません。
しかしながら、例えば成年後見申立てを行うことが本人ではなく親族の意向で判断され、一方で反対している親族がいた場合等には、利害関係の問題が無かったとしても、本人の意思に反する可能性が否定できないという見方もできます。
まとめ
判断能力が不十分な本人と、本人を保護する立場にある成年後見人の間の関係は、成年後見人が単独で「本人にとって不利益かつ成年後見人にとって利益」な状況を作ることができる立場となりえることから、一般的な利害関係の有無の審査以上に、厳格に諸事情を考慮する必要があるのです。