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運送業でドライバーが突然退職したときのトラブル対応|引継ぎ拒否・未払賃金請求への備えを弁護士・社労士が解説

2026.08.13

ドライバーから突然退職を告げられ、引継ぎを拒否されると、運送会社では配車や荷主対応をはじめ、車両・貸与品の回収、最終給与の支払いなどを短期間で整理しなければなりません。さらに、退職後に残業代などの未払賃金請求を受けることもあります。本記事では、ドライバーの退職トラブルが起きたときに会社が確認すべき初動対応と、後日の紛争に備えた実務上の注意点を弁護士・社労士の視点で解説します。

第1章 ドライバーの突然退職で会社が最初に確認すべきこと

1-1 退職の申出を会社が一方的に拒むことは難しい

ドライバーが突然退職すると、翌日以降の配車や荷主対応に支障が出るため、会社としては「引継ぎが終わるまでは退職を認められない」と考えたくなる場面があります。
しかし、少なくとも期間の定めのない雇用契約では、ドライバーが明確に退職の意思を示している場合、会社が一方的に退職を拒み続けることは難しいといえます。就業規則で「退職は1か月前までに申し出る」と定めていても、会社の承諾がなければ退職できない、という扱いにはできません。
まずは、退職の意思が明確か、退職希望日はいつか、最終出勤日はいつかを確認し、事実関係を整理することが重要です。

1-2 無期雇用・有期雇用・業務委託で対応が変わる

次に確認すべきなのは、ドライバーとの契約関係です。正社員など期間の定めのない雇用契約であれば、退職の意思表示を前提に、退職日や残務整理を確認していくことになります。
一方、契約社員など有期雇用の場合は、契約期間の途中での退職であるか、やむを得ない事由があるかなどを確認する必要があります。また、軽貨物ドライバーなどで業務委託契約を締結している場合には、中途解約条項や貸与品返還条項を確認します。

1-3 退職日・出勤予定・有給休暇の扱いをまず書面で整理する

突然の退職では、電話やメールで退職の意思だけを伝えられ、その後の連絡が取りにくくなることがあります。この場合でも、会社側は退職日や最終出勤日をあいまいにしたまま処理すべきではありません。
退職届の提出を求める、メールやチャットで退職日を確認するなど、後から確認できる形で記録を残しておきましょう。あわせて、退職日までの出勤予定、有給休暇の申請、未処理の配送業務、荷主への引継ぎ事項などを整理します。
特に、有給休暇が残っている場合に、会社が一方的に「引継ぎが終わっていないから使わせない」と対応すると、別の労務トラブルにつながるおそれがあります。

第2章 引継ぎ拒否をされたときに運送会社が取るべき実務対応

2-1 配車・配送ルート・荷主対応を優先して業務停止を防ぐ

ドライバーから突然退職を告げられ、引継ぎも拒否された場合、会社が最初に行うべきことは、配送業務を止めないための対応です。
運送業では、配送ルート、納品先ごとのルール、荷主担当者とのやり取り、積み込み時の注意点などを、特定のドライバーだけが把握していることがあります。そのため、まずは配車表、運転日報、配送指示書などを確認し、社内に残っている情報を集約します。
本人から十分な引継ぎを受けられない場合でも、会社側に残っている資料を整理することで、代替ドライバーへの共有や荷主対応を進めやすくなります。

2-2 車両・燃料カード・ETCカードなどの貸与品を回収する

引継ぎ拒否の場面では、業務情報だけでなく、会社の貸与品を確実に回収することも重要です。運送会社では、車両をはじめ、ETCカード、燃料カード、スマートフォンなどをドライバーに貸与していることがあります。
これらが返却されないままだと、カードの不正利用、車両の無断使用、荷主情報や個人情報の流出といったリスクが残ります。退職の申出を受けた段階で、貸与品の一覧を確認し、返却期限、返却方法、返却場所を本人に明確に伝えましょう。
実務上は、口頭で伝えるだけでなく、メールやチャットで返却対象物をリスト化し、書面に残るかたちで送ることが有効です。

2-3 引継ぎを強制しようとせず、依頼内容と拒否の経緯を記録する

在職中であれば、会社は業務上必要な範囲で引継ぎを求めることができます。たとえば、配送ルート、荷主ごとの注意事項、未処理の伝票の有無などについて報告を求めることは考えられます。
もっとも、退職日後に無償で出社させたり、有給休暇中の従業員に当然のように出勤を求めたりすると、別の問題が生じる可能性があります。また、引継ぎ拒否があったとしても、直ちに損害賠償請求が認められるとも限りません。
会社側としては、何を、いつまでに、どの方法で引き継ぐよう依頼したのかを記録しておくことが大切です。本人が拒否した場合も、依頼内容、拒否の経緯、会社側が取った代替対応を記録に残しておきましょう。

第3章 突然退職したドライバーに損害賠償やペナルティを求められるか

3-1 退職しただけで違約金やペナルティ名目の金銭を請求することは避ける

ドライバーが突然退職し、配車や荷主対応に支障が出ると、会社としては、急に辞めたのだから違約金を請求したいと考えるかもしれません。
しかし、労働者に対して、退職したこと自体を理由に違約金や罰金を請求する対応は避けるべきです。労働基準法では、労働契約の不履行について違約金を定めたり、あらかじめ損害賠償額を決めたりすることが禁止されています。
そのため、退職を理由に違約金を支払わせる、引継ぎをしなかった場合は給与から差し引く、といった対応は、会社側に不利な労務トラブルに発展する可能性があります。

3-2 損害賠償を検討するには実損と証拠が必要になる

もっとも、会社が損害賠償を一切請求できないわけではありません。たとえば、会社の車両を返却しない、燃料カードを私的に利用する、荷主情報を持ち出すなど、退職そのものとは別の問題行為がある場合には、個別に責任追及を検討する余地があります。
ただし、損害賠償を求めるには、どのような損害が、いつ、いくら発生したのか、その損害が本人の行為によって生じたといえるのかを客観的に説明できる資料が必要です。
請求を検討する場合は、発生した費用や本人への連絡履歴などを整理したうえで、法的に請求できる範囲を確認する必要があります。

3-3 最終給与から損害額などを差し引くと別の労務トラブルになりやすい

突然退職したドライバーに対して、会社がやってしまいがちな対応が、損害が発生したことや貸与品が返却されないことを理由に、最終給与から一定額を差し引くことです。
しかし、賃金は全額払いが原則です。税金や社会保険料など法令上控除できるものを除き、会社が一方的に、迷惑料、貸与品代、車両修理費などの名目で金銭を天引きすることは、賃金未払いとして問題になる可能性があります。
貸与品の未返却や損害がある場合でも、給与の支払いとは切り分けて、返還請求や損害賠償請求の可否を検討することが大切です。

第4章 退職時の未払賃金・残業代請求に備えて確認すべきこと

4-1 最終給与と退職時の金品返還を適切に処理する

ドライバーの退職トラブルで、会社として必ず確認すべきなのが最終給与の処理です。
退職日、最終出勤日、欠勤控除、有給休暇の消化などを確認し、給与計算の根拠を説明できる状態にしておく必要があります。退職者から賃金や、会社が預かっている積立金などの金品について請求があった場合には、退職時の金品返還のルールを踏まえ、権利関係に争いのない範囲で、請求があった日から7日以内の支払い・返還を行う必要があります。
突然の退職への不満があっても、支払うべきものは支払い、争いがあるものは別途整理するという切り分けが重要です。

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4-2 点呼記録・運転日報・デジタコ・勤怠データを保全する

未払賃金請求への備えとして、非常に重要なのが記録の保全です。
運送業では、労働時間を確認する資料が一つに限られません。タイムカード、点呼記録、運転日報、デジタルタコグラフ、配車表、ETC利用明細など、複数の資料から勤務実態を確認することになります。
退職後に残業代請求を受けた場合、争点になりやすいのは、始業・終業時刻、休憩時間、荷待ち時間、積込み・荷下ろしの時間などです。特に、荷待ち時間が労働時間に当たるかどうかは、会社の指揮命令下にあったといえるかによって判断が分かれます。
まずは退職の申出を受けた段階で、関係資料を保全し、給与計算と労働時間管理の整合性を確認しておくことが重要です。

4-3 改善基準告示と36協定に照らして拘束時間・休息期間を点検する

トラックドライバーについては、労働基準法上の労働時間規制だけでなく、自動車運転者の改善基準告示も意識する必要があります。改善基準告示では、拘束時間、休息期間、運転時間などについて基準が定められており、2024年4月以降の新しい基準を踏まえた管理が求められています。
改善基準告示に違反していることが、直ちに未払賃金の発生を意味するわけではありません。しかし、長時間の拘束や休息期間の不足がある場合、残業代請求、安全配慮義務、行政対応など、複数の問題につながる可能性があります。

また、時間外労働や休日労働をさせるには、36協定の締結・届出が前提になります。運送業では、実際の運行スケジュールが36協定の範囲内に収まっているか、勤怠記録と運行記録が食い違っていないかも確認しておくべきです。

第5章 ドライバーの退職トラブルは初動対応と平時の労務管理で備える

ドライバーが突然退職し、引継ぎを拒否された場合でも、会社が感情的に対応してしまうと、かえって未払賃金請求や労働基準監督署への相談など、別のトラブルに発展することがあります。まずは退職日、有給休暇の扱い、貸与品の返還などを確認し、退職者とのやり取りを記録に残すことが大切です。
また、退職後の残業代請求に備えるには、固定残業代の対象時間や超過分の支払い、運行手当・無事故手当などの扱いを確認したうえで、点呼記録・運転日報・デジタコ・勤怠データなどの記録を確認して、勤務時間や給与計算との整合性を確認しておく必要があります。運送業では、労務管理と運行管理が密接に関係するため、退職トラブルが起きたときだけでなく、平時から社内ルールを整えておくことが求められます。
ドライバーの退職トラブルや未払賃金請求への備えについて専門的な対応が必要な場合は、弁護士・社労士などが連携する私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループへお気軽にご相談ください。

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