お役立ちコラム

就業規則の作成代行は誰ができる?依頼する際に検討すべきポイントも弁護士が解説

2025.10.21

就業規則は、労働条件や社内ルールを明文化し、企業と従業員の間のトラブルを防ぐために不可欠なツールです。法律上、常時10人以上の労働者を使用する企業では、就業規則の作成・届出が義務付けられており、また会社の成長や法改正に応じて内容を見直すことも求められます。
しかし、実際に就業規則を作成・整備するにあたって、「どこに相談すべきか」「社労士と弁護士の違いは何か」「ひな形で対応してよいのか」など、判断に迷う企業も少なくありません。
本記事では、就業規則の作成代行が可能な専門家の種類と役割、依頼時に確認すべきポイントなどを弁護士の立場からわかりやすく解説していきます。

1. 就業規則の作成・見直しを依頼できる専門家とは?

1-1. 社会保険労務士(社労士)

就業規則の作成・届出は、社会保険労務士(社労士)が代行できる代表的な業務です。具体的に社労士が行える業務は以下の通りとなり、企業の実情に合わせた規程整備から届出代行まで任せることができます。

  • 就業規則の作成・改定・届出書類の作成
  • 労働者代表からの意見聴取サポート
  • 労働基準監督署への就業規則の届出手続き
  • 労働時間・休日・休憩などの制度設計に関する助言

1-2. 弁護士

一方で、弁護士は紛争案件を含む法律の専門家として、就業規則の法的妥当性や労使紛争予防面、裁判での有効性を重視した整備に強みがあります。特に以下のようなケースでは、弁護士への相談・依頼が推奨されます。

  • 懲戒処分・解雇などリスクが高い条文を整備したい
  • 労務トラブルの予防・再発防止を目的としている
  • 訴訟や紛争対応を見越して防衛的に整備したい

社労士との大きな違いである交渉・裁判対応を普段から行っているという点から、労使紛争を予防するという観点からの就業規則の整備ができるというところは弁護士に就業規則の作成代行を依頼するメリットであるといえます。

1-3. 行政書士・コンサル業者等には業務範囲に注意が必要

インターネット上には「就業規則作成サービス」を提供する行政書士事務所や民間コンサル業者も見られますが、行政書士は原則として就業規則を「作成すること」はできますが、それ以外の届出の代行等はできないほか、コンサル業者が報酬を受け取って就業規則の作成代行や法的なアドバイスを行うことは、社労士・弁護士の業法違反に該当します。外部に作成を依頼する場合は、依頼先が正規の専門家であるか、そしてその業務範囲が法的に許容されているかを十分に確認するようにしてください。

2. 専門家ごとの比較:どんな場合に誰へ依頼すべきか

2-1. 最低限の内容での作成・届出だけが目的の場合

就業規則をとりあえず整備したい、法定記載事項だけを最低限網羅したいという場合には、社会保険労務士(社労士)への依頼でもよいでしょう。会社規模が小さい場合、顧問弁護士はおらずとも、顧問社労士はいるというケースも多いため、まずは顧問社労士に相談の上で、定型的な規則の作成から監督署への届出手続きまでを代行してもらうというのは一つの方法です。
ただし、懲戒や解雇、複雑な勤務形態への対応など、法的な争点が潜在する条文については定型的な条文ではカバーができないこともあるため、注意が必要です。

2-2. 労働紛争を想定した防衛的な整備をしたい場合

過去に労働トラブルを経験している企業や、将来的に紛争リスクが高い業種(例:医療介護、運輸、建設業など)においては、弁護士に依頼の上で労使紛争リスクを加味した就業規則作成を行うことが望ましいでしょう。

2-3. 常時雇用する従業員が10人未満の場合

常時雇用する従業員が10人未満の事業場では、労働基準法上の「就業規則作成義務」は課されていません(労基法第89条)。そのため、必ず届出が必要というわけではないものの、就業規則を整備することには大きな意味があります。
このようなケースでは、

  • 基本的な労務管理のルールを整備したい
  • トラブル予防のため、最低限の規則は作っておきたい
  • 雛形では不安なので、制度に合った形にカスタマイズしたい

といったニーズが多く見られます。この場合、コストを抑えつつも必要最低限の法令対応をしたいのであれば、社労士への依頼が現実的です。
ただし、労働紛争が発生したことがある、または懲戒や解雇などリスクの高い場面が想定される業種であれば、最初から弁護士に依頼し、法的妥当性を担保しておくことが望ましいです。

2-4. 上場準備の一環としての労務面整備を目的とする場合

IPO(上場)準備段階においては、就業規則をはじめとする人事制度の整備状況が、引受証券会社や監査法人から精査されます。
この段階で求められる就業規則のクオリティは、単なる法令対応ではなく、

  • 労働時間・休憩・休日等の運用実態と規定の整合性
  • 評価・報酬制度とルールの明文化
  • ハラスメント防止・通報制度の設計
  • 不利益変更・懲戒制度などの適法性の担保
  • 労働時間の管理と未払い残業リスクの予防

といった、ガバナンス・コンプライアンスを強く意識した精緻な制度設計です。
このようなケースでは、弁護士主導で制度設計を行い、必要に応じて社労士と連携して届出や実務設計を補完する体制が最も安心です。
また、ストックオプション発行や退職金制度、役員報酬制度との連携が必要になることもあるため、税理士や会計士を含めた士業連携が前提となります。

3. 費用相場と業務範囲:見積時に確認すべきポイント

3-1. 作成費用・届出費用の一般的な相場感

就業規則の作成費用は、専門家や内容の複雑さによって異なりますが、概ね以下のような価格帯が一般的です。

項目 社労士の場合 弁護士の場合
新規作成+届出 約10〜30万円 約20〜50万円
規則見直し・改訂(軽微) 約5〜15万円 約10〜30万円

一部条文の修正だけを依頼する場合でも、「他の条項との整合性をチェックする必要がある」として、実質的には全体見直しに近い作業となることがあります。
見積時には「どこまで対応してもらえるか(作成・届出・周知・運用支援)」を明確にしておくことが大切です。

3-2. 規程類全体の整備に関する追加費用の確認

就業規則以外にも、以下のような規程の整備が同時に必要になることがあります。

  • 賃金規程
  • 育児・介護休業規程
  • 退職金規程
  • テレワーク規程
  • ハラスメント防止規程

就業規則の作成範囲だけでなく、育児休業規程や退職金規程など、将来的に必要となる可能性のある規定についても、同じ専門家が追加対応可能かどうか、その際の費用はどうなるかを確認しておくとその後も安心です。

4. FAQ|就業規則の作成代行に関するよくあるご質問

Q1. すでに就業規則がある場合でも、改めて作成代行を依頼する意味はありますか?

A. はい、あります。特に「10年以上前に作成した」「労務トラブルを経験した」「制度変更を反映できていない」といった場合は、実質的に“今の働き方に合っていない”ケースが多く見られます。新規作成に近い水準で見直す必要がある場合は、就業規則の作成代行の活用が有効です。

Q2. 作成だけ依頼し、届出や運用は自社で行うことは可能ですか?

A. 可能です。ただし、労働基準監督署への届出書類や、労働者代表の選出・意見聴取手続きなども法的に重要なステップですので、不安がある場合は作成だけでなく届出支援も含めて依頼をすることを検討してもよいでしょう。

Q3. 本社と支店で就業規則を分ける必要がありますか?

A. 労基法上、就業規則は事業場単位で作成・届出する必要がありますが、内容がほぼ共通している場合は、共通規則を基に、事業場ごとの違いだけ別紙などで補足する整理も認められることがあります。ただし、労働条件の違いが大きい場合には、事業場ごとに別規則を作成する必要があります。そのため、勤務形態や制度内容が異なる場合(例:本社はフレックスタイム、支店は固定時間制など)は、就業規則を事業場ごとに作成する必要があります。

Q4. ひな型を使って就業規則を作るでもよいのでしょうか?

A.「ネットにあるひな形をベースにして就業規則を作ってもらった」という事例は多く見受けられますが、それが自社の業態・従業員構成・制度運用に合致していないケースも少なくありません。ひな形の活用自体が悪いわけではありませんが、内容を十分に精査せずに作成・届出をしてしまうと、万が一のトラブルの際に適切な規程として使うことができなくなってしまうリスクがあります。ひな型はあくまで土台として、自社の実態に即した内容での作成を行うようにしましょう。

Q5. 雇用形態が複数ある場合(正社員・パート・業務委託など)、どう整備すればいいですか?

A. 正社員とパート・有期契約社員については、同一の就業規則内で適用範囲を区分する方法、または雇用形態ごとに別規則を設ける方法が考えられます。どちらを選ぶかに明確な「正解」はありませんが、労務トラブル予防の観点からは、制度や待遇に差がある場合は雇用形態ごとに規則を分けておく方が安心です。一方で、制度が概ね共通していて、更新・管理をシンプルにしたい場合は、同一の規則内で雇用形態ごとに適用範囲を分ける形でも十分に対応可能です。
業務委託契約者(外注やフリーランスなど)には就業規則は原則適用されませんが、労使紛争やトラブルを防ぐためにも業務範囲や禁止事項などを業務委託契約書で整備・書面にて明確に取り交わしをしておきましょう。

5. 当事務所の就業規則作成支援サービスのご紹介

当事務所グループでは、弁護士法人・社会保険労務士法人・税理士法人・行政書士法人・司法書士法人を擁する体制のもと、以下のような点を中心に就業規則を起点とした労務整備をワンストップで提供しています。

  • 就業規則・賃金規程・退職金規程など一式の整備
  • 労基署への届出、社員説明資料の作成支援
  • 労働時間制度の設計と運用マニュアルの整備
  • 実際のトラブルが発生した際の法的代理・交渉

就業規則を単に作るだけで終わるのではなく、万が一の際に会社を守れる制度・規程を設計するという考え方で、法務と実務を両立する就業規則整備を支援しています。
就業規則の作成・見直しを検討されている企業の皆さまは、ぜひ早い段階で弁護士を含む専門家にご相談ください。

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