お役立ちコラム

2025年4月施行「育児・介護休業法」及び関連法令改正|企業が押さえるべきポイントと実務対応

2025.04.01

2025年4月1日施行の育児・介護休業法及び関連法令(以下ではまとめて「育児・介護休業法等」といいます。)の改正は、育児や介護と仕事を両立するための仕組みを大きく変化させる内容を含んでいます。特に所定外労働の制限や子の看護等休暇の対象年齢引き上げ、介護離職防止策の強化など、多様な働き方を支えるための改正点が数多く盛り込まれています。
ここでは法改正の全体像を整理しつつ、法改正の概要を要約していきます。
あわせて、今回の法改正について把握しておいていただきたいポイントや、企業側で取り組むべき具体的な対応事項についてもご紹介します。

もくじ

2025年4月1日施行の育児・介護休業法等改正で何が変わるのか?【改正内容要約】

今回の改正では、大きく以下の3つの観点から制度が拡充・変更されます。

1. 育児休業・子の看護休暇など、子育て支援制度の拡充

所定外労働の制限(残業免除)

対象年齢が、「3歳未満」から「小学校就学前」までに拡大されます。

子の看護等休暇

子の看護休暇が「子の看護等休暇」に名称変更され、対象となる子の年齢を「小学校3年生修了まで」に拡大されます。取得事由に「感染症による学級閉鎖」や「入学式・卒業式」等が追加されるなど、柔軟な取得が可能になります。
また、労使協定による継続雇用期間6か月未満の者を除外する規定が廃止になり、「週の所定労働日数が2日以下」以外の労働者は基本的に取得が可能です。

育児休業取得状況の公表義務の拡大等

男性の育児休業取得率または育児休業と育児目的休暇の取得率の公表義務の対象事業者が、現行の従業員1000人超の事業主から300人超の事業主に拡大されます。
また、100人超の事業主に求められる一般事業主行動計画の策定時に育児休業の取得状況等に係る状況把握・数値目標の設定が義務化されます。

出生後休業支援給付金の創設

育児休業開始直後の一定期間に14日以上の育児休業を取得した場合、出生時育児休業給付金または育児休業給付金との合計で実質80%(手取り10割相当)の給付を受けられる仕組みができます。

育児時短就業給付の創設

2歳未満の子がいる場合に短時間勤務を選択したときでも、賃金の一部が補填されます。

2. 介護離職防止のための制度整備・強化

個別の周知・意向確認

介護に直面した労働者には、介護休業やその他の支援制度の内容や申出先などを個別に周知し、制度利用の希望を確認する義務が発生します。

介護に直面する前段階(40歳等)での情報提供

実際に介護が必要になる前から、介護休業やその他の支援制度等の情報を提供する義務が創設されます。

介護休業を取得しやすい雇用環境の整備

研修の実施や相談窓口の設置、取得事例の周知などの措置を講じ、利用促進を図る必要があります。

介護休暇

労使協定による継続雇用期間6か月未満の者を除外する規定が廃止になり、「週の所定労働日数が2日以下」以外の労働者は基本的に取得可能になります。

3. その他の重要な改正事項

育児休業給付金の支給対象期間延長手続きの見直し

保育園等に入れず育児休業を延長する場合、従来の市区町村の通知書等に加えて利用申込書の写しの提出で、速やかな職場復帰を希望していたことを証明する必要があります。

高年齢者雇用支援措置の強化

高年齢者雇用安定法の経過措置の終了に伴い、65歳までの雇用確保措置が完全義務化される一方、高年齢雇用継続給付の給付率が最大15%から10%に縮小されます。

今回の法改正で特に把握しておいていただきたいポイント

1. 企業実務への影響と対応準備の必要性

育児・介護休業法等の改正内容が多岐にわたるため、企業側は就業規則や各種社内規程を見直す必要があります。
とくに「所定外労働の制限」や「子の看護等休暇」「介護離職防止策」などの拡充・新設があるため、担当部門(人事労務部門など)は改正点を正確に把握し、適切な運用体制を整備しなければなりません。

2. 新たな義務のポイントを把握しておく重要性

従業員100人超の事業主においては、一般事業主行動計画における育児休業取得率や労働時間状況の数値目標設定の義務化に伴い、PDCAサイクル確立が求められます。
育児休業・介護休業の利用がさらに促進される見込みであり、それに伴う企業の人員計画・人材確保戦略の再検討が行っていく必要があります。
40歳到達時に介護関連情報を提供する義務など、年齢を基準にした新たな対応も求められますので、常に最新の情報を把握しておくことが重要です。

3. 給付制度の拡充にともなうメリット・デメリットの把握

新設された給付金制度(出生後休業支援給付金、育児時短就業給付など)により、実質的な給与補填率が大幅に上がるケースも見込まれます。
企業としては、制度利用による従業員の雇用継続メリットと、人件費・代替要員手当などの実務上の負担を総合的に検討し、社内制度を組み立てておくことで、経営への影響も最小限に抑えることができます。

4. 高年齢者雇用や行動計画策定への対応

65歳までの雇用確保措置や、高年齢雇用継続給付の縮小に伴うシニア層の処遇見直しが必須となります。
一般事業主行動計画の策定・届出義務を履行し、法令に適合した企業運営を行うように、整備していきましょう。

法改正を踏まえて企業として実施すべき対応事項

1. 就業規則・関連規程の改定

1-1. 就業規則や育児・介護休業規程の改定

新たに拡大・追加された対象年齢(例:残業免除が「3歳未満」→「小学校就学前」や、「子の看護休暇」→「子の看護等休暇」)を反映しましょう。
「子の看護等休暇」「介護休暇」の取得要件緩和(6か月の継続雇用要件などの廃止)を規程へ明記しておく必要があります。
また、給付制度(出生後休業支援給付金、育児時短就業給付)の社内運用と休業手続きの流れを明文化しておくことで、トラブル防止にも繋がります。

高年齢者雇用関連(65歳までの雇用確保措置、給付率の縮小)についても合わせて就業規則や給与規程を再確認しましょう。

1-2. 対象者の範囲や手続き要件を最新化

育児休業給付金やその延長手続きで必要となる書類(保育所等の利用申込書の写し等)を社内規程・マニュアルに明記しましょう。
新設・拡充された給付金の申請方法・フローをわかりやすく社内ガイドラインに落とし込んでおくことで、社内周知もスムーズに対応できます。

1-3. 労使協定の見直し

子の看護等休暇や介護休暇について、労使協定を締結する(または改定する)項目があれば、労働組合または従業員代表と協議し、改定手続きを行いましょう。

2. 育児休業・子の看護等休暇に関する社内体制整備

2-1. 制度周知資料・申請フローの整備

就業規則改定後、社員向けに簡潔な「ガイドブック」「FAQ」などを作成し、イントラネットや説明会等で周知します。
申請書類・電子申請システムなどを整備し、実際の取得手続きがスムーズに進むようフローの見直しも、このタイミングで行っておきましょう。

2-2. 残業免除(所定外労働の制限)の運用確認

対象が「小学校就学前まで」の子どもを養育する労働者に拡大されるため、該当者の把握と希望者への周知を徹底しましょう。
必要に応じて、人事・管理職・現場責任者に対する運用指導を行いましょう。

2-3. 子の看護等休暇の運用フロー整備

取得理由として、学級閉鎖や入学式・卒業式などが追加された点を踏まえ、申請・承認フローの見直しを行います。

3. 介護離職防止策の強化

3-1. 個別の周知・意向確認のフロー策定

労働者から「介護に直面した」という申出があった場合、必ず実施しなければならない周知内容(介護休業や介護両立支援制度の内容、給付金、申出先など)と意向確認のプロセスを明確化します。
実施方法(面談・書面交付・FAX・電子メール等)の選択肢を示し、担当部署の役割を社内に周知を行ってください。

3-2. 40歳到達時の介護関連情報提供の仕組み構築

人事システムで生年月日を把握し、該当者が40歳になる年度を自動的に抽出するなどの運用ルールを作成します。
実施方法(面談・書面交付・FAX・電子メール等)の選択肢を示し、担当部署の役割を社内に周知します。

3-3. 介護休業・介護両立支援制度を利用しやすい環境整備

管理職や社員への介護関連研修を検討しましょう。少なくとも管理職は受講を義務化されることをおすすめします。
また、相談窓口を設置したうえで、担当者の選任とイントラネットや社内掲示などで社内周知を行いましょう。
過去の介護休業や介護両立支援の取得事例を収集し、イントラネットで公開・共有することで、社員の利用促進にもつなげることができます。

4. 育児休業給付金における延長手続き・書類準備

4-1. 保育所等への入所がかなわない場合の延長手続き確認

育児休業給付金の延長に必要な書類(「利用申込書の写し」「不承諾通知書」等)を、従業員に確実に提出してもらうフローを整備しましょう。
具体的には、申請時期や書類不備時の対応マニュアルを作成し、担当者へ周知しておくことでフローを固めやすくなります。

4-2. 速やかな職場復帰を希望していたことを示す書類の整備

市区町村が発行する書類だけでなく、本人の利用希望が確認できる申込書の写しなども必要になるため、提出・保管方法を規定化します。
人事部門で電子データを保管するか原本を保管するかなど、証拠としての保管ルールを定めておきましょう。

5. 新設給付金(出生後休業支援給付金・育児時短就業給付)の活用準備

5-1. 対象者把握・社内説明

子の出生後8週間以内に男性が育児休業を取得する際の給付金要件や、女性産後休業後に取得するケースなどを整理し、分かりやすい説明資料を作成しておくと便利です。
経理・人事担当者や管理職に、給付金の仕組みや手続きの流れを周知しておきます。

5-2. 「育児時短就業給付」利用時の時短勤務の運用確認

2歳未満の子がいる従業員が短時間勤務を選んだ場合の給与計算や社会保険料控除など、給与計算システムとの連携をチェックします。
給付金が支給される期間(最長約3年間)の管理方法を決定し、従業員にも周知します。

6. 高年齢者雇用支援措置の強化に伴う対応

6-1. 65歳までの継続雇用義務化対応

高年齢者雇用安定法の経過措置の対象となっていた企業では、再雇用制度・勤務延長制度の見直しが必要です。
就業規則や関連規程での定義・ルール(勤務条件、給与水準など)を整合性ある形に改定します。

6-2. 高年齢雇用継続給付の給付率縮小

給付率が最大15%から10%へ縮小されるため、給与設計や賃金テーブルを変更する必要があるか検討しておきましょう。
シニア従業員への処遇やモチベーション維持策を考慮し、説明資料・ガイドラインを整備しておくことも重要です。

7. 管理職・人事担当者への研修・周知

7-1. 改正内容全体の研修実施

人事労務担当者・管理職向けに、育児・介護・高年齢者雇用のポイントをまとめた研修を実施します。
社内施策(相談窓口、取得事例集、行動計画など)の具体的な紹介と運用ルール等共有することで、社内理解にも繋がります。

7-2. 定期的なフォローアップ・Q&Aセッション

改正内容の運用が始まってから、研修等での周知で終了するのではなく、問題点・疑問点を共有する場を設け、PDCAを回していくことが重要です。
社内ポータルサイトにFAQを定期更新する等、従業員がいつでも確認できる体制を整備していきましょう。

8. その他(スケジュール策定・担当部署間連携)

8-1. 施行日(2025年4月1日)までのスケジュール策定

改定内容が多岐にわたるため、「~2024年中に就業規則改定完了」「2025年3月までに全従業員への周知完了」など、具体的な社内スケジュールを策定します。
具体的な実施事項まで落とし込みをした後は、タスクごとに担当部署・担当者を明確にし、進捗管理を行いましょう。

8-2. 社内外専門家との連携

必要に応じて社労士、弁護士に相談しながら、法令解釈や労使協定の結び方、給付申請の実務面を確認しておくと、適法な運用に向けた体制を築くことができます。
自社で対応を行う場合にも、行政機関やハローワークの最新情報(給付申請書類の様式変更など)も適宜入手し、社内に展開していくフローを組んでおくことがポイントです。

【最終的なポイント】

「法改正内容を正しく理解」 → 「社内規程の改定・周知」 → 「実際の運用フォロー」 という流れで上記で記載した実施事項について確実に進めていきましょう。
特に、数値目標の設定や介護関連の事前周知、給付金の活用など、従来にない義務化・強化項目に注意し、早めの社内体制整備が重要です。

以上のとおり、法改正を踏まえた企業としての実施すべき対応事項を可能な限りタスク形式で整理しています。自社の状況や人事戦略に合わせて優先順位や担当部署を決定し、対応計画の立案を行ったうえで、計画的に実行してください。
必要に応じて、弁護士・社労士と相談しながら適切に改正施行準備を進めることを推奨します。
自社では何をどこまで整備したらよいか迷われる場合も、早めにご相談いただき、確実な法改正対応を行っていきましょう。

育児・介護休業法等の法改正のより詳しい内容については、厚生労働省からも説明資料が配布されておりますので、こちらも併せてご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001372778.pdf

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