外来クリニックが訪問診療を始める際、保健所や地方厚生局への手続は、予定する診療内容や時間外対応の範囲によって異なります。
本記事では、訪問診療を始める際に必要な手続・届出や、在宅療養支援診療所になる場合の体制について弁護士が解説します。
第1章 訪問診療を始めるには開始届が必要?
1-1 訪問診療の開始届は原則不要
訪問診療を始めること自体について、地方厚生局へ提出する専用の開始届は原則としてありません。
訪問診療の開始に当たっては、在宅療養支援診療所になるかどうかで、必要な届出が異なります。在宅療養支援診療所とは、24時間の連絡・往診体制、訪問看護を提供できる体制、緊急入院を受け入れる医療機関との連携体制などを整え、地方厚生局へ施設基準を届け出た診療所です。
たとえば、既存の外来患者が通院できなくなり、医師が患者宅へ出向いて診療する場合は、在宅療養支援診療所の届出をせずに訪問診療を始めることもできます。
1-2 在宅療養支援診療所にならず、外来と並行して始める方法
外来クリニックが訪問診療を新たに始める場合、まずは通院が難しくなった既存患者を対象に、訪問する曜日や患者数を限定して始める方法があります。たとえば、毎週決まった日の午後を訪問枠とし、当初は数名の患者に対応する形です。
訪問枠以外の曜日や時間帯はこれまでどおり外来診療を続けられるため、既存患者への診療を維持しながら訪問診療を追加できます。
経営面でも、外来診療による収益を維持しながら、訪問診療の需要や収益性を確認できる点はメリットです。実際の移動時間、診療後の事務作業、スタッフの負担などを見ながら、受け入れる患者数を増やしていくことができます。
ただし、算定する診療報酬や既存の診療体制の変更内容によっては、別途届出が必要です。詳しくは第2章で解説します。
1-3 在宅療養支援診療所になる場合は地方厚生局へ届け出る
訪問診療を今後の診療の柱とし、夜間・休日の相談や緊急往診、終末期の患者、在宅看取りまで対応する場合は、在宅療養支援診療所として運営する方法があります。
この場合は、24時間対応や訪問看護、緊急入院先との連携に必要な体制を整えたうえで、地方厚生局へ施設基準を届け出ます。
すべてを自院だけで対応する必要はなく、他の医療機関や訪問看護ステーションと連携して体制を整えることも可能です。具体的な体制と届出については、第3章で解説します。
第2章 訪問診療を始める前に確認する手続・届出
訪問診療を始める際に確認する行政手続は、主に保健所への変更届と、地方厚生局への施設基準の届出です。
保健所はクリニックの開設事項に関する手続、地方厚生局は保険診療や診療報酬の施設基準に関する手続を扱います。
2-1 診療科目や医師などを変更する場合は保健所で手続を行う
訪問診療を始めること自体について、保健所への専用の届出はありません。
ただし、訪問診療の開始に伴い、診療科目、管理者、勤務する医師など、開設時に申請・届出をした事項を変更する場合は、在宅療養支援診療所にならない場合でも、保健所への変更届や変更許可申請が必要です。
開設者や変更内容によって手続が異なるため、まずは現在の開設許可・開設届の内容を確認し、必要な手続を整理しましょう。
2-2 在宅時医学総合管理料などを算定する場合は厚生局へ届け出る
診療報酬として「在宅時医学総合管理料」や「施設入居時等医学総合管理料」を算定する場合は、在宅療養支援診療所にならないクリニックも地方厚生局へ施設基準を届け出ます。
つまり、訪問診療を始めるための届出は不要でも、診療報酬を請求するために別の届出が必要となる場合があります。
訪問診療の開始日を決める前に、どの診療報酬を算定する予定なのかを整理し、施設基準の届出が必要かを確認することが大切です。
2-3 施設基準の届出は算定開始日から逆算して提出する
施設基準を届け出た場合、原則として、各月の末日までに受理された届出は翌月1日から算定できます。
ただし、月の最初の開庁日に受理された場合は、その月の1日から算定できます。たとえば、1日が土日祝日で最初の開庁日が3日の場合は、3日に受理されれば1日から算定できる取扱いです。
受理日は、届出書を郵送した日ではなく、地方厚生局が受け付けた日です。書類に不足や記載誤りがあると予定どおり算定できない可能性があるため、開始日から逆算して余裕を持って提出しましょう。
第3章 在宅療養支援診療所になるための体制と届出
3-1 24時間対応などの必要な体制を整える
在宅療養支援診療所になるには、24時間連絡を受けられる体制、24時間の往診体制、訪問看護を提供できる体制、緊急入院に対応できる体制などを整えます。
これらをすべて自院だけで用意する必要はありません。他の医療機関や訪問看護ステーションと連携して体制を確保することも可能です。
ただし、連携先を決めるだけでは足りません。夜間や休日に誰が連絡を受け、誰が往診し、入院が必要な場合はどの医療機関へつなぐのかまで、実際に対応できる形にしておく必要があります。
3-2 在宅療養支援診療所の施設基準を地方厚生局へ届け出る
必要な体制を整えた後、所在地を管轄する地方厚生局へ在宅療養支援診療所の施設基準を届け出ます。
在宅療養支援診療所には、自院で体制を整える場合や、複数の医療機関が連携する場合など、診療体制に応じた複数の届出区分があります。
自院がどの区分に該当するかを確認し、施設基準の届出書に、区分ごとに指定された様式や添付書類を付けて提出します。
3-3 届出内容が変わった場合は変更・辞退手続を確認する
担当医師の退職や連携医療機関の変更などにより、地方厚生局へ届け出た内容が変わった場合は、変更手続の要否を確認します。
医師の退職や連携の終了によって24時間体制などの施設基準を満たせなくなった場合は、在宅療養支援診療所としての施設基準に基づく診療報酬を、そのまま算定し続けることはできません。
別の届出区分へ変更するか、施設基準の辞退届を提出するなど、現在の体制に合った手続が必要です。
3-4 年1回、看取り件数などの診療実績を報告する
在宅療養支援診療所は、届出後も、看取り件数などの診療実績を年1回、地方厚生局へ報告する義務があります。在宅療養支援診療所の届出をしているすべての医療機関が報告の対象です。
開始時から実績を集計していないと、報告時に診療録やレセプトを一件ずつ確認することになり、事務負担が大きくなります。
患者数が少ない段階から、往診件数や看取り件数などを記録する方法を決めておきましょう。
第4章 【FAQ】外来クリニックが訪問診療を始める際のよくある疑問
Q1. 院長一人でも訪問診療を始められますか?
A1. 医師一人でも始められ、看護師の同行は必須ではありません。
院長一人のクリニックでも、既存の外来患者を中心に、訪問する曜日や患者数を限定して訪問診療を始めることは可能です。訪問診療に看護師が必ず同行しなければならないわけではありません。
ただし、採血や処置が必要な患者、医療機器を使用している患者などでは、看護師が同行した方が安全かつ効率的な場合があります。受け入れる患者の状態や診療内容に応じて体制を検討することが考えられます。
Q2. 患者や家族が希望すれば、誰でも訪問診療の対象にできますか?
A2. 保険診療では、通院が困難な患者が対象です。
患者や家族が自宅での診療を希望しているという理由だけで、訪問診療の対象にできるわけではありません。
保険診療として訪問診療を行う場合は、病状や身体機能、認知機能、通院に必要な介助などを踏まえ、通院による療養が困難かを医師が判断します。通常どおり通院できる患者に対し、利便性だけを理由として訪問診療を行っても、在宅患者訪問診療料は算定できません。
判断の根拠を後から確認できるよう、通院が困難と判断した理由は診療録にも記載しておくことが大切です。
Q3. 訪問診療は、クリニックからどのくらい離れた患者まで対応できますか?
A3. 保険診療では、原則として半径16km以内です。
訪問診療の範囲は、診療報酬上、原則としてクリニックを中心とする半径16km以内です。
半径16kmを超える場合でも、その地域に必要な診療を行える医療機関がないなど、遠方のクリニックが訪問しなければならない特別な事情があれば、診療報酬を算定できることがあります。一方、患者の希望だけで16kmを超えて訪問する場合は、原則として在宅患者訪問診療料を算定できません。
Q4. 訪問診療の患者には、どのように薬を渡しますか?
A4. 外来と同様に処方し、必要に応じて薬局が訪問します。
院外処方の場合は、外来診療と同様に医師が処方箋を発行し、保険薬局が調剤します。患者本人や家族が薬局で薬を受け取れる場合は、通常の外来患者と同じ流れです。
患者や家族が薬局へ行くことが難しい場合は、在宅医療に対応している薬局と連携し、医師の指示に基づいて薬剤師に患者宅を訪問してもらう方法があります。薬剤師は薬を届けるだけでなく、服薬方法の説明、残薬の確認、薬の保管・管理などを行い、必要な情報を医師へ共有します。
訪問診療を始める前に、在宅対応が可能な薬局を確認し、処方箋の受渡し方法や薬を届ける時期、夜間・休日に薬が必要になった場合の対応を決めておくとスムーズです。
Q5. 高齢者施設へ訪問診療を行う場合、施設との契約は必要ですか?
A5. 一律の契約義務はありませんが、書面での整理が安心です。
高齢者施設の入居者を個別に診療するだけであれば、施設との契約が常に法律上必要となるわけではありません。
ただし、施設から継続的に患者の紹介を受ける場合や、複数の入居者を定期的に診療する場合は、施設との役割分担を書面で整理した方が安全です。緊急時の連絡方法、施設職員に依頼する業務、患者情報の共有方法、薬や医療材料の管理などを明確にしておきましょう。
なお、患者紹介の対価として施設側に金品その他の経済上の利益を提供することは禁止されているため、委託料や施設利用料などを定める場合も、患者紹介料に当たらない内容とする必要があります。
また、高齢者施設は種類によって医療提供の仕組みが異なります。特別養護老人ホームや介護老人保健施設などでは、配置医師との関係や診療報酬の算定に制限があるため、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅と同じ扱いにはできません。
施設から依頼を受けた場合は、施設の種類と配置医師の有無を先に確認する必要があります。
第5章 訪問診療の手続を専門家に外注するメリットと弊所グループの支援範囲
行政機関のウェブサイトには施設基準や届出様式が掲載されていますが、複数の資料から自院に必要な手続を選び、開始日から逆算して準備するには時間がかかります。届出に不備があると予定していた時期から診療報酬を算定できない可能性もあるため、院内での対応が難しい場合は専門家へ依頼する方法もあります。
内容に応じて行政書士、弁護士、社会保険労務士、税理士を使い分けるとよいでしょう。
行政書士
保健所への変更届や、地方厚生局への施設基準の届出書類の作成・提出支援
弁護士
連携する医療機関、訪問看護ステーション、高齢者施設との契約書や役割分担の確認
社会保険労務士
訪問診療を担当するスタッフの勤務時間、オンコール、緊急往診時の手当などの労務体制の整備
税理士
訪問診療を始める際の収支計画や、開始後の採算管理
私たちNexill&Partners(ネクシル&パートナーズ)グループは、弁護士法人を中心に、行政書士法人、社会保険労務士法人、税理士法人、司法書士法人の5士業が連携したワンストップ体制を整えています。訪問診療の開始に必要な届出だけでなく、連携先との契約や院内の勤務体制、収支管理など、複数の士業にまたがる課題にも一つの窓口で対応できます。
訪問診療を始めたいものの、自院に必要な届出や準備の進め方が分からない場合はお気軽にご相談ください。
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