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越境EC運営代行業を始める前に確認すべき法的注意点|契約書・責任範囲・広告規制について弁護士が解説

2026.06.09

越境EC運営代行業を始める際は、EC運営のノウハウだけでなく、クライアントとなる出店事業者との間で契約上の責任範囲をあらかじめ整理しておくことが重要です。商品登録、広告運用、翻訳、海外顧客対応などをどこまで代行するかによって、クライアントとの責任分担やトラブル時の対応は変わります。本記事では、越境EC運営代行業を始める事業者に向けて、業務委託契約書で明確にすべき事項、広告・表示規制など、事業開始前に確認しておきたい法的注意点を弁護士が解説します。

もくじ

第1章 越境EC運営代行業は、何を代行するかで法的リスクが変わる

1-1 越境EC運営代行とは海外販売に関する業務を支援するサービス

越境EC運営代行とは、日本国内の企業が海外の消費者や事業者に向けて商品を販売する際に、EC運営に関する業務を代行・支援するサービスです。具体的な業務には、海外向けECサイトの構築、海外モールへの出店支援、商品ページの作成、翻訳、広告運用、SNS運用、受注処理、在庫管理、顧客対応、物流手配、返品対応などがあります。
もっとも、実際の業務範囲は事業者によって異なります。サイト制作だけを行う場合もあれば、商品登録や広告運用に加え、海外顧客からの問い合わせ、返品・返金対応、物流会社との調整、販売国の規制確認まで支援するケースもあります。

1-2 販売者になるのか、運営支援者にとどまるのかを最初に決める

業務範囲の大きな分かれ目は、自社が「販売者」になるのか、それとも「運営支援者」にとどまるのかという点です。
たとえば、クライアント名義のECサイトやモールアカウントについて、商品登録や広告運用などの支援にとどまる場合、代行業者は基本的に業務委託先として運営支援者に位置づけられます。一方で、代行業者自身のアカウントや自社名義のECサイトで商品を販売する場合、代行業者が決済や返品対応の主体として表示される場合などには、単なる運営支援者ではなく、販売者としての責任や、売買契約の当事者としての責任を問われる可能性があります。

第2章 越境ECの運営代行契約で明確にしておくべき事項

2-1 対応する具体的な業務範囲

越境EC運営代行業を始める際に、まず整えるべきなのがクライアントとの業務委託契約書です。
契約書では、業務内容について「越境EC運営代行業務一式」といった抽象的な書き方は避けるべきです。何を行うのか、何を行わないのかを具体的に書いておかなければ業務範囲が不明確になり、トラブルの際に想定外の責任を負うことになりかねないためです。
契約書では、たとえば次のような業務について、それぞれ整理することが考えられます。

業務内容 契約書で整理しておきたい事項の例
ECサイトの構築 構築するサイトの範囲、使用するシステム、納品物、修正対応の範囲、公開後の保守対応の有無 など
海外モールへの出店申請 対象となるモール、申請に必要な情報提供者、審査不通過時の取扱い、審査通過を保証しないこと など
商品登録 登録する商品数、登録項目、商品情報の提供責任、登録後の修正対応の範囲 など
翻訳 対象となる言語、翻訳する範囲、専門用語や法規制に関する確認の有無、最終確認者 など
広告運用 対象媒体、広告予算、広告費の負担者、広告表現の承認フロー、成果を保証しないこと など
SNS運用 対象SNS、投稿頻度、投稿内容の作成範囲、投稿前の承認、コメント・DM対応の有無 など
在庫管理 在庫情報の提供方法、在庫切れ時の対応、在庫数の誤りによる責任分担 など
受注処理 受注確認、注文情報の管理、発送指示の範囲、キャンセル発生時の対応 など
返品・返金対応 返品を受け付ける条件、返金判断の権限、返品送料の負担、クライアント承認が必要な場面 など
物流会社との連絡 対象となる物流会社、連絡・調整の範囲、配送遅延・破損・紛失時の対応範囲 など
売上レポートの作成 レポートの内容、作成頻度、提出方法、分析・改善提案まで含むかどうか など
販売先国の規制調査 調査対象国、調査対象となる規制、一般的な情報提供にとどまるのか、専門家確認まで含むのか など
通関に関する一般的な案内または専門業者への取次ぎ 通関について自社が判断しないこと、一般的な案内の範囲、専門業者・税理士等への確認が必要な事項 など

 

特に注意が必要なのは、規制調査や通関、税務、海外法務に関する業務です。これらは専門性が高く、一般的なEC運営の知識だけで対応できるとは限りません。対応しない場合は、「販売先国における法令・規制・税務・通関手続に関する専門的な適法性確認は業務範囲に含まれない」といった形で、業務範囲外であることを明記しておくべきです。

2-2 売上保証・成果保証をしないこと

越境ECの運営代行では、クライアント側が「海外向けに売れるようにしてくれる」と期待してしまうことも想定されます。しかし、売上は商品力、価格、競合状況、広告、レビュー、配送条件、為替など、さまざまな要素に左右されるものです。
そのため、実際の業務範囲に売上や成果に関する保証を含めない場合は、契約書において、一定の売上、広告効果、モール審査通過、検索順位、購入率、アカウント停止が起きないことなどを保証しない旨を明確にしておく必要があります。
また、このことは、契約書のみならず、営業資料や提案書についても同様です。
営業資料 や提案書で「売上アップを実現します」「海外販売を成功させます」といった強い表現を使ったことが後のトラブルにつながるおそれもあります。提案書、営業資料、契約書のトーンを一定範囲にそろえ、過度な期待を生まないように設計することも重要です。

2-3 商品情報はクライアントが正確に提供するルール

運営代行業者が適切に商品紹介ページや広告を作成するには、クライアントから正確な商品情報の提供を受ける必要があります。
たとえば、商品の成分、素材、仕様、原産国、製造国、使用方法、保証内容、在庫情報、使用上の注意などです。化粧品、健康食品、食品、医療機器、美容機器、電化製品などでは、表示や広告表現に関わる情報が特に重要になります。
契約書では、クライアントが提供する商品情報の正確性について、クライアントが責任を負うこと、代行業者は提供された情報を前提に業務を行うことを明記しておく必要があります。

2-4 広告費・物流費・関税などの費用負担

越境ECの運営代行では、月額運営費のほかに、広告費やモールの手数料、海外倉庫費用や関税など付帯する費用が発生することがほとんどです。
月額運営費に何が含まれ、何が別途実費になるのかを明確にしておかなければ、クライアントから「月額費用に全部含まれていると思っていた」というトラブルになりかねません。見積書や申込書でも、代行報酬と実費を分けて記載しておくことが大切です。

第3章 商品ページ・広告表現で注意すべき法規制

3-1 商品ページや広告表現は日本法だけでなく販売先国の規制も問題になる

越境EC運営代行業では、商品ページや広告表現の作成に関与することがあります。この場合、注意すべき法規制は日本の法律に限られません。
日本国内の事業者が商品ページや広告を作成する場合、取引態様や表示内容によっては、景品表示法、特定商取引法、薬機法、健康増進法、不正競争防止法など、日本法上の表示規制・広告規制が問題になる可能性があります。
一方で、越境ECでは、商品を購入する消費者が海外にもいるため、販売先国・購入者所在国の消費者保護法、広告規制、商品安全規制、個人情報保護規制、表示義務なども問題になり得ます。

3-2 最終確認はクライアントが行い、責任分担も明確にしておく

ただし、代行業者が日本を含めすべての国の法規制適合性を保証する設計にするとリスクが大きいため、クライアントによる最終確認を前提としつつ、契約書上も責任分担を明確にしておくことが望まれます。
特に、効能効果や比較表現、翻訳などはトラブルになりやすい事項です。

効果効能や比較表現は根拠資料を確認する

「必ず効果が出る」「絶対に痩せる」「副作用がない」「病気が治る」「世界一」「No.1」「最安値」などの表現は、根拠資料がないまま使用すると、誇大広告や優良誤認、有利誤認の問題につながる可能性があります。
根拠のない効果効能や過度な比較表現を使うと、クライアントだけでなく、広告文を作成した代行業者もトラブルに巻き込まれるおそれがあります。

翻訳ミスもトラブルにつながりやすい

越境ECでは、商品ページや広告文を海外の言語に翻訳する場面があります。翻訳ミスは、単なる文章上のミスにとどまらず、返金、商品の誤使用、販売先国の表示規制に関する問題につながる可能性があります。

商品ページや広告の運用上だけでなく、契約書上でも、商品情報や広告表現の根拠資料はクライアントが提供すること、翻訳はクライアントから提供された情報を前提とすること、代行業者はクライアントの承認を得て商品ページや広告を公開することなどを明確に定めておくことが推奨されます。

第4章 海外顧客対応・通関・カスタマーサポート業務への備え

4-1 返品・キャンセル・返金ルールを事前に決める

国内ECと異なり、海外配送では返品送料が高額になりやすく、通関手続や関税負担も関係します。また、販売先国や利用するモールによって、返品・返金に関するルールが異なることもあります。
運営代行業者が海外顧客対応を行う場合、どの範囲まで自社判断で対応するのかを明確にしておく必要があります。
たとえば、次のような事項です。

  • 返品を受け付ける条件
  • 返品期限
  • 開封済み商品の取り扱い
  • 初期不良の場合の対応
  • 顧客都合返品の場合の送料負担
  • 返品判断の権限
  • クレーム化した場合の対応フロー

特に、返金はクライアントの売上にも直接影響します。どの範囲まで代行業者に返品の判断権限が与えられるのか、どの段階でクライアントの承認を取るのかを契約書や運用マニュアルで整理しておくことが重要です。

4-2 関税・輸入税・配送遅延の説明責任を整理する

海外顧客とのトラブルでは、「関税がかかると知らなかった」「配送が遅い」「税関で止まった」「受け取りたくない」といった問題が起こることがあります。
また、海外配送では、天候、税関、現地配送会社の事情などにより、配送予定日より遅れることもあります。
そのため、商品ページやFAQには、関税、輸入消費税、VATその他販売先国・地域で課される税金等を誰が負担するのか、配送予定日数、通関による遅延の可能性、配送不可地域、受取拒否時の取扱い、返送費用の負担などを明記しておく必要があります。

4-3 カスタマーサポートを代行する場合は対応権限を決める

顧客対応では、商品の仕様、使用方法、配送状況、返品、返金、クレームなど、さまざまな問い合わせが発生します。これらについての対応ルールに加えて、越境ECでは、対応言語の範囲、対応時間や返信期限はどの国の時間を基準とするのかといった点も決めておく必要があります。
カスタマーサポートにおいては回答内容によって、クライアントの法的責任、売上、ブランドイメージに影響することも想定されます。代行業者が単独で回答できる事項とクライアント確認が必要な事項もあらかじめ定めておくべきでしょう。

第5章 【FAQ】越境EC運営代行業の契約書作成でよくある疑問

Q1. 越境EC運営代行では、業務委託契約書だけ作れば足りますか?

A1. 業務内容によっては関連書面も必要です。

まずはクライアントとの業務委託契約書を作成することが重要ですが、それだけで常に十分とは限りません。たとえば、契約前に秘密情報を受け取る場合は秘密保持契約書、個人情報を取り扱う場合や海外の外部事業者に個人データを提供する可能性がある場合は、個人情報取扱いに関する条項や覚書、案件ごとに費用条件が変わる場合は見積書や申込書を組み合わせることがあります。自社のサービス内容に応じて、必要な書面を用意しておくことで、業務範囲や責任分担が明確になり、トラブルの予防につながります。

Q2. 小規模に始める場合でも、業務委託契約書は必要ですか?

A2. 小規模でも契約書の作成は重要です。

小規模に始める場合でも、業務委託契約書は作成しておくべきといえます。むしろ、開業初期はサービス内容や料金体系が固まりきっていないことも多く、口頭やメールだけで始めると、認識の違いが生じやすい傾向があります。契約書は相手を疑うためのものではなく、業務内容と責任範囲を共有するためのものです。最初の案件から最低限の契約書を整えておくことをおすすめします。

Q3. 業務委託契約書はどの国の言語で作成すればいいですか?

A3. 当事者が正確に理解できる言語で作成します。

日本国内のクライアントから越境EC運営代行を受託する場合は、通常、日本語の契約書で足りることが多いです。契約の当事者がいずれも日本企業であれば、日本語で契約内容を正確に確認できるためです。一方で、海外企業から直接受託する場合や、海外の販売代理店、物流会社、広告会社などと契約する場合は、英語や現地語での契約書が必要になることがあります。複数言語の契約書を作る場合は、翻訳版との間で意味がずれる可能性があるため、どの言語を正文とするかを定めておくことも重要です。

Q4. 重要事項は何カ国の言語で作成する必要がありますか?

A4. 販売対象国と利用者に応じて判断します。

ECサイト内や利用するモール上に表示する利用規約、返品ポリシー、配送条件、関税負担、プライバシーポリシーなどの重要事項を何カ国語で作成すべきかは、販売対象国や想定利用者によって異なります。たとえば、英語圏の顧客を対象にするのであれば英語、中国語圏や韓国語圏など特定の国や地域を主な販売対象にする場合は、その利用者が理解できる言語での表示も検討すべきです。

Q5. 業務委託契約書作成を弁護士に依頼すると費用はどれくらいかかりますか?自分で素案を作って確認だけ依頼する方が安く済みますか?

A5. 費用は業務内容と依頼範囲で変わります。

業務委託契約書の作成費用は、契約書の内容や依頼範囲によって変わります。越境EC運営代行では、業務範囲、成果保証の有無、広告費や物流費の負担、商品情報の責任、返品・返金対応、個人情報、損害賠償の範囲などを整理する必要があるため、一般的な業務委託契約書より設計が複雑になることがあります。
また、自分で素案を作成し、弁護士に確認だけ依頼すれば、費用を抑えられる場合もあります。ただし、素案が自社のサービス実態に合っていない場合や重要条項が抜けている場合は、大幅な修正が必要になり、結果的に新規作成と近い工数になることもあります。
費用を抑えたい場合でも、まず自社のサービス内容、料金体系、対応範囲、想定クライアント、販売対象国を整理したうえで相談する方が効率的です。

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また、契約書のリーガルチェックが頻繁に発生する場合や、定期的に法的な相談をしたい場合は、顧問契約の方が経済的な場合もあります。

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第6章 越境EC運営代行業を始める前に法的リスクを整理しておきましょう

ここまで見てきたように、越境EC運営代行業では、業務範囲や責任分担、海外顧客対応など事前に整理すべき事項が多くあります。自社の業務内容に沿った契約書を作成しておくことで、自社がどこまで対応し、どこから先はクライアントや専門家の判断に委ねるのかが明確になり、後日の認識違いや責任追及を防ぎやすくなります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは弁護士法人を母体に、税理士、社会保険労務士などが連携する士業法人グループです。契約書の作成や利用規約のリーガルチェックだけでなく、税務、許認可、個人情報対応などに不安がある場合もワンストップでサポートできますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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