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パワハラ防止法に対応した就業規則のポイント|ハラスメント対応に詳しい弁護士が解説

2025.03.08

職場のハラスメント対策は、企業の信用を守るだけでなく、従業員の安心と生産性向上にも直結します。
しかし、「自社の就業規則が法改正に対応できているか不安」「トラブルが発生した際に有効な規定になっているか分からない」と悩む経営者・人事担当者は少なくありません。
本記事では、パワハラ防止法を踏まえた就業規則の見直しポイントと実務的な作成手順を解説します。
法的リスクを回避し、企業の負担を減らすための実践的な内容を知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

1. パワハラ防止法と就業規則の関係

1-1. パワハラ防止法の概要と企業の義務

パワハラ防止法(労働施策総合推進法の改正)は、企業に対し職場におけるハラスメントを防止するための措置を義務付けた法律です。
2020年6月に施行され、大企業では義務化が即時適用されましたが、中小企業も2022年4月から適用対象となりました。
企業には以下のような義務が課されています。

  • ハラスメント防止のための方針策定と周知
    → 社内においてパワハラが許容されないことを明確化し、従業員に周知する
  • 相談窓口の設置と適切な対応体制の構築
    → ハラスメントに関する相談を受け付け、適切に対応できる仕組みを設ける
  • 事実関係の迅速な調査と適正な措置の実施
    → 相談や通報があった場合に迅速な事実確認を行い、必要に応じて是正措置を取る
  • 被害者・加害者双方への適正な対応と再発防止策の実施
    → 被害者が不利益を被らないよう配慮し、加害者には適切な指導や処分を行う

企業がこれらの義務を怠ると、労働局からの指導・勧告を受ける可能性があり、対応が不十分な場合は企業の社会的信用が大きく損なわれることになります。

1-2. 就業規則にハラスメント防止規定が必要な理由

パワハラ防止法の施行により、企業はハラスメント防止策の明文化が求められています。
就業規則への規定を怠ると、従業員がハラスメントを受けた際に会社の対応が不十分とみなされ、企業の責任が問われるリスクが高まります。
就業規則にハラスメント防止規定を盛り込むことで、以下のようなメリットが得られます。

・ハラスメント防止の意識浸透 → 明確なルールを示すことで、職場全体のコンプライアンス意識を向上させる

・社内トラブル発生時の適正な対応 → 具体的なルールがあることで、対応のブレを防ぎ、適正な処分が可能になる

・法的リスクの軽減 → 法令に基づいた適切な対応ができる体制を整備することで、企業の責任を最小限に抑える

このように、ハラスメントに対する規定を就業規則に反映させることは、企業のリスクマネジメントの観点からも必須の取り組みといえます。

2. ハラスメント防止規定の作成方法

2-1. 就業規則に明記すべきハラスメントの範囲

ハラスメント防止規定を策定する際には、まず対象となるハラスメントの範囲を明確化する必要があります。
パワハラだけでなく、セクハラ、マタハラ(マタニティハラスメント)、SOGIハラ(性的指向・性自認に関するハラスメント)などの各種ハラスメントについても明文化することで、従業員への周知を徹底し、適切な対応が可能になります。

2-2. ハラスメント行為の禁止規定の具体例

就業規則において、どのような行為がハラスメントに該当するのかを具体的に記載することが重要です。例えば、以下のような規定を設けることが考えられます。

(例)ハラスメント防止規定の一部抜粋

第○条(ハラスメントの禁止)

1.会社は、職場におけるハラスメントを禁止し、健全な職場環境の維持に努めるものとする。

2.次の行為をハラスメントとみなし、厳重に対処する。
(1)職務上の地位や権限を利用した不適切な指示・命令(パワーハラスメント)
(2)性的な言動、望まない身体接触、性的関係の強要(セクシュアルハラスメント)
(3)妊娠・出産・育児休業の取得を理由とした不利益な取り扱い(マタニティハラスメント)
(4)従業員の性的指向・性自認に関する不当な言動や差別(SOGIハラスメント)
(5)その他、業務遂行に支障をきたす嫌がらせ行為

このように、明確な基準を示すことで、ハラスメント防止のための指針が明確になり、従業員への抑止効果が期待できます。

2-3. 相談・通報窓口の運用ルールの策定

ハラスメントが発生した際、適切な対応が取れるよう、相談・通報窓口の設置を義務付ける規定を設ける必要があります。以下のような規定を盛り込むと、企業側の対応基準が明確になり、従業員が安心して通報できる環境を整えることができます。

(例)相談窓口の設置規定

第○条(相談・通報窓口の設置)

1.会社は、ハラスメントに関する相談・通報を受け付ける窓口を設置する。

2.相談者のプライバシー保護を徹底し、不利益な取り扱いを禁止する。

3.相談内容については速やかに調査を行い、適切な対応を講じるものとする。

これにより、相談者の権利保護を強化し、企業側の適正な対応フローを確立できます。

2-4. 企業が負う責務と従業員の義務の明文化

企業はハラスメント防止のために「指導・教育の実施」「防止策の策定」「適正な調査・対応」を行う責務を負います。
一方で、従業員側にも「ハラスメントを行わない義務」があることを明文化し、職場全体でハラスメントのない環境を作る責任を共有する姿勢を示すことが重要です。

3. ハラスメント防止規定の運用ポイント

3-1. 就業規則を機能させるための社内周知と教育

ハラスメント防止規定を就業規則に定めるだけでは十分ではなく、社内での周知と教育が重要です。従業員が規定の内容を理解し、適切に対応できるようにするために、以下の施策を講じる必要があります。

・入社時研修への組み込み
→ 新入社員に対し、ハラスメント禁止規定と通報制度について説明し、理解を促す。

・定期的な社内研修の実施
→ 管理職・一般社員向けに分けたハラスメント防止研修を行い、役割ごとの責務を明確化。

・eラーニングや社内掲示板の活用
→ 研修だけでなく、日常的にハラスメントに関する知識を深める機会を設ける。

・相談窓口の周知と利用促進
→ 社員が安心して相談できるよう、相談窓口の存在と利用方法を分かりやすく案内する。

特に管理職にはハラスメントの加害者とならないための教育だけでなく、ハラスメントの兆候を察知し、適切に対処する能力を身につけさせることが求められます。

3-2. ハラスメントの未然防止に向けた職場環境の整備

ハラスメントが発生しにくい職場環境を整えることも、企業の責務です。
具体的な対策として、以下のような施策が考えられます。

・適切な評価制度の導入
→ 上司の裁量が大きすぎる評価制度では、ハラスメントが発生しやすい。透明性の高い評価基準を導入する。

・職場のコミュニケーション活性化
→ 相談しやすい風土を醸成するために、1on1ミーティングの実施や意見交換の場を設ける。

・ストレスチェックやハラスメント実態調査の実施
→ 定期的に社員のメンタルヘルスや職場環境の満足度を測り、ハラスメントの兆候を把握する。

・ハラスメント発生時の対応フローの明確化
→ 被害を受けた社員が迅速に対応を求められるよう、相談窓口の案内や対応手順を整備する。

職場の風通しを良くし、従業員が不安なく働ける環境を整えることが、ハラスメント防止の第一歩となります。

4. ハラスメント発生時の適切な対応手順

4-1. 相談・通報があった際の初動対応

ハラスメントの相談や通報があった場合、企業は迅速かつ適切に対応する義務を負います。
初動対応が遅れたり、不適切な対処を行ったりすると、被害の拡大や企業の責任が問われる可能性があります。

適切な初動対応のポイントは以下のとおりです。

1.相談者よりヒアリング
→ 事実確認の前に、相談者の意向を尊重し、冷静に話を聞く。

2.迅速に一次調査を実施
→ 通報内容の証拠や証言を確認し、ハラスメントに該当する可能性があるかを判断する。

3.加害者への聞き取り調査の実施
→ 事実関係の確認とともに、誤解や認識の違いがないかも慎重に検討する。

4.暫定的な措置の実施
→ 被害者が安心して業務を継続できるよう、一時的な配置転換や在宅勤務措置を検討する。

5.対応方針の決定と報告
→ 企業としての対応方針を固め、被害者・加害者双方に説明を行う。

対応の過程で、プライバシーの保護と公平な調査を徹底することが重要です。
被害者だけでなく、加害者とされた側の権利も守り、適正な手続きに基づいた対応を行わなければなりません。

4-2. ハラスメントが認定された場合の措置

ハラスメントが認定された場合、企業は適切な措置を取る必要があります。
事実の重大性や影響度を考慮し、段階的な対応を実施することが望ましいです。

1.口頭または書面での注意・指導
→ 軽微な事案の場合、加害者に注意喚起し、再発防止の指導を行う。

2.懲戒処分の実施
→ 就業規則に基づき、減給・降格・出勤停止などの懲戒処分を検討する。

3.配置転換の実施
→ 職場環境の悪化を防ぐため、加害者・被害者のいずれかを異動させる。

4.解雇措置の検討
→ 悪質なハラスメントの場合、懲戒解雇も視野に入れる。ただし、証拠や法的要件を慎重に確認する。

ハラスメント対応において、不適切な処分や対応の遅れは、企業の責任を問われるリスクを高めます。
弁護士や社労士と連携し、法的に適正な対応をとることが重要です。

4-3. 再発防止策の策定と職場環境の改善

ハラスメントが発生した企業は、再発防止のための具体的な対策を講じる必要があります。

・ハラスメント事案の分析と課題の特定
→ 発生した事案の原因を分析し、問題点を明確化する。

・再発防止のための研修・教育の強化
→ 加害者・管理職・従業員全体に向けた再発防止研修を実施する。

・企業のハラスメント対策の見直し
→ 就業規則や社内ルールの改訂を行い、再発防止策を明文化する。

・外部専門家の活用
→ 弁護士や社労士と連携し、継続的なリスクマネジメントを行う。

ハラスメントの発生を機に、企業全体のガバナンスを強化することが求められます

5. 就業規則の改訂と弁護士の活用

5-1. 就業規則の改訂が必要となるケース

就業規則は、一度作成すれば終わりではありません。
法改正や社内環境の変化に応じて定期的な見直しが必要です。
特にハラスメントに関しては、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)をはじめとする関連法規の影響を受けるため、次のようなケースでは就業規則の改訂を検討する必要があります。

1.ハラスメント関連の法改正があった場合
→ 近年、パワハラ・セクハラ・マタハラの防止義務が強化されているため、就業規則の内容が最新の法律に適合しているかを確認する。

2.労働局や社内監査で問題点を指摘された場合
→ 就業規則の内容が不十分と判断された場合、速やかに改訂し是正措置を講じる必要がある。

3.実際にハラスメント事案が発生し、対応に課題が生じた場合
→ 既存のルールでは対応しきれない事例が発生した場合、社内制度の見直しを行い、より実効性のある規定へと改訂する。

4.企業の方針変更や職場環境の変化があった場合
→ 組織再編やテレワーク導入など、企業の運営方針が変わった場合は、それに応じたハラスメント防止規定の整備が必要となる。

企業は、労務管理の適正化とトラブル予防の観点から、定期的に就業規則を見直し、必要に応じて改訂を行うことが重要です。

5-2. 弁護士を活用するメリット

就業規則の改訂にあたっては、労務問題に精通した弁護士のサポートを受けることで、法的リスクを最小限に抑えることが可能です。

(弁護士に依頼するメリット)

1.最新の法改正に対応した就業規則の作成が可能
→ 法改正の内容を含めて、労働法やハラスメント関連法を踏まえた規定を整備できることに加え、ハラスメント事案に付随する懲戒処分や配置転換等の規程まで一貫して精査することが可能です。

2.労使紛争を未然に防ぐ設計ができる
→ ハラスメントの懲戒処分を規定する際、処分基準が不明確だと「不当処分」として争われるリスクがあります。そういった紛争リスク・訴訟リスクを防ぐためにも、弁護士を活用のうえで各種関係法令との整合性を持たせた規定を策定しておくことが重要です。

3.ハラスメント発生時の外部相談窓口としての活用
→ ハラスメント事案が発生した際の相談窓口を弁護士に外部委託することで、従業員としては相談がしやすくなるというメリットがあるほか、企業側は法的リスクも考慮したうえでの迅速な初動対応を行えるというメリットがあります。

テンプレートや他社の就業規則をそのまま流用されている会社もあるかもしれませんが、企業ごとの労務環境や業種特有のリスクを反映しなければ、規則が有効に機能せずに社内の労働紛争や行政指導のリスクにつながる場合があります。

就業規則作成から一度も改訂を行っていない、テンプレートを利用しているといった企業の方は、一度弁護士による就業規則の見直しをされることをお勧めします。

6. まとめ|ハラスメント対応に強い就業規則を整備するために

ハラスメント防止に対応した実効性のある就業規則を作成するには、単に「ハラスメントを禁止する」と規定するだけでは不十分です。
具体的な防止策、通報・調査手順、懲戒処分のルールを明確化し、企業の実態に即した規則とすることが求められます

また、企業の規模や業種によって最適な規定内容は異なるため、自社の状況に応じた適切なルール策定が不可欠です。
そのため、法改正の最新動向を踏まえ、実務に適した規則を作成するためには、労務に強い専門家のサポートが有効です。

当事務所が提供するサポート

当事務所では、弁護士と社会保険労務士の両方の資格を持つ弁護士を中心に、法務・労務の両面から企業の就業規則整備をトータルサポートします。

ハラスメント防止規定の策定・見直し(最新の法改正を踏まえた適正なルール整備)
通報窓口・対応フローの構築支援(適法かつ実効性のある内部通報制度の設計)
懲戒処分の適正運用に関するアドバイス(企業が訴訟リスクを回避できるような処分規定の策定)
労働トラブル発生時の対応支援(弁護士による迅速な対応とリスクマネジメント)

企業の実情に即したハラスメント防止策の導入を支援し、従業員が安心して働ける環境づくりを実現します

就業規則の整備やハラスメント対策に関するご相談は、初回無料相談もご用意しています。
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また、当事務所ではハラスメント相談窓口の外部委託もお受けしております。

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