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定年後再雇用で給与はどこまで引き下げられる?賃金の決め方と法的注意点を弁護士・社労士が解説

2026.10.02

65歳未満の定年を設けている企業は、定年後に従業員を再雇用する際、その給与をどのように検討すればいいでしょうか。仕事内容や責任などとの関係によっては、再雇用後の給与設定が法的に問題となる場合もあります。
本記事では、実務でよくある再雇用パターンをもとに、再雇用の際の給与の決め方について弁護士・社労士が解説します。

第1章 定年後の再雇用で給与の引き下げは可能。下げ幅に一律の基準はない

1-1 再雇用時には定年前と異なる給与を設定できる

65歳未満の定年を定めている企業には、65歳までの高年齢者雇用確保措置を講じることが義務付けられています。一方、定年後に再雇用する場合は新たな労働条件を設定できるため、定年前と同じ給与を維持する必要はなく、給与を引き下げることも検討できます。

1-2 給与をどこまで下げられるかについて一律の基準はない

もっとも、65歳までの継続雇用制度として再雇用する以上、会社がいくらでも低い給与を提示できるわけではありません。
法律上も、「定年前の70%程度なら問題ない」「60%を下回れば違法」といった一律の基準はなく、再雇用後の仕事内容や責任などをふまえて個別に判断する必要があります。

第2章 再雇用後の給与はどこまで下げられる?3つのケースで法的な考え方を確認

再雇用後の給与を検討する際には、特に2つの法的な視点が重要です。

一つは、高年齢者雇用安定法との関係です。厚生労働省は、65歳までの継続雇用について、企業が自社の状況などを踏まえた「合理的な裁量の範囲」で労働条件を提示することを前提としています。
もう一つは、再雇用後を有期雇用とする場合のパートタイム・有期雇用労働法との関係です。正社員との待遇差については、仕事内容や責任、配置変更の範囲、その他の事情などを考慮し、不合理なものとなっていないかを判断します。

この2つの視点をふまえて、実務でよくある3つのケースを見ていきます。

2-1 仕事は同じでも責任が軽くなる場合

業務内容が同じでも、管理責任や決裁権限などが軽くなる場合には、その軽くなる責任に対応する範囲で給与の引き下げを検討できます。

たとえば、定年前は営業部長として自らも営業活動をしながら、部下の管理、人事評価、部門全体の売上管理まで担当していた従業員について、定年後は一般の営業担当者として再雇用するとします。
再雇用後も顧客対応や営業活動は続けますが、部下は持たず、人事評価も行わず、部門全体の業績について責任を負うこともありません。
この場合には、仕事内容に共通する部分が多くても、給与差を設ける理由になり得ます。

引き下げの目安|役職手当を外し、基本給や営業手当は支給目的に応じて見直す

管理職としての責任がなくなる場合、まず見直しやすいのが役職手当です。役職そのものがなくなるため、給与を引き下げる理由との対応関係が明確です。
基本給についても、責任の程度を反映する仕組みになっているのであれば、その軽減に応じて見直すことが考えられます。基本給を見直す際の参考として、JILPT(厚労省所管の独立行政法人労働政策研究・研修機構)が公表した企業事例には、責任を軽減する場合に基本給を定年前の7~8割程度とする例があります。※65歳定年制等を採用する企業の事例であり、定年後再雇用の一般的な相場や法的基準を示すものではありません。

一方、営業手当や外勤手当などは、会社が何に対して支給する手当としているかで判断します。
たとえば、「営業」という業務そのものに対して支給する営業手当であれば、再雇用後も同じ営業業務を続ける以上、支給をなくすことは説明しにくくなります。
外勤手当や直行直帰に伴う手当についても、外勤による負担や実費を補う趣旨であれば、再雇用後の勤務形態に照らして検討が必要でしょう。

2-2 仕事も責任もほとんど変わらない場合

再雇用後を有期雇用とする場合には、仕事や責任が定年前とほとんど変わらなくても、定年後の再雇用であることなどを考慮して、正社員との給与差が認められる場合があります。

たとえば、製造現場の熟練社員が、定年後も同じ製造ラインで同じ機械を操作し、勤務時間や担当業務、求められる責任もほとんど変わらないまま、有期雇用で再雇用されるケースです。

引き下げの目安|定年後再雇用であることなどを考慮して給与差が認められる場合がある

有期雇用の再雇用者と正社員との待遇差は、仕事内容や責任だけでなく、「その他の事情」も含めて判断されます。定年後の再雇用であることも、この「その他の事情」として考慮されます。

長澤運輸事件では、正社員と仕事内容、責任、配置変更の範囲が同じ再雇用者について、定年後の再雇用であることや、退職金、年金、労使交渉をふまえた賃金制度などを考慮し、年収約2割の相違を含む一部の待遇差を不合理とは判断しませんでした。(最高裁判所・平成30年6月1日)

したがって、仕事や責任が同じなら定年前と同程度の給与にしなければならないわけではありません。
ただし、定年後の再雇用であることだけで、どの程度でも給与を下げられるわけではありません。

仕事が同じまま基本給を大幅に下げる場合は注意が必要

賃金の下げ幅において参考になるのが、名古屋自動車学校事件です。
同事件では、定年後も教習指導員として勤務を続けていた再雇用者について、基本給が定年前の半分以下まで下がっていました。最高裁は、単純な減額率だけで判断するのではなく、基本給や賞与の性質・支給目的などを具体的に検討する必要があるとして審理を差し戻しました。

その後の名古屋高裁差戻審は、正職員の基本給には教習指導員として業務に従事することへの対価という性質が相応に強いとしたうえで、再雇用者の基本給・賞与の格差の一部を不合理と判断し、会社に差額相当額の損害賠償を命じています。(名古屋高等裁判所・令和8年2月26日)

つまり、仕事や責任がほとんど変わらない場合には、基本給が何に対して支給されているのかを確認せず、大幅に引き下げることにはリスクがあります。

2-3 仕事の一部を変更する場合

再雇用後に担当する仕事の一部を減らしたり、難易度の高い業務から外したりする場合には、変更した業務の内容や重要性に応じて給与の引き下げを検討できます。

たとえば、定年前はベテラン技術者として、通常業務に加えて、難易度の高い案件、緊急時の対応まで幅広く担当していた従業員について、再雇用後は若手社員への技術指導や一部の定型業務を中心に担当してもらうケースが考えられます。

有期雇用の再雇用者と正社員との待遇差を判断する際には、実際に担当する業務内容の違いも考慮されるため、担当する業務の範囲や内容そのものが変わるのであれば、その違いは給与差を設ける理由になり得ます。

引き下げの目安|変更後の仕事の内容・比重に応じて基本給や手当を見直す

このケースでは、再雇用にあたって何の仕事を外したのか、その仕事が従来の給与の中でどの程度評価されていたのかを確認して給与を見直します。

たとえば、難易度の高い案件を担当することが基本給や職務給に反映されていたのであれば、その業務から外れることに応じて基本給等を見直すことが考えられます。また、特定の業務に対して支給していた職務手当があり、その業務を担当しなくなるのであれば、その手当を外すことも対応関係が明確です。

第3章 「定年後は一律〇%」とする場合も、賃金項目ごとの確認が必要

3-1 給与総額の一律減額と、各賃金項目を一律に減額することは別

再雇用後の給与について、「定年前の〇%」など一定の水準を目安にすること自体が直ちに問題となるわけではありません。

ただし、有期雇用などで再雇用する場合、基本給や各種手当をすべて同じ割合で減額できるとは限りません。パートタイム・有期雇用労働法上、それぞれの待遇の性質や目的に照らし、仕事内容や責任、配置変更の範囲、その他の事情を考慮して、正社員との待遇さが不合理と認められる場合には、再雇用者だけ減額したり支給しなかったりすることは認められません。

そのため、給与総額を「定年前の70%」などとする場合も、基本給や各種手当まで一律に70%にするのではなく、それぞれの項目について減額する理由があるかを確認する必要があります。

3-2 再雇用規程・賃金規程などの内容を確認する

一律の割合で再雇用後の給与を定めている場合は、次の規程や書類を確認しておくとよいでしょう。

確認するもの 主な確認・見直しポイント
再雇用規程・嘱託社員規程 仕事内容・責任・勤務条件などを反映できる内容になっているか
賃金規程 役職手当、営業手当、職務手当など各種手当について、支給目的と再雇用者への適用条件が明確になっているか
就業規則 定年・継続雇用制度と再雇用規程の内容に矛盾がないか
再雇用契約書・労働条件通知書 個別に決めた給与・手当・仕事内容などが各規程と一致しているか

なお、現在の規程で一定の給与水準を保障している場合に、その水準を引き下げる方向で規程を変更するときは、就業規則の不利益変更についても別途検討が必要です。

まとめ|定年後再雇用の給与引下げは、減額理由を説明できる制度づくりが重要

定年後の再雇用をめぐって従業員とトラブルになりやすいのは、会社が「なぜこの金額になったのか」を十分に説明できない場合です。
そのため、「定年後は一律〇%」という基準を定めるだけではなく、再雇用後の仕事内容や責任がどのように変わったのか、基本給や各種手当をなぜ見直したのかなど、給与を引き下げる理由を法的に説明できる状態にしておくことが重要です。あわせて、再雇用規程や賃金規程、就業規則、個別の雇用契約を確認し、実際の仕事内容や責任を給与に反映できる制度になっているかも見直しておく必要があります。

私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士・社会保険労務士などが連携し、再雇用後の給与設定だけでなく、再雇用規程・賃金規程・就業規則の見直しまで一体的に対応しています。現在の再雇用制度に不安がある場合や、定年を迎える従業員の給与設定でお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。

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