テレワークを廃止・縮小したいと考えたとき、まず確認すべきなのは「会社の判断だけで廃止できるのか」という点です。結論からいうと、これはテレワークが労働契約や就業規則のなかでどのように定められているかによって決まります。会社が許可する働き方として運用しているなら原則として業務命令で出社を求められますが、労働契約の内容になっている場合は、社員本人の同意が必要です。また、廃止できる場合でも、在宅勤務手当の扱いや、育児・介護中の社員への対応、廃止後の出社拒否・退職などにおいて法的リスクが生じやすくなります。
本コラムでは、テレワークの廃止・縮小を検討する際に確認すべき事項について社労士資格を持つ弁護士が解説します。
もくじ
第1章 テレワークを廃止できるかは、労働契約と就業規則の定め方で決まる
最初に確認すべきは、自社のテレワークが次のどちらの位置付けかという点です。
- 会社が許可する働き方(原則は出社で、テレワークは会社の許可により認めているもの)
- 労働契約の内容(勤務場所が自宅等に限定されているもの)
どちらにあたるかによって、廃止に必要な手続が異なります。
1-1 会社の許可制として運用しているなら、業務命令で出社を命じやすい
就業規則やテレワーク規程で「会社が認めた場合に在宅勤務を行うことができる」「業務上の必要があるときは出社を命じることができる」と定めている場合、テレワークは会社の許可にもとづく働き方といえます。この場合、会社は業務命令として出社を命じることができます。
たとえば、雇用契約書の就業場所欄が「本社」となっている社員については、テレワークはあくまで本来の就業場所の例外という位置付けとなり、許可を取り消して本社への出社を命じることは、原則として会社の権限の範囲内といえます。
1-2 フルリモートを条件に採用した社員には、個別の同意が必要になる
一方、雇用契約書の就業場所欄が「自宅(会社が認める場所)」とだけ記載されている社員や、求人票に「フルリモート可」「出社なし」などと示し、採用時の説明や実際の勤務状況からも在宅勤務を前提として採用したと認められる社員については、勤務場所の限定が労働契約の内容になっていると判断される可能性があります。
このように、勤務場所が個別の労働契約の内容になっている場合、勤務場所を変更するには、原則として労働契約法8条にもとづく本人との合意が必要になります。
なお、2024年4月以降に締結・更新した労働契約では、就業場所について、雇入れ直後の場所だけでなく「変更の範囲」も明示することが義務付けられています。変更の範囲に「会社の定める場所(テレワークを行う場所を含む)」などと記載されているか、自宅のみに限定されているかが、判断の材料になります。
1-3 出社を命じられる場合でも転居済みの社員などには個別の調整が必要
出社を命じる権限がある場合でも、その命令が常に有効になるわけではありません。命令が社員に過大な不利益を与える場合には、権利の濫用として無効と評価されるおそれがあります(労働契約法3条5項)。
たとえば、フルリモート勤務ができるという理由で遠方へ転居した社員です。会社の許可を得て新幹線通勤が必要な地域へ転居した社員に毎日の出社を命じれば、通勤の負担は大きくなります。転居を会社が認めていた経緯があれば、なおさら命令の有効性が争われやすいといえます。
こうした社員については、出社頻度を抑える、一定期間の猶予を設けるといった個別の調整が必要です。
第2章 テレワーク廃止の理由は、不利益変更の必要性を説明できる形で整理する
テレワークを廃止する権限があることを確認できたら、次は「なぜ廃止するのか」と「どの範囲で廃止するのか」を整理します。
2-1 テレワーク廃止の理由は、具体的な事実やデータで説明できるようにする
テレワーク廃止の理由は、従業員を説得するためのものにとどまりません。就業規則の変更をめぐって紛争になった場合には、労働契約法10条の「変更の必要性」を立証する証拠にもなります。
たとえば、廃止の理由が「監視の目が行き届きにくい感じがする」「なんとなく一体感がない」といった感覚的なものにとどまる場合、根拠としては弱めです。
これに対し、次のような具体的な事実やデータは、テレワーク制度変更の必要性を説明する根拠として使いやすいといえます。
- 新卒社員の入社1年以内の離職率が、テレワーク導入前より上昇している
- 持ち出し端末からの情報漏えい事案が発生した
- 業務の状況が見えにくく、人事評価への異議申立てが増えている
検討の経緯や根拠となったデータは、万一紛争になった場合に備え、議事録や資料として残しておきましょう。
2-2 テレワークを全廃するより、一部を残す方が不利益の程度は小さく評価される
廃止の方法には、テレワークを全面的に廃止するほか、週数日の出社と在宅勤務を組み合わせるハイブリッド化や、特定の部署に限った廃止といった選択肢が考えられます。どれを選ぶかで、社員が受ける「不利益の程度」の評価も変わります。
たとえば、「全社員を週5日出社に戻す」場合と、「週3日出社・2日在宅に縮小する」場合とでは、後者のほうが社員の不利益は小さく、紛争に発展するリスクも下がる傾向があります。そのため、段階的な縮小から始めることも選択肢といえます。
第3章 就業規則の変更と在宅勤務手当の廃止は、不利益変更にあたるかを個別に判断する
廃止・縮小の方針が決まったら、社内制度として定めている規程や手当を見直します。
3-1 テレワーク規程を廃止するには、就業規則の変更手続が必要になる
テレワーク規程や賃金規程は就業規則の一部として扱われます。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、これらを改定・廃止する場合は、
- 過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)からの意見聴取(労働基準法90条)
- 従業員への周知(同法106条)
が必要です。加えて、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働基準監督署への届出(同法89条)が必要となります。
あわせて、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更する場合、その効力は労働契約法10条にもとづき、不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などを総合して判断されます。手続を踏めば必ず有効になるわけではない点に注意が必要です。
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3-2 在宅勤務手当を廃止できるかは、手当が「賃金」か「実費弁償」かで変わる
在宅勤務手当の扱いは、その性質によって必要な手続が分かれます。
在宅勤務日数×単価のように、業務に必要な通信費・光熱費等の実費を合理的・客観的な計算方法で精算し、実費の範囲内で精算している手当は、実費弁償にあたり、賃金には該当しません。この場合はテレワークの廃止に伴って支給を終了しても賃金の減額にはならないため、賃金の不利益変更の問題は生じません。
一方、「在宅勤務手当 月5,000円」のように実際の在宅日数や費用にかかわらず一律定額で支給している手当は、賃金として扱われます。これを廃止することは賃金の減額にあたるため、不利益変更の問題になります。
この場合、手当の支給目的、通勤定期代の支給再開によって社員の負担がどの程度相殺されるか、といった点を整理したうえで、変更の合理性を検討する必要があります。
また、次のような付随論点も見落とされがちです。
社会保険の随時改定
通勤手当の支給再開や在宅勤務手当の廃止は、固定的賃金の変動にあたる場合があります。変動後3か月の報酬の平均により標準報酬月額に原則2等級以上の差が生じ、報酬支払基礎日数などの要件も満たす場合は、月額変更届の提出が必要です。
割増賃金の算定基礎
賃金に該当する在宅勤務手当は、割増賃金の算定基礎に含まれます。手当の廃止によって算定基礎額が下がる場合は残業代の単価も変わるため、給与計算の設定を見直す必要があります。
3-3 経過措置や代償措置を設けると、変更の合理性が認められやすくなる
不利益変更の合理性を高めるためには、社員への影響を和らげる措置をあわせて設けることが有効です。たとえば、次のような方法があります。
- 制度変更の決定から実施まで3か月程度の周知期間を置く
- 実施後6か月間は週2日の在宅勤務を認める
- 在宅勤務手当を一度に廃止せず、段階的に減額する
あわせて、説明会の開催や質疑への回答など、社員との協議の経過も記録しておくことが大切です。
第4章 育児・介護中の社員は、2025年改正の育児・介護休業法に沿って対応する
育児・介護中の社員には法律上の特別ルールがかかります。2025年に施行された改正育児・介護休業法により、テレワークの位置づけが変わっているため注意が必要です。
4-1 テレワークを「柔軟な働き方の措置」に選んでいる場合は、別の措置に切り替えてから廃止する
改正育児・介護休業法により、事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、次の5つの措置のうち2つ以上を講じる義務を負っています。
- 始業時刻等の変更
- テレワーク等(月10日以上)
- 保育施設の設置運営等
- 養育両立支援休暇の付与(年10日以上)
- 短時間勤務制度
テレワークをこの措置の一つとして選んでいる会社が全社的にテレワークを廃止すると、措置義務を満たさなくなるおそれがあります。
たとえば、「始業時刻の変更」と「テレワーク」を選択している会社であれば、テレワークを「短時間勤務制度」などの別の措置に差し替えたうえで廃止する必要があります。
措置を変更する際には、代わりの措置の導入や過半数労働組合等からの意見聴取が必要です。また、対象者への適切な周知や、必要に応じた個別の意向確認も行うことが望ましいでしょう。
4-2 3歳未満の子を育てる社員と介護中の社員には、テレワークを継続するか個別に検討する
また、同改正では、3歳未満の子を養育する労働者や、要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう措置を講じることが、事業主の努力義務とされています。
会社が業務上の理由で導入したテレワークについて、この努力義務だけを理由に、その継続が一律に義務付けられるわけではありません。ただし、制度を廃止する際には、上記の努力義務の趣旨も踏まえ、育児・介護を行う社員について、業務内容や本人の事情に応じた対応を検討することが望ましいといえます。(介護中の社員から在宅勤務の継続を求められた場合には、介護の状況を聴き取ったうえで、一定期間の継続や出社日数の調整などを個別に検討するなど)
なお、障害のある社員については、障害者雇用促進法上の合理的配慮として、テレワークの継続が求められる場面がある点にも留意が必要です。
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第5章 廃止後の出社拒否と退職への対応は、実施前に決めておく
テレワークの廃止後に出社に応じない社員や、退職を申し出る社員が出ることがあります。こうしたトラブルへの対応方針は、廃止を実施する前に決めておくことが大切です。
5-1 出社命令に従わない社員には、指導を重ねてから懲戒を検討する
有効な出社命令に従わない場合、業務命令違反として懲戒処分の対象になり得ます。ただし、懲戒や解雇が有効と認められるかどうかは、第1章で検討した命令の有効性と、それまでの注意指導の積み重ねによって左右されます。
出社命令後も在宅で勤務を続ける社員に対しては、次のように段階的に対応するのが基本です。
- 口頭で出社しない理由を聴き取り、出社を指示する
- 改善されない場合は、書面で指導する
- それでも従わない場合に、就業規則にもとづく懲戒処分を検討する
いきなり懲戒処分や解雇に進むと、処分が重すぎるとして無効と判断されるリスクが高くなります。各段階でのやり取りは、日時・内容を記録しておきましょう。
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5-2 退職を強く促すと退職強要になるおそれがあり、離職理由にも注意が必要
出社に応じない社員に退職を勧めること自体は違法ではありません。しかし、繰り返し面談を求める、退職しなければ不利益な扱いをすると示唆するなど、態様によっては違法な退職強要と評価され、損害賠償の対象になります。
また、フルリモートを条件に採用した社員が出社命令を理由に退職した場合、雇用保険上、会社都合の離職と判断される可能性があります。離職票の離職理由をめぐって社員と争いになるケースも考えられます。会社都合の離職者が出ると、一部の雇用関係助成金の支給要件に影響する場合がある点にも注意が必要です。
まとめ
テレワークの廃止・縮小を検討する際は、次の順番で確認を進めることが大切です。
- テレワークが労働契約の内容になっていないか(契約内容の確認)
- 廃止の理由を具体的に整理し、全廃か縮小かを選ぶ(必要性と選択肢)
- 就業規則・賃金規程の変更手続と、手当の扱いを検討する(規程・手当)
- 育児・介護中の社員への措置義務・配慮を確認する(特別ルール)
- 出社拒否・退職への対応方針を事前に決める(廃止後の対応)
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