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フレックスタイム制の導入方法|自社で制度設計・就業規則・労使協定・届出まで進める手順を弁護士・社労士が解説【実践編】

2026.09.29

フレックスタイム制を自社で導入するには、対象者や清算期間を決めるだけでなく、総労働時間・残業代の計算方法を整理し、就業規則の修正や新たな労使協定の作成が必要になります。
本記事では、自社内でフレックスタイム制の導入作業を進める担当者に向けて、制度設計から書類作成・届出までの具体的な手順を弁護士・社労士が解説します。

※本記事は「実践編」です。フレックスタイム制の基本的な仕組みや導入時の注意点を確認したい場合は、以下の【基本編】をご覧ください。

フレックスタイム制導入の注意点とは?社労士に相談する前に押さえておきたい制度設計・導入手続・勤怠管理のポイントを弁護士・社労士が解説【基本編】

もくじ

第1章 【STEP1】自社のフレックスタイム制度を具体的な数字まで設計する

フレックスタイム制を導入する際は、まず対象者や勤務時間などの制度案を具体的に決めます。
作業を始めるにあたって、現在の就業規則・賃金規程・36協定などを用意しましょう。個別の雇用契約や労働協約で始業・終業時刻等を具体的に定めている場合には、それらとの整合性も確認する必要があります。

1-1 対象者を確定する|労使協定にそのまま書ける範囲まで絞り込む

まず、誰にフレックスタイム制を適用するのかを確定します。
自社で制度を作る段階では、「希望する社員」「対象部署の一部」といった曖昧な状態で止めず、労使協定を見れば対象者を特定できる状態まで整理します。
たとえば、全正社員を対象とするのであれば、「正社員」として対象範囲を確定します。一部の部署や従業員だけを対象とする場合にも、たとえば「開発部に所属する正社員」など明確にします。

あわせて、対象者の雇用契約や既存の就業規則に固定的な勤務時間が定められていないかを確認します。フレックスタイム制の導入によって労働条件が不利益に変更される場合には、導入が当然に有効になるとは限らないため、別途検討が必要になります。

1-2 清算期間と起算日を決める|給与締日とそろえると管理しやすい

次に、労働時間を調整する清算期間を決めます。
清算期間は「1か月」という決め方ではなく、「毎月1日から末日まで」「毎月21日から翌月20日まで」のように、具体的な日付で確定します。期間は3か月以内で設定できます。
初めて導入する場合には、現在の給与締日にあわせると整理しやすいです。たとえば、給与が毎月末締めであり、月をまたいで労働時間を調整する必要がなければ、清算期間を「毎月1日から末日までの1か月」とする方法が考えられます。

1-3 総労働時間と標準となる1日の労働時間を決める

清算期間が決まったら、「清算期間における総労働時間」を設定します。
総労働時間とは、従業員がその清算期間に働くべき所定労働時間です。
たとえば、1日の所定労働時間が8時間で、その月の所定労働日数が20日であれば、
8時間×20日=160時間
をその月の総労働時間とする方法が考えられます。
ただし、この時間は法定労働時間の総枠との関係があるため、単純に「8時間×所定労働日数」で決めることができません。詳しくは2章で見ていきます。

総労働時間に加えて、標準となる1日の労働時間を定めます。原則として、標準となる1日の労働時間は、清算期間における総労働時間を所定労働日数で割った時間を基準にします。
年次有給休暇を1日取得した場合には、この標準となる1日の労働時間を労働したものとして取り扱うことになります。

1-4 コアタイム・フレキシブルタイムを具体的な時刻で確定する

コアタイムやフレキシブルタイムを設けるのであれば、実際の時刻まで確定します。フレキシブルタイムとは、従業員がその範囲内で自ら始業・終業時刻を選択できる時間帯です。

たとえば、以下のような形です。

コアタイム

11時~15時

始業のフレキシブルタイム

7時~11時

終業のフレキシブルタイム

15時~20時

この状態まで決めておけば、そのまま労使協定へ反映できます。

ただし、コアタイムを長く設定しすぎないよう注意が必要です。
コアタイムは○時間以内という法令上の上限はありませんが、長く設定しすぎると従業員が実質的に始業・終業時刻を選べない制度になってしまいます。厚生労働省も、コアタイムが極端に長い場合などには、基本的にフレックスタイム制とは認められないとしています。

1-5 遅刻・早退・不足時間の扱いを先に決めておく

遅刻・早退や清算期間終了時の不足時間をどのように扱うかも決めておきます。
たとえば、11時から15時をコアタイムとする場合、11時30分に出勤すれば30分の遅刻となります。そのため、コアタイムへの遅刻を勤怠上どのように扱うのかを定め、懲戒の対象とする場合には、その根拠となる規定も就業規則に設けておく必要があります。

ただし、賃金の扱いについては別です。
コアタイムへの遅刻時間を賃金から控除するかについては、清算期間全体の労働時間との関係も含めて取扱いを整理する必要があります。コアタイムへの遅刻の取扱いについては、就業規則・賃金規程で明確にしておきましょう。

清算期間終了時に総労働時間が不足した場合の取扱いについては、不足時間相当額を賃金から控除する方法と、一定の範囲で次の清算期間へ繰り越す方法があります。詳しくはこの後、2章で確認します。

第2章 【STEP2】総労働時間・残業代・不足時間を計算できる制度にする

制度案ができたら、実際に給与計算ができるかを確認します。ここで重要なのは、「会社が決めた総労働時間」と「法律上の法定労働時間の総枠」の違いです。

2-1 法定労働時間の総枠を計算して総労働時間が収まっているか確認する

労働基準法では、法定労働時間を原則として1日8時間・1週40時間と定めています。フレックスタイム制では、この1週40時間を清算期間の日数に応じて換算し、法定労働時間の総枠を計算します。

法定労働時間の総枠の計算方法

法定労働時間の総枠
=40時間×清算期間の暦日数÷7日

たとえば、暦日数31日の月であれば、法定労働時間の総枠は約177.1時間です。会社が総労働時間を160時間と設定しているのであれば、177.1時間の総枠以内に収まっているので問題ありません。

完全週休2日制では法定労働時間の総枠に特例がある

一方、完全週休2日制で1日8時間勤務の会社では、曜日の巡りによって所定労働日数が23日となり、その月の総労働時間が8時間×23日=184時間になることがあります。
この場合、法定労働時間の総枠である177.1時間を超えてしまい、通常どおり1日8時間×週5日勤務しているのに法定労働時間の総枠を超えることになり、時間外労働となってしまいます。

そこで、週の所定労働日数が5日の完全週休2日制の労働者については、労使協定を締結することで「清算期間内の所定労働日数×8時間」を法定労働時間の総枠とする特例があります。この特例を適用すると、先の例23日×8時間=184時間がそのまま法定労働時間の総枠と認められ、総労働時間を減らす必要がなくなります。

完全週休2日制の特例を利用できない場合は総労働時間を調整する

完全週休2日制を採用していないなど、この特例を利用できない場合があります。
その場合には、たとえば所定休日を1日増やして所定労働日数を22日とし、8時間×22日=176時間とするなど、法定労働時間の総枠177.1時間以内に収まるよう勤務制度を調整するなどの方法があります。

一定の小規模事業場では週44時間の特例がある

なお、清算期間が1か月以内の場合には、常時10人未満の一定の商業、映画・演劇業(映画の製作を除く)、保健衛生業、接客娯楽業の事業場では、週44時間を基準に法定労働時間の総枠を計算できる特例があります。

2-2 実労働時間が総労働時間を超えた場合の賃金を計算する

総労働時間を超えた場合の賃金計算の考え方について、次の条件でみてみます。

総労働時間

160時間

法定労働時間の総枠

約177.1時間
※なお、以下の実労働時間には法定休日に労働した時間は含めないものとします。

総労働時間を超えても法定労働時間の総枠以内なら法定の割増賃金は不要

実際に170時間働いた場合、総労働時間160時間を10時間超えています。しかし、法定労働時間の総枠177.1時間は超えていません。
したがって、この10時間について賃金の支払いは必要ですが、法定時間外労働として25%以上の割増賃金が当然に必要になる時間ではありません。

法定労働時間の総枠を超えた時間は法定時間外労働になる

一方、実労働時間が180時間だった場合には、会社の総労働時間も、法定労働時間の総枠も超えています。この場合は、法定労働時間の総枠を超過した2.9時間が法定時間外労働となり、法定時間外労働として25%以上の割増賃金を支払う必要があります。

総労働時間を超えた時間の賃金については、法定労働時間の総枠を超えている・超えていないで区分して計算することが重要です。
賃金規程も、総労働時間超を超えてから法定労働時間の総枠までの時間と、法定時間外労働とを区別して処理できる設計にしておきましょう。

2-3 不足時間を控除するか翌月へ繰り越すか決める

一方、実労働時間が不足する場合は2つの方法があります。
①不足時間相当額を賃金から控除する方法と、②不足時間を次の清算期間へ繰り越す方法です。

①不足時間相当額を賃金から控除する方法

実労働時間の不足分について清算期間終了時に不足時間相当の賃金を減らす方法です。
月給制の場合には、遅刻・早退などの不就労時間を控除するときと同様に、賃金規程に定めた方法で1時間当たりの控除額を算出し、「1時間当たりの控除額×5時間」のように計算する方法が一般的です。

②不足時間を次の清算期間へ繰り越す方法

賃金は総労働時間分を支払い、不足時間を次の清算期間へ繰り越す方法もあります。
たとえば5時間不足した場合には、次の清算期間にその5時間を加えて勤務してもらいます。ただし、不足時間を加えた労働時間は法定労働時間の総枠の範囲内でなければなりません。繰り越せる時間の上限をあらかじめ決めておき、繰り越せない不足時間については、①の方法で賃金から控除して清算することが考えられます。

どちらの方法を採用するかによって賃金計算や次の清算期間以降の労働時間管理が変わるため、自社で採用する方法を決め、就業規則・賃金規程に反映しておきましょう。

2-4 2か月・3か月清算では残業時間を「毎月」と「清算期間の最後」の2回確認する

清算期間を2か月・3か月とする場合には、時間外労働を①月ごと、②清算期間終了時の2段階で確認する必要があります。

①各月の週平均50時間を確認する

まず1か月ごとに「週平均50時間」を超えていないか確認します。
この50時間は、清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制において労働基準法で設けられている基準です。各月の労働時間が週平均50時間を超えた場合には、その超過時間をその月の法定時間外労働として処理します。

②清算期間終了時に全体の法定労働時間の総枠を確認する

そのうえで、清算期間の終了時に、期間全体の実労働時間が法定労働時間の総枠を超えていないかを確認します。このとき、途中の月ですでに法定時間外労働として処理した時間は差し引き、二重に残業時間として計算しないようにします。

清算期間が1か月を超えると、このように時間外労働の計算や給与処理が複雑になります。月をまたいで労働時間を調整する必要がない場合には、清算期間を1か月として制度設計できないかを先に検討するとよいでしょう。

第3章 【STEP3】就業規則・労使協定を作成して必要な届出を行う

制度内容と給与計算の方法が決まったら、書類作成に進みます。
フレックスタイム制を導入するには、就業規則その他これに準ずるものへの規定、フレックスタイム制に関する労使協定が必要です。さらに、従業員数や清算期間などによっては、労働基準監督署への届出も必要になります。

3-1 就業規則を変更する|始業・終業時刻を従業員の決定に委ねる

就業規則等には、フレックスタイム制の対象者について、始業・終業時刻を従業員自身の決定に委ねることを定めます。
具体的な制度内容については、労使協定を就業規則の一部として取り込む方法と、就業規則自体に清算期間や総労働時間、コアタイムなどを記載する方法があります。

たとえば、制度内容まで就業規則に記載する場合には、次のような規定が考えられます。

【就業規則の規定例】
第○条(フレックスタイム制)
1 会社は、正社員について、フレックスタイム制を適用する。
2 清算期間は、毎月1日から末日までの1か月間とする。
3 清算期間における総労働時間は、1日8時間に当該清算期間の所定労働日数を乗じた時間とする。ただし、法定労働時間の総枠を超えないものとする。
4 標準となる1日の労働時間は8時間とする。
5 コアタイムは11時から15時までとし、始業時刻を選択できる時間帯は7時から11時まで、終業時刻を選択できる時間帯は15時から20時までとする。
6 対象従業員の始業および終業の時刻は、前項の時間帯の範囲内で各従業員の決定に委ねる。

上記のような書き方のほか、就業規則にはフレックスタイム制を適用することや始業・終業時刻を従業員の決定に委ねることを記載し、清算期間やコアタイムなどの具体的な内容は別添の労使協定に定め、その労使協定を就業規則の一部とする方法もあります。

就業規則などを見直す際には、既存の遅刻・早退、欠勤、時間外手当、不足時間の賃金控除などの規定について、フレックス対象者にそのまま適用して問題がないかを確認し、矛盾する規定があれば修正しましょう。

就業規則の見直しをするタイミングとは?ケース別にみる対応策と注意点を弁護士が解説

3-2 労使協定を作成する|対象者・清算期間・総労働時間などを記載する

次に、フレックスタイム制に関する労使協定を作成します。
労使協定には、対象者、清算期間、総労働時間、標準となる1日の労働時間を記載し、コアタイム・フレキシブルタイムを設ける場合にはそれぞれの時間帯も定めます。
たとえば次のように作成できます。

【フレックスタイム制に関する労使協定例】
○○株式会社○○事業場と労働者の過半数代表者は、労働基準法第32条の3に基づき、フレックスタイム制について次のとおり協定する。

第1条(対象者)
フレックスタイム制の対象者は、正社員とする。
第2条(清算期間)
清算期間は、毎月1日を起算日とし、毎月1日から末日までの1か月間とする。
第3条(総労働時間)
清算期間における総労働時間は、1日8時間に当該清算期間の所定労働日数を乗じた時間とする。ただし、法定労働時間の総枠を超えないものとする。
第4条(標準となる1日の労働時間)
標準となる1日の労働時間は8時間とする。
第5条(コアタイム)
対象者が勤務しなければならないコアタイムは、11時から15時までとする。
第6条(フレキシブルタイム)
始業時刻を選択できる時間帯は7時から11時まで、終業時刻を選択できる時間帯は15時から20時までとする。
第7条(労働時間の清算)
清算期間終了時に実労働時間が総労働時間を超えた場合または不足した場合の賃金の取扱いは、就業規則および賃金規程の定めによる。
第8条(有効期間)
本協定の有効期間は、○年○月○日から○年○月○日までとする。

○年○月○日
○○株式会社○○事業場
使用者 ○○○○
労働者過半数代表者 ○○○○

※上記は一般的な例です。対象者、清算期間、総労働時間、コアタイムなどは、自社について決定した内容に置き換えてください。

3-3 労使協定を締結する|過半数代表者を適切に選出する

事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合には、その労働組合と労使協定を締結します。
そのような労働組合がない場合には、事業場の労働者の過半数を代表する者を選出します。フレックスタイム制に関する労使協定を締結するための代表者を選ぶことを明らかにしたうえで、投票・挙手・労働者間の話合いなど、過半数の支持が確認できる方法で代表者を選出します。

過半数代表者は労働基準法上の管理監督者ではなく、使用者の意向に基づいて選出された者ではないことが必要です。会社が人事担当者などを一方的に代表者として指定することはできません。
後から選出方法を確認できるよう、従業員への案内メールや投票・選出結果などの記録を残しておくとよいでしょう。

3-4 必要な書類を労基署へ届け出る|就業規則・フレックス協定・36協定を確認する

労使協定を締結したら、最後に労働基準監督署への届出が必要かを確認します。
フレックスタイム制を導入するときに確認する主な書類は、①就業規則、②フレックスタイム制に関する協定届、③36協定の3つです。

①常時10人以上の事業場は変更後の就業規則を届け出る

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、フレックスタイム制の導入に伴って就業規則を変更した場合、変更後の就業規則に過半数組合または過半数代表者の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。
常時10人未満の事業場には就業規則の届出義務はありません。

②清算期間が1か月を超える場合はフレックスタイム制の協定届を提出する

清算期間が1か月以内であれば、労使協定を労働基準監督署へ届け出る必要はありません。
一方、清算期間を2か月・3か月とする場合には、「清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に関する協定届」を所轄の労働基準監督署へ届け出ます。厚生労働省のウェブサイトから最新の様式を取得して作成しましょう。

厚生労働省「清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に関する協定届」様式ダウンロード

③法定時間外労働・法定休日労働をさせる場合は36協定も確認する

フレックスタイム制に関する労使協定と36協定は別のものです。フレックスタイム制を導入しても、法定時間外労働や法定休日労働をさせる場合には、別途36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
すでに36協定を届け出ている会社でも、フレックスタイム制を導入した後の労働時間管理に対応した内容になっているかを確認します。厚生労働省では、フレックスタイム制を採用する場合の36協定の記載例も公開しています。

厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」

以上の手続が終わったら、変更後の就業規則とフレックスタイム制に関する労使協定を従業員に周知します。
ここまで行えば、制度設計、就業規則の変更、労使協定の締結、必要な届出まで、フレックスタイム制を導入するための一連の手続が完了します。

まとめ|自社で制度を作成する場合は導入前に専門家の最終チェックを

ここまで確認したようにフレックスタイム制を導入する場合、制度設計から就業規則・労使協定の作成まで自社で進めることもできます。しかし、総労働時間や残業代の計算、就業規則・賃金規程・労使協定の整合性に不備があると、導入後に規程の修正や残業代の再計算が必要になり、労務トラブルに発展する可能性もあります。
運用後のトラブルを防ぐためにも、自社で制度を作成した場合は、運用開始前に一度、社労士などの専門家による確認を受けておくと安心です。

私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、社会保険労務士と弁護士が連携し、フレックスタイム制の制度設計や規程・労使協定、残業代を含む労務管理について対応しています。Nexill&Partnersグループもフレックスタイム制を導入しているため、制度上の問題だけでなく、実際の運用を踏まえたご相談にも対応できます。お気軽にご相談ください。

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