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上場審査前の労務DDとは?労務DDの目的や確認項目、未払残業代リスクについて弁護士・社労士が解説

2026.06.18

上場を目指す場合、財務や法務だけでなく、社内の労務管理も上場審査の確認対象になります。本記事では、上場審査前の労務DDとは何か、目的や具体的な確認点を弁護士・社労士が解説します。

もくじ

第1章 労務DDとは?

1-1 労務DDとは、上場前に労務リスクを把握するために行う調査

労務DD(デューデリジェンス)とは、上場審査に向けて、会社の労務管理に関するリスクについて、事前に確認する調査をいいます。

法律や取引所規則で一律に義務付けられている手続ではありませんが、上場審査や上場適格性の確認では、会社の内部管理体制や法令遵守体制が確認されます。そのため、その一部である労務管理についても、上場審査に臨む前の準備として労務DDを実施することが一般的です。

労務DDの目的は、自社の労務管理の現状を把握し、リスクを洗い出したうえで、上場審査までに必要な改善を行うことにあります。

1-2 プロマーケットでも労務管理は内部管理体制の一部として見られる

労務DDは上場準備の一環として行われますが、これは一般市場に限らず、TOKYO PRO Market、Fukuoka PRO Marketなどのプロ投資家向け市場でも同様です。

プロマーケットでは、それぞれの市場に応じて、J-Adviser、F-Adviser、S-Adviserなどのアドバイザーが上場適格性に関する調査・確認を行い、その中で、企業の成熟度に応じた内部管理体制や、社内規程が適切に運用されているかといった点も確認されます。
そのため、プロマーケットへの上場を検討している会社でも、労務DDを通じて、労務リスクを早い段階で整理しておく必要があります。

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第2章 労務DDで確認される主な項目

2-1 労働時間管理と未払残業代

労務DDでまず確認すべき項目は、労働時間管理と未払残業代です。
未払残業代の有無を確認するには、勤怠システムやタイムカードの数字だけを見るのではなく、その記録が、実際の労働時間を反映しているかを確認する必要があります。
例えば、勤怠システム上は定時退勤になっているのに深夜に業務メールが送られている、休日に社内チャットで業務指示が行われているといった場合、賃金計算に反映すべき時間がないかを精査する必要があります。

また、固定残業代については、通常の賃金部分と固定残業代部分が明確に区別されているか、超過分を追加支給しているかを確認します。管理監督者の残業についても、役職名だけで残業代の支払対象外と判断するのではなく、経営への関与や労働時間の裁量など実態を踏まえて判断する方が安全です。

2-2 36協定と長時間労働の管理

36協定は、時間外労働や休日労働を行わせるために必要となる労使協定です。
労務DDでは、まず、36協定が締結・届出されているかを確認し、そのうえで、実際の労働時間が36協定の範囲内に収まっているか、特別条項を使う場合の手続や上限管理が適切に行われているかを確認します。

長時間労働が発生している部署や役職者については、個別に確認が必要です。
上場準備の過程では、特に、管理部門、経理部門、開発部門、営業責任者などに業務が集中し、一定期間だけ労働時間が増えることがあります。そのような場合でも、上場審査では、会社として労働時間を把握し、必要に応じて業務配分や人員配置を見直す体制があるかが問われます。

2-3 就業規則・雇用契約書・賃金規程

就業規則、賃金規程、雇用契約書、労働条件通知書などの書類も、その内容と実態が合っているかを確認します。
例えば、就業規則を創業当時から変えていない場合、現在の勤務形態や給与体系と規程が合わなくなっていることがあります。実際には固定残業代を支給しているのに賃金規程に十分な記載がない、テレワークやフレックスタイム制の運用が規程に反映されていない、といったケースです。
雇用契約書や労働条件通知書についても、書類の内容が現在の労働条件と一致しているかを確認しましょう。

2-4 有給休暇・社会保険・安全衛生

有給休暇、社会保険、安全衛生といった日常的な労務管理も確認対象です。

有給休暇

有給休暇については、付与日数や取得日数、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対する年5日の取得義務、有休管理簿の整備状況を確認します。正社員だけでなく、パート・アルバイトや契約社員についても、労働日数や勤務時間に応じて有給休暇付与・管理が必要になる場合があります。

社会保険

社会保険や労働保険については対象者の加入漏れがないか、労災保険を含む労働保険については必要な手続や保険料申告に問題がないかを確認します。短時間勤務者、契約社員、パート・アルバイトなどについても加入漏れや取扱いの誤りがないかを確認する必要があります。

安全衛生

会社の規模や事業内容に応じて、健康診断、ストレスチェック、長時間労働者への面接指導などの体制を確認します。

未払残業代と比べると目立ちにくい分野ですが、日常的な労務管理が継続的に行われているかを示す重要な資料になります。

2-5 ハラスメント対応と労務トラブルの履歴

ハラスメント対応や労務トラブルの履歴も、労務DDで確認すべき重要な項目です。

ハラスメント

ハラスメントについては、規程や相談窓口があるかだけでなく、実際に相談があった場合の対応記録を確認します。相談を受けた後、事実確認を行ったか、必要な措置を講じたか、再発防止策を検討したかが特に重要です。

労務トラブル

過去に労使紛争が発生した場合はその経緯と対応結果を確認し、上場審査の際に第三者に会社としての対応を説明できるようにしておきましょう。
上場審査を受ける段階で係争中の労使紛争や訴訟がある場合は、労務面での懸念として審査自体に影響がでることも否定できませんので、係争中の案件が解決してから上場審査に臨む方がベターです。

2-6 非正規雇用・業務委託・派遣・出向者の労務状況の確認

正社員だけでなく、契約社員、パート・アルバイト、業務委託、派遣、出向者の労務状況も確認しておく必要があります。

契約社員・パート・アルバイト

契約社員やパート・アルバイトについては、雇用契約書や労働条件通知書の内容が、実際の勤務条件と一致しているかを確認します。特に、契約期間、更新基準、勤務時間、賃金、有給休暇、社会保険・雇用保険の加入状況などは確認が必要です。有期雇用契約を繰り返し更新している場合には、更新管理や雇止め時のトラブルリスクについても整理しておきましょう。

業務委託

特に注意が必要なのが、業務委託として扱っている人の労働者性です。契約書上は業務委託となっていても、実際には会社が勤務時間を指定し、業務内容を細かく指示し、会社の指揮命令下で働いている場合、労働者に近い実態があると評価される可能性があります。
その場合、未払残業代、社会保険、労災、安全配慮義務などの問題に波及することがあります。

派遣・出向

また、派遣については、派遣契約、派遣先管理台帳、派遣労働者への指揮命令の範囲などを確認します。出向については、出向契約、出向命令、給与負担、労務管理責任の所在などを整理しておく必要があります。

第3章 労務DDの具体的な進め方

3-1 【ステップ1.】労務関係資料を収集する

まずは、会社の労務管理の実態を確認するために必要な資料を収集します。
確認資料は、次のように目的ごとに整理すると分かりやすくなります。

資料の種類 主な確認資料 主な確認ポイント
社内ルールに関する資料 就業規則、賃金規程、退職金規程、育児介護休業規程、ハラスメント防止規程など 現在の働き方や給与体系に合っているか
労働条件に関する資料 雇用契約書、労働条件通知書、給与改定通知書など 実際の勤務条件と書面の内容が一致しているか
勤怠・給与に関する資料 勤怠データ、給与台帳、賃金台帳、有休管理簿など 労働時間や残業代計算が適切に処理されているか
労務トラブルに関する資料 ハラスメント相談記録、退職トラブル、労基署・労働局・労働組合・弁護士対応の資料など 過去の対応経緯や再発防止策を説明できるか
外部人材に関する資料 業務委託契約書、派遣契約書、出向契約書など 契約内容と実際の働き方にずれがないか

この段階で大切なのは、実態を把握するために必要な資料を整理することです。必要な資料が存在しない場合は、それ自体が確認事項になります。

3-2 【ステップ2.】内容の点検とデータチェック

資料を収集した後は、資料内容や実際の労務関連データの中身を確認します。以下のような部分を中心に、上場審査時のリスクとなる要素が無いかを見ていきましょう。

関係資料と実態のずれがないか

就業規則や雇用契約書等が、現在の会社の働き方や給与体系に合っているかを確認します。例えば、実際には固定残業代を支給しているのに賃金規程の定めが不十分であったり、テレワークやフレックスタイム制の運用が書類に反映されていなかったりするケースがあります。

勤怠管理・給与計算が正しく行われているか

勤怠データ、給与台帳、有休管理簿などを確認し、労働時間や給与計算が実態に沿って処理されているかを見ます。
全従業員を詳細に確認することが難しい場合には、長時間労働が多い従業員、固定残業代の対象者、管理職扱いの従業員などリスクが出やすい対象を抽出して確認する方法もあります。

自己判断が難しい論点は早めに切り分ける

例えば、未払残業代は、勤怠記録と給与計算を突き合わせて初めて、計算漏れや固定残業代を超える部分の未払いが判明することがあります。また、どこまでを労働時間と見るべきか、固定残業代の設計は有効といえるか、管理職を管理監督者として扱えるかといった点は、会社ごとの実態によって判断が分かれます。このような判断しづらい論点が見つかった場合には、社内だけで結論を出さず、専門家に確認することも検討すべきです。

3-3 【ステップ3.】経営者・人事担当者・現場責任者へのヒアリング

労務DDでは、資料だけでは分からない運用実態を確認するため、ヒアリングを行うことがあります。

ヒアリング対象者 確認する内容
経営者 例外的な労務運用、退職勧奨・解雇・配置転換などの判断経緯など
人事・経理担当者 勤怠管理、給与計算、有休管理、社会保険手続の実務など
現場責任者・管理職 残業申請の実態、休日対応、業務指示、ハラスメント相談の有無など
外部人材を管理する担当者 業務委託者・派遣社員・出向者への指示や管理の実態など

ヒアリングでは、残業申請が実際にどのように行われているか、有休を取得しにくい雰囲気がないか、ハラスメント相談があった場合にどのように対応しているかなどを確認します。
規程上は整っているように見えても、現場では別の運用がされていることは少なくありません。ヒアリングを行うことで、書類だけでは見えない労務リスクを把握しやすくなります。

3-4 【ステップ4.】上場に向けて懸念される事項を整理し、改善計画へ落とし込む

最終段階では、確認結果を整理し、改善計画に落とし込みます。
上場準備ではリスクが懸念される事項を並べるだけでなく、優先的に対応すべき順位、対応の方針や期限、審査関係者への説明方法まで整理しておく必要があります。

指摘事項の種類 対応の方向性
未払残業代の可能性がある事項 対象者・対象期間・試算方法・上場審査までの支払計画・再発防止策などを整理する
規程と実態がずれている事項 規程改定、社内周知、運用フローの見直しを行う など
ハラスメント・退職トラブルに関する事項 相談記録、対応経緯、再発防止策を整理する など
業務委託・派遣・出向に関する事項 契約内容と実態を確認し、必要に応じて運用を見直す など
すぐに重大問題とはいえない事項 改善計画に入れ、継続的に管理する など

調査結果は、後から確認できる資料として整理しておくことも大切です。
例えば、労務DDの調査書、改善が必要な事項の一覧、未払賃金リスクの試算表、固定残業代制度や労働時間制度など改定が必要な規程のリスト、それぞれの改善に向けた具体的なスケジュールなどを作成し、対応状況を見える化しておきましょう。

第4章 労務DDを弁護士・社労士に依頼した方がいいケース

4-1 未払残業代が存在する可能性がある場合

未払残業代は、上場審査上、特に重大な労務リスクとして見られやすい項目です。
本来支払うべき残業代が支払われていない場合、労働時間管理や給与計算の体制に問題があると評価される可能性もあります。

もっとも、未払残業代の整理は、単に不足額を計算すれば済むものではありません。
どの期間までさかのぼるのか、どの資料をもとに労働時間を認定するのかなど、個別の事情に応じた判断が必要になり、この判断を誤ると、追加調査や再計算が必要になり、上場審査に向けた説明にも影響する可能性があります。

そのため、未払残業代が存在する可能性がある場合には、社内だけで判断せず、弁護士・社労士と連携しながら、法的評価や試算方法、再発防止策まで含めて整理することが望ましいといえます。

4-2 勤怠管理や36協定の運用に不安がある場合

長時間労働を会社が把握していない、36協定の上限管理ができていない、現場任せで残業申請の運用が統一されていないといった状態は、労務管理体制そのものの不備として、説明を求められる可能性があります。
運用に不安がある場合には、法令上の問題点だけでなく、上場審査に向けた説明可能性まで踏まえて、弁護士・社労士と一緒に整理することが望ましいでしょう。

4-3 就業規則や雇用契約書が実態に合っていない可能性がある場合

会社の労務管理の基本となる就業規則や雇用契約書が、現在の勤務実態や給与体系と合っていない場合、労務管理体制が実態に即して整備されていないものとして判断される可能性があります。
特に、実際には運用しているにもかかわらず、規程や契約書に十分反映されていない場合には、上場審査に向けた説明に支障が出ることがあります。

書類の内容と実態がどの程度ずれていると問題になるのか、上場前にどの規程を優先して改定すべきかは、会社の規模や運用状況によって判断が異なるため、専門家に確認することで、実態に即した制度設計に整えやすくなります。

4-4 ハラスメントや退職トラブルの履歴がある場合

過去にハラスメント相談があった場合や退職時に紛争化したことがある場合は、トラブル自体がすでに解決していても、会社の労務管理体制や内部通報・相談対応体制が適切に機能していたかという観点から確認される可能性があります。

弁護士と確認することで、過去の経緯を法的に整理し、会社としての対応に問題がなかったか、再発防止策として追加で行うべきことがないかなどを検討しやすくなります。

第5章 上場審査前に労務リスクを説明可能な状態にするための準備を

労務DDは、上場審査前に、自社の未払残業代や労働時間管理の状況、ハラスメント対応など労務リスクを幅広く把握し、必要な改善につなげるための調査です。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士・社労士が連携し、上場審査に向けた労務DDや労務管理体制の整備をサポートしています。専門的な対応が必要な場合は、私たちNexill&Partnersグループへお気軽にご相談ください。

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