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【判例付き】出来高払制賃金と認められる範囲はどこまで?出来高払賃金制度における注意点を弁護士が解説

2025.05.11

出来高払賃金は従業員個人の成果を待遇にダイレクトに反映できる一方、割増賃金の算定面で未払残業代の問題が発生する場合があります。
本コラムでは、いわゆる成果給の割増賃金の算定に関する裁判例をもとに、出来高払制賃金を採用する際の注意点について弁護士が解説します。

事案内容

⑴ 当事者

  Xら→Y社にて正社員の現業職(運転手)として引越運送業務に従事していた元従業員
  Y社→引越運送等を業とする株式会社

⑵ 現業職給与体系

基準内賃金
  • 基本給
  • 無事故手当  等
業績給
  1. 売上給(業績給A):売上額に応じて9段階で支給額が決定
  2. 件数給(業績給A):作業1件に対して、3段階の車格に応じて支給額が決定
  3. 業績給B:長距離運転やピアノ積卸し等の特定の作業を行った場合に支給
  4. 愛車手当:洗車やワックスがけの回数に応じて支給

※業績給はY社では出来高払制賃金(いわゆる「歩合給」)として扱われている。

⑶ 請求内容

Xらは、「業績給」とされた各賃金項目はいずれも出来高払制賃金に該当しないため、Xらの基礎賃金の算定に誤りがあるとして、時間外労働にかかる割増賃金の不足額の支払を請求。
Y社は、業績給はいずれも出来高払制賃金に該当すると主張。

問題の所在

月給制、日給、時給の割増賃金の計算方法

 例:月給制の場合(労働基準法施行規則第19条1項4号)
   基本給 20万円、資格手当2万円
   月平均所定労働時間数 160時間
 → (20万円+2万円)÷160時間=1、375円
 

出来高払制賃金

 歩合給10万円
 賃金締切期間における総労働時間数 200時間
→ 10万円÷200時間=500円

上記に加え、出来高払賃金においては、労働に対する時間当たり賃金、つまり1.0に該当する部分は、すでに基礎となった賃金総額に含められているとされ、加えて支払うべき賃金額は、0.25であるとされている(昭23・11・25基収3052号、平11・3・31基発168号等)。
以上から、出来高払制賃金に該当する場合、結論として支給する割増賃金額が低額になるため、しばしば出来高払制賃金の該当性が争点になることがある。

判決の内容

⑴ 原審(東京地裁立川支部令和5年8月9日判決)

  業績給のいずれも出来高払制賃金に該当しないと判断。

⑵ 控訴審

  結論として原審維持

1. 裁判例の要約

1.1 当事者および事案概要

Xら(元運転手)とY社(引越運送業者)の間で、運転手に支給される「業績給」(売上給・件数給・特定作業手当・愛車手当など)が、労働基準法上の出来高払制賃金に該当するかが争われました。

1.2 原審と控訴審の判断

原審(東京地裁立川支部)は、いずれの業績給も出来高払制賃金に該当しないと判断。
控訴審(東京高裁令和6年5月15日判決)もこれを維持しました。
判示の要点は以下のとおりです。

2. 今回の判例のポイント

2.1 出来高払制賃金の法的定義

労基法27条・施行規則19条1項6号が定める「出来高払制」とは、「労働給付の成果に一定比率を乗じて賃金額が決まる制度」を指します。
成果とは原則として、作業量や運搬距離など、労働者本人の実際の労働成果であるべきと解されています。

2.2 売上給の該当性判断

Y社が「売上額」を成果とする根拠は、実際の作業量と一致しないと判示。
営業職の交渉力や配車係の割当て調整など、運転手自身の成果と必ずしも連動しない点が理由とされました。

2.3 件数給・特定作業手当・愛車手当の該当性判断

件数給:引越案件の規模差や配車係の調整により、件数が個人の努力成果と連動しない。
業績給B(特定作業手当):指示業務の一環として支給され、成果報酬とは評価困難。
愛車手当:定期的指示に基づく準備行為であり、支給上限も設定されているため、成果に応じた賃金とは認められず。

この東京高裁判決は、引越運送業のみならず、物流・小売・製造業など、出来高払制を導入する企業に対し、成果評価の基準明確化と運用規程の適正化を強く促すような内容となっています。
支給基準の曖昧さがあると、割増賃金の不足指摘リスクが高まるため、労使協定や就業規則の見直しが急務となります。

3. 出来高払賃金(成果給)とは?

先ほども少しお話をしましたが、出来高払賃金(歩合給・成果給)は、個々の労働成果に応じて賃金額が増減する賃金制度のことを指します。
労働基準法27条と施行規則19条1項6号が定める「出来高払制」とは「成果に一定率を乗じて賃金を決める方式」を指し、完全歩合でも固定給+歩合の混合型でも該当し得ます。

3-1. 固定歩合型と完全歩合型の違い

固定歩合型は「基本給+歩合給」で安定性を確保しつつ成果を反映します。
一方、完全歩合型は成果給のみで構成されるため、毎月の賃金変動が大きく、最低賃金割れの危険が常にある点が最大の違いです。

4. 出来高払制賃金を採用する際の注意点

出来高払制を導入する際には、以下のポイントを押さえて制度設計を行う必要があります。

4.1 成果要素の明確化

出来高払いで使用する成果とみなすもの(作業量、運搬距離、完了件数、成約件数など)は、あらかじめ具体的な基準と計算方法を労使間で明示し、就業規則や賃金規程へ明確に記載します。
成果の基準が曖昧なまま賃金規程を運用すると、今回のように裁判で「成果と連動しない」とされるリスクが高まります。

4.2 割増賃金の算定は「総労働時間」で計算

出来高払いの賃金に対する割増賃金の算定基礎となる労働時間は、「当該賃金算定期間における総労働時間」を使用します。(出来高払い以外の賃金(月給、日給、時間給)の算定基礎となる労働時間は、「1か月の所定労働時間」です。)
そのため、出来高払制賃金を適用する際は、①賃金計算の基礎となる総労働時間を正確に管理すること、②成果給と時間給を明確に分離することが不可欠です。
タイムカードや勤怠システムを使用し、所定労働時間だけでなく実労働時間を正確に記録のうえで、成果給算定の基礎とします。

4.3 最低賃金・同一労働同一賃金の確保

出来高払制の賃率(賃金単価)を設定する際も、最低賃金を下回らない必要があります。
また、同一労働同一賃金という観点での不合理な待遇差が生じないよう留意してください。

当事務所では、企業労務に特化した弁護士を中心に、就業規則・賃金規程を含めた各種規程の見直し、成果給を適切に運用するための賃金制度設計等のサポートをご提供しております。
成果給の取り扱いに伴い、「自社の賃金規程内容に不安がある」「未払残業代の請求を受けそうだ」というようなお悩みをお持ちの方は、一度ご相談ください。

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