社長や役員が逮捕された場合、「会社はどうなるのか」「誰が決裁するのか」「取引先や従業員にどこまで伝えるべきか」など判断を迫られる場面が連続します。本記事では、社長や役員が逮捕された場合に会社が行うべき初動対応について弁護士が解説します。
もくじ
第1章 逮捕直後から72時間以内に会社が行うべき初動対応
1-1 逮捕直後〜数時間以内|正確な事実把握と弁護士への緊急連絡
社長や役員が逮捕されたという一報が入った場合、最初に行うべきことは、確認できる事実を整理することです。具体的には、誰が逮捕されたのか、現在どこの警察署にいて、どのような容疑なのかを確認します。
もっとも、そうした情報を会社が独自に入手することは容易ではありません。そのため、顧問弁護士がいる場合はすぐに顧問弁護士へ連絡してください。顧問弁護士が刑事事件を直接扱っていない場合でも、会社の事情を理解しているため、刑事弁護人の手配や会社側対応の整理に入ることができます。
顧問弁護士がいない場合も、会社だけで対応しようとするのは避けるべきです。逮捕直後は弁護士でなければ速やかに本人と接見して事情を確認することが難しい場面が多いためです。
1-2 当日中|社内の対応本部と問い合わせ窓口を一本化する
社内の対応体制を迅速に整える必要もあります。
ただし、対応メンバーが多すぎると情報の伝達過程で内容が変わったり、従業員の間で憶測が広がったりする可能性があるため、広げすぎない方がいいでしょう。
会社の規模にもよりますが、初動対応を担うメンバーは、残存役員、管理部門責任者、総務・人事責任者、広報担当、顧問弁護士または危機管理対応の弁護士などに絞るのが通常です。
あわせて、外部からの問い合わせ窓口を一本化します。取引先、金融機関、報道機関、従業員の家族などから問い合わせが来た場合に、説明内容を統一するためです。現場社員が個別判断で回答すると、説明内容がばらばらになり、会社としての信用を失うおそれがあります。
1-3 24時間以内|代表権・決裁権限を確認する
社長・役員が逮捕された場合に、会社運営上もっとも大きな問題になりやすいのが、誰が会社を代表し、誰が決裁するのかという点です。
代表取締役が複数いる場合は、定款や登記、金融機関への届出状況などを確認したうえで、残る代表取締役が会社を代表して業務を継続できることがあります。
一方、代表取締役が1名しかおらず、その人が逮捕された場合には、重要な社内決裁が止まる可能性があります。社内で社長代行や職務代行者を決めたとしても、それだけで法律上の代表権が発生するわけではありません。
そのため、必要に応じて、逮捕された代表取締役をそのまま残しつつ別の取締役を代表取締役として追加選定するのか、代表取締役を解職したうえで新たな代表取締役を選定するのかを検討する必要があります。
どちらの方法を取るべきかは、定款、取締役会の有無、株主構成、事件と会社業務との関係、対外的な信用への影響などを踏まえて判断します。
1-4 24時間〜48時間以内|銀行・主要取引先への説明方針を決める
社長が逮捕されたことが外部に知られると、金融機関や取引先は、会社の信用、支払能力、契約履行への影響を気にします。
もっとも、すべてのケースで直ちに銀行や取引先へ詳細を説明すべきとは限りません。事件の内容、報道の有無、会社業務への影響、取引先との関係性を踏まえて、説明の要否と範囲を決める必要があります。
会社側から説明を行う場合も、事件については最小限にとどめます。事件について不用意に断定すると、後で事実関係が変わった場合に説明の整合性が取れなくなるおそれがあるためです。弁護士と相談しながら、公表できる事実と公表すべきでない情報を分けておく必要があります。
1-5 48時間〜72時間以内|報道対応・社内アナウンスを行う
報道が出た場合、または報道が見込まれる場合には、会社としての発信内容を整える必要があります。
プレスリリースを出すかどうかは、会社の規模、事件の内容、報道状況、取引先への影響、上場会社か非上場会社かなどによって変わります。小規模な会社であれば、公式リリースまでは出さず、取引先や従業員向けの個別説明で足りることもあります。
一方で、報道やSNSで情報が広がっている場合には、沈黙がかえって不安を広げることもあります。その場合は、確認済みの事実、業務継続体制、問い合わせ窓口を簡潔に示すことを検討します。
従業員に対しては、できるだけ早い段階で会社から統一した説明を行います。
給与は支払われるのか、雇用に影響はないのか、取引先から聞かれた場合にどう答えればよいのかなど、従業員が不安に感じる点についての説明が求められます。
第2章 刑事事件対応は、原則として弁護士に任せる
弁護士の接見により安否・認否・会社への伝達事項を確認する
逮捕直後は、会社や家族が本人と自由に連絡できないことがあります。そのため、まず弁護士が本人と接見し、安否、容疑の内容、認否、伝達事項などを確認します。
会社としては、会社運営に関して確認したい場合もありますが、確認すべき内容については注意が必要です。容疑が会社の事業に関するものである場合、関係資料や関係者の説明、証拠に関わる事項について、不用意な伝言を行うと、後に問題視されるおそれがあるためです。
会社運営上どうしても確認が必要な事項がある場合には、弁護士に相談し、事件への影響を確認したうえで対応するのが望ましいといえます。
第3章 社内で進めるべき対応|部門別に見る会社維持の実務
3-1 財務・経理部門|支払いと資金繰りを継続させる
財務・経理部門では、直近の支払い予定を確認します。
例えば、ネットバンキングの承認権限が社長本人に限られている場合や、金融機関での手続に代表者本人の対応が必要な場合には、支払い処理や手続が止まる可能性があります。そのため、支払や手続のうち、社長不在により進められないものがないかを確認する必要があります。
金融機関への説明が必要になることもあるため、資金繰り表を作成し、弁護士や税理士と連携して支払遅延や信用不安を防ぐ対応を進めます。
3-2 法務・総務部門|契約・会社法手続・社内文書を整理する
法務・総務部門では、直近で締結・更新が必要な契約、社長の承認待ちで止まっている案件、取締役会や株主総会の開催要否を確認します。
代表取締役の追加選定や変更が必要な場合には、定款、登記簿、株主名簿、過去の議事録などを確認し、弁護士や司法書士と連携して手続を進めます。
また、取引先向け説明文や社内アナウンスについて、事実関係を断定しすぎていないか、法的に問題のある表現がないかを確認する役割も担います。
3-3 人事・労務部門|従業員の不安と情報管理に対応する
人事・労務部門では、従業員に対し、会社の業務継続方針や、給与支払への影響、外部問い合わせを受けた場合の対応ルールを説明します。
社長が逮捕されたという情報が社内で広がると、従業員が不安から取引先に個別説明をしたり、SNSで不確かな情報を発信したりする可能性があります。そのため、社内の問い合わせ窓口を明確にし、不正確な情報発信を控えるよう周知します。必要に応じて、社労士とも連携し、従業員対応の体制を整えます。
3-4 営業・現場部門|取引先対応を統一する
営業・現場部門では、取引先や顧客から問い合わせを受けた場合の回答ルールを統一します。
外部には、通常業務は継続していること、正式な問い合わせ窓口があることを伝えるにとどめ、事件の詳細に関する説明は、経営層や法務、弁護士で確認した方針に従って対応します。
3-5 広報・問い合わせ対応部門|社外への発信内容を一本化する
広報・問い合わせ対応部門では、問い合わせ窓口を一本化し、取引先や顧客、金融機関、報道機関に対応します。
公式発表を出すかどうかは、事件の内容や、報道状況、会社への影響を踏まえて判断しますが、発信する場合も、確認済みの事実や業務継続体制を中心とし、簡潔に整理するべきです。
本人の有罪・無罪や会社の責任について踏み込みすぎると、捜査対応や信用面に影響する可能性があるため、発信内容は弁護士の助言を受けながら整理することが望ましいです。
第4章 事件の種類によって会社の対応は変わる
4-1 私生活上の事件の場合
逮捕された事件が、会社業務と直接関係しない場合、会社としては深入りしすぎないことが重要です。
もちろん、社長・役員としての適格性や会社の信用、取引先への説明は問題になりますが、会社が事件の中身について本人の代わりに説明することは慎重に考えるべきです。
逮捕されたことで有罪が確定したわけではありません。そのため、逮捕されたという事実だけで直ちに処分を決めるのではなく、事実関係を踏まえ、定款や社内規程を確認しながら検討する必要があります。
4-2 会社業務に関係する事件の場合
一方で、会社業務に関係する事件の場合は、会社自身にも法的・信用上のリスクが及ぶ可能性があります。
この場合、本人の刑事弁護だけでは足りません。会社として、内部調査や資料保全、関係者ヒアリングなどを検討する必要が生じる可能性があります。
特に注意すべきなのは、会社が被害者の立場なのか、会社自体にも責任が問われる可能性があるのかという点です。
たとえば、社長が会社資金を私的に流用していたのであれば、会社は被害者側に立つ可能性があります。一方、会社ぐるみの不正や、会社の業務として行われた違反が疑われる場合には、会社自身の責任や行政対応が問題になることがあります。
この切り分けを誤ると、本人を守る対応と会社を守る対応が混在し、後の調査や説明が難しくなります。
本人の弁護士と会社の弁護士を分けるべき場合
会社業務に関係する事件では、本人の弁護士と会社の弁護士を分けるべき場合があります。
会社が被害者側の立場である場合、本人と同じ弁護士が本人と会社の双方を担当すると、利益相反の問題が生じるためです。
会社側の弁護士は、会社の資料保全や内部調査の実施、再発防止策の整理などを担い、会社の危機管理案件として対応します。
第5章 社長・役員が逮捕されたときは、刑事対応と会社運営対応を分けて進める
社長や役員が逮捕されると、社内外に大きな混乱が生じます。会社は事件対応を進める一方で、事業を継続するための体制を早急に整えなければなりません。
しかし、逮捕直後は事実関係が十分に分からず、どこまで説明すべきか、本人や関係者への連絡をどのように扱うべきかなど、判断が難しい場面も多くあります。そのため、早い段階から弁護士の関与を受けながら、事件対応と会社運営の対応を切り分けて進めることが望ましいといえます。
社長・役員の逮捕といった事態に限らず、社内不祥事や緊急時の対応に備えたい場合は、顧問弁護士の活用も選択肢として検討してみてください。


