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病院の守秘義務はどこまで?患者の病状説明・症例発表・モニター広告で情報を扱う際の注意点を弁護士が解説

2026.11.05

患者の病状や診療内容は慎重に取り扱うべき――と理解していても、患者の家族から病状を聞かれた、症例を学会で発表したい、モニター患者の目隠し写真を広告に使いたい、といった場面ではどのように考えるべきでしょうか。
本記事では、医療機関が迷いやすい場面ごとに、患者情報をどこまで開示・利用できるのか弁護士が解説します。

 

第1章 患者情報を扱うときは守秘義務と個人情報保護法の両方を確認する

医師の守秘義務と医療機関の個人情報保護は分けて考える

患者の病状や診療内容を外部に伝えてよいかを考えるときは、医師個人の守秘義務と、医療機関による個人情報の取扱いを分けて整理する必要があります。

医師が、正当な理由なく、業務上知り得た患者の秘密を漏らした場合には、刑法上の秘密漏示罪が問題となります。(刑法134条)
一方、病院やクリニックが保有する診療情報については、個人情報保護法も問題となります。病歴や、診療の過程で医療従事者が知った患者の身体状況・病状・治療内容などは、特に慎重な取扱いが求められる要配慮個人情報に当たります。(個人情報保護法2条)

また、患者の個人データを第三者へ提供する場合には、法令上の例外に当たる場合を除き、あらかじめ本人の同意を得ることが原則です。

 

第2章 【問合せ】家族・勤務先・他の医療機関に患者の病状をどこまで伝えてよい?

患者情報を提供する場合は、提供する相手によって取扱いが異なります。
大きく整理すると、家族への病状説明や他の医療機関との連携では、その利用目的を院内掲示等で公表しており、通常必要な範囲であれば、患者から明確な反対がないことを前提に、個別の同意を得ずに情報提供できる場合があります。
一方、患者の勤務先や民間保険会社への情報提供は、原則として本人の同意を確認してから行います。

2-1 家族への病状説明は、本人の意思を確認したうえで行う

電話で家族を名乗る人物から検査結果を尋ねられた場合も、家族関係や患者本人の意思を確認できないまま回答するべきではありません。

患者の家族への病状説明は、患者への医療提供のために通常必要な利用目的に含まれます。その利用目的を院内掲示等で公表し、患者から明確な反対の意思表示がなければ、個別に同意を得ていなくても、本人の同意があったものとして扱える場合があります。

ただし、「家族であれば誰にでも病状を伝えてよい」ということではありません。
たとえば、診察室に患者本人と配偶者が同席しており、患者が配偶者の同席を拒んでいない状況であれば、その場での病状説明について本人の同意が得られているものと考えられます。
これに対して、患者が「妻には説明してよいが、兄には病名を伝えないでほしい」と希望している場合には、その意思を前提に対応する必要があります。

2-2 勤務先や保険会社への回答は、原則として本人の同意を確認する

患者の勤務先から「病名を教えてほしい」「いつ復職できるのか」と問い合わせを受けても、診療を行った医療機関が、勤務先からの照会だけを理由に患者の診療情報を回答することはできません。法令上の例外に当たる場合を除き、本人の同意を得た範囲で回答することになります。

民間保険会社から治療結果や既往歴などについて照会された場合も同様です。
特に注意したいのは、保険会社から患者本人の署名入りの同意書が提出された場合です。同意書があっても、どの範囲の診療情報まで提供することに同意しているのかが明確とは限りません。
そのため、対象となる診療期間や、診療録の要約・検査結果まで提供してよいのかなど、今回提供する情報の範囲について、通常は患者本人の意思を確認する必要があります。

2-3 他の医療機関への情報提供は、診療に必要な範囲なら個別同意が不要な場合がある

紹介先や紹介元など、他の医療機関への診療情報の提供は、患者の診療に必要な範囲であれば、原則として患者から個別に同意を得なくても行うことができます。ただし、その利用目的を院内掲示等であらかじめ明示していることが前提です。
たとえば、紹介患者について、診療結果や検査結果を紹介元の医療機関へ返す場合などです。
もっとも、傷病の内容などによっては、患者本人から明確な同意を得る必要がある場合もあります。そのため、本人が情報提供を望まない旨を申し出ていないかも確認します。

2-4 緊急時は、生命・身体等の保護に必要なら本人の同意なく情報提供できる

一方、救急搬送された患者が意識不明で、本人に家族への情報提供について確認できない場合には、別の考え方になります。
本人または家族等の生命・身体・財産を保護するために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合には、本人の同意がなくても必要な情報を提供することができます。

 

第3章 【学会等】症例発表では、氏名を伏せれば患者情報を使えるとは限らない

氏名を削除しても患者を特定できる場合は本人の同意が必要

学会や研究会で症例を発表する場合、本人の同意を得ずに患者情報を利用するのであれば、特定の患者を識別できないようにする必要があります。
このとき注意が必要なのは、氏名や顔写真を削除しただけでは、患者を特定できないとは限らない点です。

たとえば、患者数が少ない疾患について、年齢、性別、受診時期、特徴的な治療経過などを組み合わせると、患者の家族や知人、地域の医療関係者などには誰の症例か分かってしまうことがあります。
個人情報保護委員会も、患者数が少ない症例や顔写真を使用する場合など、氏名等を削除しても特定の患者を識別できるときは、学会発表等に本人の同意が必要としています。

患者の顔写真を医学情報誌などに掲載し、医師が訴えられた事例

実際に、病院であごの治療を受けた患者が、診察時に撮影された顔写真を本人の同意なく医学情報誌などに掲載されたとして、当時の教授や担当医らに損害賠償を求めた事例があります。
この訴訟は判決には至らず、教授と担当医が患者に合計80万円を支払う内容で和解しています。(平成14年・大阪地方裁判所での和解事例)
医学目的の利用であっても、患者を特定できる写真を本人の同意なく公表すれば、損害賠償請求などのトラブルにつながることが分かる事例です。

学会発表であっても本人の同意が不要になるとは限らない

なお、学術研究目的で患者情報を利用する場合には、個人情報保護法上、本人同意を不要とする例外があります。
ただし、一般の病院・クリニックが当然に「学術研究機関等」に当たるわけではありません。大学附属病院のように大学法人の一部門として「学術研究機関等」に該当する場合でも、患者情報を学術研究目的で取り扱うことなど、例外規定の要件を満たす必要があります。

 

第4章 【WEBサイト等】症例写真・モニター広告は、患者の同意があっても自由に掲載できない

美容医療や歯科などでモニター患者の症例写真をホームページやSNSへ掲載する場合には、2つの問題を分けて確認する必要があります。
1つは、患者の写真や診療情報を広告に利用してよいかという個人情報および守秘義務の問題です。もう1つは、その広告の内容自体が医療広告規制に適合しているかという問題です。

4-1 症例写真を広告に使う場合は、同意の目的・媒体・期間を確認する

個人を識別できる患者の写真を、ホームページなど第三者が閲覧できる媒体に掲載するのであれば、原則として本人の同意を得る必要があります。
ただし、その同意が別の目的にまで及ぶとは限りません。ホームページへの掲載には同意していても、SNSへの掲載までは同意の範囲に含まれていない場合や、掲載期間が限定されている場合もあります。

そのため、症例写真を広告に利用する場合には、広告利用について本人の同意を得たうえで、利用目的、掲載する媒体、掲載期間まで確認しておくことが大切です。

目元を隠しても本人の同意なく広告に使えるとは限らない

また、症例写真の目元を隠せば、本人の同意なく広告に使えるとは限りません。顔写真にマスキングをしていても、顔の一部や身体的特徴、年齢、治療内容など他の情報と組み合わせて患者を識別できる場合には、個人情報に当たります。

このような写真を本人の同意なくホームページやSNSに掲載した場合には、個人情報保護法上の問題に加え、患者からプライバシー権や肖像権の侵害を理由に、写真の削除や損害賠償を求められる可能性があります。

さらに、医師が、症例写真によって患者の病気や治療内容が分かる情報を本人の同意なく外部に提供した場合には、「診療を通じて知り得た患者の秘密を正当な理由なく外部に漏らした」と評価される可能性があり、医師の守秘義務も問題になります。

4-2 患者の同意とは別に、医療広告規制への適合も確認する

なお、守秘義務そのものの問題ではありませんが、症例写真やモニター広告を掲載する場合には、医療広告規制も別に確認する必要があります。そのため、患者本人から症例写真やコメントの掲載について同意を得ていても、その内容をそのままホームページやSNSに掲載できるとは限りません。

ホームページおよびSNSと医療広告ガイドラインの関係については以下のコラムで確認できます。

クリニックのホームページの表現規制とは?医療広告ガイドラインを守りながら集患をはかる法的ポイントを弁護士が解説

病院・クリニックの広告はどこまで出せるか?SNS広告における保険診療・自由診療の違いと実務対応を弁護士が解説

 

第5章 【Q&A】病院の守秘義務に関する疑問

Q1. 患者が死亡した後、遺族に病状や治療内容を伝えてよいですか?

A1. 死亡後も、遺族だから自由に開示できるわけではありません。

死亡した患者の情報は、個人情報保護法上の個人情報には該当しません。ただし、医療機関には死亡後も診療情報を適切に管理することが求められ、遺族への診療情報の提供も一定のルールに従って行う必要があります。遺族であれば当然にすべて開示できるわけではありません。

Q2. 未成年の患者について、親から求められたら診療内容をすべて伝えてよいですか?

A2. 未成年でも、親にすべて伝えてよいとは限りません。

患者に判断能力がない場合は、親権者等に診療情報を説明するのが原則です。一方、診療記録の開示については、満15歳以上では疾病の内容によって本人のみの開示請求を認めることができ、親への開示によって本人の権利利益を害するおそれがある場合には、開示しないことも可能です。

Q3. カルテの内容や患者情報を生成AIに入力してもよいですか?

A3. 利用条件を確認せず患者情報を生成AIへ入力するべきではありません。

生成AIに患者の個人データを入力し、その情報が回答の生成以外の目的で利用される場合には、個人情報保護法上の問題が生じる可能性があります。生成AIを業務利用する場合は、利用目的の範囲内か、入力情報が学習に利用されない設定・契約になっているかなどを事前に確認する必要があります。

Q4. 院内研修や症例検討会で患者情報を使う場合も、本人の同意が必要ですか?

A4. 院内利用なら、個別の同意が不要な場合があります。

院内研修等への利用をあらかじめ利用目的として公表していれば、同じ医療機関の職員だけで行う研修や症例検討会では、改めて本人の同意を得る必要はありません。ただし、外部の医師などが参加する場合は第三者提供となり、原則として本人の同意が必要です。

 

第6章 患者情報の開示・利用は、一度行うと取り消せないことがある

患者の病状を本人の意思に反して第三者へ伝えたり、症例写真を同意の範囲を超えて公開したりすると、患者から情報の削除や損害賠償を求められる可能性があります。
特に、ホームページやSNSに掲載した症例写真は、削除しても第三者による保存や転載まで完全に回収することはできません。

患者情報の取扱いを医師やスタッフの自己判断に任せない

患者情報をどこまで伝えてよいか判断に迷う場面は、院内で繰り返し起こり得ます。家族や勤務先からの問い合わせや症例写真の利用などについて、その都度医師やスタッフが自己判断で回答・対応すると、思わぬトラブルにつながることもあります。
そのため、判断を個人任せにせず、どのような場合に本人確認や同意確認をするのかといったルールを院内であらかじめ定めておくことが重要です。

判断に迷う場合には弁護士へ相談を

ただし、患者情報の取扱いは場面によって判断基準が異なります。院内のルールだけでは判断しにくいケースや、本人の同意がどこまで及んでいるか分からないケースでは、情報を開示・公開する前に法的な確認をしておくことが有効です。

私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士を中心に各士業が連携し、患者情報をどこまで開示できるか、既存の同意書に予定している利用まで含まれているか、症例写真や広告表現に法的な問題がないかといった点を整理できます。判断に迷う場合には、実際に対応する前にご相談ください。

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