1 申立権者
民法7条では、後見開始の審判の申立権者として、以下に列挙する人を定めています。
①本人
②配偶者
③四親等内の親族
④未成年後見人
⑤未成年後見監督人
⑥保佐人
⑦補佐監督人
⑧補助人
⑨補助監督人
⑩検察官
また上記に加えて、「任意後見人に関する法律」においては、
⑪任意後見受任者
⑫任意後見人
にも申立てが認められています。
しかしながら、これらの申立権者が身近にいないために、後見申立ての必要性があるにも関わらずそれを期待することができない高齢者等、成年後見制度による保護を必要とするケースも存在しています。
こういった状況の人々が放置されないように、という社会的な要請から、「65歳以上の者」「知的障がい者」「精神障がい者」であって、かつ本人の福祉を図るために手続をする必要があると認められる場合には、市町村長にも後見申立てが認められているのです(老人福祉法第32 条、知的障害者福祉法第28 条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51 条の11 の2)。
2 市町村長申立ての必要性
民法では、
事理弁識能力を欠く常況にある
とされる本人を後見開始の審判の申立権者として規定しています。
そして、家事事件手続法においては、本人の意思及び決定権を尊重するという観点から、成年被後見人となるべき者、及び成年被後見人に対し、後見開始の審判事件の他、後見に関する一部の審判事件についても手続き行為能力を認める規定が設けられました。
しかしながら、後見開始の審判事件において、法律上本人による申立てが認められているとしても、事理弁識能力を欠く常況にある本人自らが申立書を作成し、登記事項証明書といった申立てに必要となるさまざまな書類を収集したりすることは困難であり、弁護士や司法書士等が本人からの委任を受けて、申立書を作成したり資料を収集したりといった形で申立てを行うことが一般的です。
このように、本人による後見開始の審判の申し立ては、実際には困難な場面も少なくありません。
そして、裁判所の職権や利害関係人からの申立てによる後見開始の審判が認められていない現状において、身寄りのない高齢者や親族による申立てが期待できない高齢者等に対する後見開始の審判を申し立てるにあたっては、事実上、市町村長による以外に方法はありません。
以上のことから、成年後見制度による保護を必要とする高齢者らを社会から孤立させないためにも、市町村長申立は大変重要な制度と言えます。