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退職代行の法的効力とは?会社が取るべき実務対応と注意点を弁護士が解説

2026.01.07

ある日突然、見知らぬ業者から「〇〇さんは本日で退職します。連絡はすべて当方へ」と告げられたら、多くの人事担当者は困惑し、憤りを感じるかもしれません。しかし、感情に任せた拒絶や強引な接触は、かえって企業側の法的リスクを増大させるおそれがあります。本記事では、退職代行が持つ法的効力を解説し、実務担当者が取るべき冷静かつ戦略的な対応を弁護士の視点で整理します。

もくじ

第1章 退職代行サービスが急増している背景と企業の現状

1-1 退職代行サービスの基本的な仕組み

退職代行サービスとは、従業員本人に代わって、退職の意思を会社側に伝えるサービスです。基本的な仕組みはシンプルで、従業員が業者などに費用を支払い、その依頼によって、本人に代わって電話やメールなどを使って会社に退職の意思を伝えるものです。

1-2 なぜ退職代行を使う従業員が増えているのか

なぜ費用を払ってまで退職の意向を第三者に代行してもらうのか、と不思議に思うかもしれません。しかし、若い世代を中心に、現代の労働者には対面で退職を伝えることへの極度の心理的ハードルが存在するようです。
ある調査によると、退職代行を利用した理由で最も多かったのは「退職を引き止められた、引き止められそうだった」。次いで「言い出せる環境ではなかった」「伝えた後でトラブルになりそうだった」。こうした不安が、お金を支払ってでも第三者に任せたいというニーズを生んでいるようです。

1-3 企業側が感じやすい違和感・よくある誤解

退職代行の連絡を受けた担当者は、「本人と直接話さなくていいのか?」「代行業者からの連絡なんて無視してもいいのではないか?」と違和感を抱くかもしれません。しかし、法律上は、退職の意思表示は必ずしも本人が直接行う必要はなく、使者または代理人を介した通知であっても、本人の真意に基づいたものである限り、原則として、会社はそれを退職の申し出として受け取らなければなりません。そのため、「本人からの直接の申し出以外は認めない」とただ突っぱねてしまうと、後に不当な引き止めやパワハラとして訴えられる危険性があるのです。

第2章 退職代行による退職の意思表示は法的に有効なのか

2-1 民法第627条による退職の自由と予告期間の法的ルール

退職代行の法的効力を理解する上で、最も重要な根拠となるのが民法第627条第1項です。そこには、期間の定めのない雇用(正社員など)であれば、労働者はいつでも、どのような理由であっても、会社側の承諾なしに一方的に退職する権利を持っていると定められています。
そして、退職の意思表示が会社に到達してから最短「2週間」が経過すれば、法律上当然に労働契約は終了します。
(※期間の定めがある雇用契約や、やむを得ない事由がある場合は別の整理が必要です)

2-2 即日退職は法的に認められるのか?

退職代行業者は、謳い文句としてよく「即日退職」を掲げています。これは退職届の提出と同時に有給休暇を2週間分消化する、有給休暇では足りない場合は欠勤扱いとすることで、結果として「今日(退職代行を介して会社に退職を告げた日)から出社しないこと」を指しているケースがほとんどです。
つまり、実務上では、連絡したその日から出社せず、退職手続きが進行する場面がよくあるのです。

民法と就業規則の規定との優先順位

多くの会社の就業規則には「退職の際は1カ月前までに申し出ること」といった退職の意思表示に関する規定があります。しかし、民法の規定と会社の就業規則が抵触した場合、原則として民法が優先されます。
もちろん、円満な引き継ぎのために1カ月前の申し出を定めること自体は有効ですが、それを根拠に「1カ月経つまでは退職を認めない」「就業規則違反だから退職金は払わない」といった手段を取ることは、法的に極めて不利な立場に立たされることになります。
就業規則はあくまで社内のルールであり、憲法や民法が保障する職業選択の自由・退職の自由を上回ることはできないのです。

退職代行による通知は「本人による意思表示」とみなせるか

「本当に本人が辞めたいと言っているのか?」という疑念は、企業として当然の確認事項です。法的には、本人が直接口頭で伝えなくても、代理人や使者を介して退職の意思が明確に伝わった場合、有効な申し出として扱われます。
たとえば、代行業者から送られてくる書類に本人の署名捺印がある、あるいは本人確認ができる身分証の写しなどが添えられている場合などは、本人の明確な意思と判断されるケースが多いといえます。

第3章 退職代行の3つのタイプと権限の違い

退職代行と一口に言っても、その運営主体によって行うことができる範囲は異なります。相手がどのタイプかを見極めることは、初期対応を誤らないための重要ポイントの一つです。ここでは主な3つのタイプを解説します。

3-1 民間業者型の退職代行の法的権限は「伝達」のみ

割合として最も多いのが、民間企業が運営するタイプです。このタイプの権限は、あくまで本人のメッセージを会社に伝える「使者」としての役割に限定されます。
会社側が提示する離職票の送り先や備品の返却方法などの事務的な伝達は行えますが、退職日の調整、有給休暇の買い取り交渉、未払い賃金の交渉などは一切できません。
もし民間業者がこれらの交渉を行った場合、後述する非弁行為(弁護士ではない者が報酬を得る目的で交渉などを行う行為)に該当する可能性があります。

【注意】民間業者による非弁行為(弁護士法違反)のリスクと見極め方

弁護士法第72条では、弁護士資格を持たない者が報酬を得て交渉などの法律業務を行うことを禁止しており、これを非弁行為と呼びます。退職したい依頼者から「有給休暇をすべて消化できるよう交渉してほしい」「退職金の額を上乗せしてほしい」などの要望を受けても、民間業者がそれらを会社と掛け合うのは明確な法律違反です。
そのため、民間の退職代行サービスが、退職条件や退職日、引き継ぎなどの交渉を持ち掛けてきても、その場ですぐに応じる必要はありません。

3-2 合同労働組合型退職代行の団体交渉権への対応

近年急増しているのが、退職代行ユニオン(合同労働組合)です。ユニオンとは、社内に労働組合がない従業員(正社員、非正規問わず)が加入できる外部の労働組合です。
会社は、正当な理由なく労働組合の団体交渉を拒否すると、不当労働行為(労働組合法7条)とされるおそれがあります。ユニオンも労働組合の一種なので、原則として、有給休暇の取得や退職金の支払い時期、残業代の清算など、会社と様々な交渉を行うことが認められています。
そのため、ユニオンが代行して社員の退職意向を連絡してきた場合は、先の民間業者の場合とは異なり、原則として交渉に応じる必要があります。

なかには、実態のない合同労働組合(名ばかりユニオン)も

注意が必要なのは、退職代行を行うためだけに形式的に作られたような、いわゆる「名ばかりユニオン」です。本来の労働組合は、労働条件の維持改善を目的とした継続的な団体である必要がありますが、退職代行を利用する期間だけ組合員になり、手続きが終われば脱退するような形態は、本来の労働組合法の趣旨から外れている可能性があります。
しかし、正規のユニオンか、名ばかりのユニオンかを見極めるのは非常に困難です。形式上労働組合としての要件を整えている以上、独断で「名ばかりユニオンだ」と決めつけるのは危険な判断といえます。疑わしい場合は、弁護士など専門家に相談するのが安全です。

3-3 弁護士が関与する退職代行の特徴

最も権限が広いのが、弁護士が受任して行う退職代行です。弁護士は法律上の「代理人」として、あらゆる法律事務を本人に代わって行うことができます。

未払い残業代や退職金交渉など一括で行われるケースも多い

弁護士が出てくるケースでは、単なる退職の通知に留まらず、未払い残業代の請求やハラスメントに対する慰謝料請求などがセットになっていることが少なくありません。この場合、単なる事務的な手続きとして片付けることができない場合が多く、法的な紛争(裁判や労働審判)を視野に入れた高度な対応が必要になります。
弁護士名義で届く通知書に法的拘束力はありませんが、放置すれば法的手段に移行するという明確なメッセージが含まれています。企業としても、早期に顧問弁護士等の専門家に相談すべきフェーズといえるでしょう。

第4章 企業は退職代行からの連絡にどこまで応じるべきか【実務Q&A】

実際に、退職代行から連絡が来たらどのような対応をすればいいのでしょうか。担当者が直面しがちな悩みと回答をまとめました。

4-1 会社が法的に拒否できること/拒否できないこと

Q1. 本人の意思確認を直接行うことは可能か?
A1. 法的には可能だが、方法と内容は慎重に検討しましょう。

代行業者からは「本人への直接連絡は控えてください」と強く念押しされるのが通例です。会社がこれに従う義務があるかといえば、法的に直接の連絡を禁止する規定はありません。
しかし、そうとはいえ、本人が「業者を通してください」と明言している以上、強引に電話をかけ続けたり自宅に押し掛けたりすることは、精神的な苦痛を与えたとして慰謝料請求の対象や、ストーカー的な行為とみなされるリスクがあるため注意が必要です。
意思確認が必要な場合は、書面(特定記録郵便など)を本人の住所宛に送り、「業者経由の連絡では確認できない事項があるため回答を求める」などの手続きを踏むのが実務上のリスクヘッジといえます。
また、送付する書面のトーンについても事務的な内容に徹することが大切です。突然の退職代行に憤りを感じ、感情的な言葉をぶつけたくなるかもしれませんが、「会社から執拗な個人攻撃を受けた」という証拠として残ってしまい、後にハラスメントの主張の材料にされかねません。

Q2. 退職日までの2週間は有給休暇にしなくてはならないのか?
A2. 有給休暇が残っている場合、有給休暇で処理するケースが一般的です。

「退職日までの2週間をすべて有給休暇として扱ってほしい」という申請は、退職代行を利用したケースでよく見られます。会社側としては時季変更権の行使を検討したくなる場面ですが、退職の意思が明確で、本人が出社しない状況では、実務上その行使が認められる場面は限られます。
そのため、有給休暇が十分に残っている場合には、申請どおり有給休暇として処理し、退職手続きを進めた方が、結果として紛争リスクを抑えやすいといえます。

4-2 備品・データをめぐる実務上のよくあるトラブル

Q3. 会社貸与のパソコンやスマホが返却されない場合は?
A3. 原則として本人宛に返還請求を行い、期限と方法を明確に伝えます。

社用PCや社用スマートフォン、健康保険証などの会社資産は、退職時に返還されるべきものです。しかし、返却されない場合であっても、それを理由に給与を全額差し止めたり、退職金を支払わなかったりすることはできません。賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)に反するおそれがあるためです。
実務上は、返還義務の相手方である本人宛に、返却期限、返却方法(郵送・着払い等)を明記した書面を送付し、対応を求めるのが基本です。退職代行が関与している場合でも、請求の宛名は本人とし、代行業者には写しを共有するにとどめることで、不要な法的リスクを抑えることができます。

Q4. 社用パソコンなどのパスワードの開示を拒否されたら?
A4. 業務上の必要性を整理したうえで、書面で協力を求めましょう。

パスワードの引き継ぎ拒否は、退職代行を利用したケースで特に問題になりやすい点です。労働者は業務を担当していた立場として、業務の継続に最低限必要な情報については、合理的な範囲で協力すべき立場にあると考えられています。
しかし、本人が出社を拒否している以上、無理に呼び出して聞き取ることはできません。そのため実務上は、代行業者や本人宛に書面で、業務に支障が生じている具体的内容と、必要な範囲の情報提供を求めるのが現実的な対応です。
パスワード未開示によって実際に業務上の損害が生じた場合には、損害賠償が問題となる余地もありますが、あくまで事実関係を整理し、冷静に協力を求める姿勢を取ることが重要です。

Q5. 会社がしてはいけない、リスクが大きい行為は?
A5. 離職票の発行など法律に定められた行為は速やかに行いましょう。

「引き継ぎが終わるまでは辞めさせない」「離職票を発行しない」といった対応は、典型的な退職妨害にあたります。現代の労働法規制のもとでは、企業側がこのような態度を取ることは行政指導の対象になるだけでなく、ネット上の口コミ等でブラック企業としての烙印を押され、企業ブランドを毀損するリスクもはらむ危険な行為といえます。
突然の退職に納得がいかなくても、法律に定められた手続き(社会保険の喪失処理や離職票の発行)は粛々と進めるのが、最終的に企業を守ることにつながります。

4-3 担当者が取るべき実務対応フロー

Q6. 実際、どのようなフローで進めればよいか?
A6. 原則として、以下のようなフローで進めるのが基本です。
  1. 相手の属性(民間・組合・弁護士)を確認し、連絡先を控える。
  2. 「社内で検討し、後ほど(または後日)回答する」と伝え、その場での即答を避ける。
  3. 本人の雇用形態(正社員・契約社員)、有給残日数、貸与品などの状況を整理する。
  4. 退職日は法律および就業規則に則り確定させる(多くの場合、申し出から2週間後)。
  5. 必要書類(退職届、備品返却依頼、誓約書等)を本人宛に郵送する。

退職手続きで最もミスが許されないのが、社会保険の喪失手続きと、最後の給与計算(欠勤控除や有給処理)です。退職代行が使われるケースでは急な欠勤による欠勤控除や有給休暇の消化が発生することで、計算ミスが起こりやすい傾向があります。正確な実務処理を行うことで、本人からのクレームや労働基準監督署への駆け込みといった二次トラブルを未然に防ぎましょう。

第5章 弁護士・社労士へ相談すべき見極めのタイミング

専門家の介在が必要な4つの代表的なケース

以下のケースに該当する場合は、専門家に相談することをおすすめします。

【ケース1】合同労働組合(ユニオン)名義で通知書が届いたとき

団体交渉権を背景にした要求には、専門的な法知識と交渉のノウハウが必須といえます。誠実交渉義務(労働組合からの団体交渉要求に誠意をもって対応しなければならない義務)の範囲を正確に把握し、不当労働行為を避けながら、会社の利益を守る必要があります。

【ケース2】本人がパワハラ・セクハラなどの不法行為を主張しているとき

退職代行を使う理由として上司のパワハラが挙げられている場合は、単なる退職手続きではなく、ハラスメント問題としての調査・対応が必須となります。証拠の保全やヒアリングなど、初期対応を誤ると深刻な訴訟に発展するおそれがあります。

【ケース3】未払い残業代の請求や退職金の増額を併せて交渉されたとき

退職意向に、金銭的な請求が伴う場合、相手方は専門家のサポートのもと、すでに計算を終え、準備を整えている可能性が高いといえます。その場合、こちら側も客観的な労働時間の再集計や、就業規則・賃金規程の精査など、弁護士と社労士が連携して反論を組み立てて対抗する必要があるといえます。

【ケース4】社宅の退去拒否や、多額の研修費返還などの複雑な債権債務があるとき

労働契約の終了以外の要素が絡む場合は、その領域での専門知識が必要になります。たとえば、社宅からの強制立ち退きは法的に厳しく制限されており、手順を誤るとこちらが住居侵入などで刑事責任を問われるおそれもあります。

第6章 退職代行を使われたときは冷静で戦略的な対応を

退職代行サービスからの連絡は、企業にとってショッキングな出来事です。しかし、そこでの対応一つで、それが「一過性の離職で終わるのか」、あるいは、「長期にわたる法的紛争や企業ブランドの失墜に及ぶのか」が分かれます。
本記事で解説した通り、退職代行に一定の法的効力が認められる一方で、会社側にも守られる権利があります。重要なのは一時の感情に流されず、法律に基づいた戦略のもとで対応することです。
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