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運送業で業務委託を導入する際の労務ガイド|経営者が知っておくべき「労働者性」のリスクと回避策を弁護士が徹底解説

2026.01.22

運送業界において、深刻なドライバー不足や2024年問題への対応として、直接雇用ではなく個人事業主への業務委託を検討する経営者が増えています。コスト削減や柔軟な人員確保といったメリットが期待される一方で、実務上の運用を誤ると偽装請負とみなされ、多額の未払い残業代請求や法的ペナルティを受けるリスクもはらんでいます。本記事では、運送業の業務委託を検討し始めた経営者が、将来的な紛争を避けるために押さえておきたい法務・労務のポイントを、弁護士の視点からわかりやすく解説します。

もくじ

第1章 運送業における「業務委託」と「直接雇用」の違い

運送業で業務委託を導入する際、まず理解しておきたいのが、法律上の契約の性質がどのように異なるかという点です。

1-1.業務委託は「対等なビジネスパートナー」

直接雇用の場合、ドライバーは貴社の「労働者」であり、経営者や運行管理者は業務の細部について指揮命令を行う権利を持ちます。これに対し、業務委託は「対等な事業者間の取引」です。
法的な視点で言えば、業務委託契約におけるドライバーは独立した「経営者」であり、貴社は仕事の結果(荷物を届けること)を依頼する側という関係になります。したがって、業務の進め方や時間管理について雇用時と同じような感覚で指示を出すことは、業務委託としての実態を否定される(=雇用とみなされる)要因となるおそれがあります。

1-2. 労務管理・社会保険コストの比較と導入のメリット

経営上の関心事はコスト面ではないでしょうか。
直接雇用では、社会保険料の会社負担、労働保険(労災・雇用保険)の加入、有給休暇の付与などが義務付けられます。一方、業務委託であれば、これらのコストや事務手続きを削減することができます。ただし、注意が必要なのはこれらは「適正な業務委託として認められる場合に限られる」という点です。形式だけを委託にしても実態が雇用であれば、後からこうした保険料の未払いをさかのぼって請求される可能性があります。

1-3. 検討段階で陥りやすい、「雇用のような委託」という誤解

「制服を着てもらい、会社のルールをすべて守らせたいが、社会保険料は払いたくないので業務委託にしたい」という相談を受けることもありますが、こうした状態は法的に危険な状態といえます。先にも触れた通り、日本の法律では契約の名称が「業務委託」であっても、実態として「会社の指揮命令下で働いている」と判断されれば、そのドライバーは法律上の労働者であり、貴社が雇用している社員と同じであるとみなされる可能性があるからです(実態判断の原則)。
業務委託を検討するなら、「自立したプロのドライバーに、特定の運送業務を代行してもらう」という意識の切り替えが必要です。指示を聞く部下を増やす感覚で業務委託をしてしまうと、この後で解説する「労働者性」でも深刻な法的紛争に発展するリスクが高まります。

第2章 検討時に注意すべき「労働者性」と偽装請負のリスク

業務委託の導入で注意すべきなのが「労働者性」の判断です。これは働き方の実態から、法的に雇用(社員)とみなされることを指します。この労働者性が認められるにもかかわらず、形式だけ業務委託を装う状態が「偽装請負」です。業務委託でありながら、実態として会社の指揮命令下で働かせる運用は労働者派遣法違反や法律が禁じる中間搾取と判断されるおそれがあり、企業にとって法的リスクを伴います。

2-1. なぜ運送業の業務委託は「偽装請負」と疑われやすいのか

運送業務は、積込・配送・納品の時間が荷主の都合に左右されやすく、必然的に時間や場所の拘束が強くなりがちです。また、安全管理のために会社側が細かく指示を出さざるを得ない側面もあります。この業務の特性が、法的には「会社の指揮命令下にある」と評価されやすく、結果として形だけの業務委託であり、雇用関係にある(偽装請負)とみなされるケースが多いのです。

2-2. 労働基準監督署や年金事務所の調査が入るきっかけ

行政による調査は、多くの場合、委託解消を告げられたドライバーによる労働基準監督署への駆け込みや、事故が発生した際の労災申請などをきっかけに始まります。調査が入ると、契約書だけでなく、日々の業務連絡のやり取りや日報、報酬の計算根拠などが精査されます。「毎日決まった時間に出勤を強いていないか」「仕事の拒否権を与えているか」といった実態が厳しく調べられます。

2-3. 「実態は雇用である」と判断された場合の経営的損失

行政に、業務委託関係ではなく労働者だと認定されると、過去に遡って残業代の支払いを命じられるだけでなく、未加入だった社会保険料の会社負担分を一括で徴収される可能性もあります。
さらに深刻なのが、契約を終了した際のトラブルです。すでに契約関係が終わっていた場合でも、その終了に納得しない委託ドライバーから、実態は労働性があったと主張され、「契約終了は不当解雇にあたる」と訴えられた場合、それが認められれば多額の解決金やバックペイ(解雇期間中の賃金)の支払いを命じられるほか、行政処分を受けるリスクも伴います。これらは中小企業にとって、経営破綻を招きかねないほどの甚大な影響を及ぼす可能性があります。

2-4. 2024年問題以降、行政の監視の目が厳しくなっている背景

物流の2024年問題によりドライバーの労働時間規制が強化されたことで、規制を逃れるための安易な個人事業主化を懸念する声が強まっています。行政も、こうした脱法的な運用を防ぐために監視を強めており、業務委託の導入にあたってはこれまで以上に慎重な準備と運用が求められています。

第3章 導入可否を判断する「労働者性」否認の具体的チェックポイント

ここでは、ドライバーが「労働者」にあたるかどうかを判断する際の主要な基準を解説します。業務委託導入を検討する際、自社の構想がこれらに合致しているかを確認してみましょう。

3-1. 【仕事の拒否権】個別の配送依頼を拒める自由があるか

雇用であれば、業務命令に従わないことは懲戒の対象になり得ます。しかし、業務委託では「今回の配送依頼は受けられない」という拒否権がドライバー側に認められていなければなりません。実際には断られると困る場面が多いとしても、制度として拒否する余地があるかどうかが重要です。

3-2. 【指揮監督】配送ルートや手順を細かく指示していないか

「どの道を通るか」「どの順番で回るか」まで会社が指示し、それを逸脱することを禁じている場合、指揮命令を受けていると判断される可能性が高まります。
あくまで「指定された時間までに、指定された場所へ届ける」という成果を重視し、過程はドライバーの裁量に任せる必要があります。

3-3. 【拘束性】勤務時間や休憩時間を会社が指定していないか

朝礼への強制参加や、特定の時間帯の待機を義務付けることは「時間的な拘束」にあたります。労働者性が否定されるためには、ドライバーが自身のスケジュールをある程度コントロールできる状態にあることが望ましいといえます。

3-4. 【代替性】本人以外が運転しても良いというルールがあるか

「この人でなければダメだ」という属人的な契約は雇用に近いと判断される傾向があります。反対に、ドライバーが体調不良などの際、自分で代わりのドライバーを手配して業務を遂行させることが認められている(代替性がある)場合、事業性が高いと判断され、労働者性が否定されやすくなります。

3-5. 【報酬の性格】時給・日給計算ではなく1件当たりの成果報酬か

報酬が「拘束された時間」に対して支払われている(時給・日給)場合、それは賃金(給与)とみなされやすくなります。配送1件あたりの単価設定や、運賃の何%といった「成果に対する対価」として設定することが、業務委託としての実態を強めます。

3-6. 【経費負担】車両持ち込みやガソリン代の負担はどうなっているか

車両が会社支給で、ガソリン代もすべて会社負担という場合、ドライバーは「自分の道具で稼ぐ事業者」としての実態が薄いと判断されやすくなります。車両を持ち込んでもらう、あるいはリース料を徴収し、ガソリン代や消耗品費もドライバー側が負担する仕組みにすることで、事業者としての独立性を明確にできます。

第4章 検討段階で知っておきたい業務委託契約の基本骨子

いざ導入を決めた際、トラブルを未然に防ぐための契約書の考え方を弁護士の視点でまとめます。ただし、ここで紹介するのはあくまで知っておきたい基本的な骨子に過ぎません。実際の運送現場では、荷主との契約条件や扱う荷物の種類、ドライバーの稼働実態によって、カバーすべきリスクは千差万別です。雛形をそのまま流用するだけでは不十分なケースが多いため、実際に契約書を締結・運用する際は弁護士などの専門家に相談し、自社の実態に即したリーガルチェックを受けることをおすすめします。

4-1. 契約書に必ず盛り込むべき「独立した事業者」であることを示す条項

契約書には「業務委託」と書くだけでは不十分です。「乙(ドライバー)は独立した事業者として本業務を遂行し、甲(貴社)の指揮命令を受けないものとする」といった、関係性を定義する条文を設けることが、法務的な防衛ラインの第一歩といえます。

4-2. 事故が起きた際の損害賠償責任の所在を明確にする重要性

業務委託の場合、契約上の責任は原則としてドライバー個人が負いますが、対外的な法的責任(事故の被害者等への賠償)については、貴社も共同で責任を負うケースが多いのが実情です。そのため、契約書で損害賠償の求償権について明記し、かつドライバーに対して任意保険への加入を義務付けるなどの規定が必要といえます。

4-3. 委託料の支払い条件と、ドライバー側から見た採算性の考慮

委託料の設定が低すぎると、ドライバーの手残りが少なくなり経済的な困窮が強い不満につながりかねません。契約終了時などに「実態は労働者だった」として、過去の残業代や社会保険加入を主張されるリスクも考えられます。
適正な相場に基づいて双方納得のいく支払い条件を定めることは、単なる良好な関係維持だけでなく、法的紛争を未然に防ぐための重要なリスクマネジメントといえます。

4-4. 契約の解消(解約)について、労働法に縛られないための書き方

雇用の場合、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要で、非常にハードルが高いものとなります。一方、業務委託契約の場合は、一定の通知期間をおけば解除できるとするのが一般的ですが、即時解除の条件などを明確にしておくことで、問題のあるドライバーとの関係を円滑に解消できる体制を整えることができます。

第5章 運送現場で起こりがちなトラブル

業務委託制度の導入後にはどのようなトラブルが想定されるのでしょうか。一般的に運送現場で起こりがちなトラブルと対策を紹介します。

5-1. 未払い残業代や労働者としての権利を主張されるケース

よくあるのが、契約解消時などに「自分は業務委託とは名ばかりで、事実上、労働者だったのだから過去の残業代を払え」と訴えられるケースです。これに対抗するためには、前述の「労働者性」チェックポイントを意識した日々の運用が、契約書以上に重要になります。

5-2. 事故発生時の労災保険不適用と、企業が負う安全配慮義務の範囲

業務委託のドライバーは原則として労災保険の対象外です(特別加入制度はあります)。
しかし、会社側が無理な配車を強いていた場合などに事故が起きると、実質的な指揮監督関係があると評価され安全配慮義務違反を問われる可能性があるほか、指揮監督の有無に関わらず運行供用者責任に基づき損害賠償を請求されるリスクがあります。安全への十分な配慮は、雇用・委託に関わらず不可欠なのです。

5-3. 荷主との契約条件が、委託ドライバーへの無理な指示に繋がるケース

荷主から時間指定や付帯作業の強制などの制約を受けている場合、それをそのまま委託ドライバーにさせてしまうと、結果として強い指揮監督とみなされる可能性があります。荷主との交渉段階から、業務委託を活用することを念頭に置いたうえでの条件整理が必要といえます。

第6章 運送業の業務委託検討時に整理しておくべき周辺知識

導入の検討を具体化するには、運送業界特有の法規制や税制についても把握しておく必要があります。これらを軽視すると、知らないうちに法令違反を犯したり、思わぬコスト増を招いたりする恐れがあります。ここでは、経営者が導入前に知っておきたい重要な3つの形式的ルールについて解説します。

6-1. 一般貨物自動車運送事業の許可との整合性

自社の「緑ナンバー」車両を外部の委託ドライバーに貸し出す運用は、慎重に行う必要があります。運送業の許可は、本来、自社の管理下にある車両と従業員で事業を行うことが前提です。実態が独立した事業者である委託ドライバーに自社ナンバーの車両を貸し、自由に営業させることは、法的に名義貸しや無許可営業の助長とみなされるおそれがあります。これに抵触すると、最終的には事業停止や許可取消しといった、会社にとって致命的な行政処分を受ける可能性もあります。

6-2. 軽貨物ドライバーへの委託時に確認すべき届出

個人事業主のドライバーに業務委託を検討する際、まずは相手が貨物軽自動車運送事業の届出を適切に行っているかを確認しておく必要があります。軽貨物は参入障壁が低いため、届出を失念しているケースが散見されますが、未届けの相手への発注はこちら側もコンプライアンス違反を問われます。
手続きさえ済めば事業者として扱えるわけではなく、現場での指示が細かすぎると「名ばかり事業主(実質的な労働者)」とみなされ、前述の偽装請負リスクが生じます。導入しやすい形態だからこそ、形式と実態の両面を整えることが重要なのです。

6-3. インボイス制度が委託ドライバーの確保に与える影響と対策

インボイス制度の導入により、免税事業者であるドライバーに業務を委託すると、貴社側で消費税の仕入税額控除が受けられず、実質的なコスト増となる恐れがあります。ドライバーにインボイス登録(課税事業者への転換)を促すのか、あるいは税負担分を考慮した報酬単価の設定にするのか、事前の協議が必要となります。強引な値下げ交渉は下請法などの法令に抵触するリスクもあるため、コスト試算と併せて、慎重なコミュニケーションプランを立てておくことが望ましいでしょう。

第7章 運送業の業務委託トラブルを防ぎ、安定した経営を続けるために

本記事では、運送業における業務委託導入のポイントを解説しました。重要なポイントを振り返ります。

  • 業務委託と雇用は「指揮命令権の有無」が根本的に異なる
  • 「労働者性」があると判断されると残業代請求やペナルティが発生する
  • 実態として仕事の拒否権や裁量を確保する運用が必要
  • 契約書だけでなく、日々のオペレーション全体で事業者としての独立性を守る必要がある

業務委託は、正しく活用すれば、自社で車両や人員を抱えるリスクを抑えつつ、物量の変動に合わせて配送網を柔軟に構築できるため、経営の機動力を高め、健全な事業拡大を支える有効な選択肢となり得ます。しかし、その正しさを法的に担保するには、契約書の作成だけでなく、現場のオペレーション構築まで踏み込んだ専門的な判断が不可欠といえます。
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