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【助成金も活用】パート・アルバイトを正社員に転換する場合の注意点|労働条件・有給休暇・キャリアアップ助成金を弁護士が解説

2026.07.02

パートやアルバイトを正社員に転換することは、人材定着や採用力向上につながります。一方で、正社員化にあたっては、賃金や労働時間、職務内容、社会保険の加入関係などの労働条件全体を改めて確認する必要があります。
本記事では、パート・アルバイトを正社員に転換する際の注意点と、2026年4月に公表された令和8年度版のキャリアアップ助成金を活用する際の確認ポイントを弁護士が解説します。

第1章 パート・アルバイトから正社員へ転換する際の4つの注意点

まずは、労働基準法をはじめとする法律上、誤解が生じやすい4つの注意点を確認していきましょう。

1-1 有給休暇の継続勤務年数は通算される

パート・アルバイトから正社員に転換する際に、実務上よく問題になるのが有給休暇の扱いです。
正社員になったからといって、有給休暇の継続勤務年数を最初から数え直すわけではありません。労働基準法では、有給休暇の付与について、雇入れの日からの継続勤務期間を基準にしています。ここでいう継続勤務は、パートやアルバイト、正社員などの雇用形態の違いだけで判断されるものではありません。

たとえば、アルバイトとして3年間勤務していた従業員を正社員に転換する場合、その従業員の勤務年数は、正社員転換日からではなく、アルバイトとして勤務を開始した日から通算して考えるのが原則です。
そのため、正社員になった時点でカウントをリセットし、本来与えるべき日数よりも少ない日数を設定してしまうと、法定付与日数を下回ってしまうため注意が必要です。

1-2 時給から月給へ切り替える場合は最低賃金を確認する

パート・アルバイトで時間単位の給与を計算していた状態から、正社員化に伴って月給制に切り替える場合は、対象の従業員を雇用する都道府県の最低賃金を下回っていないかを確認する必要があります。

月給制の場合、最低賃金を満たしているかどうかは、月給額を時間単価に換算して判断します。具体的には、毎月支払われる基本的な賃金を1か月平均の所定労働時間で割って確認します。

このとき注意が必要なのは、「毎月支払われる基本的な賃金」とは月給額の総額ではない点です。具体的には、通勤手当、家族手当、時間外割増賃金、休日割増賃金、精皆勤手当などを除外した月給額が最低賃金を上回っているかで確認します。

パート・アルバイト時代より支給総額が増えていたとしても、正社員になって1か月の所定労働時間が増えた結果、時間単価に直すと勤務地の最低賃金を下回ってしまう事態が起こることがあります。
なお、最低賃金は改定が入るため、必ず最新の基準での確認が必要です。

1-3 労働条件の変更は本人の同意と説明が必要になる

正社員への転換は、従業員にとって必ずしも有利な変更だけとは限りません。
たとえば、正社員になることで労働時間が増えたり、配置転換に対応したり、責任範囲の拡大が生じることもあります。
労働条件を労働者に不利益に変更する場合には、会社が一方的に変更できるわけではありません。

賃金額と賃金の内訳はもちろん、所定労働日数と所定労働時間、残業、休日出勤の有無、配置転換の可能性など、正社員転換後に適用される労働条件や就業規則の内容について、事前に説明する必要があります。
本人がそうした変更事項を十分理解し、納得した上で、書面による明確な同意(雇用契約の締結)を得ておくことが重要です。

1-4 勤務時間が大きく増える場合は安全配慮義務にも注意する

労務管理においては、従業員の健康面への配慮も必要です。
パート・アルバイトから正社員へ転換し、勤務日数や勤務時間が大きく増えた場合、生活リズムや体力的な負担が急に重くなる場合があります。

会社には、従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する法律上の責任(安全配慮義務)があります。勤務状況の変化によって体調を崩したり、メンタル不調に陥ったりした場合、会社側の配慮不足(安全配慮義務違反)を問われる可能性もあります。
転換当初は業務量を調整したり、定期的な面談を行ったりするなど、段階的に適応できるよう寄り添う姿勢が求められます。

第2章 正社員転換時に確認すべき社会保険・雇用保険の手続き

正社員に転換すると、多くのケースで社会保険や雇用保険の加入、あるいは区分の変更が必要になります。

2-1 健康保険・厚生年金保険の加入手続き

正社員としてフルタイム勤務になる場合、健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。これまで勤務時間が短いなどの理由で健康保険・厚生年金保険に加入していなかった従業員が、正社員化によって加入要件を満たす場合には、正社員への転換日を基準に、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出する必要があります。

手続きの期限

事実発生(正社員への転換日)から5日以内

提出先

日本年金機構事務センターまたは管轄の年金事務所

提出書類

健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届

提出期限は、原則として事実発生から5日以内と短いため、正社員転換後に準備するのではなく、事前に基礎年金番号やマイナンバー、扶養家族の有無などを確認しておくと手続きを進めやすくなります。

2-2 雇用保険の加入状況を確認する

雇用保険についても、正社員転換時に加入状況を確認する必要があります。

パート・アルバイト時代から、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある場合には、すでに雇用保険に加入していることがあります。この場合、正社員に転換したことを理由に改めて資格取得届を出す必要はありません。

一方で、これまで雇用保険に加入していなかった従業員が、正社員化によって週20時間以上勤務することになった場合などは、新たに雇用保険の加入手続きが必要です。

雇用保険の資格取得届は、被保険者となった日の属する月の翌月10日までに、管轄のハローワークへ提出します。正社員転換日と雇用保険の加入日がずれると、失業給付などの被保険者期間に影響する可能性があるため、転換日を基準に漏れなく確認しておくことが大切です。

2-3 賃金が大きく変わる場合は月額変更届を確認する

正社員化に伴って、基本給や固定的な手当が大きく変わる場合は、健康保険・厚生年金保険の社会保険料の等級変更が必要になることがあります。

月額変更届が必要になるかどうかは、主に次の3点を確認します。

  • 正社員化に伴い、基本給や役職手当などの固定的な賃金に変動があった
  • 賃金が変わった後の3か月間について、各月とも支払基礎日数などの要件を満たしている
     ※短時間労働者の場合は11日以上で判断する場合があります
  • 従前の等級と、変動後3か月間の給与をもとに計算した等級との間に、2等級以上の差が生じている

 

これらの条件を満たす場合は、原則として4か月目から新しい標準報酬月額に基づいて社会保険料が計算されます。そのため、会社は、要件を満たすかを確認したうえで、被保険者報酬月額変更届、いわゆる月額変更届を年金事務所等へ提出する必要があります。

第3章「キャリアアップ助成金」の活用を検討する場合

キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者などの非正規雇用労働者について、正社員化や処遇改善に取り組む事業主を支援する制度です。人件費の負担が増える中小企業にとって心強い制度ですが、申請するには様々な要件があるため、入念な準備が必要です。

3-1 正社員化コースの支給額と最新の申請要件

キャリアアップ助成金の「正社員化コース」は、パートやアルバイトなどの有期雇用労働者を正規雇用労働者、いわゆる正社員に転換させた場合、企業に対して一定額が支給される制度です。

現在の支給基準では、中小企業が有期雇用から正社員へ転換させた場合、重点支援対象者に該当すると80万円、その他の対象者については40万円が支給額として示されています。
(※支給額は年度や対象者の区分によって異なるため、実際に申請する際は、最新の要領や労働局の案内を確認する必要があります。)

ただし、キャリアアップ助成金を活用するには、正社員転換の前日までに「キャリアアップ計画」を作成し、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局に提出して、受理されていなければなりません。(労働局の委任を受けたハローワークに提出できる場合もあります)
計画書の提出前に正社員化の手続きを完了させてしまった場合、後から申請しても支給対象にならないため、忘れずに提出が必要です。

3-2 賃金3%以上アップの判定でミスが起こりやすい

正社員化コースでは、正社員転換後6か月分の賃金を支払ったうえで、転換前6か月と比較して3%以上賃金を増額していることが必要です。
この要件で注意が必要なのは、単に毎月の支給総額が増えていればよいわけではない点です。

パート・アルバイトから正社員へ転換する場合、時給制から月給制に変わったり、所定労働時間が増えたりすることがあります。そのため、転換前後の賃金を比較する際には、実際の賃金設計に応じて、時間当たりの単価を確認する必要があります。

たとえば、アルバイト時代の時給が1,200円だった従業員を、正社員として月給20万円にしたケースを考えます。正社員転換後の1か月平均の所定労働時間が170時間であれば、時間単価は約1,176円(20万円÷170時間)になります。
この場合は、時間単価の賃金が上昇していないため、賃金上昇要件を満たさず助成金申請ができません。

助成金の申請を前提に正社員転換を行う場合は、転換前の時給、転換後の月給、所定労働時間、対象となる手当などを整理したうえで、賃金が助成金支給要件を満たすかを事前に試算しておく必要があります。

3-3 情報公表加算の対象になるかも確認する

令和8年度のキャリアアップ助成金では、正社員化コースの加算措置として、情報公表加算が新設されました。情報公表加算とは、正社員転換に関する一定の情報を、自社の管理サイトや厚生労働省が運営する職場情報総合サイトで公表した場合に、支給額が加算される制度です。
加算額は、1事業所あたり20万円、大企業の場合は15万円とされています。

公表すべき内容は、正社員転換制度の概要、直近3事業年度の転換実績、正社員転換までに要した平均期間や最短期間などが定められています。
キャリアアップ助成金を利用する際に、あわせて検討してみましょう。

「キャリアアップ助成金」について、申請方法や自社が対象となるかなど詳しく知りたい場合はお気軽にご相談ください。

当事務所の助成金・補助金の受給サポート事例・実績

第4章 トラブルを未然に防ぐ「雇用契約書(労働条件通知書)」作成のポイント

パート・アルバイトから正社員へ転換する際は、転換後の労働条件を明確にするため、雇用契約書や労働条件通知書を作成し直すことが重要です。キャリアアップ助成金を申請する際は雇用契約書・労働条件通知書の提出が必須になりますので、これまで勤務していた従業員であっても、口頭の説明だけで済ませるのではなく、転換後の労働条件を書面で確認できるようにしておきましょう。

4-1 【ポイント①】職務内容と勤務地の範囲を明確にする

パートやアルバイトの場合、通常は、勤務地や従事する職務が限定されていることがほとんどです。しかし、一般的な正社員として雇い入れる場合、将来的な配置転換(人事異動)や転勤、職種変更の可能性が生じることがあります。
そのため、正社員化に伴う新たな契約書においては、職務内容や勤務地について、業務上の必要がある場合は変更を命じることがある旨を記載しておくことが重要です。

4-2 【ポイント②】固定残業代を適用する場合は時間数と金額を明記する

パート・アルバイトから正社員に転換する際、正社員用の賃金制度に基づき、その従業員にも固定残業代制度を適用する場合があります。しかし、雇用契約書や労働条件通知書への記載内容や運用が不十分な場合、固定残業代として有効に扱われない可能性があります。

固定残業代を適用する場合は、少なくとも次の点を明確にしておく必要があります。

  • 基本給と固定残業代の金額が分けて記載されていること
  • 固定残業代が何時間分のどの割増賃金に対応するものかが分かること
  • 実際の時間外労働に対する割増賃金が固定残業代を超える場合には、超過分を別途支払うこと

 

たとえば、月給25万円、固定残業代を含む、という記載だけでは、基本給部分と固定残業代部分の区別が不明確です。このような記載では、固定残業代として有効に扱われず、月給25万円全体を基礎にして残業代を計算すべきだと主張される可能性があります。

そのため、固定残業代を適用する場合は、雇用契約書や労働条件通知書に、たとえば次のように記載しておくことが考えられます。

月給25万円
内訳:基本給21万円、固定残業代4万円
固定残業代は、月〇時間分の時間外労働に対する割増賃金として支給する。実際の時間外労働に対する割増賃金が固定残業代を超える場合は、その超過分を別途支給する。

第5章 正社員化を前向きに進めるために助成金の活用も検討しましょう

パートやアルバイトから正社員への転換は、従業員の働きがいを高め、人材の確保や組織の成長にもつながる前向きな取り組みです。正社員化にあたって「キャリアアップ助成金」の活用ができそうであれば取り組みを検討してみるのもよいかと思いますが、助成金の要件は細かく、会社ごとに確認すべき内容も異なります。

私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)では、弁護士や社会保険労務士などが連携し、正社員化に伴う労務管理や助成金活用をサポートしています。キャリアアップ助成金のほか、両立支援等助成金、業務改善助成金など、各種助成金の活用を検討している場合も、お気軽にご相談ください。

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