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執行役員・取締役の不祥事に対する減給・解雇はどこまでできる?役員の処分・解任、規程の定め方を弁護士が解説

2026.06.05

取締役や執行役員の不祥事が発覚した場合、会社は従業員と同じ感覚で懲戒処分や解雇を進めることはできません。取締役の解任、役員報酬の減額、退職慰労金の不支給などは、会社法や社内規程を踏まえた判断が必要になります。本記事では、役員の懲戒処分・解雇・減給を検討する際の考え方と、役員懲戒規程の定め方を弁護士が解説します。

もくじ

第1章 役員の懲戒処分・解雇は従業員と同じようには考えられない

1-1 取締役は会社との委任関係に立つため、労働者の解雇とは整理が異なる

取締役の不祥事が発覚したとき、会社としては、懲戒解雇のような対応や減給処分を検討することがあります。
しかし、取締役は一般の従業員とは法的な立場が異なります。従業員は会社との間で労働契約を結び、会社の指揮命令を受けて働く立場です。これに対し、取締役は会社から経営を任される立場であり、基本的には会社との委任関係にあります。
そのため、取締役を辞めさせる場合は、通常の意味での「解雇」ではなく、会社法上の「解任」として考える必要があります。

1-2 執行役員は会社法上の役員ではなく、労働者性の有無で対応が変わる

一方で、執行役員は、名称に「役員」と付いていても、会社法上の取締役とは限りません。多くの会社では、執行役員は会社内部の役職名として使われています。
そのため、執行役員については、まず次の点を確認する必要があります。

  • 取締役を兼務しているのか
  • 従業員としての地位を持ったまま執行役員になっているのか
  • 委任契約や業務委託契約に近い形で就任しているのか
  • 賃金、勤怠管理、指揮命令の実態はどうなっているのか

従業員としての実態がある執行役員であれば、何らかの処分を行うにあたっては、労働契約法や労働基準法の適用を受けます。

第2章 取締役の不祥事に対する処分方法と実務上の注意点

2-1 取締役を辞めさせる場合は、解雇ではなく辞任・解任として整理する

取締役に不祥事があった場合、会社が最初に整理すべきなのは、取締役としての地位をどうするかです。
取締役を辞めさせる方法としては、大きく分けて次の2つがあります。

  • 本人に辞任を求め、辞任届を提出してもらう
  • 株主総会決議により解任する

本人が不祥事を認め、退任にも応じる場合は、辞任届を提出してもらう方法が比較的スムーズです。ただし、退任条件、未払報酬、退職慰労金、秘密保持、競業避止、会社資料の返還などを整理せずに辞任だけ進めると、後から問題が残ることがあります。
本人が辞任に応じない場合は、株主総会での解任を検討します。この場合は、会社法上の手続を確認する必要があります。

2-2 取締役の解任には原則として株主総会決議が必要

取締役の解任は、原則として株主総会の決議によって行います。取締役会や代表取締役の判断だけで、取締役そのものの地位を一方的に失わせることはできません。
これは、取締役が会社の経営を担う重要な立場であり、誰を取締役にするか、また誰を取締役から外すかは、株主が判断する事項とされているためです。
そのため、取締役の不祥事が発覚した場合でも、会社としては、まず株主総会の開催が必要か、どのような議案を出すか、株主にどの程度事情を説明するかを確認する必要があります。

2-3 代表取締役・役付取締役の地位を外す場合は、取締役の解任とは分けて考える

取締役の不祥事が発覚した場合でも、ただちに取締役そのものを解任するのではなく、まず代表取締役や専務・常務などの役職を外し、取締役としては残す対応を検討することがあります。
たとえば、対外的に会社を代表する立場を続けさせることは難しい一方で、担当事業への知識、取引先との関係、社内事情の把握などを考えると、取締役として一定期間関与してもらう必要があるケースです。このような場合には、代表権や役職を外しつつ、取締役としての関与範囲を限定する対応が考えられます。
もっとも、取締役として残す以上、取締役会への出席、会社情報へのアクセス、報酬の取扱い、社内外への説明などの問題は残ります。不祥事の内容によっては、取締役として残すこと自体が社内の不信感や被害者対応の問題につながる可能性もあります。
そのため、代表権や役職だけを外す対応を選ぶ場合でも、取締役として残す必要性と、残すことによるリスクを比較したうえで判断することが重要です。

2-4 取締役の不祥事では、責任追及や損害賠償請求も別途検討する

取締役に不祥事があった場合、辞任や解任だけで終わるとは限りません。会社に損害が発生している場合は、損害賠償請求を検討することがあります。
たとえば、会社の資金を私的に流用した、取引先を自己の関連会社に移した、会社の営業秘密を外部に漏らしたといったケースでは、会社に具体的な損害が生じている可能性があります。その場合、次のような点を整理したうえで、損害賠償請求を行えるのか・行うべきかの判断が必要です。

  • 会社にどのような損害が発生したのか
  • 損害額をどのように計算するのか
  • 本人の行為と損害との関係を説明できるか
  • 刑事事件としての対応も必要か

2-5 不祥事を理由に解任する場合でも、理由と証拠を整理しておく

不祥事を理由に解任する場合でも、「何を理由に解任するのか」を客観的な証拠に基づいて説明できる状態にしておくことが重要です。
取締役を解任するには株主総会決議が必要になるため、株主に対して解任理由を説明できるようにしておく必要があります。また、解任された取締役から、正当な理由のない解任だとして損害賠償請求を受けた場合にも、解任について正当な理由があったことを説明できなければなりません。
そのため、問題となる行為の内容、その行為が取締役としての職務継続を難しくする事情、会社に生じた損害や信用低下、本人の関与の程度などを整理しておくことが大切です。
あわせて、解任理由を裏付ける資料として、メール、チャット、契約書、経費精算資料、送金記録、社内稟議、アクセスログ、関係者のヒアリング記録などを確認しておく必要があります。

第3章 執行役員の不祥事に対する懲戒処分・解雇・契約終了の考え方

3-1 執行役員は名称だけで判断せず、実態から労働者性を確認する

執行役員の不祥事対応で重要なのは、その執行役員が労働者に当たるかどうかです。
実務上、執行役員にはいくつかのタイプがあります。

  • 名称は執行役員でも、実態は従業員の延長に近い人
  • 取締役を兼ねて執行役員になっている人
  • 会社との委任契約に基づき業務を行っている人

労働者性がある場合は、懲戒処分や解雇について、就業規則、労働契約法、労働基準法などの制限を受けます。一方、委任契約に近い場合は、契約内容や執行役員規程に基づいて、解任や契約終了を検討することになります。

3-2 従業員型の執行役員には、就業規則上の懲戒処分や解雇規制が問題になる

従業員としての地位を持ったまま執行役員になっている場合、会社は就業規則に基づいて懲戒処分を検討することになります。
ただし、懲戒処分を行うには、通常、次のような点が必要です。

  • 就業規則に懲戒事由が定められている
  • 本人の行為が懲戒事由に該当する
  • 処分の重さが行為に比べて不相当に重すぎない
  • 本人に弁明の機会を与えている
  • 過去の同種事案とのバランスが取れている

解雇を検討する場合は、さらに慎重な判断が必要です。労働契約法では、解雇に客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当といえない場合は無効になるとされています。
つまり、実態が従業員の場合、執行役員だからといって従業員としての保護が当然になくなるわけではありません。

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3-3 委任型・業務委託型の執行役員は、契約内容に基づく解任・解除を検討する

委任契約や業務委託契約に基づいて就任している執行役員の場合は、契約内容に基づいて対応を検討します。
この場合、重要になるのは、契約書や執行役員規程に次のような定めがあるかです。

  • 任期
  • 解任事由
  • 契約解除事由
  • 報酬の支払条件
  • 不祥事があった場合の報酬減額
  • 秘密保持義務
  • 競業避止義務
  • 損害賠償責任
  • 退任後の資料返還

これらが定められていない場合、不祥事があってもどのような手続で地位を外すのか、報酬をどう扱うのかが不明確になり、紛争に発展する可能性があります。

3-4 契約書・執行委役員規程がないまま減給・降格・契約終了を行うと紛争化しやすい

中小企業では、執行役員制度を導入していても、契約書や執行役員規程が十分に整備されていないことがあります。
執行役員の任期や解任事由、報酬の決め方などがあいまいな状態で不祥事が発覚すると、執行役員を外したい、報酬を下げたいと考えても、根拠が不十分になりやすいです。
特に、執行役員が労働者としての地位も有する場合、支給されている手当が労働に対する対価つまり賃金なのか、委任に対する報酬なのか曖昧になっていると、減額が労働条件の不利益変更にあたると争われる可能性があります。

3-5 執行役員を従業員に戻す場合は、降格・賃金変更・職務変更の根拠を確認する

執行役員の地位を外しても、従業員として会社に残すケースがあります。この場合は、従業員としてどの役職に戻すのか、給与をどうするのか、担当業務をどうするのかを整理する必要があります。
たとえば、執行役員から部長へ戻す場合、役職手当を外すことはあり得ます。しかし、基本給まで大きく下げる場合には、本人の同意や就業規則上の根拠が問題になります。
また、不祥事を理由に配置転換する場合も、業務上の必要性を合理的に説明できるようにしておかなければなりません。

第4章 役員報酬の減額や停止、退職慰労金の不支給はどこまでできるのか

4-1 取締役の役員報酬は会社法上の手続を踏まえて変更する必要がある

取締役に不祥事があった場合、役員報酬の停止や減額を検討することがあります。
しかし、取締役の役員報酬は、従業員の給与とは異なります。会社法では、取締役の報酬等について、定款に定めがない場合は株主総会の決議によって定めるとされています。
そのため、代表者や人事担当者の判断だけで、取締役の役員報酬を一方的に止めることは避けるべきです。

4-2 一方的な役員報酬の減額は、合意・決議・規程の有無が問題になる

役員報酬を減額する場合は、少なくとも次の点を確認します。

確認する点 その理由
株主総会決議で報酬総額を定めているのか 取締役の報酬は、定款または株主総会決議で定めるのが原則です。報酬総額の枠を超えたり、決議内容と異なる扱いをしたりすると、手続上の問題が生じる可能性があります。
個別の報酬額は誰が決定しているのか 株主総会で総額だけを決め、個別の配分を取締役会や代表取締役に委任していることがあります。誰に決定権限があるのかを確認しないと、減額の決定手続が不適切になるおそれがあります。
本人との合意はあるのか すでに決まっている役員報酬を減額する場合、原則として本人の同意が必要になります。合意なく一方的に減額すると、未払報酬として請求される可能性があります。
役員報酬規程はあるのか 役員報酬規程があれば、報酬の決定方法や変更手続が定められていることがあります。規程に反した減額をすると、会社側の判断根拠が弱くなります。
不祥事時の減額に関する定めはあるのか 不祥事を理由に報酬を下げる場合、その根拠となる定めがあるかが重要です。減額事由や手続が定められていないと、後から処分の妥当性を争われやすくなります。
すでに発生した報酬を不支給にしようとしていないか すでに支払時期が到来している報酬や、発生済みの報酬を後から不支給にする場合は、特に慎重な判断が必要です。未払報酬として請求されるリスクがあるためです。

このように、役員報酬の減額では、単に不祥事があったから下げると考えるのではなく、どの根拠に基づいて、いつから、どの範囲で減額するのかを確認することが重要です。

4-3 不祥事を理由とする報酬カットは、制裁なのか職務変更に伴う調整なのかを整理する

役員報酬を下げる場合には、その性質を整理することも重要です。
たとえば、代表取締役から平取締役に変更したため、職務内容や責任が軽くなり、今後の報酬を下げるという場合があります。これは、職務内容の変更に伴う報酬調整として説明しやすいことがあります。
一方で、不祥事を理由に罰として報酬をカットする場合は、制裁的な意味合いが強くなります。この場合、規程や本人の同意、社内手続がより問題になりやすいです。

4-4 退職慰労金の不支給・減額は、支給規程と過去の運用を確認して判断する

取締役や執行役員が退任する場合、退職慰労金を支給するかどうかが問題になることがあります。
退職慰労金については、まず規程の有無を確認します。退職慰労金規程がある場合は、支給条件、不支給事由、減額事由、決定機関を確認します。
また、規程がなくても、過去に同じような役職者へ継続的に支給していた場合は、会社側が自由に不支給とできるか慎重に考える必要があります。
不祥事があった場合に退職慰労金を支給にするか否かは、原則として株主総会の自主的判断に委ねられています。もっとも、退職金慰労金を不支給とする株主総会決議が公序良俗(民法90条)に反するような場合は、退職慰労金を支払う必要がでてきます。そのため、会社への損害が大きい場合や、信頼関係を大きく損なう行為がある場合には不支給を検討しやすいですが、その根拠を説明できる状態にしておくことが重要です。

4-5 役員報酬の減額・不支給は税務・会計面も確認する

役員報酬を減額したり、一部不支給としたりする場合は、法務面だけでなく、税務・会計面の確認も必要です。
たとえば、取締役の役員報酬は、法人税上、いわゆる定期同額給与などとして損金算入が認められるかが問題になることがあります。そのため、期の途中で役員報酬を減額する場合、その変更の時期や理由を含めて、その変更が税務上どのように扱われるのかを確認しておく必要があります。
また、退職慰労金を減額・不支給とする場合も、すでに退職慰労金の支給を決議している場合や、未払計上をしている場合には、処理の修正が必要になることがあります。

第5章 役員懲戒規程・執行役員規程を整備するうえでの留意点

5-1 役員懲戒規程を作る前に、取締役と執行役員を同じ規程で扱うか整理する

執行役員や取締役の不祥事に対応するには、役員懲戒規程や執行役員規程をあらかじめ整備しておくことが有効です。
このとき、取締役と執行役員を同じ規程で扱うかは慎重に検討する必要があります。取締役は会社法上の役員であり、執行役員は会社内部の役職であることが多いため、同じ役員という言葉でまとめると、かえって不明確になることがあるためです。
実務上は、次のように分けて整理する方法が考えられます。

  • 取締役については、取締役規程、役員報酬規程、退職慰労金規程で定める
  • 執行役員については、執行役員規程で任期、解任、報酬、義務を定める
  • 従業員型の執行役員については、就業規則との関係も整理する

5-2 不祥事の類型として、不正行為・ハラスメント・情報漏えい・背任的行為などを明記する

規程には、どのような行為が問題になるのかを具体的に定めておくべきです。
たとえば、次のような事項です。

  • 会社財産の私的流用
  • 経費の不正使用
  • 会社に対する背任的行為
  • 取引先との不適切な利益供与
  • パワハラ、セクハラなどのハラスメント
  • 営業秘密や個人情報の漏えい
  • 競業行為
  • 会社の信用を害する行為
  • 法令、定款、社内規程への重大な違反

抽象的に「会社に損害を与えたとき」とだけ定めるより、具体例を入れておく方が、役員本人にも会社のルールが伝わりやすくなります。

5-3 処分の種類は、注意・報酬減額・役職解任・契約終了など実態に合わせて設計する

役員懲戒規程を作る場合、処分の種類も整理しておく必要があります。
たとえば、次のような処分が考えられます。

  • 厳重注意
  • 始末書の提出
  • 担当職務の変更
  • 役職の解任
  • 報酬の減額
  • 退職慰労金の減額または不支給
  • 執行役員の解任または契約終了
  • 取締役への辞任勧告
  • 取締役の解任の検討

もっとも、取締役の解任は、役員懲戒規程だけで完結するものではありません。原則として株主総会決議が必要です。実務的には、規程上で取締役について解任を検討できる事由や社内での審議手続を定めたうえで、実際の解任は会社法上の手続に従って進める必要があります。

5-4 調査手続・弁明機会・決裁権限を規程上明確にしておく

規程では、処分の種類だけでなく、手続も定めておくことが重要です。
具体的には、次のような事項を整理しておきます。

整理する事項 規程に定める内容
調査手続 誰が調査を開始できるのか、誰がヒアリングを行うのか、どのような資料を確認するのか
弁明機会 本人にどの段階で事実確認や弁明の機会を与えるのか、弁明内容をどのように記録するのか
処分案の作成 調査結果を踏まえて、誰が処分案を作成し、どの資料を添えて審議に回すのか
決裁権限 最終的に誰が処分を決定するのか、取締役会や株主総会に付議する必要がある場合はどのように進めるのか

 

あわせて、情報漏えいや証拠隠滅のおそれがある場合に備え、緊急時の職務停止、社内システムへのアクセス制限、貸与品の返還などをどの権限で行うのかも定めておくと、不祥事発覚後の初動対応を進めやすくなります。

5-5 報酬規程・退職慰労金規程・秘密保持規程など他の規程との整合性を確認する

役員懲戒規程だけを作っても、他の規程と矛盾していると実務では使いにくくなります。
特に確認すべきなのは、次の規程です。

  • 役員報酬規程
  • 執行役員規程
  • 退職慰労金規程
  • 職務権限規程
  • 秘密情報管理規程
  • ハラスメント防止規程
  • 内部通報規程
  • 就業規則

たとえば、役員懲戒規程では退職慰労金を不支給にできると定めているのに、退職慰労金規程には不支給事由がない場合、解釈が問題になることがあります。
そういった齟齬が起こらないよう、規程を整備する際は個別の規程内容だけでなく、全体の整合性を確認することも大切です。

第6章 役員の不祥事対応は、処分方法と規程整備を一体で検討することが重要

取締役や執行役員の不祥事対応では、従業員と同じ感覚で懲戒処分や解雇を進めることはできません。取締役であれば、解雇ではなく解任や辞任勧告として整理する必要があり、執行役員であれば、労働者性の有無を確認し、就業規則、執行役員規程、契約内容に基づいて対応を検討する必要があります。
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