お役立ちコラム

介護施設で薬の管理をする際の法律上の注意点|介護職員の服薬支援と施設判断のリスクを弁護士が解説

2026.06.12

介護施設では、利用者の薬を預かり、服薬時間に合わせて声かけや見守り、服薬確認を行う場面があります。薬の飲ませ方や管理方法を誤った判断で行うと、利用者の健康被害につながるだけでなく、施設の法的責任が問題になる可能性があります。本記事では、介護施設で薬の管理を行う際に押さえておきたい法律上の注意点を弁護士が解説します。

もくじ

第1章 介護施設で薬の管理を行う際にまず確認すべき法的な線引き

1-1 服薬時間の声かけや見守りは通常の服薬支援として行われる

介護施設では、利用者が自分で薬を管理することが難しい場合に、職員が服薬時間を知らせたり、服薬の様子を見守ったりすることがあります。
たとえば、朝食後の薬を飲み忘れないように声をかける、薬を飲むための水を準備する、本人が薬を飲んだかどうかを確認する、といった対応は、介護施設で日常的に行われる服薬支援です。
法律上も、日常的な服薬支援に介護職員が関わること自体が問題になるわけではありません。ただし、介護職員が薬について判断してよいわけではなく、医師・薬剤師への確認や安全な実施体制を前提としたうえでの整理です。

1-2 法律上問題になりやすいのは、薬の扱いを施設判断で変更する場面

注意が必要になるのは、薬の扱いを介護施設の判断で変更してしまう場面です。
たとえば、利用者が飲み忘れた薬を次の時間にまとめて飲ませたり、錠剤が飲みにくそうだから砕いて飲ませたりするといった対応です。

これらの対応は、いずれも薬の効果や副作用などに関わります。そのため、行為そのものが直ちに法律違反になるとは限らないとしても、医療的判断に踏み込んだと評価される可能性があります。
医師・薬剤師への確認なく薬の形状を変えた場合、事故時に施設の確認体制や安全配慮義務が問題になる可能性があるため、施設職員が医師・薬剤師への確認なく薬の形状を変更する運用は避けるべきです。

第2章 薬の扱いを施設判断で変更する場合の法律上の注意点

2-1 薬を飲ませるかどうかを現場判断で変えない

介護施設では、利用者の体調や様子を見て、薬を飲ませるかどうか迷う場面があります。
たとえば、食後に服用する薬なのに利用者が食事をほとんど取っていない、本人が薬を飲むことを拒否している、飲み忘れたことに後から気づいた、といったケースです。
このような場面で、介護職員や施設管理者が独自に服薬の有無や、服用する量などを判断することは避けるべきです。
施設職員が利用者の状態を観察することは重要ですが、その観察結果をもとに薬の扱いを変更するかどうかは、医師・薬剤師に確認すべき事項です。

これは、一度でも施設でそのような判断をしたら直ちに違法になるという話ではありません。医師・薬剤師への確認を経ずに施設判断で薬の扱いを変更する運用が常態化している場合、事故や健康被害が生じた際に、施設として必要な確認体制を整えていなかったのではないかと評価される可能性があるという点が問題となります。

2-2 薬を砕く・カプセルを開ける対応は、安全配慮義務の観点から慎重に扱う

利用者が薬を飲みにくそうにしている場合、錠剤を砕いたり、カプセルを開けたりする対応を検討することがあります。
このような対応自体が、常に法律違反になるわけではありません。医師や薬剤師の確認に基づき、利用者の状態に合わせた服薬方法として行われることもあります。
ただし、2-1と同様に、施設判断だけで薬を砕いたり、カプセルを開けたりし、その結果として利用者に健康被害が生じた場合には、施設の安全配慮義務や管理体制の問題として評価される可能性があります。

2-3 市販薬・サプリメント・家族の持参薬は、使用判断と管理責任を分けて考える

介護施設では、家族から市販薬やサプリメントを持ち込まれることがあります。家族としては、「以前から飲んでいるものだから」「健康食品だから問題ない」と考えている場合もあるでしょう。
ここで整理すべきなのは、使用判断と管理責任です。
市販薬やサプリメントを使用する場合には、処方薬との飲み合わせや利用者の状態を踏まえ、医師・薬剤師に確認する運用にしておくことが望ましいです。一方で、いったん施設がその薬を預かり、保管し、服薬支援に関与する場合には、施設としての管理責任が生じます。
どのように保管するのか、そもそも服薬支援の対象にするのかを事前に明確にしておく必要があるといえます。

第3章 薬の管理体制が不十分な場合に施設の責任が問われる場面

誤薬や薬の紛失、変更情報の共有漏れなどで事故が起きた場合、担当職員個人のミスとしてだけでなく、施設がどのような確認手順を設けていたのか、職員間で情報共有できる仕組みを作っていたのかなど、施設としての管理体制が問題になります。
施設の注意義務や安全配慮義務を判断するうえでどのような体制不備が法律上の責任につながりやすいのかを整理します。

3-1 薬を預かる時点の確認不足は、施設の管理責任につながる

介護施設で薬の管理を行う場合、薬を預かる時点から確認が必要です。
最初に薬を受け取る段階で、処方内容や服薬回数、服薬時間、用量などを十分に確認しなければ、その後の服薬支援も誤った情報を前提に行われてしまう可能性があります。
薬を預かる場面では、どの資料に基づいて何を確認し、施設内の記録にどのように反映するのかをあらかじめ決めておく必要があります。

3-2 保管方法の不備は、取り違え事故の過失判断に影響する

薬の取り違えが起きた場合、施設として取り違えを予見し、防止するための体制を整えていたかが問題になります。
たとえば、複数の利用者の薬を同じ時間帯に扱うにもかかわらず、誰の薬か、いつ飲む薬かが一目で分かる状態で保管されていなかった場合、防止できたミスではなかったかと評価される可能性があります。
薬の保管方法については、利用者の氏名表示や服薬時間ごとの区分を分かりやすくし、服薬前の確認手順などをあらかじめ定めるなど、取り違えを防ぐための具体的な措置を講じていたと説明できる状態にしておくことが重要です。

3-3 服薬確認の記録がないと、施設の対応を説明できなくなる

薬の管理をめぐるトラブルでは、記録も重要です。
服薬したかどうか、それを誰が確認したかといった服薬そのものの記録だけでなく、服薬拒否や飲み忘れ、服薬後の嘔吐、薬の紛失などがあった場合には、状況を記録し、誰に報告してどのような指示を受けたのかまで残しておく必要があります。
記録が残っていれば、事故が起きた場合も、施設としてどのような事実を把握し、どのように対応したのかを説明しやすくなります。

3-4 薬の変更・中止の共有漏れは、施設全体の体制不備として見られる

通院後や退院後に薬が変更された場合、その内容が施設内で正しく共有されていなければ、変更前の情報をもとに誤った服薬支援が行われるおそれがあります。
たとえば、薬が中止されたにもかかわらず保管場所に残っていたり、一部の職員だけが変更内容を把握し、夜勤者や他の担当職員に共有されていなかったりする場合には、施設として薬の変更情報を確認・記録し、関係職員へ共有する仕組みが整っていなかったのではないかと問題にされる可能性があります。

3-5 夜間・休日に現場職員へ判断を委ねる運用はリスクが高い

夜間や休日など、職員体制が薄くなりやすい時間帯は、薬の管理について現場職員が判断に迷う場面が生じやすくなります。たとえば、就寝前の薬を飲み忘れたことに深夜に気づいた場合や、服薬後に嘔吐やふらつきが見られた場合に現場職員だけで対応を決めるのは難しいことがあります。
このような場面で毎回現場の判断に任せていると、対応が職員ごとに分かれたり、必要な確認が遅れたりする可能性があります。
そのため、夜間・休日に医師・薬剤師へ確認する方法や家族への連絡基準をあらかじめ定めておくことが重要です。

第4章 【FAQ】こんな場合はどうする?介護施設の薬の管理でよくある疑問

Q1. 利用者本人が、自分で薬を管理することを希望している場合、施設はどこまで関与すべきですか?

A1. 自己管理の可否と施設の関与範囲を明確にします。

利用者本人が薬の自己管理を希望している場合でも、施設が一切関与しなくてよいとは限りません。薬の種類や服薬回数、飲み忘れや過量服用が起きた場合の影響などを医師・薬剤師に確認したうえで、施設として本人にまかせてよいかを判断する必要があります。
自己管理を認める場合には、どの薬を本人が管理するのか、飲み忘れや紛失があった場合に誰へ報告するのかなどを明確にしておくことも大切です。

Q2. 家族から「本人には内緒で薬を飲ませてほしい」と依頼された場合、施設は対応してよいですか?

A2. 本人の同意や医療上の必要性を確認します。

家族から依頼された場合でも、本人に知らせずに薬を飲ませる対応は慎重に考える必要があります。薬の服用は利用者の身体に関わる行為であり、本人の意思や医療上の必要性を無視して施設が対応すると、後に説明責任や本人の自己決定への配慮が問題になる可能性があります。
これは、本人に説明すると服薬を拒否する、認知症により理解が難しいなどの事情がある場合も同じです。施設だけで判断せず、医師・薬剤師に確認し、服用させる場合も家族との協議内容や対応方針を記録に残しておくことが後のトラブル回避につながります。

Q3. 施設で管理している薬の情報は、どこまで職員間で共有してよいですか?

A3. 業務上必要な範囲で共有します。

薬の情報は、病名や健康状態と結びつくことが多く、個人情報として慎重に取り扱う必要があります。一方で、服薬支援や事故防止のためには、必要な職員間で情報を共有しなければ適切な対応ができません。
そのため、業務上、情報が必要な職員への共有は可能ですが、関係のない職員まで情報を自由に閲覧できる状態になっていたり、他の利用者などに見える形で管理したりすることは避けるべきです。

Q4. 薬の管理に関する事故やヒヤリハットを家族にどこまで説明すべきですか?

A4. 事故は説明し、ヒヤリハットは内容に応じて判断します。

誤薬や服薬漏れなどにより、利用者の健康に影響が生じた場合や、医師・薬剤師への確認、経過観察が必要になる場合には、家族への説明が必要です。説明する際には、判明している事実、利用者の現在の状態、医師・薬剤師に確認した内容、施設として行った対応、今後の経過観察や再発防止策を分けて伝えることが大切です。
実際の事故には至っていないヒヤリハットについては、すべてを家族へ個別に説明しなければならないとまではいえません。ただし、重大事故につながり得る内容だった場合や、同種の事案が繰り返されている場合には、家族への説明を検討すべきといえます。

関連記事

【例文つき】介護施設から家族へ事故報告をする際の電話対応|介護業に精通した弁護士が解説

Q5. 職員が薬の管理ミスを報告しなかった場合、施設としてどのように対応すべきですか?

A5. 懲戒の対象になり得ますが、内容に応じた判断が必要です。

職員が薬の管理ミスを認識していたにもかかわらず報告しなかった場合、就業規則上の根拠があれば、報告義務違反や職務懈怠として懲戒処分の対象になり得ます。もっとも、報告しなかったからといって、直ちに重い懲戒処分が認められるとは限りません。利用者への影響や報告遅れの程度、過去の同種事案、施設の報告ルールの明確さなどを踏まえて、事案に応じた対応を検討する必要があります。

第5章 介護施設の薬の管理では、事故時に適切な対応を説明できる体制づくりが重要

介護施設で薬の管理を行う際は、薬に関わる行為が直ちに違法かどうかだけでなく、万一事故が起きた場合に、施設として適切な確認体制を整えていたと説明できるかが重要です。薬の扱いを施設判断で変更したり、確認・記録・共有のルールが曖昧なまま運用したりすると、安全配慮義務や管理責任を問われる可能性があるため、日頃から医師・薬剤師への確認方法をはじめ、服薬記録や情報共有、事故時の報告フローなどを整備しておくことが大切です。

私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士法人を母体として、社会保険労務士法人や税理士法人などの各士業が連携し、介護施設を含む事業者の法務・労務・社内体制整備をサポートしています。薬の管理体制だけでなく、施設の実情に合った就業規則・社内規程の整備も安定した施設運営の基本になります。介護施設の運営に関して気になる点がある場合は、お気軽にご相談ください。

月2万円~。気軽に相談できる「フレックス顧問契約」とは?

050-5799-4475 受付時間:9:00~18:00
Web予約 24時間受付