クリニックの赤字や資金繰りの悪化が続き、経費削減や集患に取り組んでも改善が見えず、不安になっていませんか。閉院の方向へ考えを進める前に、現在の診療体制や人件費・固定費まで踏み込んで見直すことで、立て直しをはかれる可能性はあります。
一方、診療体制を変更すればスタッフの労働条件に影響し、医療機器やテナントを見直すには契約上の制約もあります。
本記事では、クリニック経営を立て直すために何を確認し、どこまで見直すべきかを、特に税務・労務・法務の観点から解説します。
第1章 クリニックを立て直すには、まず経営状況を数字で確認する
クリニック経営の立て直しを考えるとき、「人件費を減らそう」「診療日を減らそう」と対策から決めるのはおすすめできません。まずは現在の状況を数字で把握することが重要です。
1-1 赤字額だけでなく、毎月いくら現金が減っているかを把握する
クリニックの経営状況を確認するときは、決算書上の利益だけでなく、実際の資金の出入りを見る必要があります。
たとえば、借入金の返済額が大きい場合、決算上は利益が出ていても手元のお金が減っていることがあります。借入金のうち元本の返済は経費として計上されないため、帳簿上で黒字になっていても、実際には資金が減り続けている可能性があります。
また、売上は落ちていなくても、人件費や家賃、医療機器のリース料などのランニングコストとのバランスがとれておらず、資金繰りが厳しくなっているケースもあります。
重要なのは、クリニックの預貯金が毎月どの程度減っており、この状態が続いた場合にいつまで支払いを続けられるのかを把握することです。決算書を見るだけでなく、今後数か月から1年程度の入出金を予測し、どの時点で資金が不足する可能性があるのかを確認します。
1-2 院長個人からの資金投入で経営を維持していないか
資金が不足した場合、院長が自身の預貯金を事業資金に回すことがあります。一時的な資金不足を院長個人の資金で補うこと自体が直ちに問題になるわけではありません。
注意したいのは、それが何か月も続いている場合です。
資金不足を毎月、院長個人の預金から補っているのであれば、それはクリニックの収支だけでは経営を維持できていない状態といえます。
院長個人の資金投入をいつから始めたのか、年間でいくら投入しているか、資金投入をやめても経営を成り立たせるために売上高をどの程度確保し、支出をどこまで見直す必要があるかを把握することが重要です。
第2章 診療内容・診療日などクリニックの運営方法を見直す
現在の収支では経営を維持できない場合、経費を少しずつ削るだけでなく、診療体制そのものを見直す必要があることもあります。
ただし、院長が経営上「この診療を縮小する」「診療日を減らす」と判断できても、それに伴うスタッフ配置や契約まで自由に変更できるとは限りません。診療体制の見直しと、それを実行するための労務・契約上の対応は分けて考えることが重要です。
2-1 採算性の低い診療を今までどおり続けるか見直す
診療内容については、売上だけではなく、その診療を維持するために必要な人員や設備まで含めて採算を確認します。負担の大きい診療を縮小し、強みのある診療へ経営資源を集中させる方法も考えられます。
もちろん、医療では採算性だけを基準に診療内容を決められません。一方で、クリニックの経営そのものが立ち行かなくなれば、患者への診療を続けることもできなくなります。継続的な診療や地域で果たしている役割にも配慮しながら、無理なく維持できる診療体制を検討する必要があります。
2-2 診療日や診療時間を見直す場合はスタッフ体制まで考える
曜日や時間帯によって患者数に差がある場合には、診療日や診療時間を集約することで、人件費などを抑えられる可能性があります。
ただし、診療日を減らせば、その日に勤務していたスタッフの勤務日数や給与にも影響します。「休診日にしたから、その日の人件費も当然になくせる」というわけではありません。
そのため、診療日や診療時間を変更する場合には、経営上の効果だけでなく、スタッフの雇用契約や勤務条件をどのように変更するのかまでセットで考える必要があります。具体的な労務上の対応は第3章で説明します。労働条件の不利益変更は、原則として労働者との合意なく自由に行えるものではありません。
2-3 外来中心の診療体制を変更することも選択肢になる
診療科や地域の患者ニーズによっては、外来診療だけにこだわらず、訪問診療などを組み合わせることも選択肢になります。
ここで重要なのは、診療形態の変更そのものより、それによって必要なスタッフ構成や設備、固定費がどう変わるかまで確認することです。診療形態を変えて売上が増えても、新たな人件費や設備投資によって収支が改善しなければ立て直しにはつながりません。
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第3章 スタッフ体制を見直す場合は労務トラブルに注意する
クリニックでは人件費が大きな負担になっていることも多く、経営の立て直しに伴ってスタッフ体制の見直しが必要になることもあります。
ただし、スタッフの労働条件は雇用契約や就業規則などで定められており、不利益に変更する場合には労働法上の制約があります。
3-1 診療日を減らしてもスタッフの勤務日数を当然には減らせない
たとえば、患者数の少ない曜日を休診日にすれば、その曜日に勤務していたスタッフの勤務日数も減らし、人件費を下げられると考えるかもしれません。しかし、診療日を減らすからといって、スタッフの勤務日数や労働時間を当然に減らせるわけではありません。
まずは雇用契約書や就業規則に基づき、現在の労働条件に応じた対応が必要です。
正社員・パートを問わず、たとえば週5日勤務と定めているスタッフを週4日勤務に変更する場合、原則として本人と話し合い、労働条件の変更について合意を得る必要があります。
もっとも、勤務日数の減少に合わせて給与も減額すればスタッフにとっては収入が減ることになるため、法的に変更できるかだけでなく、「その条件でも働き続けてもらえるか」という視点も重要です。立て直し後も必要なスタッフに退職されてしまえば、予定していた診療体制を維持できなくなるためです。
スタッフ全員の勤務日数や給与を一律に減らすのではなく、立て直し後の人員体制を踏まえて個別に条件を検討する方法もあります。たとえば、残ってほしいスタッフについては、勤務日数を減らす代わりに1日当たりの給与を高くして収入の減少幅を抑える、役職手当や資格手当を維持する、希望する曜日に休めるようにするなど、スタッフ側にもメリットのある条件を検討することが考えられます。
3-2 人員そのものを減らす場合は「何人辞めてもらうか」から決めない
勤務日数などを見直しても必要な人件費まで削減できず、現在のスタッフ数を維持することが難しい場合には、人員そのものを減らすことも検討せざるを得ません。
この場合、最初に「何人減らすか」を決めるのではなく、立て直し後にどのような診療体制で運営するのかを決めます。そのうえで、看護師・受付・医療事務など、それぞれ何人必要なのかを整理し、必要な人員体制から逆算して削減人数を検討します。
退職してもらう必要がある場合は退職条件も含めて話し合う
必要な人員体制を整理した結果、現在の人数を維持できない場合には、スタッフへ退職勧奨を行い、合意退職を目指す方法があります。
希望退職を広く募る方法もありますが、立て直し後も残ってほしいスタッフが応募してしまう可能性があります。そのため、必要な職種や人員を維持しながら人数を減らす場合には、対象となるスタッフと個別に退職について話し合うことも検討されます。
ただし、退職勧奨はあくまで退職を提案するものであり、スタッフには応じずに勤務を続ける選択肢があります。拒否された後も執拗に退職を迫るなど、本人の自由な意思決定を妨げる方法は違法と判断されることがあるため注意が必要です。
退職勧奨を円満に進めるには、退職時期に余裕を設ける、一定の金銭を支給するなど、スタッフが転職や今後の生活もふまえて退職を検討できる条件を提示することがポイントです。
解雇まで必要な場合は実行する前に専門家へ相談する
退職勧奨で合意できず、それでも人員削減が必要な場合には、解雇を検討することになります。
ただし、解雇には法律上の厳しい制約があり、雇用契約の内容や解雇理由によって判断も変わります。進め方を誤ると、不当解雇として争われるだけでなく、解雇をきっかけに未払い残業代など別の労務問題まで発展するおそれもあります。
解雇を検討する場合は、自己判断で進めず、実行する前に社労士や弁護士へ相談し、対象者の選定、説明の方法、進める順序まで含めてサポートを受けることをおすすめします。
第4章 医療機器やテナントなど固定費に関する契約を見直す
固定費を見直すときに注意したいのは、経営上「不要」と判断したからといって、契約上すぐに支払いを止められるとは限らないことです。
医療機器のローン・リースやテナントの賃貸借などは、解約条件や残債によって、見直しの効果が大きく変わります。削減できる月額だけではなく、「やめるためにいくら必要か」まで確認する必要があります。
4-1 医療機器を手放す場合は残債と契約内容まで確認する
利用頻度が低い医療機器については、手放すことで固定費を減らせる可能性があります。
ただし、リース契約は契約期間中に自由に解約できるとは限らず、契約内容によっては残りのリース料等を負担しなければならない場合があります。ローンで購入している場合にも、売却できるのか、売却代金で残債をどこまで返済できるのかを確認する必要があります。
したがって、月額だけで判断するのではなく、使い続けた場合と手放した場合について、契約終了まで含めた負担を比較して判断します。
電子カルテや予約システム、保守契約、各種外注についても同様に、不要な契約がないかを確認し、解約時期や違約金などを踏まえて見直します。
4-2 家賃負担が重い場合は移転費用をどう確保するかまで考える
家賃が経営を圧迫している場合には、規模を縮小したり、賃料の低い物件へ移転したりする方法も考えられます。
ただし、移転した方が将来的な固定費を下げられると分かっていても、現在の物件の原状回復費、新しい物件の保証金や内装工事費、医療機器の移設費などを支払う手元資金が問題になります。
その場合には、必要な移転資金と支払時期を整理し、自己資金で不足する部分について金融機関から追加融資を受けられるかを検討します。ただし、経営状況がすでに悪化している場合には、当然に追加融資を受けられるわけではありません。
また、新たな借入れによって移転できたとしても、その後は新しい借入金の返済が始まります。そのため、移転後の家賃削減効果だけでなく、新規借入の返済まで含めても資金が回るのかを事前に試算することが重要です。
固定費の見直しでは、税理士と削減効果や必要資金を試算しながら、リース契約や賃貸借契約については弁護士にも確認してもらうと、「経営上やめたい契約」と「実際にやめられる契約」を整理しやすくなります。
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第5章 借入返済まで含めてクリニックを立て直せるかを判断する
診療体制やスタッフ体制、固定費を見直したら、その内容を反映した収支計画を作り、既存の借入金を返済しながら経営を続けられるかを確認します。
ここまで見直しても資金が減り続けるのであれば、経費削減だけで解決する段階ではありません。金融機関に返済条件の変更を求めるのか、それでも難しければ立て直し以外の方向を考えるのかを判断する必要があります。
5-1 返済条件を変更してもらうには経営改善計画が重要になる
現在の返済額では経営を維持できない場合には、金融機関へ返済期間の延長や元本返済の猶予など、返済条件の変更、いわゆるリスケジュールを相談する方法があります。
その場合、なぜ経営が悪化したのかを整理し、診療体制・人件費・固定費をどのように見直すのか、その結果どこまで収支が改善し、将来的に通常の返済へ戻せるのかを経営改善計画や資金繰り計画に落とし込み、金融機関へ説明する必要があります。
なお、返済条件の変更は借金そのものが減るわけではなく、あくまで一定期間の資金繰りに余裕をつくり、その間に経営改善を進めるための対応です。
そのため、資金が尽きる直前に相談するのではなく、改善計画を作り、それを実行する時間を残せる段階で税理士などへ相談し、金融機関との協議を始めることが大切です。
5-2 返済条件を変更した後は追加融資に頼らず立て直せるか確認する
返済条件を変更する場合には、その後の資金調達も考えておかなければなりません。
条件変更中だからといって新規融資が一律に受けられなくなるわけではありませんが、金融機関は現在の借入状況や条件変更の有無なども踏まえて融資を判断するため、新たな資金調達が難しくなる可能性があります。
そのため、「資金が足りなくなったらまた借りればよい」という前提で立て直しを考えるのは危険です。返済負担が軽くなっている間に、診療体制や人件費、固定費などを見直し、追加融資に頼らなくても資金が回る状態へ戻すことを目指す必要があります。
経営改善計画を実行しても継続的な資金不足を解消できず、追加の借入がなければ経営を維持できないと見込まれる場合には、立て直しを続けるべきかも含めて早めに専門家へ相談することが重要です。
まとめ|クリニックの立て直しに迷ったら早めに専門家へ相談を
クリニックの経営が厳しくなっていても、「まだ診療は続けられているから」「閉院を決めたわけではないから」と、専門家への相談を先延ばしにしてしまうことがあります。
しかし、クリニックの立て直しでは、院長自身が判断できる診療内容だけでなく、スタッフの労働条件をどこまで変更できるのか、医療機器やテナントの契約をどう整理するのか、金融機関へどのような改善計画を示すのかといった、労務・法務・財務上の問題を並行して整理する必要があります。
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループでは、弁護士、税理士、社労士などが連携し、クリニックの経営状況を数字で確認するだけでなく、スタッフ体制や契約関係、金融機関への対応まで含めて立て直しの方法を検討できます。
「このまま続けて大丈夫なのか」と感じ始めた段階でも構いません。今後の経営について判断に迷っている場合は、まずはお気軽にご相談ください。